Olympus Quest

狩野 理穂

文字の大きさ
上 下
13 / 32
OLYMPUS QUEST Ⅱ ~原初の神々~

死闘

しおりを挟む
 ケラウノスに導かれるよう、俺は自由落下の速度を超えて落ちてゆく。
 神界を飛び出してから数秒後──ユピテリアの姿が見えてきた頃からケラウノスは速度を落とし、俺はふわりと故郷の地に降り立った。

「ルーシュ!」

 友人のサルミの声がした。野良仕事を終えて帰る途中だったのだろう。鍬をかついでいる。

「村長を──皆を集めてくれ」

 俺はサルミに頼んだ。


 太陽が丘の向こうに沈み、ユピテリアに夜の帳が落ちた。

「我が忠実なる下僕よ。よくぞ失態を犯してくれたな」

 ニュクスだ。夜の闇に紛れ、姿を見ることは出来ないが間違いない。

「ニュクス。いい加減、三文芝居はやめたらどうだ」
「……イザナミか」

 ニュクスの口調が変わった。次第に黒マントを纏った男が姿を見せる。

「これだから女は嫌なのだ。素直に相討ちしてくれれば良いものを──」

 ニュクスが右手を前に出す。何かが握られているようだが、あれは──拳銃?
 まったく……世知辛い世の中だ。最近は原初の神でさえ銃を使うのか?

 パン!

 なんの前触れもなく、ニュクスが引き金を引いた。
 俺の心臓に八ミリの穴が開く。
 熱い。痛い。全身を駆け巡る液体が小さな穴から飛び出ていく。

「……………………」

 誰かが何かを言っているようだが、それを聞き取る力など残っていない。
 ああ……もう、眠いや……


 俺が目を開けると、そこはオリンポスによく似た宮殿の前だった。

「起きたか、小僧」

 急にハデスが現れた。

「荒野に倒れていたお前を運命の三姉妹が俺のところに運んできた。どうやらお前は死んでいないらしいな」

 イザナギの能力だ。ただ、それでも冥界に来てしまうほどのダメージは受けているようだ。
 俺は、ハデスに地上の出来事を話した。


「そうか。道理でケルベロスが騒いでいるはずだ」

 ニュクスの影響は冥界にも及んでいたのか……

「仕方がない。このままだとこっちにも不利益だ。お前に闇の軍勢を貸そう」

 ハデスの『闇の軍勢』!聞いたことしかないが、アンデッドの集団で、狙った獲物は何としても殺すとのこと。そんなのが味方になれば、百人力だ。

「ただし、一つだけ条件がある」

 ハデスが指を一本伸ばす。

「必ず勝て」


 次の瞬間、俺はユピテリアの地に立っていた。

「何故だ!何故死んでいない!」

 どうやら、ニュクスは俺が死んだと思っていたようだ。まあ、あたりまえか。

「あの銃弾は夜の闇を結晶化したもの。掠っただけでも生命力を吸い取る代物だ!生きていられるはずがない!」

 ニュクスが再び銃を構える。だが、それは無駄なことだ。俺にはハデスがついているからな。
 ニュクスが一、二発と射撃をする。それらは確実に俺の心臓を狙い、刻一刻と近づいてくる。
 ニュクスが勝利を確信し、薄い笑みを浮かべた途端、二つの銃弾が消滅した。いや、銃弾を受け止めたモノがいた。

「アンデッド!」

 俺の声に応えるよう、次々とゾンビの集団が湧く。
 ゾンビ──アンデッドは、死なない。つまり常に生きていないか常に生きている状態なのだ。もしも後者だった場合、ニュクスの銃弾で吸い取る生命力に果てはない!
 ……ニュクスが手を止めた。拳銃を黒マントの中にしまい、呪文を唱える。次第に形作られるもの──あれは、サブマシンガン?

「まさか……」

 ニュクスがニヤリとわらう。

「闇の軍勢は厄介だが、無限ではないだろう。ここからは持久戦だ」

 目で追えない程の速さでアンデッドが消滅する。
 ヤバい。このままだと、確実に負ける。
 一分もしないうちに、全てのアンデッドが消えた。

「さあ、お前の持ち駒はなくなった。降伏するなら今のうちだ」

 クソ……まさか、ここまで力に差があったとは。
 本当は使いたくなかった方法だが、仕方がない。この方法を使わないと皆を守ることができない。
 ただ、これを使うと皆を巻き込むことになる。

「時間切れだ」

 ニュクスがサブマシンガンを構える。
 ダメだ。もうこれ以外に方法がない。皆には悪いが、時間がない!

「メイさん!」

 メイさんの物体浮遊によって空高くに維持されていたケラウノスがニュクスに向かって降下する。

「神器開放!」

 神器解放──ケラウノスの真の力を放出した巨大な雷がニュクスを包み、ユピテリアが真昼のように明るくなる。
 いないと思っていた仲間、死角に隠された神器、天変地異も起こせそうな落雷。それらは神を殺すに足る威力を持っていた。
 雷霆が矛を収めた後、そこには一枚の黒い布のみが残されていた。

 夜が、明ける。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...