Olympus Quest

狩野 理穂

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OLYMPUS QUEST

旅立ち

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「ミノタウロスが出たぞ!」

 ミノタウロス──ギリシャ神話に出てくる有名な怪物だ。知っている人も多いだろう。

「砲台用意!撃てー!」

 巨大な大砲から打ち出される弾丸がミノタウロスを襲う。


「ハハハ。相変わらずスゲーや」

 俺は、暴れ牛が出てきた場所から少し離れた丘の上から暴れ牛と村の人との闘いを見ていた。
 この辺り一帯は、どうやらゼウスの加護をうけた土地らしいから、普段は怪物なんか出るはずはないのにここ3年はなんだか騒々しい。


「ただいまー」

 暴れ牛との闘いが終わり、俺は家にたどり着いた。

「ルーシュ!どこに行ってたの!ミノタウロスが出たのは知ってたんでしょ」

 家に帰るなり、母さんが怒鳴ってきた。ちなみに、ルーシュってのは俺の名前だ。

「なんだよ。ミノタウロスなんて、どうせ伝説のなんとやらだろ。あんなの、ただの暴れ牛だよ」

 そうだ。俺は、神サマとか神話とかは信じてない。ハッキリ言って、バカバカしい。

「まったく、あんたはそんな考え方して。そんなだったら、ゼウス様も助けてくれないよ!」
「母さんも、そんなにゼウスを頼ってたら、いつか路頭に迷うんじゃない?父さんも帰ってこないじゃないか」

 母さんの顔が真っ赤に染まる。
 そんな母さんが口を開いたとたん──

「ハルピュイアだ!ハルピュイアの群れが出た!」

 そんな声が微かに聞こえた。
 ハルピュイアとやらの対処法は簡単で、家に閉じこもり、鍵をかけるとそのまま立ち去るらしい。
 ハルピュイアに関しては、夕方に出ること以外何もわからない。子どもの頃から、ハルピュイアが出ると家に連れていかれたからだ。
 まあ、大方家に帰らせる口実だろう。家にぶつかったりもしないから、存在するかもわからいし。
 でも、17になった今でも外に出そうとしないのはナンセンスだと思う。
 さて──。30分経った。ハルピュイアは30分で村を通り過ぎるらしい。どうせテキトーな方便だろうけど。
 あれ?なんだか外が騒がしい。ハルピュイアが出たあとはもう暗いからみんな家に閉じこもってるはずなのに。


「なんかあったんすか?」

 俺は家を抜け出し、人だかりの方に行ってみた。
 なんだろう。なにか違和感がある。
 そうだ。人だかりだと思ったものは人じゃないんだ。じゃあ、あれはなんだろう。羽みたいなのが見えるけど……。
 羽の生えたモノが振り向く。口元が紅く見える。
 何かが少しずつ俺の方に近づいてくる。
 俺は全速力で走って逃げる。それなのに引き離せない。それどころか、近づいきている気がする。

「クソが……!」

 家まではまだ遠い。このままでは追いつかれてしまう。
 ──その時、空から1本の槍が降ってきた。
 その槍が地面に刺さった途端、辺りが白い光に呑み込まれた。


 光が消えたあと、俺が見た光景はとても信じられるようなものではなかった。
 追いかけてきたモノが焼け焦げている。しかも、1匹残らず。俺も、全身が痺れて動けない。いったい、なにがあったんだ!?
 まあ、とりあえずは助かった。今は動けないし、今日はここで寝よう。

 そして、夜が明けた!

 ……なんだか騒がしい。しかも、とても寒い。

「ん~~~」

 ああ、そういえば昨日は変なのに追いかけられて、そのまま外で寝たんだっけ。
 ……よし。もう体は動く。さて、家に帰るか。


「ルーシュ!いったいどこに行ってたの!」

 なんだか、ついこの間聞いたような気がする。

「どこだっていいだろ。変なやつに追いかけられて、辺りが真っ白になって、体が動かなくなったから外で寝てたんだ」

 それを聞いた母さんの顔━━それはなんだか、驚きと恐怖が入り交じったような顔だった。


 いったい、俺は何をしているんだろう。
 あの後、俺は母さんと村長をあの場所に案内することになった。

「しかし、まさかあのルーシュが選ばれるなんてな……」

 選ばれる?この村長は何を言っているんだろう。とうとうボケてきたか?

「村長、母さん、たしかこの辺りだぜ」

 黒焦げになったモノは風に飛ばされたのか、もう影も残ってない。

「ルーシュ」

 村長が唐突に喋り出した。

「お前は信じていないようだが、この世界に神は存在する。その証拠が、この村だ。神話には記されていないが、ゼウス様にはヘラ様にもバレていない人間とのハーフがいた。その方がこの村を1夜にして作ったのだ」
「1夜で?そんなこと、できるわけないだろ」
「たしかに、お前には信じ難いだろう。しかし、全て本当の話なのだ。例えば、昨夜の出来事はどうだ。異形の生物に、降ってくる槍。閃光によって痺れる体。どれも普通の出来事ではないだろう」
「………………」
「さっき言ったように、この村はゼウス様と人間のハーフが作った。そして、そのヘミテオスの血は現在まで受け継がれている。もちろん、お前にもな」

 信じられない。本当に神がいるなんて。しかも、その血が俺にも流れてるって!?

「今すぐに信じろとは言わない。だが、これだけは言っておく。お前は選ばれたのだ」
「選ばれたって……誰に?」
「ゼウス様だ。今までもハルピュイアに襲われた者は沢山いた。しかし、助かったのはお前だけだ。降ってきた槍はゼウス様の神器であるケラウノスだ。ゼウス様はお前を助けるべく、自らの神器を投げたのだ。ルーシュよ。手を挙げ、念じてみなさい」

 は?手を挙げて念じる?とりあえず言われたようにやってみよう。
 ──ケラウノス
 そう思った途端、空から1本の槍が降ってきた。
 その槍を掴むと、今まで感じたことのないような感覚が襲ってきた。全身が痺れて、宙を舞うような……。

「うむ。どうやら、本当に選ばれし者のようだな」

 村長の声が遠くから聞こえる。
 母さんの姿がボヤけている。
 俺はこれから、どうなるんだろう。


「ぶはぁっ!」

 急に意識が覚醒した。どうやら、まだ生きているようだ。よかったよかった。

「ルーシュよ」

 隣を見ると、村長がいた。

「今回はお前にもわかっただろう。お前はゼウス様のみならず、雷槍にも選ばれたのだ。近頃の邪悪な気……それには何らかの原因があるはずだ。お前は与えられた神々しい力を手に、諸悪の根源を滅ぼしてほしい」

 雷槍、邪悪な気、神々しい力……。調子に乗った14歳くらいの男子が言いそうなことだけど、なぜだかすっと頭に入ってきた。
 ……ってことは、ホントのことなんだろうな。
 今までの俺なら、みんなで俺を馬鹿にしてるとか考えるんだろうけど、今はそんな考えは思いつかなかった。

「答えは決まったようだな」

 村長が言った。

「この村の者には何かしらの特殊な力が備わっている。お前にはこれから旅に出てもらうが、その過程でお前の能力が開花することを祈ろう」

 そうして、俺は旅に出ることになった。
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