オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ

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エピローグ

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「それでは三年生の卒業を祝い、これからの皆の活躍を願って乾杯!」

「乾杯!」

わーっ!
一斉に皆叫ぶ、

今日は卒業式だ。
無事卒業証書を貰い、卒業パーティーが行われている。
晴れ渡る春の暖かい日に恵まれた。

「ルーズローツ会長お疲れ様でした。」
壇上から降りながら周りの人に声をかけられる。
何で僕が会長やってるんかな。
レイクルーゼ妃殿下が指名なんてしてくるから…。
絶対に王太子殿下の提案だろ?二人で楽しんでやがる…!

階段を降りるとディランがやってきた。
「お疲れさん。」
「ああ、お前もな。」
こいつも道連れ。生徒会副会長に強制的に名前をかいてやった。

あれから2年。
それなりに大人になった。…はずだ。

「ザイン会長、ミストローガ副会長、お疲れ様でした。」
階段下で書記のアンナリア=ハースキミート侯爵令嬢が頭を下げた。
同じく書記のジェイソン=ラインバルブ公爵子息も隣で笑っていた。こいつは2年生。
時期生徒会長になる。

「ザイン会長とミストローガ副会長が卒業すると寂しくなります。特に女の子が騒ぎますね。」

「まあ、ルース、美しさは罪だな。」
…昔、誰かにも言われたな。
「お前ほどじゃないな。」
「まあまあ謙遜するなよ。」

何やらわらわら女の子達が寄ってきた。
「ザイン会長!!ダンスパーティーでは是非私と!」
「ミストローガ副会長、わたしと踊って下さい!」
かなり引いた。

定番だが卒業パーティーの最後にはダンスパーティーがある。そのパートナー争奪戦が始まったみたいだ。

みんなそれなりに綺麗に着飾っている。
僕もそれなりだ。
上着から見えるシャツの袖には亜麻色のカフスボタンが、光っている。

僕やディランと踊りたがっているみたいだけど無理だよ。
踊る相手は決まっている。
だから、

「ディラン!逃げよう!」
「ああ!それが良さそうだ。」

あらかじめ目星をつけておいた校舎の影の木の後ろに隠れた。
みんなキョロキョロ探してる。

「フィフィーリア嬢が待っているんじゃないか?」
「フィーとは待ち合わせしてるから大丈夫。」
ディランは同じ魔科の二年生の伯爵令嬢と去年婚約している。まあ一目惚れで、ディランが押したらしい。
何か意外だったな。
ディランは当然婚約者と踊る。
僕だって…

卒業パーティーが始まっていた。
音楽が流れる。立食パーティーでみんな各々に
食べて飲んで話している。
マカロンも当然ある。

「シャーロレット嬢は来ないのか?」
「もう少ししたらくるよ。もう家は出たみたいだから。」

シャーリーは結局卒業出来なかった。
落第した…とか、やらかした…とかじゃなくて子供できちゃったからね。

僕の最大の失敗だ。
しばらくは二人でいようと思っていたが
ザイン家の仕事に駆り出され夜中に帰ってきた日に寝ているシャーリーを無理やり起こして何かに取り憑かれたようにしてしまった。
あまりにも気の重い仕事だったから少し精神的に疲れてしまっていた。
その時いつもは飲む薬を飲まなかったし、そのまま二人して寝坊してしまい学校に二人してギリギリに駆け込んだからすっかり忘れてしまっていた。

生まれたのは女の子。可愛くて仕方ない。
それはそれでよかったけどね。
次は絶対に失敗しない。次は絶対に三年は空ける!
今は子供を産んで少しふわりと肌が柔らかくなり、胸も大きくなったシャーリーを堪能中だ。

「しかし何だかな。意外にみんなお前が結婚してるとか知らないもんだな。子供いるなんて知ったらみんなひっくり返るぞ。」
「黙ってるとかはないんだけど別に披露してないし、結婚式も身内だけだったし、社交にも必要以上でないから広まらないだけじゃない?」

だってあんな可愛いシャーリーみんなに見せたくないし、
着飾ったシャーリー見るとすぐに可愛がりたくなる。
出席するのはほぼ王宮行事だけ。
その場合王太子殿下の計らいでいつも部屋が用意されているから、大抵は途中で抜け出してシャーリーとイチャイチャしてるからな。
シャーリーが大好きなんだから仕方ないだろ。

ザワザワ…ザワザワ。
「何だか門の方が騒がしな。何だ?」
「ようやくヒロイン登場だな。」
僕はすっと立ち上がり木の影から出て門の方へ歩き始めた。ディランもついてくる。

シャーリーが来た。
ムーが一緒だからすぐわかる。

「すごく綺麗な人!?」「誰?」
周りの人達が一瞬で目を奪われていく。

人垣の向こうから足もとの小さな白い猫に微笑みながら歩いてくる僕の女神の姿が見えてきた。
周りさえも光り輝いて見える。

あ、ちゃっかりジョーカスが隣にくっついている。

ヒューッと、ディランが口笛を鳴らした。
「もうこれ以上ない美しさだな。女神だろ?」
…お前が言うな。

輝く光る明るい茶色の髪。腰まである髪は艶がありふわふわと風に揺れる。光に照らされる亜麻色の大きな瞳。スラリとのびる手。くびれた腰。白い肌。
青い色のドレス。耳に輝く亜麻色のダイヤのイヤリング。その髪に靡く青いリボン。そのリボンには赤い糸でザイン公爵家の紋章が刺繍されている。

僕と目が合った。彼女は笑った。
その柔らかで優しい笑顔。
僕の全てを包み込む穏やかな光。

全てが愛しい。
そして艶かし赤い色の唇が僕の名前を紡ぐ。

「ルース。」

声さえも可愛くて愛おしい。
僕とディランを見つけて女の子達が寄ってきていたが、それを掻き分けて真っ直ぐ彼女の元へ進む。

彼女の目の前に止まる。
彼女も足を止める。その足元で白い猫が擦り寄る。
「ルース、おめでとう。」
彼女は最高の笑顔を僕に向ける。
「シャーリーありがとう。」
僕も愛しい人に笑顔を返す。

彼女を抱き寄せて耳元にキスを落とす。
彼女は恥ずかしそうに下を向く。
また、煽るんだから仕方ないな。もう、堪らない。
早く生徒会室に連れ込もう。

「シャーリー今日も可愛い。」

「シャーロレット嬢、久しぶり。」
隣からディランが声をかけた。
「ディラン様、卒業おめでとうございます。」
「また一段と綺麗になって、ルースが外に出さないわけだ。」
僕はディランを余計なこと言うなとばかりに睨んだ。
ジョーカスもうんうんと頷いている。

後ろから腰に手を回して彼女を抱きしめる。

「あの…ザイン会長?そちらは?」
と、書記のラインバルブ公爵子息が顔を赤らめて話しかけてきた。

やだやだ、もうヒロインパワーは必要ないから。

「シャーロレット=ディ=サー=ザイン。愛しい私の妻だ。」

「はい?」

「きゃー!」「えっ?ザイン会長の?」
周りがざわめく。

シャーリーの首筋に顔を埋めてキスをする。
「もうルース!人前はいや。」
「じゃあ人前じゃなきゃいいんだね。」
「いや……あの…いや…そうじゃなく…て…」
「だったら人のいないところいこうか?」
「…あ…う…うん。」
ほらシャーリー。
いつまで経っても耳は弱いね。

目の前で純情そうな少年は固まっていた。
申し訳ないけど、シャーリーは僕のものなんだ。
誰にもやらない。周りにも牽制するつもりで囁く。
「シャーリー、愛してる。」

「また、こんな場でもイチャついてるの?」
「王太子殿下!レイクルーゼ様!」
シャーリーが慌てて僕の手から離れて頭を下げる。
周りのみんなも次々と頭を下げる。
「ちっ、また嫌な奴らが来た。」
「ルース…聞こえているんだが…」
「聞こえるように言っていますから。」
王太子殿下とレイクルーゼ様が煌びやかに登場した。
周りは騒然としている。
全く王太子殿下と王太子妃殿下が来るなんてに聞いてない。
王太子殿下はみんなに頭を上げさせ、卒業パーティーを楽しむように促した。

パーティーが進む中、やはりシャーリーはマカロンを食べている。
しかし以前のようにマカロン大好きです!ってひたすら食べるわけではない。
彼女もそれなりに大人になった。
ゆっくりと、一口一口を味わうように食べていく。
この頃可愛いと言うより綺麗だと言う言葉があう。 
早くシャーリーを連れ去って…なんて考えていたらシャーリーが口を開いた。

「今日はどうしたんですか?」

レイクルーゼ嬢に話しかけた。
レイクルーゼ嬢は視線を前に向け、卒業パーティーの様子を見渡したあとシャーリーの方を向いて答えた。

「シャーリーと同じ理由よ。そうよね?」

少し前からシャーリーはこの卒業式パーティーに来たがっていた。まあだいたいは予想は付く。

「ええ。レイクルーゼ様。」

シャーリーとレイクルーゼ嬢は周りを懐かしそうに見た。
そして彼女はレイクルーゼ嬢と顔を合わせて笑いあった。

「どうしても来たかったんです。」
「ええ。終わっていると分かっていてもね。」
「幸せですか?」
「ええ、幸せよ。」

ここは物語の終わりになるはずだった場所。
彼女達が何を考えているのかはわからない。
前世のこと、今世のこと、そして未来のこと。

僕は殿下を見た。殿下もまた僕を見ていた。
殿下は頷いてレイクルーゼ嬢を愛おしく見つめた。
僕もシャーリーを見た。

静かに殿下と二人を見守った。

二人は少し微笑みながら話していた。
そこにあるのは二人が一生懸命に生きて手に入れた繋がれた絆。
これからも二人は笑い合って生きていくのだろう。
それを僕達は隣で見ていく。

少ししたらシャーリーが僕の方を振り向いた。
「あなたに会えてよかった。」
そう言って、白い猫を抱いた彼女は世界で一番の笑顔をくれた。
ムーが彼女の手を離れてぴょんと隣のテーブルに飛び乗った。

僕は彼女を後ろから抱きしめる。
彼女も僕の手に自分の手を合わせる。
首を斜め上に回して僕の方を見る。
「ルース、愛してる。」
僕は少し頭を下げた。

君に会わせてくれたこの世界に感謝します。

「ずっと永遠に君を離さない。」
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