貞操逆転世界に産まれて男忍者として戦国時代をエッチなお姉さん達に囲まれながら生き抜く少年のお話♡ 健全版

捲土重来(すこすこ)

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本編

110.『前利!よくやったわ!流石は私の子分、流石は私の懐刀ね!』

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蔡藤さいとう家。
現在の龍ヶ峰りゅうがみね地方の支配者として君臨するその大名家は、元々の龍ヶ峰地方の守護者であった土谷つちや家の家臣であった。それが勢力を拡大し、主家をも凌ぐまでに至り遂には龍ヶ峰を実効支配したのが蔡藤さいとう家という勢力である。
肥沃な土地に、山々に囲まれた自然の要害である龍ヶ峰地方。桜の都に至る主要街道の一つを擁するその土地は周囲の大名から見れば垂涎の的であるが、希代の某将・蔡藤道蛇さいとうどうじゃに率いられた龍ヶ峰の軍はあらゆる敵を跳ね除け、確固たる地位を築いたのである。

しかし、この地方はとある軍勢によって攻められんとしている。
それは織波秀菜率いる蒼鷲あおわし地方の織波軍。
蔡藤道蛇と織波秀菜は因縁浅からぬ間柄であり、遥か昔から争いを続けてきた。
そして今、織波秀菜の軍は蔡藤道蛇のいる龍ヶ峰《りゅうがみね》へと進行し、その喉元に刃を突き付けようとしているのだ。
それを黙って見ている蔡藤家ではない。秀菜に敗れた本家織波の残党軍を合流し、それを迎え撃たんと軍勢を進めた。

進めた……のだが。


「はぁ~!?本家の奴等、勝手に軍を進めて全滅したぁ~!?」


行軍中の蔡藤軍に響き渡る黄色い声。蛇の下半身を持ち、黄色い髪を揺らす蛇の半化生。
彼女の名は蛇黄じゃおうと言い、蔡藤家に仕える半化生の忍者の一人にして、龍ヶ峰三忍衆と呼ばれる蔡藤家の精鋭の一人であり、軍を率いる立場でもある武将でもある。
半化生が軍の将を務めるのは珍しいが、彼女達は蔡藤家当主と深い関わり合いがある間柄であるので重宝され、将軍としての地位も与えられていた。
そして、この半化生の女性もその一人であり、子供にしか見えない小さな体躯と、少し短い蛇の尻尾を揺らしプリプリと怒っていた。
彼女が怒っている理由は伝令の兵から聞かされた、合流予定だった織波本家の残党軍が勝手に軍を進めて全滅した件を聞かされたからである。


「あ、あのアホ共……!合流するまで動くなって言ってたのに……!ぐ……うぐぐぐぅ~……!!」


蛇黄は顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら悔しがる。脚はないので蛇の尾をバシバシと地面に叩き付けているだけだが。


「そんな事だから秀菜にいいようにやられるんだよっ……!馬鹿あほまぬけあんぽんたん!」


とても一軍を率いる将の言葉とは思えない稚拙な言葉。しかしそれを咎める者はいなかった。
何故なら彼女は単体でも高い戦闘能力を誇る半化生であるからだ。可愛らしい身体の奥底にはとてつもない力が秘められているのを蔡藤家の兵達はしっていた。
暫くすると彼女ははぁはぁと息を切らせながらも少し落ち着きを取り戻し、改めて軍全体に号令をかける。


「こうなったら残党との戦で疲弊している織波軍を速攻で叩くのが上策かな……?うん、じゃあこのまま進んで……」


その時であった。蛇黄の横に侍る女性が口を挟む。


「お待ちください蛇黄殿」

「ん~?」


蛇黄が振り向く。そこには長身の、すらりとしたスタイルの女性が立っていた。
黒い髪を腰まで伸ばし、前髪で両目を隠したその女性は蛇黄を咎めるように口を開いた。


「報告では本家残党軍は鎧袖一触に蹴散らされたとの事。恐らく彼女達は無傷に近く、連戦の優位は全くないと思われます。であれば急ぐ必要性はなく、行軍に時間が掛かっても優位に事を運べる地形に陣を敷くべきかと」

「え~?でもさぁ、早く攻めないと敵の援軍が来ちゃうんじゃない?」

「空川の脅威がある以上、相手側に援軍はないでしょう。それに残党が全滅したといっても、数の利はまだ此方にあります。ここは慎重を期し、万全の態勢で織波を迎撃せなばなりません。如何でしょうか?」


女性はそう言って蛇黄に頭を下げる。それを見た蛇黄は「う~ん……?」と少し考える仕草をすると、やがてコクリと頷き……。


重美しげみがそう言うならそうだね!じゃあそれでいこー!」


蛇黄は満面の笑みを浮かべると、重美と呼ばれた女性はにこりと頷くと、再び頭を深く下げて再び蛇黄の横に侍る。
重美……本名を竹中重美たけなかしげみというその女性は、蔡藤家の軍師としてその力を振るっている。
彼女は知略に優れた軍師であり、戦や政に置いてその智謀は蔡藤家当主・蔡藤道蛇の覚えも目出度い人物だ。
その知略は蛇黄も十分認めており、重美が「ここで行こう」と言えば彼女はそれを信じて行動する。
それは自らの知略を重美は遥かに上回っている事を理解しての事だ。


「よーし、全軍前進!ただしゆっくりね!」


蛇黄はそう言うと、軍全体に進軍を再開させる号令を掛けた。その号令に兵達は即座に行動に移る。
国境への進軍は滞りなく進む。戦いの火蓋は、着実に切られようとしていた。


「あ。じゃあ雪に早く伝えないと。雪はせっかちな所あるからね」


蛇黄の言葉に、近くにいた伝令兵がこう返した。


「?蛇雪じゃゆき様なら先程一人で出陣いたしましたが」







「は?」



─────────



「前利、お前やったなぁ!!」

「凄えじゃねえか前利!」


信葉率いる騎兵が残党軍を圧倒的寡兵で蹴散らした。その一報を聞いた織波軍は沸きに沸いた。
たった百騎余りの騎兵で二千を超える大軍を一蹴したその戦果に、誰もが興奮を隠せなかった。
しかも残党の首魁を生きたまま捕らえ、捕虜としたらしい。これは織波軍にとって大きな収穫である。


「やるじゃないか前利!お前凄えよ!」


そして、その一番槍を務め、更には敵大将を捕縛した人物……。前利又米の名は織波軍全体に轟いた。
その手柄を褒め称えようと、前利の下へ集う者が後を絶たなかった。


「あ……いや。やったのは私じゃなくて白狐……」


だが当の前利はどこか複雑そうな表情を浮かべている。褒められた事が嬉しくないのだろうか?
いや違う。彼女はその偉業を成したのが自分ではなく白狐であると理解していた。
自分のような新兵がそんな大それた事など出来ないのも、白狐の力あってこその活躍だというのも理解していた。
だから白狐の功績を奪う訳にはいかないという遠慮が前利に嬉しい気持ちを抑えつけさせたのだった。


「そんな事ないさ!お前がやったのは間違いねえんだ!もっと胸張れ!」


そんな複雑な表情のままだった前利に一人の女が声を掛けてきた。その女は豪快な笑みを浮かべ、ガハハと強く背中を叩いてくる。
力丸である。彼女は前利の背中をバシバシ叩きながらにかっと笑った。


「そ……そうッスかね……?」

「白狐がいようといなかろうと、先陣を切ったのはお前さんなんだ。なら堂々としろい!」

「でも白狐が……」

「白狐なら『自分は忍者だから手柄を上げて目立つ訳にはいかぬでござる……』とか妙な語尾でどっか行っちまったぞ」


どうやら白狐は自らの手柄を前利に寄越すつもりらしい。
欲がないというのか、それとも忍者だからなのかは分からないがとにかくこの功績は全て前利のものらしい。


「よーし、これでお前も信葉様の精鋭の仲間入りだ!ここからは頼りにしてるからな!」


豪快に笑いながら言う力丸に、前利は曖昧な表情のまま頷く事しか出来なかった。



─────────



その日の夜。前利は一人、野営地の端で黄昏ていた。
その脳裏には昼間に散々持ち上げられ、そして褒め称えられた言葉がずっと反響している。


「みんな……褒めてたな……」


『凄い』や『流石だ』という言葉がどれだけ前利に掛けられた事か。その言葉はどれも本物で、嘘偽りのない賞賛であった。
だが、どうにもその称賛を受け取れない自分がいる事に前利は疑問を感じていたものの、信葉から直々に賞賛と褒美を頂戴した。


『前利!よくやったわ!流石は私の子分、流石は私の懐刀ね!』


信葉はそう褒め称えてくれた。それはとても誇らしかったが、素直に喜べない自分がいたのも事実だった。


『これをアンタに授ける!これを私の命だと思ってこれからの戦に尽力なさい!』


信葉はそう言って、一振りの刀を差し出してきた。それは織波家の家紋が刻まれた、美麗な刀を前利に下賜した。
前利は何かを言おうとしとが、信葉はその刀を押し付けるように前利に持たせ、すぐにその場を去ってしまった。


「……」


前利はその刀をまじまじと眺める。自分のような半人前にこの刀を下賜するとは、なんとも勿体ない話だと思わずにはいられなかった。
織波の将が振るう刀となれば、それはどんな名刀にも負けない程の業物に違いない……だが自分はそんな大層なものを振るうに足る人物ではないという自覚はあった。
そんな自分にこのような宝剣を下賜された事が心苦しかったのだ。

前利は月明りの下、頂戴した刀をまじまじと見つめる。果たして自分はこれに値する人間なのだろうか、と。


「まぁ、いいか」


散々悩んだ挙句、前利は考えない事にした。元来前利は物事を深く考えない性格なのだ。


「私の手柄……初めての手柄……」


ギュッと刀を握りしめ、前利はぼんやりと呟く。
この手柄を誰かに奪われる事を考えたら、このまま自分が貰ってしまった方が得なのではとさえ思い始めていた。
刀を見つめるその横顔に、少しだけ笑みが浮かんでいた事に前利自身は気付いてはいなかった。


───だが、その時であった。


不意に、前利の脳裏に戦の光景が過った。


「───」


それは自分が槍を振るい、向かってくる女武士を突き刺した時の光景だ。
槍を突かれ、苦悶の表情を浮かべた女武士がゆっくりと倒れる……あの時の光景が鮮明に思い浮かぶ。
ぐさり、と肉を突き刺す時の感覚が腕に、手に残った。


「……ぁ……う」


前利は腕を摩る。その瞬間、鳥肌が立ち、吐き気が込み上げた。
ポトリ、と信葉から授かった刀が地面に落ちる。


「う……おぇ……」


前利は胃から込み上げる不快感を堪え切れず、嘔吐した。地面に叩き付けられた吐瀉物が土に染み込んでいく。


「はぁ……はぁ……!」


前利は青い顔で必死に呼吸を整える。
そうだ、人を刺したのは初めてだった。それ故に槍を刺した時の感触や苦悶の表情、そして倒した瞬間の光景が頭に焼き付いて離れなかったのだ。


「おえぇ……!!」


思い出すと再び吐き気が込み上げ、胃の中身がせり上がる。喉の奥に何かがせり上がり、咳き込むように吐き出すとそれは黄色い胃液であった。
前利は震えながら地に膝をつき、ゲエゲエと嘔吐を繰り返す。


「わ、私は……ち、ちがう。私はただ……」


前利は呟き続ける。戦っていないのに武功をあげてしまった自分に対してか、それとも人を殺めた事に対してか、それは分からない。
ただ彼女は許しを乞うように地に額を擦りつけながら嘔吐を繰り返し続けた。胃液すら出なくなってもまだ吐き続けた。
そうして前利が胃の中を吐き尽くした時、ふと彼女の目の前に何者かの影が差した。


「前利、大丈夫?」


それは織波家の忍者、白狐であった。彼は心配そうな表情を浮かべ、キツネの尻尾を前利の腹部に這わせながら、手で彼女の背中を摩る。
前利は真っ青な顔を白狐に向ける。だが白狐はそんな前利を安心させようとニコッと笑ってみせる。


「初めて人を殺めたんだね」


白狐はそう言って前利の前に座り込む。


「ち、ちがう……私はそんな軟弱じゃ……ねぇ」


前利はそう言うも、その様子から人を殺めた事に動揺している事、そしてそれに対する罪悪感に苛まれている事を感じ取った白狐は首を振った。


「敵とは言え、前利は人を殺した。それは事実かもしれない」


白狐の言葉に前利はビクリと身体を震わせる。それは前利が今、一番聞きたくない言葉であった。
殺した。人を殺した。その言葉が前利の頭の中でぐるぐると回る。


「私はひ、ひ、人を……」


前利はカタカタと身体を震わせ、青い顔を更に青く染めながらか細い声で白狐に言い訳をする。
しかし白狐はそんな彼女の頭を撫でながら言う。


「僕は前利に死んで欲しくない。だから貴女が人を殺したとしても、僕が前利を嫌いになることなんてない。偽善かもしれないけど……」


白狐は前利の震える手を握ると、真っ直ぐな目で見つめながら言った。


「大丈夫……大丈夫だよ前利……」


白狐は優しく前利の頭を撫でる。それがどれだけ前利を安心させたか、彼は知らないだろう。
そしてしばらくしてから白狐が彼女を離すと、既に前利の顔は落ち着いた様子になっていた。


「す、すまねえな……アタシともあろう者がこんな醜態晒しちまって」


申し訳なさそうに言う彼女に白狐は微笑んで首を横に振った。そして空を見上げながら呟く。


「今日は一緒に寝てあげるね、前利」

「は、はぁ?」


白狐の言葉に前利は素っ頓狂な声をあげた。


「な、なに言ってんだよ!私は子供じゃねぇんだぞ!」

「なんで?この尻尾抱いて寝れば落ち着くって信根様も言ってたよ」

「い、いや……そういう事じゃなくて……」


顔を赤くする前利。白狐はそんな彼女の様子を見てクスクスと笑いながら、そっと彼女の頭を撫でた。


「だって戦の前に言ったじゃん。終わったら気持ちいい事してあげるって」


にこりとそう微笑む白狐。前利は訳が分からず首を傾げる。
だが白狐はそんな前利を見てニヤリと笑うとそのまま前利に突進し、共に草叢の中に倒れ込み、抱き枕のように彼女を抱きしめた。
善利の方が白狐より身体が大きいので、抱き締めるというか抱き着くという表現のが正しいかもしれない。
最初は突然抱き着いてきた白狐を訝しむ前利であったが、そのうちこの半化生も寂しいのかもしれないと彼女は思った。
白狐は小さい。正確な年齢は知らないが、外見は人間の子供のように見える。
そんな年若い者が戦場で戦うなんて、怖くない筈がないだろう。だからこうやってぬくもりを求めているのかもしれないと、そう思ったのだ。
だからこうして一緒に寝たがるのだろう。


「し、しょうがねぇな。私が一緒に寝てやるよ」

「ほんと!?やったぁ♡」


尻尾をブンブンと振る白狐。それを見て前利はこいつもまだまだ子供だな、と微笑ましく思った。


ヘコヘコ……。


「?お前なんで腰動かしてんだ?」

「え?い、今から準備しとくの……♡」

「はぁ?」


前利は気付いていなかった。

白狐の瞳の奥にハートマークが浮かんでいる事を……。
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