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番外編 エリーの場合 (1/4)

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私の初恋は6歳の時だった。
我ながらマセていたな。
いつも父親に連れられていくザイン公爵家、そこの次男であるルーズローツ様の愛しの奥様であるシャーロレット様。
彼女が私の初恋の人だ。
まあ6歳の時ではなく前から会う度にドキドキしていたから実際はもっと前かもしれない。
気づいたのが6歳というだけだ。

4人も子供がいるにもかかわらず
明るい茶色の髪をふわふわなびかせて、時々光る亜麻色の瞳を輝かせている。
優しい笑顔。纏う和らかな雰囲気。彼女がいるだけて周りが明るくなる。
その瞳は常にルーズローツ様を映している。

まあ初恋なんてそんなものだ。

長女のリリーシアは将来ザイン家当主となるだろうウィルヴェス様と結婚して二人の子供に恵まれている。

二女であるサーシャと私は同じ年だ。
父親同士はサーシャと私を婚約させようとしていたが
サーシャは王太子殿下のところの第一王子リアンが好きだった。もう見ていて分からなかったかな。
ニ年前彼女が17歳になる年に結婚した。

そして長男のユークリストは16歳。
その一つ下に三女のエリシアがいる。

私はエリシアを初めて見た時に魔力が体から溢れるのを感じた。実はシャーロレット様、長女のリリーシャ様にも感じていたがエリシアから感じたのはそれ以上だった。
もしかして彼女が私の運命の人なのかと思った。

エリシアは明るい茶色の髪に光輝く亜麻色の瞳をしていた。
全くシャーロレット様と同じ色だ。
私は決めた。
絶対にエリシアを私のものにするのだと。
だから時間があればエリーに会いに行って自分だけに彼女の気持ちが向くようにしてきた。

私エリック=リンデトレス=キルナスは19歳になっていた。
そしてエリシア=ディー=サー=ザインは15歳になった。

私とエリシアの間にはある程度の口約束はあるものの正式には婚約していなかった。
というのも私達が生まれる前にリンデトレスという部族は王家に対して罪を犯していた。
かつて絶大な力を誇っていた国リンデトレス。その国の王族の血を引く父親アイザック=リンデトレス=キルナス。
水色の髪に赤色の瞳をしている。

今は辺境の地を任せられるほど信頼を得ている。
しかし王族であるザイン公爵家との婚約はやはり世間体に良くないものがあった。
父上からは申し訳ないと頭を下げられるが別に婚約をしないだけだ。
婚約なしに結婚してしまえばいいだけだ。
ルーズローツ様もそれでいいんじゃないかと言ってくれている。

私はエリーをすごく目に入れても痛くないくらい可愛がってきたと思う。
彼女は私が思うように成長してきた。
明るく、優しく、素直でかわいい。
当然彼女もその私の想いに応えていつも私に会うと嬉しそうにしてくれていた。

私はエリーが好きだ。
当然彼女も私を好きなはずだ。
そうなるようにしてきたはずなんだけど・・・。

「エリックなんて大嫌い!」

なんてたった今言われてしまった。
「エリー?突然どうしたの?」
怒っている姿も可愛いんだけどな。
「エリックなんてもう顔も見たくない。」
なぜ彼女がこんなに怒っているのか全然分からない。
どうしたらいい?
「エリックとはもう会わないから!とにかく!大嫌い!」
それだけ一方的に言って階段を駆け上がって自分の部屋に行ってしまった。
私は何が起こっているのか分からずにぼっーと立っていた。

「あらあら喧嘩?珍しいわね?」

シャーロレット様が声をかけてきた。

「意味がわからないんですが・・・。何かありました?」
「学園から帰ってから部屋に閉じこもっていてね。私にも分からないの。」
しかしいつ見てもシャーロレット様は綺麗だ。
いつまでたっても私の憧れの人だ。

「エリック!来てたの?」
「ユーリ、ああ。」

ユークリスト、愛称はユーリ。
金髪碧眼ストレート。こいつは確実に父親似だ。
性格も…。

「エリー怒っていたでしょう?」

エリーの1つ上の兄のユーリは同じ学園の2年生だ。

「学園で何かあった?」
「それがね・・・。」
「お茶をいれるからリビングで話したら?」
シャーロレット様の提案に乗って私たちはリビングでお茶とお菓子を食べながら話をした。

「は?なんだって?私はそんなことしていない。」
「でも、レルオーサ伯爵令嬢がそう言って自慢していたんだ。」
「もうなんだそれは・・・。」

私はソファーの背に思いっきり持たれて天を仰いで手を額にあてた。
見慣れていたはずの天井が何だか違って見えた。

ユーリの話によると学園の3年のレルオーサ伯爵令嬢が赤いリボンを見せびらかしていたらしい。
そしてそのリボンにはキルナスの紋章が入っていたらしい。
赤いリボンにキルナスの紋章と言えば当然私の婚約者だけがつけられるものだ。
「ちなみにレルオーサ伯爵令嬢って誰だ?」
「・・・そこから・・・なんだ。本当にエリックはエリーしか見ていないね。」
「当然だろ。」
「何だかどこかで読んだ小説と似たようなことがおきるのね。この世界は。」
シャーロレット様はくすくす笑っていた。

「シャーロレット様、ルーズローツ様はいつお帰りになりますか?」
もう待っていられない。こんな身に覚えのないことでエリーに大嫌いだと言われるなんて耐えられない。なんだそのレルオーサ伯爵令嬢って。もうエリーをルキナスに連れて行こう。

ルーズローツ様が帰ってくる前にひとまずエリーの誤解を解かないと。

「エリー!エリー!話を聞いてくれないか?」
「エリックなんか知らない!ってさっき言った。」

知らないとは言ってなくないか?
もうこの頑固さはどっちに似たんだ。
意外とシャーロレット様もこういうところがある。

「ユーリから話は聞いたよ。でも本当にしらないんだ。その令嬢もそのリボンの事も。」
「エリックは私のこと好きだっていうけど言うだけじゃない。」
「だから婚約の事は父上たちから聞いてるよね!仕方ないんだ。私はエリーとしか結婚しなくないから。」

シーン。

今度は無視かよ!ったく。
私はエリーの部屋に転移した。

「エリー」
「エ、エリック!?」

エリーはベッドに突っ伏していた。
私の声に驚いたエリーはすぐに枕を私に投げつけた。
「レディの部屋に突然入って来ないで!失礼でしょう!」
「もうエリー!いい加減にしてよ。身に覚えのないことで君を失うのは嫌だ。」
「だって・・・ルクルッチェ様が赤いリボンをしてるの。キルナスの紋章の入ったものをしているの!あなたの婚約者しか持ってないはずじゃない!もう嫌!エリックなんて嫌い!」
「だから私は渡してないって!」
「だって見たもの!ちゃんと赤でエリックの家の紋章が入っていたもの!」
「だから私は渡してない。違うと言ってるだろ!」
「そんなのわからないじゃない。影で何してるかなんて!」
「私は君にしか渡さない。」
「もらってない!私はエリックから何ももらってない!」

私は頭を抱えた。
少しエリーは落ち着いてもらわないといけない。
話もできない。

「だから・・・あ!もうっ!!少し待ってて!すぐに戻るから。」


は転移魔法を展開して一度家に戻った。

「あら?エリック?帰ってきたの?」

遠くから母上の声がする。
しかし私は返事をせずに机の引き出しを開けて中にある箱を手にしてまた転移魔法でザイン家のエリーの部屋に戻った。

「エリー、お待たせ。」
もうこんなに転移魔法を使うと青くなった瞳が今日中には戻りそうにない。
少し息を切らせてエリーにさっき持ってきた箱を渡した。
「はい。本当はエリーが16歳になった新年に渡したかったんだ。」
「これは?」
「君が欲しかったものじゃないの?」

エリーが箱を開けた。
それはさっきもいったように16歳になったときに私と結婚して欲しいと言って渡す予定だったものだ。
半年早くなったがどのみちエリーに渡すものだ。

「赤・・・?青・・・?」
「シャーロレット様がたまにしてるだろ?」
ルーズローツ様の瞳は青だ。しかし赤の魔法を使うと瞳は赤に変わる。
それとは逆に私は普段は赤だが青の魔法を使うと青になる。
距離のある転移魔法を使うときは青の魔法を使うから今の瞳は青だ。

シャーロレットさまのリボンはだいたいが青だ。
しかし結婚記念日の新年や何か祝い事、記念日がある時は必ず青を基調として赤のアクセントのついたリボンをする。
「私はあの二人のようになりたいんだ。君と。
だからエリーに初めにあげるリボンは絶対に赤と青だと決めていたんだ。」
「エリック・・・。」

赤に青の縁取り。細かく青の刺繍が入っている。当然キルナスの紋章は青で入っている。

「赤だけなんてありえない。青が入っていなければ私ではないんだ。わかるだろエリーなら。

それを知っているのはごく一部の人間だ。
だからこのリボンは外ではできないかもしれない・・・。
でももらってほしい。新年あけたら私と結婚して欲しいんだ。」

エリーは少しの間リボンを手にしてじっと見ていた。
そして一回頷いたと思ったらすっとリボンを私に差し出した。

「縛って。」

亜麻色の目が泣いたせいで赤くなっている。
私はリボンを手に取りエリーの柔らかい茶色の髪に結んだ。

「ほら、出来たよ。これでエリーは私だけのものだ。」

結んだと同時にエリーが抱きついてきた。
彼女の背中に手を回して抱きしめた。

「もうちゃんと考えているから。

信じてくれないか?私は君にしかあげないから。
エリー、私が愛してるのは君だけなんだよ。」
「ごめんなさい・・・。エリック、私もあなたが…好き。」

いやいや私は愛してるって言ったんだ。
返す言葉は似てるけど違うだろ?
いいかげん恥ずかしがらずに言ってくれないかな。
まあそのうち言ってくれればいいけどね。

「ふっふっふ。ようやく落ち着いたわね。よかったわね、エリー。」


※※※

「そんなことがあったのか?」
「ええ、雨降って地固まるかしら?」
「またシャーリーは訳の分からない言葉を使う。」
「あら?そろそろ慣れたでしょう?」
ルースは青い目を私に向けて優しく笑った。
「まあね。」
「エリーもキルナスに行ってしまうのかしら?多分後からエリックが話があるって言ってたからそのことじゃないかしら。寂しくなるわね。」
「まあ私がいるからいいだろう。寂しくないようにいつでも抱きしめていてあげるから。愛しているよ。シャーリー。」
「そうね。ルース、私も愛しているわ。」

「あっ!」
「シャーリー・・・全く君は変わらないね。
せめて少しくらい待てない?今は君を堪能させてよ。」
「レルオーサ伯爵令嬢の問題はまだ片付いていないわよね?」
「はぁ…ああ、そうだったね。でもエリックならなんとかするだろう。なんたってアイザックの息子だからね。」
「でもなんだか嫌な予感がするわ。だって少しやりすぎじゃない?リボンまで偽造しているのよ?単にエリックが好きだとかならいいんだけど・・・。」
「そうだね。少しアイザックに話をして様子をみてもらうようにするよ。」
「エリックも人並み外れた魔力を持っている。なんたってアイザック様とリーフィア様の子供なんだから。それにエリーも人の魔力をあげる能力が抜き出ている。単に私の思い過ごしならいいんだけれど・・・。」
「残念ながらシャーリーの嫌な予感は割とあたるんだよね。」
「ルース、お願いね。」
「わかったよ。君のお願いを聞かないわけにはいかないからね。それよりもう我慢できないよ。ほら続きをさせて。」
「ん…っ。」

金色の少し襟足にかかるくらいに長くなった髪が少し私の頬に当たる。
私の大好きな青い瞳がスッと閉じられた。
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