オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ

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小話 裏庭の談笑

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ここは王宮の裏。
裏庭の小道を抜けて真っ直ぐ行くと古びた扉に突き当たる。
古くて開かない扉には幾重にもツタが絡まる。
その横には小さな一人分入れるくらいの小さな新し目の扉がある。
私はそこを通って親友に会いに来る。

小さな墓石に花を備える。
墓石の誇りを払い汚れを落とす。
蝋燭を立てて火を灯す。
手を合わせて祈る。
墓石に向かって話しかける。

それがいつもの彼女に会う時の私の手順。

寒い冬の日だ。風が冷たい。
夜には雪が降るかもしれないわね。

マリー。お久しぶりね。一か月ぶりくらいかしら?
今日はいろいろお話があるの。

私達の息子達が結婚するのよ。
もうそんな歳になったのね。ふふふ
あなたが亡くなって13年。
あんなに小さかったレオンハルトもルーズローツも結婚するのよ。早いわね。
レオンハルトはいろいろ手続きやら式典があるからまだまだ先の話なんだけど新年には婚約を公表するわ。
ルーズローツはもうエドワード様がノリノリでね。
あのいつも冷静なエドワード様がニコニコした笑顔で書類を陛下に押し付けているのを見てたら笑ってしまったわ。

ルーズローツと初めて会った時は冷たい目をしていて心配していたけど、今はすごく穏やかに優しく笑うの。
エドワード様はじめザイン家の人たち、シャーリーのおかげね。あの子の周りにはあの子を愛している人達がいてくれる。

あなたの笑った顔に似ているわ。なんだか泣けてしまうわ。

あなたは小さい時から私と一緒だったわ。
私の家に住み込みで働くあなたを気に入った私がわがままを言ってあなたをわたしの侍女にしてもらってからずっと一緒だったわね。

15歳になった時、あなたははじめて話してくれた。
ここがあなたの知っている物語の世界だと。
私達がその物語の主要人物の親なんだと聞かされた時は本当驚いたわ。まさか、15歳で今から生まれる自分の息子の話をされたんですもの。ふふふっ。

でもあなたは真剣だったから私はそんなあなたの話を信じたのよ。
だからいろいろ二人で相談したわね。本当にあの時は楽しかったわ。

そんな物語に振り回されて子供達が幸せになれないのは困るからと試行錯誤した上、婚約期間を短くして設定より早く陛下と結婚したのよね。
幼なじみのベス、今やシュライン伯爵夫人だけどね、まで巻き込んでね。
だからレオンハルトもルキシスも一年早く生まれた。

私達はこれで物語は無くなるだろうと喜んだ。
でも…
あなたがルーズローツを身篭った時、どんなに私達が設定を変えてもやはり物語は存在するんだとわかったてしまった。

あの時は本当にごめんなさい。私がしっかりしていればあなたを苦しめることはなかったのに。

二人目の子供を死産して、もう子供が産めないとわかったあの時あなたにあんなことを頼まなければよかった。
あなたにかわりに陛下の子を産んで欲しいと泣いて叫んであなたに縋らなければがよかった。
わたしはあの時どうかしていたのかもしれない。
なのにあなたはあなたが笑って受け入れてくれた。
陛下も私が毎日毎日泣き喚くから仕方なかったのよね…。

もう陛下の子供を産めないのに、子供を授かって愛しそうにお腹をさするあなたを見て私は嫉妬した。
あなたに酷い言葉を言ってしまった。あなたを傷つけた。

そしてあなたは私の前から居なくなった。
わたしは後悔しかなかった。
あなたが大切だった。そんな一時の嫉妬心よりあなたを失った悲しみの方が大きかった。
必死に探した。時には自分で歩いて街を探した。森にも行った。陛下も協力してくれた。

ようやく探し当てたあなたは病魔に侵されていた。
この病気はこの世界では治らないんです。と寂しそうにルーズローツを抱きしめていたあなたを忘れたことはない。

栄養の偏り、ストレスからくる病気だと王宮の医師は言っていた。
全ては私のせいよね。ごめんなさい。
あなたに頼りすぎていた。
私は自分のことしか考えていなかった。

だけど、あの時あなたは笑った。私といれて良かった。
わたしの側にいれて幸せだった。
そう言ってくれたから今は救われている。
だから私は生きてこられた。
あの二人を見守っていくと決心した。

ルーズローツは本当は私の手で育てたかったのよ。
あなたの子は私の子だと思っているわ。愛しい。
でも将来のことを思うと無理だった。
王太子の異母兄弟なんて政治的に火種になる。
陛下と何度も話をしてエドワード様に託した。それがよかったのか少しずつ笑うようになった。
しかし私の心配はつきなかった。
だってあなたの物語と同じだった。
出生の闇、ザイン家の闇を負わせることになってしまった。

しかしシャーリーと会ったのがルーズローツを劇的に変えた。あなたの話だとレオンハルトの婚約者になるシャーロレットは悪役令嬢で自分勝手な子だったけど、実際の彼女は明るく可愛い子だったわ。

会ってみたい?
心優しい子よ。あなたも気にいるわよ。

ただね、レオンハルトの母としては複雑なのよね。
初めはシャーロレットはレオンハルトの婚約者になることがほぼ決まっていた。

突然困った顔をしてエドワード様からルーズローツが婚約者としてシャーロレット嬢が欲しいと言っているんだが…と聞かされた時は驚いた。

陛下も私もエドワード様もルーズローツの望むことは叶えてあげたかった。
結局シャーリーはルーズローツに取られちゃったわね。
少し前にはレオンハルトも少し残念がっていたわ。

でもあの二人は本当にお互いを思っている素敵なカップルよ。レオンハルトの入る余地なんてなかった。

マリー、ルーズローツは大切なものを手に入れたわ。
闇の中にいても必ずシャーリーが光の世界に連れ出してくれる。二人で闇に堕ちてもあの子達は二人で手を取りあって必ず這い上がってくるわ。

あなたが残してくれた手紙はもういらないわね。

『ルースが15歳になった時、あの子が深く闇に落ちて何も望まない眼をしているのならこれを読んで。そしてそこに書かれている令嬢にこの手紙を渡して欲しい。どうか必要ないことを願うわ。お願いね。みんなが幸せになるのを私は天から見守っているわ。あなたの幸せもね。』

あなたの最後の言葉。

ルーズローツは明るく優しい子に育った。隣には寄り添ってくれる子もいる。あの子を包み込んでくれている。もう大丈夫。安心して。

私は目の前の炎の中に手紙を入れた。
二つの手紙の一つには何が書いてあるか知らない。見ていない。
チリチリ言いながら少しずつ黒く焼けて行く。
煙が私の目の前に広がる。
そして少しずつ灰になって風に舞い空に消えて行く。

燃えカスの一欠片が風に舞う。
一瞬書かれた文字が読めた。
〝裏モー〟
と3文字が書かれていた。

その欠片もチリチリと燃えて灰にな

り風に巻上がった。

もう必要ない。
あの子達がちゃんと自分達の物語にしてくれたわ。
あの子達は自分の幸せを自分の手で掴みとった。

今度、シャーリーとレイチェを連れてきましょうか?
あの子達なら貴女に会わせても大丈夫。
心優しい子達だから泣いてしまうかもね。

特にレイチェは涙脆いのよ。
あなたを見ているようだわ。
あの子の仕草とか何かあなたを思い出してしまうの。
どうしてかしらね。
王太子の地位に生まれて、恋愛を諦めていたレオンハルトが自ら手を差し伸べた子よ。
ちゃんとあの子も恋をしてくれた。

レイチェもシャーリーに負けず、いい子よ。
わたしは二人とも大好き。
でも何の因果か分からないけど二人とも転生者なの。
あなたと話が弾むかもね。

マリー、大丈夫よ。心配しないで。
まあ、空から見ていると思うけど。
ルーズローツもレオンハルトも幸せになるわ。
見ててあげてね。

あ、そうだ。これ置いておくわ。
シャーリーが作ったんだって。美味しいわよ。
久しぶりに食べたわ。
あなたと同じ味がするの。
スイートポテト、あなたはよく作ってくれたわね。
今でも私の大好物なのよ。

わたしは立ち上がった。
パンパンとスカートの裾を叩いた。

「グレース、やはりここか。」

後ろから声をかけられた。
穏やかで優しい声。
振り返るまでないわね。誰かなんてすぐわかる。

「陛下。ごめんなさい、探しました?」
振り向きながら答えた。

「まあ、ここしかないと思ったから探してはないか。
マリーと話をしていたのか。」
「ええ。嬉しいことがあったからマリーに話しに来たの。」
「そうだな。ゆっくり話せたか?でも、寒いぞ。ほら体が冷えてる。話は済んだのか?さあ、戻ろう。」
「またすぐに来るわね。マリー。」
「今度はルースとシャーリーを連れてくるといい。」
「私もそうしようと思っていました。
その時はレオンもレイチェも一緒がいいわ。きっとマリーは喜ぶわ。ふふふっ」

陛下が私に手に持っていた上着をかけてくれた。
上着をわざわざ持ってきてくれたんですね。
でも上着もあなたの手も冷たくなっていますよ。
お待たせしてしまいましたね。

そして今まで心配させてしまいましたわね。

「マリー、よいお年を…」


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