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第一章

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服が乾くまでに間、沈黙に耐えかねて美形に様々な事を聞いた。
この世界の事。どうやらここは何処の森かは分からないが、美形がいたのはヴィシュと呼ばれる国であり、その国からはさほど離れてはいない筈だろう、との事。
そして美形はヴィシュにあるアグリ、という奴隷売買を行う店で奴隷として売られていたのだという。
しかもどうやらその店の店主は美形の事は『この世の物とは思えない程の醜悪な怪物』として見世物状態で売っていたそうで、会った事もないけれどその店主の事をぶちのめしたくなるような嫌悪感に襲われた。
けれど美形にとってはそれが当たり前の事で、仕方ない事なのだと淡々と語っていた。
美形の言動でこの世界が美醜逆転世界なのだという事は分かっていたが、こうも非人道的な扱いになるのかと恐れを抱く。
最後に最も重要な事。
それはこの美形がルニーという名前だという事。
正直、俺にとっては一番の収穫ともいえる。いやだってほら、ただでさえ好みの相手が抱けるのに名前が呼べないんじゃ、味気ないじゃんじゃんじゃん?????
ルニーの名前を聞いた後、すぐに自分の名前を名乗れば、ルニーが小さく刻み込むように俺の名前を呟いていたのがすごく可愛かったです。

「…ある程度乾いたか」
「…みたいですね。所でルニー、さん」
「………ルニー、でいい」

乾いた服を着ながら、美形…もといルニーの名を呼べば恥ずかしそうに顔を逸らしながら、そう言われた。

「…ごほん、る、ルニー?」
「…なんだ」
「これからどうしましょうかね?」

いつまでもこの森の中で、という訳にもいかない。
食料はともかく、戦闘能力皆無の俺がいる状態で何らかのトラブルになった時、俺は間違いなく足手纏いになってしまう。
そんな事を考えていると黙り込んでいたルニーが不意に口を開く。

「…メソーゼに行こう」
「…メソーゼ?」
「ああ。アグリにいた頃、何度か聞いた事がある。ヴィシュから離れた場所にある都市で、そこには冒険者ギルドもあるから旅人や放浪者が多い。…俺のような者がいても、それほど問題にはならん、と思う」
「…冒険者ギルドかぁ…俺、戦う事とか何一つ出来ないんですけど…」
「そこは問題ない。俺が戦うからアンタは留守番でもしていればいい」
「…いやいやいや! そういう訳にはいかないでしょ! ルニーにそんな迷惑掛けられないし…」
「…俺はあの時、この場で死ぬ運命だった。それを貴方が救った。だから、この命は既に貴方の物だ。貴方がそんな事を気にする必要はない」

そう言うとルニーは俺の前に跪き、頭を下げる。

「どうか、貴方の側に置いてほしい」

顔は伏せられていて見る事は出来ないが、その鍛え上げられた肉体が微かに震えているのが見えた俺はその場にルニーの顔に手をやり、顔を上げさせる。
何度見ても美しいその顔は不安の色を隠せなくて。
俺は自分の中にどす黒い感情が芽生えていくのを感じた。

この美しい男が、俺だけの物になってくれれば───

「…俺でいいの?」
「!」
「俺、自分で言うのもなんだけど、割と浮気性というか。ヤレる時はヤッちゃうタイプというか。そんな感じだから、ルニーにとっては傷付く事だらけだと思うよ?」

実際、この世界の醜男の容姿は俺のいた世界では美形と呼ばれるタイプであり、俺は無類の面喰いだと自負している。
そんな美形の男達に求められたら拒否する所か喜んで閨を共にしてしまう自信がある。
あ、いや、いくら美形でも女性は無理なんだけどね。男は別。特にガチムチ系だとヤバい。
そう告げるとルニーは「構わない」と言い切った。

「…俺のように蔑まれている者達が、アンタのような人に抱いてもらえるなんて機会、きっと金を幾ら積んだ所で実現しない。それが叶うと知ったのなら、それだけで救われる者もいる筈だ。俺は、それを止めるつもりはない」
「………聖母かよ」
「…? …ただ、一つだけ、我儘を言っても許されるなら」
「? 何?」

ルニーは一瞬躊躇うように目線を伏せた後、耳まで赤く染めて、口を開いた。

「…あ、アンタに最初に抱かれるのは、俺に、してもらいたい…」

…正直、心臓に弾道ミサイルでも打ち込まれたような衝撃だった。
誰かを抱いたら必ず風呂に入れとか(入るけど)金を寄越せとか(渡すけど)家事全般じゃ完璧にこなせとか(こなすけど)そういった事を言われるのかと思っていたら、全然違った。
嘘~~~~~めちゃくちゃ健気ぇ~~~~~~!!!!!!
心臓どころか股間にまでダイレクトアタック喰らったわこんなん。
俺が真顔で固まっているのを見て、ルニーは不安そうに焦り出す。

「ど、どうした? やっぱり、俺みたいなモノが言うには烏滸がましい願いだったか? だったら…」
「ルニー」
「! な、なんだ?」
「抱きたい」

俺の言葉に今度はルニーが固まる番だった。
何を言われたのか理解出来なかったのか、ぽかん、とした顔で俺の事を眺めていたのだが、徐々に俺の言葉の意味を理解したらしく、その美しい顔がかぁ~と赤く染まっていく。
いや、今、座ってるからいいんだけど、これ立った状態で聞いてたらモロバレするレベルで今、勃起してますわ、これ。

「ぅ、あ…あの、…? ………!」
(あ、バレた)

顔を真っ赤にしたルニーが困ったように俺の顔を見ては視線を彷徨わせ、不意にその視線が下がった時、ばっちしと俺の股間をその視界に収めてしまい、再びルニーは固まってしまう。
いや、まあ我ながら情けないくらいフル勃起してるから、バレるのは時間の問題かとは思っていたんだけど。
面白いくらい硬直して、俺の股間を凝視しているルニーを俺は手招きする。
すると固まっていたルニーが手招きされている事に気付いて、そろそろと更に俺に近付く。
俺は自分の太腿を叩いて跨ぐよう指示すると面白いくらい動揺するルニーだったが俺が笑顔で名前を呼ぶと恐る恐るといった様子で胡座を掻いて、地面に直で座っていた俺の足を跨いで、膝立ちで俺を見下ろす。
俺は自分より上にあるルニーの顔に手を伸ばしてルニーの顔を引き寄せるとまずは唇を重ねた。
緊張しているのか乾いていた唇を湿らせるように舌で舐めれば、びくり、とルニーの肩が震える。

「ルニー、俺の肩に手を置いて」
「…こ、こう、か…?」
「そう。そうした方が体勢取りやすいでしょ。で、口開けて」

ルニーは俺に言われた通り、あ、と大きく口を開ける。白く形の良い歯が美しく並んでいて、それを眺めた後、俺はルニーの口内に舌を差し込んだ。

「ん…っ!? ふ、ん…ンッ」

驚いたのだろう、引っ込む舌を追い掛け、じゅるり、と絡ませればルニーはぎゅう、と目を閉じる。実に初々しい。
先程眺めた通り、歯並びの良いルニーの歯列を舌でなぞり、時折舌を吸い付けば、その度にルニーの体が震える。口蓋をぞろり、となぞり上げれば、気持ち良かったのか、ルニーの声が重ねた唇の隙間から漏れた。
ルニーの頭が俺より上にあるので、ルニーから溢れた唾液が絡めた舌を使って俺に流れ込んでくる。それを飲み干しながら、俺のも飲んでほしかったが、それはまた今度でもいいだろう。
ある程度ルニーの口内を堪能しているとディープキスは初めてだったのか、息継ぎが上手く出来なかったらしく、とんとん、と肩を叩かれた。
名残惜しみながら唇を離せば、二人の間に唾液の糸が一本張り、ルニーがそれを見ている事に気付いた俺は敢えてそれをいやらしく自分の唇を舐めて糸を切る。ごくり、とルニーが唾を飲み込む音がした。

「ルニー、どうだった?」
「どう、って…その…すご、かった…」

恥ずかしそうに目を伏せながら言うルニーの頬を撫でると気持ち良さそうに目を細める。

「ルニー」
「ん、ヒカル…」
「…あ~~~~~~…やばい、どうしよう、」

俺は自分の顔の前にあるルニーの胸に顔を押し付ける。むにゅ、とした感触に揉みしだきたい欲に駆られるが必死で堪える。

「ひ、ヒカル…? ど、うした…?」
「…抱きたい。今すぐ、ルニーを抱きたい。ここに、」

ここに、と言って、俺はルニーの尻に両手を回して、わし、とその豊満な尻肉を鷲掴んだ後、右手の中指を伸ばして、尻穴があるであろう位置をなぞる。

「んっ、」
「俺の挿れたい。俺の挿れて、思い切り突いて、ルニーの事をめちゃくちゃにしたい」

そう言って、そろり、と顔を上げると潤んだ瞳で俺の事を見下ろすルニーと目が合った。
首筋まで真っ赤に染め上がり、息を荒げて物欲しそうに俺を見つめるその顔は既に俺に抱かれる事を前提とした雌の物・・・だった。
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