オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ

文字の大きさ
上 下
86 / 120

その29 この世界にて ルース視点(1)

しおりを挟む
青い光が周りに散らばって消えた。

「シャーリー!シャーリー。」
間一髪間に合った。

青い光がシャーリーに当たる前に何とか弾くことが出来た。
さっきの攻撃で割れた窓から兄様と2人で部屋に飛び込む。

「ルース!援護するから早くシャーリーのところへ!」

兄様の攻撃がルピアと氷の魔族の足元に繰り出される。
僕は攻撃をかい潜りシャーリーのところへ急ぐ。

「シャーリー!」

縛られた手首からは血が出ている。
腕からも肩、頬からも血が流れ落ちている。
目は開いていない。
ぐったりとした体はもう自分で支えられてはいない。だらりと天井から吊り下げられているだけ。
顔や手、首筋、見えるところはもう透き通ってしまいそうなくらい白い。
その腕に赤い血だけが流れだしていた。
背中がぞくっとした。
もしかして僕はシャーリーを失ってしまうかもしれないと思わずにはいられなかった。足が止まった。

「ルース!早く!!」
兄様の声に我に返った。

「シャーリー!シャーリー!!今助けるから!」

「ルース!危ないよけろ!」
兄様の声が飛ぶ。まだシャーリーの縄が解けない。
青の魔法がかかっていてなかなか解けない。
相手の攻撃を壁を作って跳ね返す。
兄様が時間を作っている間にシャーリーを安全な場所へ移さないといけない。
何とか赤の魔法で中和して青の魔法を解いてから縄を切った。
ドサッと倒れた落ちてきたシャーリーを受け止めた。

意識はない。
手や足はダラリと落ちるだけ。
自分の手にシャーリーの血が飛んだ。
シャーリーを抱いている腕が重い…。
彼女はもう僕を見て笑ってくれないのだろうか…。

しかし僕にはわかる。
僅かだがシャーリーを感じる。
大丈夫。彼女はまだ生きている。

かなり出血してる。
止めないと…血を止めないといけない。
手首は骨折している。この状態で縄で引き上げられていたのか。痛みでどうにかなるくらいだ。よく耐えていた。

しかしもう途切れるくらい細い意識しか感じられない。
かろうじて命の糸がつながっているという感じだ。
急がないと!

「ルース!早く。こっちよ。」
扉が開いた。そこには廊下側に回った姉様がいた。
「シャーリーを!」
僕はシャーリーを抱いて扉まで走る。
「シャーリーは!!」
姉様が大声で叫ぶ。
「大丈夫…まだ、まだ…」
僕も答えを叫びながら何とか攻撃をかわす。
凄まじい攻撃だ。次から次へと青く冷たい攻撃が繰り出される。さすが氷の魔族の王、並の魔力ではない。

扉の向こうで姉様が涙ぐんでいる。
しかし姉様はすでに魔法を展開しはじめていた。
治癒魔法にかけてはザイン家で右に出るものはいない。

僕がようやく姉様の元に着いた瞬間、赤い光がシャーリーを包んだ。鮮やかな手捌きだ。

シャーリーを扉を出てすぐ横に寝かせた。
僕は二人を守る為に入口を背にしてアイザックの攻撃を防いでいた。
少しそんな攻防が続いた。

「シャーリー!」
姉様の声がした。
チラッとシャーリーを見ると
赤い光の中でシャーリーの手が少し動いた。

僕は防御壁を張ってからシャーリーの手を取った。
「シャーリー!シャーリー!聞こえてる?シャーリー!
返事して!!」

「…る……」
「シャーリー!!」

なんとか聞き取れるくらいの小さな声。

「ルー…、さいご…よか…た…」
「シャーリー!最後じゃないから!大丈夫。助けにきたから。もう大丈夫だから。しっかりして!」

うっすらとシャーリーが目を開けた。

「あか…きれい。あお、あか…も…すき……」
「シャーリー!!」

シャーリーはそこで完全に意識を手放した。
「あなたを見て安心したのね。気を失っただけ。かなり気を張ってたのね。ルースもう大丈夫よ。あとは任せて。間に合って良かった。」

シャーリーの場所を探す魔法、ここまで移動する魔法、縄を解くのに赤の魔法を使ったから今の僕の目は赤かった。
シャーリーが僕のこの赤い瞳を好きだって言ってくれた。更にさっき…

目の前に青の光と赤の光が弾けた。

防御壁が壊されていた。

僕たちに向かって放たれた青の攻撃を兄様が弾いてくれた。

「ルース!感動の再会は後にしろ!攻撃が来るぞ!」

シャーリーを姉様に託して、僕は兄様の隣に行く。 

「氷の魔族の王、アイザック。
ザイン家を怒らせたね。お前は青の魔法を使うんだから同じだろ?強い魔法を使うものはそれだけ代償を払わなきゃいけないんだ。だから手の中にあるものをとても大事にするんだよな。」
「だからこいつを狙った!こいつはそいつから大事にされている。お前たちが僕の大事な仲間を捕らえて連れて行った。同じことをしただけ!」
「違うだろ?初めにそうしたのは俺たちではない。」
「そうだ…そうだシルバーサの奴らが僕の大事な人を連れて行った。キルナスの森でひっそり暮らしてた…突然爺やと妹を連れさった!返して欲しければ協力しろと!僕は幸せだった!皆が周りにいるだけ。それが幸せだったんだ!それを壊されたんだ!!」

風が竜巻となり舞い上がる。

氷の魔族は国が滅びてからはひっそり国の隅のキルナスの森で一族と暮らしていた。それがかつて最強だと言われた氷の魔族の力を欲したシルバーサの欲に目をつけられてしまったのか…。

竜巻の中から青い閃光が飛び散る。
兄様と僕は反対方向に飛び、攻撃をかわす。

兄様がアイザックに向けて攻撃をする。
確かに彼の魔力はすごい。半端ない。
次から次へと息をつく暇もなく青い光が繰り出される。
僕達も逃げながら必死に攻撃をする。

「アイザック様!」
ルピアがアイザックに駆け寄り腕をとる。
「危ないわ!私まで殺す気?」
「どけっ!」
アイザックに腕を払われ彼女は跳ね飛ばされ、四つん這いになって扉に向かって逃げようとした。彼女に直接当たらない程度に顔付近を2、3回攻撃する。
「ひぃぃぃ!」
「ルピア、君に逃げてもらったら困るんだ。」
彼女は腰を抜かしたみたいだ。
その上彼女はもう恐怖でそこから動けないだろう。

ルピアが作ってくれたその僅かな時間の間に兄様の攻撃がアイザックの腕に当たった。
腕を押さえてしゃがみ込む彼に兄様は彼の足を攻撃をした。
これで動けない。
「大人しくしろ。」

一瞬彼の目が青白く光った。
「兄様危ない!」
今までとは桁違いのかまいたちのような風が吹きあれた。
なんとか僕の防御魔法が間に合った。
「ルース、ありがとう。」

兄様の目も一層赤く光った。周りに赤いオーラが立ち込める。
僕とは違い正式にザイン家の血を継いでいる兄様の赤の魔法はすごい。僕でさえ立っているのがやっとだ。
窓が小さく震える。あまりの殺気にアイザックも気づいたらしい。かまいたちの風を何度も繰り出すが全く兄様には届かない。

「氷の魔族の王、そして青の魔法使いアイザック。終わりにしようか。」

アイザックの下がメリメリといいだした。その部分だけ重力がのしかかる。アイザックは頭を抱えて喚きだした。
彼のしゃがみ込んだところから大きく床が凹み始め、ひび割れていく。アイザックの叫び声が響く。
彼の体から切り裂かれたように血が飛び散った。

兄様が本気を出したのを初めて目の当たりにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん
恋愛
 魔法大国と呼ばれるレーベン王国。  家族の中でただ一人弱い治療魔法しか使えなかったセリーナ。ある出来事によりセリーナが王都から離れた領地で暮らす事が決まったその夜、国を揺るがす未曾有の大事件が起きた。  ……その時、眠っていた魔法が覚醒し更に自分の前世を思い出し死んですぐに生まれ変わったと気付いたセリーナ。  自分は今の家族に必要とされていない。……それなら、前世の自分の大切な人達に会いに行こう。そうして『少年セリ』として旅に出た。そこで出会った、大切な仲間たち。  ……しかし一年後祖国レーベン王国では、セリーナの生死についての議論がされる事態になっていたのである。   『小説家になろう』様にも投稿しています。 『誰もが秘密を持っている 〜『治療魔法』使いセリの事情 転生したので前世の大切な人に会いに行きます!〜』 でしたが、今回は大幅にお直しした改稿版となります。楽しんでいただければ幸いです。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】やり直しですか? 王子はいらないんで爆走します。忙しすぎて辛い(泣)

との
恋愛
目覚めたら7歳に戻ってる。 今度こそ幸せになるぞ! と、生活改善してて気付きました。 ヤバいです。肝心な事を忘れて、  「林檎一切れゲットー」 なんて喜んでたなんて。 本気で頑張ります。ぐっ、負けないもん ぶっ飛んだ行動力で突っ走る主人公。 「わしはメイドじゃねえですが」 「そうね、メイドには見えないわね」  ふふっと笑ったロクサーナは上機嫌で、庭師の心配などどこ吹く風。 ーーーーーー タイトル改変しました。 ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

処理中です...