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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~
やり直し
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タイムパラドックス──時間物の典型ともいえる代物だ。
過去に移動したときに存在する未来との矛盾。主に、過去の自分と遭遇したときに発動する。
「貴方がいた未来は、科学が発展したものです。しかし貴方の要望通りに引退を取りやめると、科学が発展しなくなる。貴方の未来は存在しなくなるのです」
盲点だった。確かにそれではつじつまが合わなくなる。
「私たちがいれば、カオスを消滅させることも不可能ではないでしょう。しかしその代償が大きすぎるうえにリスクも高い。したがって、貴方の願いには応えられません」
どこにも突破口がない。しかし何とかして解決したい。まるで出口のない迷路だ。
だが、ひとつだけ穴はある。入口から出ればいい。つまり、もう一度過去に戻れば。そのためには、この宝玉を使えばいい。
だが、宝玉を取り出した俺の手を掴む者がいた。
「ルーシュ?」
彼は、言葉が通じないながらも何かを伝えるように、首を横に振っている。
もしかして、タイムリープするなと言いたいのか?
「私も彼に賛同します。貴方はもっと自分の身体を労わってください」
女神が言う。どういう意味だ?
「貴方にとって、その工程は時間移動の一環かもしれません。しかし、それの真の姿は肉体の死のはず。仮に精神が生きていようと、貴方は時間を超える際に死んでいるのですよ?」
「あっ……」
確かに、そうだった。この時間移動は冥界を通るからこそなせる業。冥界に行くには、まず死ななければならない。そんなのわかり切っていたはずなのに。
でも、俺は──
「忠告ありがとうございます。それでも俺は、これを成さなければならないんです」
宝玉を掲げる。
生き返るときとは真逆に、魔法の球体から黒い光があふれる。上下左右、四方八方、どの方角も闇で満ちている──そう思ったとき、俺はヤツを感じた。
あんな大きなものではなく、声も聞こえない。だが、この微弱に感じる圧は完全にカオスのものだ。それと同時に、あの記憶も蘇る。
無力な自分、飛び出すルーシュ、伸ばしても決して届くことのない手──改めて現実を突きつけられ、思わず嗚咽を漏らし、頬を熱い塩水が伝う。いつの間にか、俺は荒野の中で赤ん坊のように泣いていた。
ひとしきり泣きはらした俺は、冥界で頭を抱えていた。三途の川の渡賃を無くしたわけではない。歴史を変えるタイミングを考えているのだ。
アテナとみられるあの女神の言うことが正しいとすれば、オリンポス神の助けは期待できない。だが、そうすると結局は戦うことができない。狂気の種に、科学への移行。こんなに面倒くさいとは思ってもみなかった。神様を説得して、現代に戻ってカオスをボコってハッピーエンド。そんな簡単なシナリオ通りにはいかないようだ。
ここで、考えられる他の案は主に二つ。一つ目はそもそもカオスの暴走をなかったことにすること。この方法だとオリンポス神を戦わせる必要はない。二つ目はカオスを倒すこと。オリンポス神は厳しそうだが、他にも何かあるかもしれない。
どちらの可能性が高いか──考えるまでもない。前者だ。
まず、どうしてカオスが暴走しているのか。それを考えなければ意味がない。だがそれについてはわかっている。アテが撒いた狂気の種だ。ならばアテに種を撒かせなければいい。
次に、アテが種を撒いた原因だ。ルーシュの話が正しければ、オリンポス神に不満を抱いたアテの反乱。……だとすれば、両者を和解させれば!
たどり着いたのは、大きな建物の中だった。だが、場所も時間も時代も、何も情報がない。
「あの~……誰かいませんか……」
とりあえず声を出してみる。こういうときは、何か行動を起こさない限り何も始まらないんだ。
そのときだった。廊下の曲がり角の向こうから足音が聞こえた。一人ではない。少なくとも五人はいるだろう。
「Ποιος!」
えっと……状況を把握しよう。目の前には、白い鎧を着た七人の男が槍を構えている。とても彫の深い顔で、某温泉マンガの主人公のようだ。そして、言葉は通じない。
とりあえず、俺が敵ではないことを証明しなければならない。俺は友好の証に、にっこり笑って見せた。
「Παίξτε ένα παιχνίδι(ふざけてるのか)」
さらに荒ぶる男たち。こころなしか槍の先端が近づいている気もする。……逆効果だったか?
じりじりと追いつめられる。一対一なら勝てたかもしれないが、相手は七人だし武器も持っている。
──トンッ。背中にひやりとした冷たい感触。とうとう壁まで追い詰められてしまった。
もういちど死ぬしかないか……そう思った時、男たちが来たのとは反対側から足音がした。その主は、大きな巻物を持ったあの女神だった。
「アテナ様!」
藁にもすがる思いで声をかける。アテナで合っているかもわからないし、もしそうだとしても無礼者として殺されるかもしれない。
「貴方は何者ですか?」
女神が足を止める。よかった。アテナで合っていたようだ。
「俺は未来から来た──」
「σκοτώνω(殺せ)」
俺が言い終わる前にアテナが何かを言った。それに反応して男たちの槍が俺の喉に食い込む。マズい。このままでは死んでしまう。
だが、これだけは言っておかないと。
「アテには気を付けてください!」
アテナにとどいたかはわからないが、俺は宝玉を起動した。
視界が闇で埋まる──
過去に移動したときに存在する未来との矛盾。主に、過去の自分と遭遇したときに発動する。
「貴方がいた未来は、科学が発展したものです。しかし貴方の要望通りに引退を取りやめると、科学が発展しなくなる。貴方の未来は存在しなくなるのです」
盲点だった。確かにそれではつじつまが合わなくなる。
「私たちがいれば、カオスを消滅させることも不可能ではないでしょう。しかしその代償が大きすぎるうえにリスクも高い。したがって、貴方の願いには応えられません」
どこにも突破口がない。しかし何とかして解決したい。まるで出口のない迷路だ。
だが、ひとつだけ穴はある。入口から出ればいい。つまり、もう一度過去に戻れば。そのためには、この宝玉を使えばいい。
だが、宝玉を取り出した俺の手を掴む者がいた。
「ルーシュ?」
彼は、言葉が通じないながらも何かを伝えるように、首を横に振っている。
もしかして、タイムリープするなと言いたいのか?
「私も彼に賛同します。貴方はもっと自分の身体を労わってください」
女神が言う。どういう意味だ?
「貴方にとって、その工程は時間移動の一環かもしれません。しかし、それの真の姿は肉体の死のはず。仮に精神が生きていようと、貴方は時間を超える際に死んでいるのですよ?」
「あっ……」
確かに、そうだった。この時間移動は冥界を通るからこそなせる業。冥界に行くには、まず死ななければならない。そんなのわかり切っていたはずなのに。
でも、俺は──
「忠告ありがとうございます。それでも俺は、これを成さなければならないんです」
宝玉を掲げる。
生き返るときとは真逆に、魔法の球体から黒い光があふれる。上下左右、四方八方、どの方角も闇で満ちている──そう思ったとき、俺はヤツを感じた。
あんな大きなものではなく、声も聞こえない。だが、この微弱に感じる圧は完全にカオスのものだ。それと同時に、あの記憶も蘇る。
無力な自分、飛び出すルーシュ、伸ばしても決して届くことのない手──改めて現実を突きつけられ、思わず嗚咽を漏らし、頬を熱い塩水が伝う。いつの間にか、俺は荒野の中で赤ん坊のように泣いていた。
ひとしきり泣きはらした俺は、冥界で頭を抱えていた。三途の川の渡賃を無くしたわけではない。歴史を変えるタイミングを考えているのだ。
アテナとみられるあの女神の言うことが正しいとすれば、オリンポス神の助けは期待できない。だが、そうすると結局は戦うことができない。狂気の種に、科学への移行。こんなに面倒くさいとは思ってもみなかった。神様を説得して、現代に戻ってカオスをボコってハッピーエンド。そんな簡単なシナリオ通りにはいかないようだ。
ここで、考えられる他の案は主に二つ。一つ目はそもそもカオスの暴走をなかったことにすること。この方法だとオリンポス神を戦わせる必要はない。二つ目はカオスを倒すこと。オリンポス神は厳しそうだが、他にも何かあるかもしれない。
どちらの可能性が高いか──考えるまでもない。前者だ。
まず、どうしてカオスが暴走しているのか。それを考えなければ意味がない。だがそれについてはわかっている。アテが撒いた狂気の種だ。ならばアテに種を撒かせなければいい。
次に、アテが種を撒いた原因だ。ルーシュの話が正しければ、オリンポス神に不満を抱いたアテの反乱。……だとすれば、両者を和解させれば!
たどり着いたのは、大きな建物の中だった。だが、場所も時間も時代も、何も情報がない。
「あの~……誰かいませんか……」
とりあえず声を出してみる。こういうときは、何か行動を起こさない限り何も始まらないんだ。
そのときだった。廊下の曲がり角の向こうから足音が聞こえた。一人ではない。少なくとも五人はいるだろう。
「Ποιος!」
えっと……状況を把握しよう。目の前には、白い鎧を着た七人の男が槍を構えている。とても彫の深い顔で、某温泉マンガの主人公のようだ。そして、言葉は通じない。
とりあえず、俺が敵ではないことを証明しなければならない。俺は友好の証に、にっこり笑って見せた。
「Παίξτε ένα παιχνίδι(ふざけてるのか)」
さらに荒ぶる男たち。こころなしか槍の先端が近づいている気もする。……逆効果だったか?
じりじりと追いつめられる。一対一なら勝てたかもしれないが、相手は七人だし武器も持っている。
──トンッ。背中にひやりとした冷たい感触。とうとう壁まで追い詰められてしまった。
もういちど死ぬしかないか……そう思った時、男たちが来たのとは反対側から足音がした。その主は、大きな巻物を持ったあの女神だった。
「アテナ様!」
藁にもすがる思いで声をかける。アテナで合っているかもわからないし、もしそうだとしても無礼者として殺されるかもしれない。
「貴方は何者ですか?」
女神が足を止める。よかった。アテナで合っていたようだ。
「俺は未来から来た──」
「σκοτώνω(殺せ)」
俺が言い終わる前にアテナが何かを言った。それに反応して男たちの槍が俺の喉に食い込む。マズい。このままでは死んでしまう。
だが、これだけは言っておかないと。
「アテには気を付けてください!」
アテナにとどいたかはわからないが、俺は宝玉を起動した。
視界が闇で埋まる──
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