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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~
作戦会議
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外も暗くなっていたので、俺はひとまず帰ることにした。
「じゃあ、また明日」
「おう」
短い挨拶を済ませ、外に出ると小さな猫の鳴き声がした。
あたりを見渡すと右側の植木から白い尻尾が覗いている。もしや──
「にゃぁ」
やっぱり。あの子猫だ。でも、どうしてこんな所にいるんだろう。
「にゃぁ」
このままだと、またどこに行くかわからない。一晩くらいなら隠し通せるだろうから、一旦家に連れていこう。
「にゃぁ」
「わかったから。静かにしててくれよ」
朝の光に照らされて目を覚ます。なぜだか、身体が重く起き上がることができない。
無理やり首を曲げて見ると、腹の上に純白の猫が乗っている。道理で重いはずだ。
「おはよう」
「にゃぁ」
恐らく、俺の声に反応して鳴いただけだろう。言葉の意味を理解して言っているわけじゃない。ただ、それでもその姿はとても可愛かった。
よし、ルーシュの家に行くか!
猫を抱き、ルーシュの部屋に入ると、床は大量の本で埋め尽くされていた。恐らく昨日は本棚に収納されていたものをルーシュが全て出したのだろう。まるで地震の後のようだ。
「…………なんだ? これは」
一番近くにあった本を指さし、ルーシュに訊く。題名は──読めない。これ、何語なんだ?
「この本は……日本語で『オリンポス神に関する一考察』ってところかな。ちなみに、ポルトガル語だよ。三つ前の俺の記憶に残ってた」
「はは……便利なもんだな」
俺はこいつが外国語のテストでいつも好成績を残しているのを思い出した。記憶には残ってなくても使っていた事実はあるんだ。そりゃ得意だよな。
「にゃぁ」
猫が「ぼくのことを忘れるな」とでも言いたげに鳴く。
そういえば、まだルーシュとは顔合わせもしていないんだな。
「ルーシュ、このこは──」
「猫は置いていくぞ」
え?
「これから行くであろう冒険は危険なんだ。猫を庇いながらなんて出来るはずがない」
「……確かに、そうかもしれない。だけど冒険に行くのはお前だけじゃないんだ! 俺が責任をもって猫を守る」
「──え? お前、今、なんて……」
「猫は俺が守ると言ったんだ。それくらいならできる」
「そこじゃない!」
勢いよく立ち上がるルーシュ。近くにあった本の山が崩れる。
「なんでお前が来るんだ! ただの人間が太刀打ちできる相手じゃない!」
ルーシュも気が立っているのだろう。それは分かる。だが、彼の言い方にカチンときてしまったことを責められる人は居ない。
「ただの人間? 手前は違うってのか?ルーシュの時は違ったかもしれねえが、今はお前も人間だろ?所詮手前も中野晴なんだよ!」
「俺は俺だ! 今はお前の話をしている! ……俺は、もう友を失いたくないんだ」
次第に言葉の力がなくなっていくルーシュ。
そうか、こいつは何代もの記憶を待っている。そのすべてで自分が最初に死んだわけじゃないだろうし、その時々の友人を看取っているのか。
「うん。お前の気持ちは分かった」
「じゃあ──」
「だが、それでも俺は一緒に行く」
目を見開き、こぶしを固めるルーシュ。それでも俺が意思を曲げる気がないことを感じると、鋭い右ストレートを繰り出してきた。
だが、俺は左手でその経路を逸らし、右手で落ちていた栞を拾ってルーシュの首筋──頸動脈の辺りにあてる。
「わかったか。確かに俺はただの人間だが、武術に関しては上位だ。神様とやらに通用するかはわかんないけど、足手まといにはならないつもりだ」
「お、おう……」
引き攣った笑いを浮かべるルーシュ。俺が栞を離すと、大きくため息をついた。
「正直言って、俺も戦力に不安があったんだ。未だ気は乗らないけど、一緒に来てもいいよ。ただ──」
「ただ?」
「ただ、危険だと思ったらすぐ逃げてくれ」
この言葉の裏に有る感情は、なんだろう。責任か、解放か、それとも──
いや、そんなことはどうでもいい。
「うじうじ悩んでても仕方ねえ! とりあえず外出るぞ!」
こんな時は、家に引きこもっていても気が滅入るだけだ。手がかりがない時こそ行動すべきだ──と、誰かが言っていた気がする。
ふっ、とルーシュの頬が緩む。
「……そうだな。仲違いなんてもってのほかだ」
天気は快晴。良い散歩になりそうだ。
「じゃあ、また明日」
「おう」
短い挨拶を済ませ、外に出ると小さな猫の鳴き声がした。
あたりを見渡すと右側の植木から白い尻尾が覗いている。もしや──
「にゃぁ」
やっぱり。あの子猫だ。でも、どうしてこんな所にいるんだろう。
「にゃぁ」
このままだと、またどこに行くかわからない。一晩くらいなら隠し通せるだろうから、一旦家に連れていこう。
「にゃぁ」
「わかったから。静かにしててくれよ」
朝の光に照らされて目を覚ます。なぜだか、身体が重く起き上がることができない。
無理やり首を曲げて見ると、腹の上に純白の猫が乗っている。道理で重いはずだ。
「おはよう」
「にゃぁ」
恐らく、俺の声に反応して鳴いただけだろう。言葉の意味を理解して言っているわけじゃない。ただ、それでもその姿はとても可愛かった。
よし、ルーシュの家に行くか!
猫を抱き、ルーシュの部屋に入ると、床は大量の本で埋め尽くされていた。恐らく昨日は本棚に収納されていたものをルーシュが全て出したのだろう。まるで地震の後のようだ。
「…………なんだ? これは」
一番近くにあった本を指さし、ルーシュに訊く。題名は──読めない。これ、何語なんだ?
「この本は……日本語で『オリンポス神に関する一考察』ってところかな。ちなみに、ポルトガル語だよ。三つ前の俺の記憶に残ってた」
「はは……便利なもんだな」
俺はこいつが外国語のテストでいつも好成績を残しているのを思い出した。記憶には残ってなくても使っていた事実はあるんだ。そりゃ得意だよな。
「にゃぁ」
猫が「ぼくのことを忘れるな」とでも言いたげに鳴く。
そういえば、まだルーシュとは顔合わせもしていないんだな。
「ルーシュ、このこは──」
「猫は置いていくぞ」
え?
「これから行くであろう冒険は危険なんだ。猫を庇いながらなんて出来るはずがない」
「……確かに、そうかもしれない。だけど冒険に行くのはお前だけじゃないんだ! 俺が責任をもって猫を守る」
「──え? お前、今、なんて……」
「猫は俺が守ると言ったんだ。それくらいならできる」
「そこじゃない!」
勢いよく立ち上がるルーシュ。近くにあった本の山が崩れる。
「なんでお前が来るんだ! ただの人間が太刀打ちできる相手じゃない!」
ルーシュも気が立っているのだろう。それは分かる。だが、彼の言い方にカチンときてしまったことを責められる人は居ない。
「ただの人間? 手前は違うってのか?ルーシュの時は違ったかもしれねえが、今はお前も人間だろ?所詮手前も中野晴なんだよ!」
「俺は俺だ! 今はお前の話をしている! ……俺は、もう友を失いたくないんだ」
次第に言葉の力がなくなっていくルーシュ。
そうか、こいつは何代もの記憶を待っている。そのすべてで自分が最初に死んだわけじゃないだろうし、その時々の友人を看取っているのか。
「うん。お前の気持ちは分かった」
「じゃあ──」
「だが、それでも俺は一緒に行く」
目を見開き、こぶしを固めるルーシュ。それでも俺が意思を曲げる気がないことを感じると、鋭い右ストレートを繰り出してきた。
だが、俺は左手でその経路を逸らし、右手で落ちていた栞を拾ってルーシュの首筋──頸動脈の辺りにあてる。
「わかったか。確かに俺はただの人間だが、武術に関しては上位だ。神様とやらに通用するかはわかんないけど、足手まといにはならないつもりだ」
「お、おう……」
引き攣った笑いを浮かべるルーシュ。俺が栞を離すと、大きくため息をついた。
「正直言って、俺も戦力に不安があったんだ。未だ気は乗らないけど、一緒に来てもいいよ。ただ──」
「ただ?」
「ただ、危険だと思ったらすぐ逃げてくれ」
この言葉の裏に有る感情は、なんだろう。責任か、解放か、それとも──
いや、そんなことはどうでもいい。
「うじうじ悩んでても仕方ねえ! とりあえず外出るぞ!」
こんな時は、家に引きこもっていても気が滅入るだけだ。手がかりがない時こそ行動すべきだ──と、誰かが言っていた気がする。
ふっ、とルーシュの頬が緩む。
「……そうだな。仲違いなんてもってのほかだ」
天気は快晴。良い散歩になりそうだ。
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