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小話 舞踏会

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つまらない。つまらない。舞踏会なんてつまらなぁぁぁい。
ダマガラン王太子殿下の歓迎の舞踏会で三日って何?何!
三日間もやる意味ある?
まあ、会っておかなきゃいけない人や顔合わせしなきゃいけない人がいるのはわかるけど…。
私需要ある?
ただ、喋って踊って食べるだけでしょ。それなのに何!この豪勢な衣装や宝石は。もったいなすぎ!

今日はシャーリーが居ない。更につまらなさが加速する。
マカロンの前にいつもいるのにな。

でも、王太子殿下と会えるから三日間皆勤賞だ。

「つまらなそうだな。」
「あ、そうなの。本当に…えっ!レオンハルト王太子殿下、失礼しました。」

私は慌てて頭を下げる。

私の前に正装をした煌びやかな金髪碧眼が現れた。昨日も見たが、今日は白に銀と青のこれまた素晴らしいお衣装です。
いつ見てもため息が出るほどかっこいいな。

「まあ、堅苦しくしないで。つまらないか?」
「はい、シャーリーはいないし、カトレア様もランス様に独占されてしまって、ジェシー様はおいでになってないし。はぁ…」
「じゃあ、抜け出そうか。」
「はい??」

「足元大丈夫か?」
私は王太子殿下と庭園に出た。以前シャーリーをいじめた?いやシャーリーに注意をした薔薇園だ。
懐かしい。ちょっと前だけどすごく時間が経ったように思う。
と、言うのもシャーリーに合ってからいろいろと考えることがあったからだ。

王太子殿下は手を引いてエスコートしてくれる。

夜に来るとザワザワと葉の揺れる音が大きい。
灯りがあるから薔薇が咲いているのは分かる。
人工の光に照らされた薔薇の花びらは昼間見る艶やかなものとは違い、少し薄暗く物静かに揺れているだけだった。

あれからそんなにたっていないのに
あんなに庭全体に咲き誇っていた薔薇は今はまばらに咲いている。

まさかあの時はシャーリーとこんなに仲良くなるとはは思わなかったな。

私は黙って夜の風に揺れる薔薇を見ていた。

あの時の私は必死だった。王太子殿下の側妃になりたかった。今でもなれれば嬉しいのだが、シャーリーとルーズローツを見てると何だか恋愛したくなってきた。
シャーリーのおかげかしら。

王太子殿下の前でいい令嬢するのはやめた。
素の自分を見てくれる人がいいから。
まあ殿下もそう言ってくれたし。

「ふふふっ…」
「どうかした?」
「ここではじめてシャーリーと話しました。もう随分前のことのようです。シャーリーといるといろいろ起こってジェットコースターに乗ってるみたいです。」
「ジェットコースター??」
「ああ、いえ。なんでもないです。ただ、あの二人を見ていたら忘れていたことを思い出せました。」
「そうだな。」

王太子殿下はあのベンチに私を座らせた。泣いているシャーリーを慰めたあのベンチですわ。

「レイクルーゼ嬢、わざわざこんなところに呼び出してすまない。」
「殿下もつまらなかったんじゃなかったんですか?流石に疲れましたよね?」
「ったく、君もシャーリーと一緒だな。」
「あんな天然と一緒にしないで下さい。」
「いやいや君も十分天然だよ…。」

私は首を傾げた。
私が天然?いやいやシャーリーと比べて貰っては困るわ。

風が気持ちよかった。こんな月の綺麗な夜は好きに踊りたい。
実はバレエを高校まで習っていた。体が染み付いているのだ。
無性に踊りたかった。

「レオンハルト王太子殿下、今から五分間、目を閉じていて下さい。何があってもです!もし目を開けて見てしまったら…」
「見たら?」
「その時はみたものは忘れてください。ふふっ」

王太子殿下をベンチに座らせて目を閉じてもらった。
私はヒールを脱いだで少し殿下から離れた広い場所に行く。

「もしかして目を開けたらいないとかないよね?」
「大丈夫です!心配しないで下さい!」

私は右足を出した。フワッと気持ちいい感じがした。

久しぶりにちゃんと踊った。転生してからは舞踏会のペアのダンスくらいしか踊らなかったからね。
やはり自由に体を動かすのは好きだ。
この前の交流会で久しぶりに踊ったらやっぱり楽しかった。

踊り子は天職かしら?もし側妃になれなかったら踊り子になろうかな。

シャーリーの夢を語るクセが移っているわね。

「ふふふっ、楽しい…ふふ」

あら?何だか風が暖かいわね。一緒に踊ってくれてるのかしら。ふふふ。

「ん…?…?」
王太子殿下がガン見している。私は踊りを辞めた。

「なんだもうやめるのか?」
「五分経ちましたか?」
「経ってない。」

あっさり言うわね。

「君の踊りは綺麗だ。天使が舞い降りたみたい…」

王太子殿下?そんな甘い言葉いうタイプでした?

王太子殿下はすっと椅子から立ち上がり
私と向かい合わせになるように前に来た。

夜の薔薇園の灯りが殿下を照らす。
本当、照明当たるとますます金髪が素敵。
しかし後ろから光があたるので殿下の表情は影になりあまりよく見えなかった。

「レイクルーゼ嬢、君に決まったんだよ。」
「えっ?」
「今日の午後の話し合いでね、君が私の妃になることが決まったんだ。」
「えっ?だって…」
「それを伝えたくてね。」
「私は…私はレオンハルト王太子殿下に嫌われているんじゃ…」

だって悪役令嬢は嫌われるはず。
それにいつも完璧にいようとするため
事務的になってしまっていたはず。

「別に嫌っていないよ。何でそんな考えになるかな?両親が推したんだ。」
「ルーズローツ様の事でですか?」

しまった!!これはゲームの設定で知らないはずだ。

「知ってたんだね。」

誰から聞いたことにする?どうする?ひとまず頷いておく。

「将来ルースと結婚するシャーリーと仲がいい君なら両親も嬉しいだろう。更にアインシュバッツ侯爵家なら地位的にも問題ない。」

やはり私が選ばれたのはそれだけですか…。
私は下を向いたて唇を噛んだ。

「で、わざわざ呼び出したのは、君がアインシュバッツ侯爵から聞く前に私の口から言いたかったんだ。」

何を?今聞きましたよね?

「いくら両親が推そうと決定権は私にあってね。」

ん?

「他にも候補者はいたんだ。
しかし、私が君がいいと言ったんだ。そう、君がいいと。
君以外は考えられないとみんなに言った。私が君を選んだんだ。」

私はパッと顔をあげた。
真っ直ぐに私を見る水色の瞳。
しかしすぐに涙で王太子殿下の顔が見えなかった。

それでも王太子殿下が少し頭を掻いて恥ずかしそうに下を向いたのが、耳が真っ赤になっているのが、かすかに見えた。

「レイクルーゼ嬢。王太子に生まれた以上、結婚なんて政略的なものだと思っていた。愛とか恋とかなんて感情は捨てていた。諦めていた。でもこの頃あの二人を見てると羨ましくてね。私が捨てたものを見せつけられるからね。」

同じだ…。
私は泣きながら頷く以外できなかった。

「私にも恋が出来るだろうか…そう思った。
この頃君といると思うんだ。
君となら出来るんじゃないかと…。
だから…」

私は両手で顔を隠し、横に顔を振る。
殿下は私の手を取った。

「レイクルーゼ嬢、私の妃になってくれるか?あ、いや。
早いな…まずは私の恋人になってくれないか?」

更に涙が出てくる。止まらない。

「…返事は?」

殿下が屈んで私の顔を覗きこんだ。顔が近い。
返事をしないと…でも泣けてきて…
泣きながら顔を縦にゆっくり何度も何度も振った。

「君の口から聞きたいんだが。」

もう殿下の顔が涙でぼやけて見えなくなりそうだ。

「はい。嬉しい…です。」

殿下が私の背中に手を回して抱き寄せてくれた。
私はしばらく王太子殿下の胸の中で泣き続けた。

私はあなたと恋をしてもいいんですね?
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