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OLYMPUS QUEST Ⅲ ~神々の復活~
ルーシュという少年
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猫がいるはずだった箱の中は、空だった。さすがに逃げたら気づくはずだし、さっきまで蓋はしっかり閉まっていた。
いったい、あの子はどこに──
「うっ……」
中野が小さな呻き声をあげた。大量の汗を流し、目はどこかを見ている。
「これは古代ギリシャ文字だ……ルーシュ……誰だ?ルーシュは俺……いや、俺は中野晴だ。やめろ! 話しかけてくるな……お前は誰なんだよ! こっちにく」
「お……おい、大丈夫か?」
急にブツブツ言い出した中野が、突然動きを止めた。ただ止まっただけじゃない。まるでマリオネットの糸が切れたかのように首や四肢がだらんとしている。
俺がしばらく様子を見ていると、中野が喋り出した。
「響、時の旅人って知ってるか」
「時の旅人……合唱曲か?」
「いや、それじゃない。ヘルメスが言っていたほうだ」
「ヘルメスって、ギリシャ神話の……」
「ああ。あのとき、ヘルメス以外にもゼウスやヘラ、アポロンもいた」
「あのとき?」
「俺がルーシュだった時のことだ。アテが裏切って……ニュクスとガイアが暴れて……神が引退して……」
その様子は、遠い記憶を探っているようだった。話している内容はにわかに信じがたいが、中野を見ていると一概に否定する気にはならない。
「思い出した。ルーシュは俺だ」
「は? ルーシュ? 何言ってんだよ」
「時の旅人ってのは、死ぬことで別の時代、場所に生まれ変わる人のことだ。そして、今までの自分の記憶を持っていながら忘れていることが多い。俺はそれなんだ」
イマイチわかんないが、ラノベでよくある転生者みたいなもんか?
「そして、何代も前ではあるけど俺はルーシュというギリシャの住民だった──」
中野が語った内容は、とても現実とは思えなかった。
もしかすると、そこの押し入れの中から「ドッキリ大成功」と書いた札を持った人が出てくるかもしれない。でも、だからといって、無下に扱いたくもない。
無駄かもしれないし、くだらないけど、少しテストをしてみよう。名前を間違えさせたり、な?偽名ならうっかり間違えてもおかしくない。
「お前の名前──ムースとか言ったか?」
「それはお菓子だろ。ルーシュだ」
「ルール?」
「なんで規制されてんだよ……ルーシュだ」
「クール?」
「俺って、カッコイイだろう(イケボ)……じゃないよ!ルーシュだ!」
うん。おふざけもここらでやめておこう。
「ところで、本当にそんなことあるのか?」
「ああ。俺も信じられないが、確実だ。なぜなら──」
「その記憶があるからって言うんだろ。ただ、俺はそれを知ることができないし、お前も証明できないだろ」
あごに手を当てて考え込む中野。
数分後──中野が指を一本立てて言った。
「文字を書こう」
モジヲカク……真面目に言っているとは思えない。
「勘違いすんなよ。俺が言ってるのは日本語じゃない。古代ギリシャ語だ。なにせルーシュの頃に数十年間使ってたからな」
「そんなの……イカサマだってできるじゃないか」
「それなら、君が例文を作ればいい。そうしたら予習もできないだろ? 語学は一朝一夕で身につくものじゃない」
俺が中野に問題を出し、ググって答え合わせをした結果、全問正解だった。
「……こうなったら、信じない訳にはいかないな。話を聞かせてくれ」
「ああ。俺が覚醒した原因は、これだ」
猫が入っていたダンボール箱を指さすルーシュ。(どうでもいいことだが、本人がルーシュと名乗っているからルーシュと呼んだほうがいいと思った)
「どういうことだ?」
「この、底に付いているものは文字なんだ。ギリシャ文字。そこには“ルーシュ=ユピテル”と書いてあった。俺の名前だ」
「それで、その意味するところは?」
黙って首を横に振るルーシュ。
「全くわからない。ただ、この名前を知っているのなら、これを書いたのが神であることは間違いない」
そんなものなのか……
俺が考え事をしていると、ルーシュが真剣な顔でこっちを見ていた。
「とりあえず、響。お前は帰れ。いろいろ経験した身として言うよ。この件には関わらない方がいい」
その表情は、いつもふざけあっているものとはまるで違った。やはり、彼の言うように関わらない方がいいのだろうか。
──よし。俺は決めた。もう何と言われてもこの意思だけは曲げない。
「中野──いや、ルーシュか? この際どうでもいいか。とにかく、俺も協力するよ」
「は⁉ お前はバカか! 俺の話を聞いていなかったのか?」
「聞いてたさ。その上で言ってるんだ。片足どころか、俺は両足を突っ込んでいる状態だ。なら、事情を少しでも知っているお前といた方が安全だろ」
中野は、大きくため息をついて言った。
「仕方がないな……死んでも文句言うなよ」
「安心しろ。死んだら文句も言えない」
「冗談が過ぎるぞ。あと、俺のことはルーシュと呼べ。その方が気分がのる」
「ラジャ」
少し古いかもしれないが、俺とルーシュは肩の高さでグータッチをした。
いったい、あの子はどこに──
「うっ……」
中野が小さな呻き声をあげた。大量の汗を流し、目はどこかを見ている。
「これは古代ギリシャ文字だ……ルーシュ……誰だ?ルーシュは俺……いや、俺は中野晴だ。やめろ! 話しかけてくるな……お前は誰なんだよ! こっちにく」
「お……おい、大丈夫か?」
急にブツブツ言い出した中野が、突然動きを止めた。ただ止まっただけじゃない。まるでマリオネットの糸が切れたかのように首や四肢がだらんとしている。
俺がしばらく様子を見ていると、中野が喋り出した。
「響、時の旅人って知ってるか」
「時の旅人……合唱曲か?」
「いや、それじゃない。ヘルメスが言っていたほうだ」
「ヘルメスって、ギリシャ神話の……」
「ああ。あのとき、ヘルメス以外にもゼウスやヘラ、アポロンもいた」
「あのとき?」
「俺がルーシュだった時のことだ。アテが裏切って……ニュクスとガイアが暴れて……神が引退して……」
その様子は、遠い記憶を探っているようだった。話している内容はにわかに信じがたいが、中野を見ていると一概に否定する気にはならない。
「思い出した。ルーシュは俺だ」
「は? ルーシュ? 何言ってんだよ」
「時の旅人ってのは、死ぬことで別の時代、場所に生まれ変わる人のことだ。そして、今までの自分の記憶を持っていながら忘れていることが多い。俺はそれなんだ」
イマイチわかんないが、ラノベでよくある転生者みたいなもんか?
「そして、何代も前ではあるけど俺はルーシュというギリシャの住民だった──」
中野が語った内容は、とても現実とは思えなかった。
もしかすると、そこの押し入れの中から「ドッキリ大成功」と書いた札を持った人が出てくるかもしれない。でも、だからといって、無下に扱いたくもない。
無駄かもしれないし、くだらないけど、少しテストをしてみよう。名前を間違えさせたり、な?偽名ならうっかり間違えてもおかしくない。
「お前の名前──ムースとか言ったか?」
「それはお菓子だろ。ルーシュだ」
「ルール?」
「なんで規制されてんだよ……ルーシュだ」
「クール?」
「俺って、カッコイイだろう(イケボ)……じゃないよ!ルーシュだ!」
うん。おふざけもここらでやめておこう。
「ところで、本当にそんなことあるのか?」
「ああ。俺も信じられないが、確実だ。なぜなら──」
「その記憶があるからって言うんだろ。ただ、俺はそれを知ることができないし、お前も証明できないだろ」
あごに手を当てて考え込む中野。
数分後──中野が指を一本立てて言った。
「文字を書こう」
モジヲカク……真面目に言っているとは思えない。
「勘違いすんなよ。俺が言ってるのは日本語じゃない。古代ギリシャ語だ。なにせルーシュの頃に数十年間使ってたからな」
「そんなの……イカサマだってできるじゃないか」
「それなら、君が例文を作ればいい。そうしたら予習もできないだろ? 語学は一朝一夕で身につくものじゃない」
俺が中野に問題を出し、ググって答え合わせをした結果、全問正解だった。
「……こうなったら、信じない訳にはいかないな。話を聞かせてくれ」
「ああ。俺が覚醒した原因は、これだ」
猫が入っていたダンボール箱を指さすルーシュ。(どうでもいいことだが、本人がルーシュと名乗っているからルーシュと呼んだほうがいいと思った)
「どういうことだ?」
「この、底に付いているものは文字なんだ。ギリシャ文字。そこには“ルーシュ=ユピテル”と書いてあった。俺の名前だ」
「それで、その意味するところは?」
黙って首を横に振るルーシュ。
「全くわからない。ただ、この名前を知っているのなら、これを書いたのが神であることは間違いない」
そんなものなのか……
俺が考え事をしていると、ルーシュが真剣な顔でこっちを見ていた。
「とりあえず、響。お前は帰れ。いろいろ経験した身として言うよ。この件には関わらない方がいい」
その表情は、いつもふざけあっているものとはまるで違った。やはり、彼の言うように関わらない方がいいのだろうか。
──よし。俺は決めた。もう何と言われてもこの意思だけは曲げない。
「中野──いや、ルーシュか? この際どうでもいいか。とにかく、俺も協力するよ」
「は⁉ お前はバカか! 俺の話を聞いていなかったのか?」
「聞いてたさ。その上で言ってるんだ。片足どころか、俺は両足を突っ込んでいる状態だ。なら、事情を少しでも知っているお前といた方が安全だろ」
中野は、大きくため息をついて言った。
「仕方がないな……死んでも文句言うなよ」
「安心しろ。死んだら文句も言えない」
「冗談が過ぎるぞ。あと、俺のことはルーシュと呼べ。その方が気分がのる」
「ラジャ」
少し古いかもしれないが、俺とルーシュは肩の高さでグータッチをした。
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