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番外編 エリーの場合 (3/4)

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私は転移魔法で急いで家に戻った。

戻った瞬間、目の前に黒い炎と、赤い光が弾け飛んだ。
激しく赤い光が飛び交っていた。
ウィルとユーリが激しく攻撃をしている。
その前には禍々しい気配をさせている黒い影がいた。
ゆらゆらと揺れている。
黒い炎が体から揺らめいている。
その影がいる周り一帯も黒い炎が立ち込めている。

少し前から嫌な感じを感じとっていたシャーリーが心配そうだったからウィルを呼んでおいて正解だ。

黒い炎が勢いを増す。
黒い炎の中に光る金色の目がこっちを見た。
すごい魔力を感じる。

「ウィル、ユーリすまない!少し頼む。」
私はいそいそでシャーリーの側に走った。
シャーリーはエリーを背にして部屋の窓側の隅にいた。
「シャーリー、エリー。無事か?」
「アイザック様の方は大丈夫なの?」
シャーリーが聞いた。エリーも心配そうだ。
「あっちは囮だ。」
「じゃあ狙いは・・・?」
「多分エリーだろう。」
シャーリーが青ざめた。
「大丈夫。シャーリー、エリー。私がいるだろう。」
私はシャーリーを抱き寄せた。
「エリーも大丈夫だ。」
エリーは頷いたがその顔にはまだ不安が残っていた。

「ルーズローツ様!こいつは一体何なんですか?」
赤の攻撃魔法を休めることなくウィルが聞いてきた。
隣でムーが答えた。
「魔獣のなれの果てだ。ルース、さっきとは違ってこいつは一体だ。かなり上位の魔獣だ。」
「何だってそんな奴がこんなことになっているんだ?」
「闇の力を与えられたからだろう。こいつらが自我を失うくらい強大な・・・。こんな上位の魔獣がここまでになる闇の力を与えられるのは・・。」
ムーは周りを見回した。

黒い影から声がする。
『そいつだ、そいつをよこせ。そうしたら私は楽になれる。』
エリーの方を見る。
青ざめたエリーをシャーリーが抱きしめる。
黒い炎が勢いよく向かってくる。
防御壁の結界を作る。しかし相手の攻撃はかなりのものだ。一撃で結界が壊れる。
「かなりの力だ・・・。簡単にはいきそうにないな。」
黒い炎が床一面に広がる。
黒い影が咆哮した瞬間床が割れた。
壊れた床ががれきとなり黒い炎に包まれて
私達に向かってくる。
それをよけるにやっとだ。
ウィルが風を起こして回避するが一旦地面に落ちたものもまた襲ってくる。
きりがない。
一つ一つ壊していっても細かくなり向かってくるがれきが増えるだけだ。
消すしかない。
私は思いっきり魔力を込めて手を左から右へ振りかざした。
赤い光が放たれて黒い炎に包まれた攻撃物はさあっと消えていく。
範囲魔法でそのがれきを消し去っていった。
当然ウィルとユーリも同じようにしていた。

「嫌!」
前ばかりに気を取られていた。
「エリー!」
シャーリーが叫んだ。
いつの間にかエリーの足元が黒い炎に包まれていた。。
「ひっ!嫌!」
エリーは初め足をバタバタさせて藻掻いていたがその黒い炎には下から上へ徐々にエリーを覆っていた。
シャーリーが必死にエリーの腕をつかんでいる。
このまま攻撃するとエリーにあたる。
吹き飛ばすくらいの風を起こしてもエリーどころかシャーリーまでも巻き込んでしまう。
「苦しい・・・息が・・・。」
炎はもうエリーの顔の付近まで覆っていた。
黒い炎はエリーの体の自由を奪っているようだった。
このエリーの腕をつかんでいるシャーリーの顔もかなり苦しそうだ。
黒い影の金色の目が笑ったように見えた。
一か八か攻撃しようと手を前に出した瞬間アイザックとエリックが転移してきた。

「エリー!」
エリックの姿を見てようやくエリーが安心したような顔をした。
全く父親じゃだめなのか。嫌な年ごろになったものだ。
しかし安心するような状況ではない。

「・・エリ・・・ック・・・」

もう息が絶え絶えになっていた。
エリックが瞳を青白く光らせて黒い影を睨んだ。
いつも青の魔法を使うときは青になる瞳とは違う。
青白く光っている。光を受けた氷のように輝いていた。
その中には温かさはない。冷たさだけがある。
背中がぞくっとするくらいの恐ろさだけがそこにあった。

「エリーを離せ。」

エリックが手を一振りした。
一瞬で黒い影の周りが凍った。
しかしその氷を黒い影が覆い一瞬で溶かした。
エリックはふっと笑った。
ゾクリとするほど冷たい瞳が光る。

黒い影が一瞬でエリックとの距離を詰めた。
エリックが青白い炎をそいつめがけて打った。
黒い影は跳ね飛ばされた。

「もう一度言う。エリーを離せ。」

低いエリックの声が響いた。
先ほどまで黒い煙が充満していた床が彼の立っている周りから次第に青白く眩しい光っていく。
急に周りの空気が冷たくなった。
少し空気中にキラキラとしたものが舞う。
氷か?やがて地面が震え始めた。キーンとした音が鳴り始めた。
エリックからは怒りの感情しか感じない。

黒い炎はエリーを変わらず取り巻いていた。
もうかなり顔の上まで覆われていた。
「エリー!しっかりして!」
シャーリーが叫んだ。
「苦しい・・・。エリ・・・ク・・・」

エリックが視線だけをエリーに向けた。

「だから離せと言っただろう。」

冷たい視線を黒い影に向けた。
その視線だけで相手は到底かなわないだろう圧倒的な力に敗北感を感じていることだろう。
黒い影は一歩後ろに退いた。

エリックが右手を上にあげた。
一瞬にしてその右手の先が青白く光出した。
すべての光が集まったように輝きを増す。
目を開けていられない。

「結界を張るんだ!」

アイザックの声が響いた。
アイザックが隣に来て一緒に結界を張る。
私の後ろにはシャーリーとエリーがいた。
足元にいたムーが突然黒い影に向かって走り出した。
「ムー!」
咄嗟の事で結界を張るのが精いっぱいだった。

その光が一層輝きを増した。
青白い光が回り全体を覆った。
太陽が爆発するとこんな光を発するんだろうか?
すごい風が吹いた。
結界を張っていても後ろにズルズルと押された。
眩しいくらいの光で何が起こったのか分からなかった。

少しして光が収まった。
ケホッケホッっと咳込むエリーの声でようやく目を開けた。
すぐに後ろのシャーリーとエリーを見た。
床にうずくまっているエリーから黒い炎は消えていた。
シャーリーが座り込んでエリーを抱きしめていた。

そして前を見ると黒い影は消えていた。
黒い影がいたと思われるとことにムーが立っていた。
その足元には一体の魔獣が横たわっていた。

「エリー!大丈夫!」
エリックがいつもの青い瞳をして走ってきた。
シャーリーがエリックの方をみてエリーを離した。
「エリック!」
エリックは座り込んだままのエリーを抱きしめた。
エリーもエリックの背中に手を回して泣き始めた。
「エリック・・・エリック・・・。」
「エリー無事でよかった。怖かっただろう?もう大丈夫だ。」

二人を見ながら父親なんて嫌だななんて思った。
シャーリーは安心した顔をしていた。
シャーリーが立ち上がった。
「ルース・・・。よかった。よかった。」
首に手を回してシャーリーは抱き着いてきた。
私はシャーリーの背中をポンポンと2回たたいてから力を入れて抱きしめた。

アイザックが歩き出した。

「ムーシェル。やはりそいつは五霊獣の一人麒麟か・・・。」
「え?」
「こいつに替わって詫びをする。」
ムーが少し頭を下げた。
「ムーは助けたかったから飛び出したんだね。」
その魔獣は気を失っているようでムーの横で倒れ込んでいた。

私はアイザックの隣に立った。
「エリックの魔力何?半端ないんだけど・・・。」
「エリックには、氷、青の魔法の上にリーフィアの妖精の祝福があるからな。」
「あの光は?」
「聖なる祝福の光だ。」
「は?」

隣で俺の息子はすごいだろうとうんうん頷いているアイザックがうざったい。
ああ、お前の息子は凄いな、なんて口が裂けても言ってやるか!

「しかし操っていたやつは誰なんだ?」
「ああ、それ。」
それって?アイザックがなんか簡単に返事をした。
「リーフィア!もういいよ。おいで。」
アイザックが突然上を向いて言った。

私も上をみたが見事に天井まで飛ばされていて星がきれいに輝いていた。
今日は曇っていたださっきのエリックの光で雲が飛ばされたのか・・・。

そんなことを思っていたら目の前に緑の長い髪、青い瞳、白い肌のリーフィア様が現れた。

「えっ?リーフィア様も転移魔法使えるの?」
「あのな・・・こいつを何だと思っているんだ。朝めし前だ。」

リーフィア様は私に軽く頭を下げた。
少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「アイザック終わったの?」
少し甲高い声、いくつになってもかわいらしいリーフィア様はふっふっと微笑んだ。
「ああ、麒麟の奴から闇の力は取り除いた。後はお前の仕事だな。
よろしく頼むな。」

リーフィア様は大きく息を吸い込んだ。
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