貞操逆転世界に産まれて男忍者として戦国時代をエッチなお姉さん達に囲まれながら生き抜く少年のお話♡ 健全版

捲土重来(すこすこ)

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89.「でも男だ……」

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貴人が着るような色鮮やかな着物を身に着け、柱の陰に隠れていた童女。彼女は涙目で白狐びゃっこの事を見上げていた。
まるで人形のような美しさと愛らしさを持った彼女は白狐びゃっこをして見惚れる程の美しさであった。
はて、このお方は一体誰なのだろうか。気品溢れる衣服からして織波おなみ一族の誰かだとは思うのだが、このような人物は白狐びゃっこは知らなかった。


「あ、あの……こんにちわ!」


取り合えず白狐びゃっこは挨拶をする。彼女が誰なのかは分からないがやんごとなき身分のお方である事は間違いない。
しかもなにやら涙目になっているではないか何に怯えているのかは分からないが、助けてあげなくては。


「……!」


しかし彼女は白狐びゃっこを見て後退るばかりで返事をしようとしない。どうやら相当に怯えているようだ。
さてどうしたものか、と白狐びゃっこが考えていると不意に彼女は何かに気付いたかのように目を見開く。


「?」


そしておずおずと立ち上がると、白狐びゃっこに近付き鼻をすんすんと鳴らす。
彼女は何をしているんだろうと首を傾げる白狐びゃっこであったが、下手に反応して怯えさせてはいけない。
白狐びゃっこはされるがままに彼女の行動を見守る。
少女は白狐びゃっこの匂いを嗅いでいるようで、白狐びゃっこ身体をすんすんと嗅ぎ続ける。
まるで犬やキツネのような行動だが、もしかして彼女は半化生はんけしょうなのだろうか?いや、しかしそのような匂いは彼女からはしない。
半化生はんけしょうは獣特有の匂いがする事が多く、白狐びゃっこのキツネの嗅覚は相手が人間か半化生はんけしょうかを確実に識別する事が可能だ。
そんな白狐びゃっこの鼻は目の前の少女は間違いなく人間であると告げていたのだ。


「あの……もしかして……男……の子……ですか……?」


どれくらい白狐びゃっこの匂いを嗅いでいただろうか、少女はか細い声で恐る恐るそう口を開く。
やっと喋ってくれた、と安堵する白狐びゃっこであったがまた怯えさせてはいけない。白狐びゃっこは優しい声色で彼女に返事をする。


「うん、男だよ!」


白狐びゃっこのその言葉を聞いた少女は緊張した面持ちからパァッと明るい表情になり、まるで花が咲いたような笑みを浮かべる。そしてホッと息を吐くと、ニコリと白狐びゃっこに向かって微笑んだ。
なんという可愛らしい少女だろうか。太陽の輝きを閉じ込めたかのような美しい髪に、キラキラと輝く眼。まるで織波おなみ家を象徴するようなその容貌は見る者を魅了してしまうであろう。


「良かった……!お城の探検に出たはいいけど帰り道が分からなくなっちゃって、迷ってたの」

「お城の探検してたんだ。僕と同じだね!」


白狐びゃっこの言葉に彼女は一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに眩しい笑顔を浮かべる。
背丈は白狐びゃっこと同じくらいだろうか、まだ小さいというのにどこか大人びた雰囲気を持っていた。


「君もお城探検してるの!?すごい偶然だね!」


彼女は目をキラキラと輝かせながら白狐びゃっこにそう言う。
子供特有の天真爛漫な雰囲気が心地よく、白狐びゃっこも自然と笑顔になっていく。
しかし白狐びゃっこには一つ気になる事があった。


「ところでなんで僕の匂い嗅いでたの?」

「えっと、匂いで男の人か女の人か分かるからどっちかなって」


匂いで男女を判別する……そんな事が人間に出来るのだろうか?嗅覚が鋭い半化生はんけしょうならば可能だとは思うが人間では無理なような気がする。
白狐びゃっこは匂いだけで女か男かを判別出来るし、なんなら生理中であるかどうかも識別可能だ。(変態)
だが彼女は人間である……そんな白狐びゃっこの疑問に答えるように少女は言った。


「女の人は怖い匂いするから分かるの」


怖い匂い……?これまた不思議な表現だ。
先程会った芝村しばむらのようなきつい女性ならともかく、普通女性からはいい匂いが漂ってくると思うのだが。
白狐びゃっこは女性の匂いを嗅ぐのが好きで好きで堪らないのだが、この子は違うようだ。


「女の人はきらい……なんか怖いから……」


少女はそう俯きながら呟いた。可憐な瞳が潤み、今にも泣き出しそうな顔をしている。
もしや過去に女性になにかされたのだろうか?白狐びゃっこはそんな少女を哀れみ、そしてどうにかして少女を安心させてあげたいと思った。


「大丈夫だよ!僕が守ってあげるから!」

「……ほんとう?」


そう言うと少女は驚いた表情を浮かべるも、その表情はすぐに明るい笑顔へと変わっていく。
白狐びゃっこが頭を撫でると彼女は嬉しそうに目を細める。そんな少女の動作一つ一つが可愛らしくて愛おしく感じてしまう。


「(うん……やっぱりこの子可愛いな……♡)」


自分も彼女の匂いも嗅いでみたい。そう思いキツネの嗅覚を駆使しほ仄かに香る匂いを嗅ぎ取った。
心地良い香りだ。甘くて優しくて、まるで花のような匂いが彼女の身体から漂ってくるのを感じる。
今まで嗅いだ事が無いような素晴らしい匂いに思わず白狐びゃっこはうっとりとしてしまう。

……しかしなんか違和感があった。なんというか、花畑の中に一輪だけ違う花が混ざっているようなそんな不思議な感覚。


「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」


匂いを嗅ぐのに夢中になっていた為か、少女はキョトンとした表情で白狐びゃっこを見上げてくる。
白狐びゃっこは笑顔で取り繕ったが少女の不思議な匂いについて考えていた。


「(……やっぱりなにか違うような感じがするなぁ)」


なにか大切な事を忘れている気がするのだが……うーんと頭を捻ってみるものの分からず仕舞いである。
まぁいいか、と白狐びゃっこは思い今はそれよりも優先すべき事があった。


「君迷子になっちゃったんだよね?僕が元居た場所まで送ってあげる!」


そう言うと彼女は再びパァッと笑顔になる。そしてそのまま白狐びゃっこの腕に抱き着くと白狐びゃっこをジッと見つめてきた。


「えへへ、ありがとう!」


なんという可愛さだ。この笑顔を見ていると思わず抱きしめてしまいたくなる。
だがそんな事をする訳にはいかない。背丈こそ白狐びゃっこと同程度の少女だが、白狐びゃっこは彼女と違って『おとな』だ。(色んな意味で)
そんな自分が年端も行かぬ幼子に抱き着いたら変態そのものではないか。白狐びゃっこは自分で自分の事を紳士的なキツネだと思っていた。そんな紳士がどうしてそんな変態行為をするというのか。


「じ、じゃあ行こうね……」

「うん!」


白狐びゃっこが鉄の自制心で自らを抑制しているのにも気付かず、少女は白狐びゃっこの腕に手を回しぴったりと寄り添う。
そして二人は仲良くお城の中を散歩するのであった。



ーーーーーーーーー



「そう言えば君はどこからきたの?」


白狐びゃっこは腕を組む少女にそう聞いた。すると少女は少し考える素振りを見せ、口を開く。


「ん~と……上の方だよ」


上……清波きよなみ城の上層部は織波おなみ一族が住まう場所だ。やはりこの子は織波おなみに連なる人物なのだろうか?
そうだ、名前を聞いてみようと思い白狐びゃっこは口を開きかける。
だが、その瞬間であった。


「おい、キツネ!」


白狐びゃっこを呼び止める声……それは瀬良せらの声であった。
彼女は怒り心頭といった様子でずんずんと此方に向かってくるではないか。
はて、何を怒っているんだと白狐びゃっこは不思議に思ったが、そんな彼女が怖かったのか横にいた少女はサッと白狐びゃっこの後ろに隠れてしまった。


「お、お前……あれだけ大広間に入ってくるなと言っただろうが!」

「大広間?」


なんだっけかそれは。白狐びゃっこはう~んと唸るがよく分からなった。
市野いちや様探しに奔走していたので色々なところを見て回ったが、大広間なんて行っただろうか?
暫く考えてみると、そういえば人が沢山集まっている大きな部屋があったな、と思い出す。もしかしてあそこが評定が開かれている場所だったのだろうか?
……せっかく忠告してくれたのに悪い事をしてしまったな、と反省する白狐びゃっこであったが、彼も彼で必死で探していただけなのだ。悪気があった訳ではない……。


「う、う~ん?そんなところ行ったっけなぁ?記憶にないなぁ~あはは……」


そう誤魔化す白狐びゃっこ瀬良せらは顔を真っ赤にし、怒りに身体を震わせる。


「私は覚えているぞ!秀菜ひでな様や上位家老様がいらっしゃる場でお前の間の抜けた声が響いたのがな!」


白狐びゃっこも覚えていた。自分がなんか偉そうな人達に向かって市野いちや様の居場所を尋ねたのを……。


「そもそもお前一体何しにきたんだ!?市野いちや様の居場所を尋ねていたようだが、一体市野いちや様になんの御用……だ……?」


瀬良せらの語尾が段々と尻すぼみになっていく。そんな瀬良せらの視線の先には、白狐びゃっこの後ろに隠れる少女の姿があったからだ。


「えっ……あっ……?」


瀬良せらはその少女の姿を見て口をパクパクと動かす。そしてそのまま少女と白狐びゃっこを交互に見ると、ぷるぷると震えだした。
そんな瀬良せらの只事ではない様子に白狐びゃっこは困惑してしまう。一体瀬良せらはどうしたというのか。
察するに、どうやらこの少女の事を知っているようだが……?


「な、何故貴方が白狐びゃっこと共におられるのです……?」

瀬良せらさん、この子の事知ってるの?」


白狐びゃっこがそう聞くと瀬良せらは額に汗を滲ませながら頷いた。


「当たり前だろうが、彼は秀菜ひでな様の……」

「そこの半化生はんけしょう!!」


瀬良せらの言葉は最後まで紡がれる事はなかった。何故なら廊下の奥から怒鳴り声が鳴り響き、白狐びゃっこはおろか瀬良せらもびくりと肩を震わせたからだ。


「貴様どういうつもりだ!厳正な場である家老評定かろうひょうじょうの場にのこのこと入り込むなど!恥を知れ!!」


そう怒鳴り散らしながらズカズカと歩いて来たのは、織波おなみ家が誇る重臣、芝村しばむらである。
先程の瀬良せらと同じように彼女は白狐びゃっこを睨みつける。
その迫力は凄まじく、思わずたじろいでしまいそうになる程だ。


信葉のぶは様の忍だからといって、好き勝手出来ると思うなよ!貴様のような薄汚い半化生はんけしょうなどこの私ならば如何様にも出来るのだからな!」

芝村しばむら様、どうか落ち着いてくだされ」


怒り狂う芝村しばむらだったが、白狐びゃっこの横にいる瀬良せらの姿を認めると幾分か冷静さを取り戻し、咳払いをしてなんとか怒りを鎮める。


「ん……瀬良せら殿か。いや、しかし貴殿も見ただろう、このキツネのあの無礼な行いを。こやつは礼儀も知らぬような輩である事は明白!その責は問うべきであろう!」

「しかし芝村しばむら様。秀菜ひでな様はこのキツネの行動を言外に不問にするという御態度を取られた筈。その意に反してこのキツネの責を問うのは如何なものかと」

「むっ……」


痛いところを突かれたのか、瀬良せらのその言葉を聞いて芝村しばむらは押し黙ってしまう。
白狐びゃっこは彼女達の会話の中身を理解は出来なかったが、瀬良せらが自分を庇ってくれたというのは何となく理解出来た。
白狐びゃっこは庇ってくれた瀬良せらに感謝すべく彼女のお尻を誰にも見えないようにさわさわと撫でたが、その瞬間瀬良せら白狐びゃっこの足を思い切り踏みつけてきたので白狐びゃっこは感謝のお尻ナデナデを中断した。


「……ふん。秀菜ひでな様がどういう訳でそのキツネの無礼千万な行為を許しているのかは知らぬが……この私は秀菜ひでな様のように甘くはないからな。今度何か仕出かしたらタダではおかんぞ!」


芝村しばむらとしてはキツネの無礼な行動は主である信葉のぶはの責任であると理由付けて、信葉のぶはの評価を落としたかったのだろう。だがそれは瀬良せらの言った言葉によって叶わなかった。
完全に目論見が外れてしまったのか、芝村しばむらは忌々しげに舌打ちをすると何処かに立ち去ろうとする。だが、芝村しばむらの目に白狐びゃっこの後ろにいる人物が映ると、ピタリと動きを止めた。


「なっ……!?あ、貴方は……!?」


芝村しばむらがそう呟くと、彼女の背後にいた少女はぴょこっと顔を出してくる。しかし芝村しばむらの顔を見た瞬間顔を青褪めさせ、再び白狐びゃっこの背中に隠れてしまった。


「な、何故貴方がそのようなところにいるのです!そのキツネは下賤の者、近寄ってはなりませぬ!早く此方に!」


芝村しばむらはそう言い手を差し伸べてくる。白狐びゃっこは恭しい態度を取る芝村しばむらにこの少女はやはり高貴な身分の者だと確信するが、それより少女が怯えているのが気になった。


「ねぇ君、あの人のところ行きたい?」


白狐びゃっこの言葉に少女はぶるぶると顔を振った。この怯え方といい、彼女は芝村しばむらの事が怖くて怖くて堪らないようだった。
自分の腕に抱き着くように怯える少女を白狐びゃっこはとても放ってはおけない。


「えっと……しまむら様……でしたっけ?この子怖がってるし、あんまり近寄らないでくれます?」


白狐びゃっこの言葉に芝村しばむらは一瞬呆然とした表情を浮かべたが、すぐに我に返り怒り心頭といった表情で白狐びゃっこを睨みつける。


「き、貴様!無礼にも程があるぞ!?秀菜ひでな様の側近であるこの私に向かってなんという口の利き方だ!あと私はしまむらではない!芝村しばむらだ!」

「いや、だってその子が怖がってますし……」

「ええい!半化生はんけしょうが人間に指図するでないわ!というかそのお方にべたべたとくっつくでないわ!貴様如きが気軽に触れていいお方ではないのだぞ!」


どうやら白狐びゃっこと少女が仲睦まじく腕を組んでいるのが気に入らないらしい、芝村しばむらは顔を真っ赤にし、白狐びゃっこに怒号を浴びせてくる。


「貴様のような薄汚い半化生《はんけしょう》が触れて良いお方ではないのだ!いい加減離れろこの不届き者め!!」


どうしようか、と白狐びゃっこは思案していた。強行突破するにしても目の前のしまむら……ではなく芝村しばむらという人物は織波おなみ家の家臣の中で偉い人のようだし、そもそも彼女からはとてつもない強力な気を感じる。
以前に戦った蛇紅じゃべにを遥かに上回る強さを彼女から感じ取れるのだ。
そんな事を考えていると、横にいる少女が白狐びゃっこの袖をきゅっと摘んできた。そして言った。


白狐びゃっこ……この人達怖いから僕を連れて逃げて……?」


少女の言葉に芝村しばむらは口を開けてぽかんとし、白狐びゃっこも目を丸くするがすぐに優しい笑みを浮かべる。


「わ、わ、私は怖くなんてありませんぞ!ほら!こちらにいらしてください!」


芝村しばむらが無理矢理笑顔を貼り付けながら少女に手を伸ばすが、少女はその手から逃げ白狐びゃっこに抱き着くように身体を寄せる。
無理もない、芝村しばむらの顔は普通に怖い。笑みを浮かべたところで悪魔が無理矢理笑みを浮かべているようにしか見えなかった。


「こ、このキツネがぁ……」


芝村しばむらは怒りで体を震わせる。何故か少女に怖がられているのは白狐びゃっこのせいにされているらしい。
白狐びゃっこはそんな芝村しばむらを無視すると少女に向き直り、微笑みながら言った。


「仰せのままに、お姫様」


白狐びゃっこは傍にいる少女をひょいと持ち上げ、お姫様抱っこをする。すると少女は先程まで怯えていたのが嘘のように笑顔になり、白狐びゃっこに抱きついてきた。


「き、貴様!なんという不敬な!」

「よし!逃げよ!」


少女を抱きかかえた白狐びゃっこはくるりと踵を返してその場から駆け出す。後ろから何やら喚き声が聞こえているが気にしない。
そして城の中庭まで出ると空高く跳躍し、外壁を垂直に駆け上がる。人間には出来ぬ忍者の動きを少女は白狐びゃっこの腕の中で体感し、興奮した様子で言った。


「凄い凄い!白狐びゃっこすごい!」

「ふふ、もっと褒めていいですよ」


少女はキャーキャーと嬉しそうにはしゃぐ。そんな少女を見ていると、なんだか自分がこの子を守らなければいけないような気がしてきた。
少女はまるで空を飛んでいる感覚に感動し、目をきらきらとさせている。白狐びゃっこの首にぎゅうっと抱き着き、胸に頰をすりすりと擦り付けて来る。
その姿はまるで甘える子犬のようで……白狐びゃっこはそれがたまらなく愛おしかった。


「(そういえばこの子僕って言ってたけど……もしかして僕っ子なのかな?)」


可愛いなぁ……と、白狐びゃっこはそんな事を考えながら、宙を駆け抜け一気に城の上層まで飛ぶ白狐びゃっこであった。
そうして二人は窓から城の中に入り、とある廊下に少女を下ろすと、彼女は興奮冷めやらぬといった様子で満面の笑みを浮かべた。


「ふふ、楽しかったですか?」

「うん!ありがとう!僕、白狐《びゃっこ》と会えて良かった!」


そう言って少女は無邪気に笑う。そんな少女に白狐びゃっこも微笑むが……そこでふとある事に気づいた。


「そういえば君の名前はなんていうの?」


ずっと白狐びゃっこは彼女に向かって君と呼んできたが、彼女の名前をまだ聞いていない。
先程聞こうとしたら瀬良せら芝村しばむらに邪魔されたし、今度こそ聞いてみようと思ったのだ。


「僕の名前?僕の名前は市野いちやっていうの!」

「えっ?」


市野いちや……?それは自分が探していた人物の名前ではないか。
しかし織波おなみ市野いちやというのは秀菜ひでなの息子であると聞いている。つまり男のはずだ。
目の前の少女はどう見ても男には見えない。可憐な女の子だ。
これは一体どういう事だろう……もしかして同名の別人か?
白狐びゃっこがそう首を傾げていると不意に後ろから女性の声が掛かる。


「あ!市野いちや様!白狐びゃっこちゃん、見つけてくれたのね!」


見るとそこには見知った侍女がこちらに駆け寄ってきていた。
彼女は白狐びゃっこ市野いちや探しを頼んだ侍女である。
そんな彼女はこの少女の事を市野いちや様と言った。つまり、この少女は白狐びゃっこが探していた市野いちやに違いないのだ。


「え?そのぅ……市野いちや様って……男の子じゃないの……?」

「?えぇ、そうよ。この方は男性だけど?」


侍女はさも当然といった感じでそう言ってのける。白狐びゃっこは目を丸くして市野いちやをまじまじと見た。
すると彼女……いや、彼はポッと顔を赤らめて俯く。

可愛いなぁ……


「(ってそうじゃないだろ僕!そ、そうか……!さっき感じた匂いの違和感は男の子だったからか……!)」


市野いちやに会った時に感じた匂い。その違和感の正体は彼が男だったからだ。
今更ながらそれに気づいた白狐びゃっこは呆然とその場に立ち尽くす。


「もう、居住区の外にはでちゃダメって言われてるじゃありませんか」

「ごめんね、寧利ねり。でも探検してみたくて……」


市野いちやは侍女を寧利《ねり》と呼び、叱られた子犬のようにしゅんと肩を縮こまらせた。
やはりどう見ても女の子に見えないし、そもそも着ている着物も女の子のものである。
何故男児が女性の着物を……?と疑問に思ったが、白狐びゃっこはそこで思考を止めた。
考えても意味がない事だと気付いたからだ。


「ありがとう白狐びゃっこちゃん、流石忍者ね!じゃあ戻りましょ、市野いちや様。もう出ちゃダメですよ?」

「うん。じゃあね、白狐びゃっこ!また遊ぼうね!絶対だよ?」


彼女……じゃなくて彼はバイバイと手を振って侍女と共に去っていく。
お姫様のようなその後ろ姿を白狐びゃっこはただ茫然と見送った。

そして一人、呟いた。


「でも男だ……」
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