Domな俺の総攻めライフ

いりり

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地味で冴えない、その辺の背景に紛れ込むようなザ・モブ顔で、幼少時に付いたあだ名はミスター平均値こと高柳 周たかやなぎ あまね。それが俺の名前だ。
可もなく不可もなく、波風立たさず背景に溶け込む事を得意としていた俺は運悪く担任に捕まり、無理矢理押し付けられた教材を手に資料室へ訪れていた。
面倒臭い事この上ないが下手に断って、目を付けられたら堪らない、と自分に言い聞かせて運んでいたのだが、目的地である資料室の前にまで来た俺はピリ、とした肌を突き刺すような感覚に足を止めた。

この世界にはDomドムsubサブSwitchスウィッチと呼ばれる第二の性がある。
Dom、というのは支配したい、という欲求を持ったSM関係でいう所のSの立場にある性であり、subはその逆のSM関係のに当たる支配されたい、という欲求を持った性で、SwitchはDomとsub、両方の特徴を持ち合わせた性である。
俺の住む、このニホンにおいて、この第二性の割合はDom:2、sub:4、Switch:4となっていて、海外だとこの割合はまた変わるそうだが、奉仕精神に溢れたニホンでは圧倒的にDomの割合が低いのは確かだ。

…さて、どうして俺が急にこんな事を説明しだしたのかというと、だが。
先程から閉ざされた資料室の扉越しにピリピリとした感覚がしている事が原因だ。
このDomという性には支配欲とは別にもう一つの特徴がある。
それは『Glareグレア』と呼ばれる、Domのみが持つ特殊能力だ。
Domの持つ眼力パワーのような物で、Domが怒ったり、他者を威嚇したりする時に発せられ、このGlareを浴びたsubは本能的にDomに従いたくなってしまったり、恐怖を感じ動けなくなってしまったりする。
このGlareはDomによって強さがまちまちなのだが、弱い立場のsubがまともに浴びれば、直ちにsub dropサブ ドロップと呼ばれるバッドトリップ状態になってしまったりする場合があるから、Domは基本的に使用は禁じられている。
その、Glareが、扉越しから感じるのだ。

(…誰か、いるのか…?)

一瞬、担任か?と思ったが、俺の担任はsub寄りのSwitchだった筈だ。
それならば誰だろうか、と耳を澄ませてみると微かに人の話し声が聞こえてきた。

『…から、素直に…』
『ぃ、や…ゃ、め…』

微かに聞き取れた一人の声には聞き覚えがあった。
俺の通う学校で数少ないDomとして教鞭を振るう体育教師の物だ。
俺はそれに気付くと眉をしかめた。
この教師は自身がDomである、という事を誇りに思っているのか何なのかで気の弱いsubやsub寄りのSwitchを見付けては無理難題を押し付けたり、セクハラ紛いな事をしていて、少しでも嫌がる素振りを見せればGlareの気配をちらつかせるDomに有るまじき行いをする男で、俺が最も嫌うタイプの男だった。

『ほら、さっさとこっちに…』
『や、め…いや、だ…』

なんだか状況がよく分からないが聞こえてくる声から察するに拒否するsubをGlareで無理矢理屈服させようとしているみたいだ。
はあ、と溜息をついてから、俺は資料を片手に何の前触れもなく扉を開けた。

「失礼しまーす」
「「!?」」

鍵が掛けられていなかった扉はいとも簡単に開き、中にいた二人の男達は驚いた表情で突然現れた俺に目を向ける。
一人は俺の予想通りの体育教師のDomで、もう一人は我が校のトップとも言われる生徒会長の漣 奏太さざなみ そうただった。
予想もしなかった人物に一瞬驚いたが漣と目が合った瞬間、助けを求めるような視線を投げられた事で俺はやはり同意の上ではなかったらしいと再認識する。

「な、なんだ、お前! どうしてここに…」
「…担任から今日の授業で使った資料を片付けるように言われたから来たんですよ。…それより」

予期せぬ俺の登場に焦る体育教師に俺は呆れた様子で声を掛ける。

「嫌がるsubにGlareを浴びせて無理矢理従わせるようにするのは虐待行為ですよ」
「う、うるせえ!」
「ていうか、こんな密室に連れ込んでGlareを浴びせてとか…犯罪行為だって事、理解出来てます?」
「う、うるさいうるさい黙れ!!」

俺の指摘に顔を真っ赤に染め上げた体育教師からぶわり、とGlareの気配が溢れ出すのを感じ、俺は即座に開けっ放しにしたままだった扉を閉めて、体育教師と向かい合った。
…言い忘れていたが、俺の第二性は生粋のDomだ。それも極めて凶悪なGlareを持った高位のDomだ。
普段の俺の様子からではいい所Dom寄りのSwitchに見られるように控えてはいるけれど。
Domの勝負は基本的に一瞬で終わる。勝敗の基準は単純だ。どちらのGlareが強いか。ただ、それだけ。
そして、俺は普段の体育教師の行いから見ても、このDomが自分より格下である事を知っていた。

「…っか、は…ぁ!」

どさ、と目を見開いて、頭を抱え、その場に蹲る体育教師を俺は静かに見下ろす。

「そ、んな…なん、おま…」
「…“お前“?」
「っひぃ!!!?」

聞き捨てならない単語にすう、と目を細めれば、体育教師はビクリ、と体を震わせて、俺に頸を見せるように晒し、降参の意を見せてきた。
ガタガタと震え、頭を抱えて縮こまる姿を見て、完全に戦意が削がれている事を確認してから、俺は視線を体育教師から生徒会長の漣に移した。

「あー…」

そこには顔面蒼白になり、ぺたんとその場に座り込んで自分の体を抱き締めるように腕を回して震えるsubの姿があった。
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