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その26 サンルームにて

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何やかんやあったが私とルースは学校へ行く日常の生活を取り戻していた。

しかし明らかにいつもの…とは違うのだ。
少し前とはかなり違うのだ。何だかルースがそばにいるのがくすぐったい。まあ、自分の気持ちを自覚してしまいましたからね。
誤魔化したとはいえ、ルースに好き好き好きと連発してしまったから恥ずかしい。

「ル、ルース近い…」
「だって仕方ないじゃないか。ダンスのレッスンなんだから。」
「あ、いや…だからね。」

新年に舞踏会がある。
この舞踏会は王宮の新年第一弾のイベントだ。王家への新年の挨拶はもちろん、16歳の成人の祝いも兼ねている。この国は新年で皆一つ歳をとる。まあ、みんな1月1日が誕生日ということだ。そして16歳からを成人としていてる。
つまりこの舞踏会はニューイヤーパーティーと成人式を兼ねたみたいなものだ。
舞踏会なのだから優雅に踊らなくてはならない。なんと言っても今年16歳になる私は主役なのだ。
しかしはっきり言って運動はまるっきしバツだ。
ダンスなんて踊れない。
前の交流会程度ならいいが、今回は王宮の舞踏会で優雅さを求められる。
撃沈だ。仕方ない…仕方ないが近いのだ。

「シャーリーのダンスに合わせれる人なんて僕くらいしかいないよ。諦めて。」
「仕方ない、仕方ない」

自分に言い聞かせる。恥はかきたくない。でもルースが近い。
「ん?また背高くなった?成長期ね。」
「シャーリーはもう伸びないみたいだね。」
もう少し女の子の扱い優しくならない?そんなんじゃモテないわよ!って、あ~モテてはダメだわ。気を取り直して…。
「そうなのよ。もうあと5センチは欲しいのに。悪役令嬢はモデルばりにスタイルよくなくゃいけないのに!」
「この頃あまり言わなくなったから諦めたと思ったよ。」
そう、確かにあの別荘からは考えていない。諦めたとかではない。まあいつもそう言ってたからついつい口から出てしまう。
私は違う目標を見つけた。目の前にいる人、ルースと共に歩いて行くと言う目標を。

「まあ諦めたというかもともと合わなかったのよ。無理に作り出す必要は無いってことに気づいただけ。本当にもっとこう!そうスタイル良くて、胸がどーんとあって、胸の大きく開いたドレスとか着こなしてみたいの!ん…痛っ。」
突然ルースが止まったから私は彼の胸に顔をぶつけた。
「ルース!突然止まらないで鼻打った!痛い!ん?どうしたの?」
ルースが真っ赤だ。
「あ、いや…ちょっと想像したというか、今当たってる胸は小さくないというか…前より大きくなってるから…違う…そういうことじゃなく…て…」
「ルースって…もしかして…むっつり?」
「あ、いや。違う…あ。」
そうなんだ。ルースの視線が私の胸にある。すぐさま両手で、胸を隠した。
「見ないで!スケベ!」

ルースは一度咳払いをしてから話題を変えた。
「あ、じゃあ、シャーリーは悪役令嬢やスローライフは諦めて僕と結婚してくれるんだよね?」
「へっ??」

…そうだ。そうなのだ。以前とここが大きく違うのだ。ルースがチャラい。チャラすぎる。それにすぐに…ほらほら…
「ん~…」
頬にキスされる。何かあるとすぐこうだ。押してくる。
「ル、ルース!」
こんなに押しの強いタイプだった?
まあ嫌がらない私にも非があるが。

「だって前に僕のこと好きって言ったよね?一緒にいてくれるんだよね?」
「あ、いや。あの時も言ったけど幼なじみとして好きであって、結婚とか…今はまだ」

あ、いや。
すごく考えていますが…。まだ言えません。

「あら。いつにも増して仲良しさんね。」
突然声をかけられた。
「レイクルーゼ様!」
私はワンコになって尻尾を振りながらレイクルーゼ様のもとに駆け寄った。
この頃お茶会に一緒に行ったり、度々お屋敷とかにもお邪魔して今ではかなり可愛がってもらっている。

平和な日常の中で以前と変わったことだ。

あと、変わったことと言えばルピアさんは家の都合で休学している。
ヒロイン不在だ。
悪役令嬢はやめたからいいか。

「また、邪魔しに来たんですか?」
「あなたも難儀ね。この天然相手では先は長いのかしら?」
「いいえ、すぐに決めますからご心配なく。」
「あらお手並み拝見というところね。」
「見ていてください。」
「ん?」
何のことだろうか?

「少しシャーリーを借りていいかしら?」
「少し!少しですよ。」
「まあ、心の狭い男は嫌われるわよ。ホホホッ」

いつも二人は何やら刺々しいやり取りを繰り広げている。
私は首を傾げるしかなかった。しかしいつも思うがやはり息合ってる。この間の取り方はナイスだ。漫才コンビできそうだわ。


「おめでとうございます!」
「ありがとう。」
レイクルーゼ様が紅茶を飲みながら答えた。
淑やかに紅茶を口に運ぶレイクルーゼ様は素敵だ。憧れるわ。
生徒会のメンバーのみが使えるサンルームでレイクルーゼ様とお茶をしている。
ジェシー様、カトレア様も一緒だ。

そう!
レイクルーゼ様は側妃に内定したらしい。
よかった!!

「素敵だわ。あの王太子殿下の隣にレイクルーゼ様って絵になるわ。」
「シャーロレット様もそう思うわよね!」
「ええ!もう早く婚約式にならないかしら。新年会で発表されて次の日が婚約式なんでしょう?わ」
「お二人で並んだ姿~あっ想像しただけで素敵。」

「まあ、シャーリーお世辞でも嬉しいわ。」
「いやいや、羨ましいです。私なんかレイクルーゼ様みたいに綺麗でもなければちんちくりんだし、スタイルも良くない。頭もお花咲いてますし…」
「よくわかっているじゃない。」
…即答、直球ですね。まあわかりきっているので気にはなりませんが。
「でも…いいんですか?隣国の王女様が正妃なんですよ?」
「あら、関係ないじゃない。ただの政略結婚でしょう?要はいかに殿下に愛されるかですわ。まあ負けはしないから安心してください。王宮に招待して差しあげるから遊びにいらっしゃってね。」
「もちろんです!毎日でも伺います。」

レイクルーゼ様は一度紅茶を口にした。 
「シャーリー、あなたはどうなの?あなたももう16歳におなりでしょう?いいかげんに夢見るのおやめになったら?ちゃんと現実をみたらいかがです?」 

少し前に魔科を選んだのはなぜか聞かれたから森で調合師になりたいからだと答えた。何ばかなこと言ってるの?って大きな声で笑われた。
恋愛や結婚に対して恐怖心があること、何もできないから、何も変われないから無理なんだと話した。

その時レイクルーゼ様はうなずきながら聞いてくれた。
しかし後から思ったのだが、15歳の女の子が嫌な経験をしたから恋するの怖い…自分はそこから動けないだなんておかしいと思わない?
たかだか15歳の女の子に何があったのって感じにならない?前世の記憶持ちなんて言ってない。
それこそ何言ってるの?ってことになるはずだ。
しかし
「そうね。いろいろあったのね。」
なんて言われた。

何か引っかかるのよね。
聞き流してくれただけよね?

「はい、この頃はそういう考え方を辞めました。何も出来ないんじゃなくて、しなかったんです。だからちゃんと考えてできることを始めていこうと思ってます。」
「あら?どうしたの。急に物分かりが良くなってないかしら?」
「今が幸せなんです。確かに怖い気持ちがあります。でも以前とは違うんです。だから自分の気持ちを無理に抑えるのは辞めました。結構私は幸せになれるんじゃないかな?って思えるようになりました。」
「それは彼のおかげなのかしらね?」
「だと思います。」
「あなたが良いならいいではなくて?でも何かあったらすぐに言いなさいね。」
「ありがとうございます。」
隣からカトレア様が援護してくれた。
「レイクルーゼ様、大丈夫ですよ。彼女なりに前に進んでいますわ。ねぇ、シャーリー。」
「はい。」

『あら、進歩してるじゃない。ルーズローツはそろそろ報われそうだわね。』

あの時から何だか吹っ切れた。
転生だの、物語だのに囚われすぎていたんじゃないかと思えるようになった。
ルースが見せた彼の闇は物語の中ではないのだ。彼が一生懸命に生きている証拠なのだ。物語の中で生きているのではない。この世界に生きているのだ。みんながみんな生きているから私も頑張らなきゃいけない。逃げちゃ駄目だ。頑張ってみてダメならまた考えよう。

私はあの時思ってしまったのだから。

ルースと共に生きていきたい。

とにかく前世とは違う。私はこの世界でシャーロレットとして未来を、前を向いてあるいていこう。

彼は違う。私も違う。出来ることも違う。必ず大丈夫だと信じよう。信じていくことから始めよう。

しかし彼に気持ちを伝える前に一つだけやりたい事があった。
彼に自分の気持ちをちゃんと言って、彼を受け入れるのはその後。
そう決めていた…決めていたのだが…
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