Olympus Quest

狩野 理穂

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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~

概念

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 さて、宣言してから気づいた。俺たちは、どうやってカオスの処に行くのだろう。

「概念化します」
「…………は?」

 イザナミに訊いたら、そう返された。概念化? 何を言っているのか、見当もつかない。

「私は、冥界に自由に出入りできます。入る点においては生者も同様。しかし、出る時は私の許可が必要な上に、ある現象が起きてしまうのです」
「ある現象……?」
「基本的に、冥界は三次元の世界ではありません。勿論、そこに三次元の肉体が入ることは不可能。それ故に人間が冥界と行来するときは精神のみの干渉となるのです」
「あれ? 俺が行った時は身体も動いたけど……」

 確かに、ルーシュの話では、東京からギリシャに帰っていた。それは肉体も移動していないと、有り得ないだろう。

「それは、貴方を冥界と同じ次元まで変化させたからです。しかし、それが出来たのは相手が一人だったから」
「もし、二人以上で同じように変化させたら……?」
「冥界は零次元の世界です。同時に二つのものを零にしてしまったら、二人の意識が混同するでしょう」

 ルーシュの顔に縦線が入る。

「しかし、今回は精神で問題ありません。カオスが存在する神界は、元来此処とは交わらない場所。更に私の同伴があれば自由に移動もできるので、肉体の崩壊も気にする必要はありません」

 イザナミが両手を組み合わせて紋をつくる。

「もう時間がありません。移動します」
「ちょ──」

 意識が、途切れる。



 そこでは、光の粒子が走っていた。──って!

「俺の身体がない⁉」

 そう。この空間には俺も含め、誰もいなかった。

「響さん。落ち着いてください。まずここは、冥界を通り抜けた先の、カオスの領域に行くまでの通路のようなものです。また、出発前に言ったように、私たちは精神のみの存在となっています。イメージ次第で疑似的に体を構成することも可能ですが、どうしますか?」
「しますします! ……で、どうすれば?」
「自分の姿を強く思い出してみてください。その姿になれるでしょう。思いが強いほどその姿は安定します」

 自分の姿──そこまで大きくもないひょろっとした身体に、黒の短髪。人より大きめの手と足。最近は筋肉が落ちてきている……
 およそ十分後、俺は指を曲げる程度の動きができるようになっていた。一部ピクセル体になっているのは、イメージが足りなかったのだろう。
 目の前にはイザナミと……見知らぬ外国の男の子。

「えっと……ぷりーずてるみーゆあねーむ?」

 試しに英語で話してみたが、伝わっただろうか。

「なかなか面白い冗談だな、響」
「この声は……ルーシュか!」
「その通りだよ。これは、俺がルーシュだった時の姿だ。イメージで構成されるならこれも大丈夫かと思ってな」

 くそ……それがアリなら、テレビに出るようなイケメンになればよかった……!

「お楽しみのところ申し訳ございませんが、もう直ぐカオスが現れます」

 イザナミの言葉で、一気に緊張感が高まる。精神体だから、尚更だ。
 ルーシュの体も震えている。感情をそのまま映し出すこの身体だからこそ、彼の気持ちもよく分かる。
 ──と、そのとき。光の粒が消滅した。まさか……

「到着です」

 その冷淡とも受け取れる言い方が、リアルだ。
 だが、そう言われなくても分かっただろう。目の前に広がる暗黒は、何も無いように思えるが、何かを感じることもできる。
 何も見えない、暗い、狭い、広い、孤独──何とも言い表せない、これがカオスなのだろう。

《ダれだ……》

 脳内に直接響く声。何故だか、体すら侵食されているように感じる。

《おレヲひとリにしてクれ……》
「それはできません。私達は、貴方を止めに来ました」

 イザナミが答える。だが、カオスに届いているのだろうか。

《サらないナら、ケす……》

 突然、カオスからの圧が強くなった。なんだろう。暗闇から来る何かに潰されるような──

《しブトい……キえロ……》

 さらに強く圧迫される。少しでも気を抜くと、本当に消え去りそうだ。
 突如、視界が揺らいだ。だが、体勢が崩れている感覚はない。まさか、消えかけている──‼
 一層強くなる闇の圧。もう何かを考えている暇はない。

「皆さん、もう限界です! ここは一旦引きましょう!」

 イザナミの声。しかし、反応する余裕なんてない!

「一瞬でも隙ができれば元の世界に戻ることができます! なんとか、お願いしても良いですか」
「わかった。俺がやります!」

 ルーシュが返事をした! 一体どんな方法を使うんだ?


 ***


 あの日、俺は追われる者から追うものになると決意した。だが、実際のところは何の役にも立てない只の羊と同じ。ここでもカオスの攻撃に耐えるだけで精いっぱいだ。
 それなのに、ようやく役に立てる場面が来た。もとより勝ち目のない戦い。それに、巻き込んでしまった響だけは守り切る義務がある。

 俺は、最後の力を振りしぼってイザナミの楯となった──
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