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その21 別荘にて

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海!海だわ。潮の香り。
「ねぇ!ルース海よ!見て見て!」
「はいはい、見てるよ。急がなくても逃げないよ。」

「シャーリーは海は初めて?」
ザイン公爵夫人タチヒア様が優しそうに話しかけてくる。
「君もそうだったじゃないか?初めて海を見た時はすごく喜んで馬車の窓から落ちそうだったよ。」
「やだわ、あなたったら。そんな昔のこと。」
ザイン公爵様は奥様が大好きだ。今でもラブラブ。
あ、お子様は見ちゃ駄目?

羨ましいな。私もこんな夫婦になりたかった…。
今思えば前世は結婚してからどこか出かけたなんてあった?
出かける予定をたてるのは常に私ばかり。子供が大きくなったら仕事が休めないとかで旅行にすらついてこない。結局私と子供たちだけでU○Jとか行ったな。
もう結婚したくなかったけど、こんな夫婦ならいいかも。

ううん、やはり怖い。またああなったらどうしよう。人として見てくれてるのかわからなし。家事をするだけのお手伝い。病気をしても怪我をしても疲れていても言われるのは『飯はまだ?』だけ。
関心のない目、私の感情は無視。愛情なんでそのうちに空気のように溶けてなくなってしまっていた。私の方も本当にいつの間にどこに捨ててしまうのだろう。やはり森でひっそり…

「ほらまたどっかに行ってる!戻ってきて。」
目の前にルースの青い瞳が飛び込んできた。
馬車の中だから仕方ないけど近い!近いってば。

ルースが家族で旅行するというので半ば半強制的に連れてこられた。
旅行といっても日程の半分くらい公爵様達は仕事らしい。
だから残されたルースは一人になってしまうので私も一緒に行かないかと誘われた。
初めは渋っていたが結局ルースの押しに負けた。
ウルウルとした瞳で見つめるわんこバージョンのルースはかわいいのだ。

ザイン公爵家の別荘についた。
目の前には海が広がる。
なんて素敵な眺めなの!この世界にきて海は初めてだ。
久しぶりの光り輝く水面に気分が上がる。

「ルース、シャーリー。よく来たね。」
「兄様!」
「カールお兄様!」
カールお兄様はザイン公爵家の長兄だ。金髪碧眼。20歳の大人の魅力満載の方だ。
親子三人ならぶと煌びやかすぎます。
目が痛い。拝まなきゃ!

ん?あら?カールお兄様の事知ってるって?
どこかで出番あったかしらね?

彼は今この別荘で過ごしている。
と、言うのも奥様のラリサ様の悪阻がひどくて空気の良くて落ち着いているこの場所でゆっくりしている。

ルース曰く今の仕事にもちょうどよいということだ。

「シャーリー、久しぶりだね。少し見ないうちに綺麗になったね。はははっ。ルースこれじゃあおちおちしてられないね。」
「兄様っ!」
「まあ余計なお世話だったな。」

カールお兄様の笑顔は穏やかで爽やかだ。
王太子殿下の笑顔はきらびやかでバラが咲くが、カールお兄様の笑顔は爽やかな風が吹き抜けていくようだ。
ああ、海がよく似合うわ。
しかし本当にこの金髪碧眼の人たちってなんでこんなに偏差値をあげるかね。
ん??そうね隣にもいたわ。
まだ15歳だけどあと数年するとかっこよくなるだろう。
王太子殿下やカールお兄様はどちらかというと猫っ毛でふわふわしている。
しかしルースは真っすぐだ。
どちらかというと私は真っすぐが好きだな。
風に吹かれて靡くストレートの金髪。

ああきっと大人になったルースは素敵なんだろうな。って私何考えてるの?

ルースが隣でくすっと笑った。その顔をみたらなんだか恥ずかしくなった。

「ラリサお姉様は大丈夫ですか?」
「ああ、だいぶ悪阻も収まっているから少しづつは食べられるし、歩くようにしているよ。シャーリーに会いたがっていたからあとから会いに行ってあげてね。」
「お土産にグレープフルーツ持ってきたんです。さっぱりして食べやすいかなって思って。」
「ありがとう。それは喜ぶよ。」

「カール!ルース!何話し込んでるの。荷物運ぶの手伝ってちょうだい。」
「はいはい。母上すみません。」

本当にこの家族は暖かい。みんながみんがお互いに思いあっている。
大切だ、大事だ、大好き、こんな感情があふれている。笑い声の絶えない明るい家族。

ヴィクセレーネ公爵家だって暖かい。みんなみんな大好きだ。
でもヴィクセレーネの家はいづれ出なくてはならない。
いつまでもいるわけにはいけない。
お兄様もそのうち結婚するだろうし、あの家に居座って小姑でいるわけには行かない。
願わくば森でひっそりと暮らしたい。
でもこの人達をみてたらやっぱり羨ましい。確かに人と一緒にいることは怖い。不変の愛情を信じるのが怖い。
でもこの暖かい家族を見ていると愛情が途切れる時なんて来ないと思えてくる。
ずっと続く愛情あふれた家族…私もこんな家族の中で笑っていたい。

私は少し遠くで楽しく荷物を運ぶザイン公爵家族をみていた。公爵様と公爵夫人様、カールお兄様、ルース…荷物を運ぶのすら楽しそうだ。あの中に入ればルースが隣でいつも微笑んでくれる。
少し大人になっで笑うルースの横に自分が笑っている…そんな未来図を想像してしまう。

「シャーリーまたどっか行ってるよ?なんだか顔が赤いけど疲れた?」

突然目の前の妄想していた対象の人が現れたらからパニックになってしまった。
「疲れたとかではなくて!いや、あ、違うの。嫌なのは私の考えていることで、ルースが嫌なわけじゃなくて!逆で!ルースがいい…あ~違う。いや。そんなこと言いたいのではなくて・・・」
「なに?楽しそうなこと想像していたみたいだね。後で聞かせてね。ひとまず荷物を部屋に運ぼう。」

「ルース、シャーリー。じゃあ私達はカールと少し仕事に行くよ。今日はずっと馬車に乗っていて疲れただろう?荷物を置いて少し休みなさい。夕方には戻るから一緒にゆっくり美味しい夕食をたべよう。」

「「いってらっしゃい!」」
私とルースは荷物を持って二階に上がった。
「じゃあシャーリーの部屋はここね。僕はこの二つ向こうの右側だよ。荷物整理し終わったら呼びに来てね。」

ルースに手を振った。
彼も振り返している。

少し嬉しい。
こんな些細な事が私には嬉しいのだ。

私は重い荷物を引きずりながら部屋に入った。


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