上 下
50 / 120

その19 ヴィクセレーネ家にて ※ ルース視点

しおりを挟む
ジョーカスがシャーリーを追った後、籠をすぐに近くの使用人に預けて
僕も走りかけた。

するとルピアが服を引っ張った。
「あの子は悪役令嬢なのよ!あなたが追いかける必要はないって言ってるでしょう!」

「何度いったらわかるんだ。シャーリーはそんな子じゃない。それに僕はシャーリーが好きなんだとさっきも言ったよね。」

何でそんなこと君に決められなきゃいけないんだ。
嫌悪をあからさまに出して彼女を見た。

しかし彼女は動じない。
「やっぱりその目よ。そそるわ。」

何なんだ?
僕がはっきり拒絶をしているのがわからないのか?逆に喜ばれている?

「離してくれ!ガーシュイン!いるか!」

僕はバッと彼女を手を服からはがした。
ガーシュインがすぐに控えた。

「客人はお帰りだ!帰ってもらってくれ。僕はシャーリーを探しに行く!」

それだけ言って僕は走り出した。

ルピアはガーシュインに取り押さえられて
何やら叫んでる。知ったことか。

シャーリー!シャーリー!
僕には君だけなんだよ。
笑いかけたいのも、抱きしめたいのも、君だけなんだ。
君に嫌われたら僕はどうしたらいい?
君が他の人に笑いかけたら僕はどうにかなりそうなんだ。

君しかいらない。
僕の差し出した手を握り返してくれるのは君しかいないんだ。

しかしどこをどう探したらいいんだ・・・。

息切れをして少し休んでいた時、通信用の魔法石が光った。

ガーシュインからだった。
どうもサンドラから連絡があってシャーリーはジョーカスが抱いて帰ってきたようだ。
抱いて…ってシャーリーは倒れたのか?

本当に僕はダメだ・・。
シャーリー一人探せれない。
彼女の誤解を解くこともできない。
彼女に苦痛を与えただけだ。

ゲームやらヒロイン、攻略対象なんて楽しそうに話すシャーリーを見ていただけ。
楽しかったから僕は何もせずにただ、見ていた。

シャーリーを危険にあわせた。
僕は何を間違えた・・・。

家に戻った。
ガーシュインから先ほどの籠を渡された。
中には少し潰れたマフィンが入っていた。
僕の好きなブルーベリーだ。

『ルース 昨日はありがとう』

シャーリーの丸く可愛い字が目に入った。

少しマフィンをかじった。
あまり甘くない方が好きな僕のために作ったマフィン。
彼女を愛おしく感じる。

彼女しか嫌だ。
彼女しかいらない。

彼女が僕の手を取らないならいっそ君を殺してしまおうか。
絶対に他の人の手には渡せない。
それが彼女が望んでないことでも僕はもう無理なんだ。
僕の部屋にずっと閉じ込めていてもいい。
君が逃げ出せないように枷をはめてしまうかもしれない・・。
お願いだ。僕から逃げていかないで…。

しかし僕は何をした?何もしていないじゃないか?
彼女に対して自分の気持ちを言ったことすらない。
僕は進まなきゃいけない。
待っていても彼女は堕ちてきてはくれないかもしれない。

僕が手を出して待っているだけじゃダメなんだ。

シャーリー、僕は君の手を取りに行くよ。

願わくば彼女の幸せが僕の隣にありますように・・・。

「ガーシュイン!ヴィクセレーネ家に行く。用意してくれ。」


ヴィクセレーネ家に着いた。
僕の心とは裏腹に簡単にはシャーリーに会わせてもらえなかった。

「さっきも言ったはずだ。
お前には姉さんは渡さない!」
「申し訳なかった。でも誤解なんだ!」
「何で姉さん以外の人と抱き合ってたんだ!
僕は許さない!そんなやつのために僕は諦めなきゃいけないなんて納得できない!」

「ルーズローツ。話はジョーカスから聞いている。
理由が何にせよシャーリーが傷ついたことに変わりがない。」
「すみません。」
確かにそういった事実がある以上
僕は謝るしかない。
あの時会うことを選んだ僕が悪い。

「姉さんが幸せになるならと思うから僕は引いてやってるんだ!
姉さんがお前の隣にいる時、嬉しそうだから、楽しそうだから、何より安心した顔をするから僕は弟に徹してるんだ!お前が裏切るなら僕は、僕は…」

「ジョーカス…落ちつくんだ。」
「兄さん…でも…」

ケイントス副次官補は弟を止めた。
優しいその眼差しはシャーリーによく似ている。

「ルーズローツ。まだシャーリーの体調が良くないんだ。
さっきようやく気がついたばかりだ。
今、あまり精神的な不安を煽りたくない。私達はシャーリーが大事なんだよ。シャーリーが落ち着くのを待ってほしいんだ。わかるかい?」

「はい…」
頷くしかできない。

「でも兄さん!僕はもう…こいつにはもう譲りたくない!姉さんは…姉さんが僕が守る!」

兄は弟の肩に手を置いた。
「ジョーカス…お前の気持ちはわかる。
ずっと見てきたからな。
しかし、彼は誤解だと言っている。
それに彼はちゃんて来てくれた。話す機会をあげてやってくれないか。あとはシャーリーが決める。」

「ありがとうございます。」
僕は深々と頭を下げた。

「しかし、いくら誤解でも、自分の意思はないにしても、わかってるよね。
次はないよ。」

彼の目は本気だ。
次何かあればきっと僕からシャーリーを離してしまう。
さすがヴィクセレーネ公爵家嫡男だ。
温和そうだがしっかりしている。

「ご迷惑おかけしました。」

僕は今日は帰ることにした。

玄関で少し足を止めてシャーリーの部屋を見た。

ガタッと窓が開いた。
シャーリーが窓から顔を出した。
少し心配した顔をしていた。
わざわざ顔を見せてくれたんだね。
やっぱりシャーリーだね。優しい。

僕はシャーリーの顔を見て少し笑ってみたが、多分いつもみたいに笑えていなかっただろう。
頭を軽く下げた。
そしてヴィクセレーネ家を後にした。


後日

「ルースが何で謝るの?
別に私には関係ないような気がするの。
あなたが誰と何かなろうと私には関係ないことじゃない?」
「えっ?」

ちょっと、シャーリー。待ってよ。
関係ないって?どういうこと?

「だって別に単なる幼なじみだからあなたが誰を好きになろうと関係なかったのよね。」

単なる…幼なじみ?
あ、いやいや違うから!

「だって、あなたは攻略対象。彼女はヒロイン。仕方ないわ。」

仕方なくないから!

「何で嫌だなんて思って、立ち去ったんだろう。ん…おかしいわね。」

それは、君が僕を好きだからじゃないのか?

「ん…今度からはもう少し心の広い幼なじみでいなきゃね。」

いやいや、狭くていいから!

「ルースも私を気にしずに好きな人ができたらアタックしてね。」

好きな人…って君だから!

「私も考え直したの。ふふっ」

ふふっ…?嫌な予感だ。

「早くいい人見つけてルースから卒業しなきゃね。」

スローライフは?お一人様計画は?
いい人って目の前にいるから!
気づいてよ。

「ん…ルキシス様とかディラン様とかどうかしら?」

ないないないない!ない!ないから!!

前よりひどくなってない?
せっかく何だか距離が近くなっていた気がしたんだが…。
ちょっと待ってよ!
僕はあと一押しだと思っていたからそれなりに考えていたんだけど!!
振り出しに戻ってないか?
どうすればいいんだ!
また、一から考え直しかよ!

「そろそろ可哀想になってきたな。」
「そこまでのことをしたんだからいいんだよ!いい気味だ!」
「どう考えたらああなるんだ?
いい機会だと思っていたんだが…。さすが我が妹だ。天然すぎ。すぎるね。
ルーズローツ、せいぜい頑張ってくれよ。
少し同情するよ。はぁ…」

「あ、姉さん!僕もその中の一人に入れて!!と、いうかその二人より僕の方がいいよ!僕だけにして。」

あまりにも、頭が飽和状態で
シャーリーが、くすくすと笑っていたのを見過ごしてしまった。

「おや?シャーリーも少しレベルアップしたのかな?」

いつの間にか隣にいたケイントス副次官補が笑っていた。
レベルアップ??




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

処理中です...