乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

火はちゃんと消しましょう

　あの課外授業から一週間
　あの男は尋問の末、クルス・アルスーナと名乗った
　シエルは今回の一番の被害者であるからと話を聞きに来ていた
　親に泣かれ、攻略対象者から手紙や皇太子に至っては訪問まで来るという問題はあったが、それ程…………兄と父が怒り狂う以外には問題はなかった
　そうして数日後、国王陛下から、城に着く前に手紙で彼の処遇を決めていいと言われた
　まあ、シエルの中では既に彼の処遇は決まっているが
　そして改めてクルス・アルスーナがぽつりぽつりと話しだした過去は目を覆いたい程に辛く昏いものだった
　故郷を魔獣に襲われ守っていたら戦いの途中で薬で眠らされ、起きたら奴隷になり色々な主人に買われ、酷い扱いを受け、自分を大切に扱ってくれていたと思った新しい主人は、強いから大切にしていただけで、結局ただの戦いの道具としてしか見ていなかった
　尋問する前に「私は彼の幼なじみです。私は彼が何故こうなったのか知りたいです」と言った
　通常なら許されないが、ユリカの本気度を見た国王ルシアスは、“どんな状況になっても口を出さない事”を条件に許可を出した
　ユリカは、話を聞いていくうちにどんどん血の気が引いていった
　ユリカはクルスが行方不明になった時「彼ならきっと大丈夫」と心のどこかで思っていた
「っごめんねクルス……」
　シエルはユリカを心配していたが顔には出さず、クルスに最初で最後の質問をした
「貴方は…………今の自分の故郷、親、幼なじみの事をどう思っていますか？」
　クルスは暫しの沈黙の末、一言
「まあ複雑な思いはあるが…………」
「こんな目にあったのが俺でよかったよ」
　その時の表情はシエルが見た中で、初めて見た彼の慈愛に満ちた顔だった
「ルシアス国王陛下、お父さん。私は彼を王都追放の罪に問います」
　 そう、私は彼を王都追放故郷に帰す   する事を望みます
　ユリカ・サリーナとクルス・アルスーナの故郷は、国境を少し超えた秘境の地にある
　私はクルスを死んだことにして故郷に帰したい
「それは………」
　ルシアスとブルーノは少し渋る仕草を見せた後、ユリカに目を向けた
「ユリカさんはこのまま学園に残るか、彼と故郷に帰るかどちらを選びますか？」
　ルシアスはそう尋ねた
　シエルとブルーノはこの質問の意図をわかっている
　現に、シエルは少し顔を青くしてルシアスを見ているしブルーノは試すように見定めている
　そんな中ユリカは、さっきまでの表情が嘘かのように決意を込めた目をルシアスに向けた
「私はクルスと故郷に帰ります！」
　即答だった
　ルシアスは満足気な表情をユリカに向けて笑った
「そうかそうか。なら彼は王都追放にしよう。」
　その言葉にユリカは涙を零し、クルスは目を見開いた
　そしてブルーノ……お父さんは親の仇を見るような目をルシアスに向けた
　ルシアスはこの数日後に第二回「国王なんて辞めてやる」宣言が出ることをまだ知らない
　そんな中シエルは一人息を吐いた
　ユリカともう会えなくなるのは悲しいが、通えるがクルスが死に悲しみにくれる彼女を見る方が嫌だったから
　ユリカの満面の笑みをシエルは見つめていた

　それから一ヶ月後、シエルは学校に復学しユリカは挨拶をそこそこに退学した
　アメリアとユミリアは、悲しんでいたがその他の生徒は興味を示さない
　シュリとリリーに至っては馬鹿にしたような笑みをユリカに向けていた
　シエルは二人の方をそっと見つめ逸らした
　シエルは怒っていた
　課外授業の時、ここまで事が大きくなったのは二人の細工が一番の原因だ
　電波が繋がらない、魔法陣に細工ができるようになっていた、等など行った子細工の被害は相当なものだった
　けれど今は、彼女達に何かをするべき時では無い
　ユリカの退学の悲しみから抜け出せたシエルは、この数週間後行われる、他国の学園との学園交流会が迫っている
　シエルは初めての他国との交流会に期待に胸を膨らませた


　一章 fin
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　次は今まで出てきた人物をまとめて紹介します。