貞操逆転世界に産まれて男忍者として戦国時代をエッチなお姉さん達に囲まれながら生き抜く少年のお話♡ 健全版

捲土重来(すこすこ)

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本編

63.「ヴォエッ!!!!!!」

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「これより評定を執り行う」


秀菜のその言葉と共に、場は一気に緊迫した空気に包まれた。
ここは織波秀菜の居城・大広間。普段は秀菜とその家族……彼女達の従者くらいしか立ち入らない場所だ。
そこに、今回は百名近い家臣が集まっていた。前列に近いのは湾織波家の古参の家臣団……
中列は新参、もしくは今回の戦以前に秀菜に服従していた武家の代表者。
そして後列は……本家に付き従っていたが、秀菜軍の大勝により本家から湾織波家に鞍替えした者達と、降伏した家や国人衆である。

秀菜はずらりと居並ぶ家臣団を前に、静かに口を開いた。


「此度の戦では我々湾織波は蒼織波の軍勢を打ち破った。これもひとえに諸君らの尽力があってこそだ。皆、面を上げよ」


秀菜の言葉に、平伏していた諸将らが一斉に顔を上げる。彼女らがまず目にしたのは壇上にいる湾織波の一族。

中央にいるのは湾織波の当主にして、近隣諸国に名声を轟かせる稀代の英傑、織波秀菜。
その両脇にいるのは秀菜の娘にして今回の戦で名を上げた新進気鋭の少女達……長女・信葉と次女・信根である。


「なんと凛々しい御姿か……」

「秀菜様は勿論だが、その御息女達も見惚れる程の御姿よ!」


秀菜の圧倒的な存在感に負けず劣らずの存在感を醸し出しているの信葉達。
その姿を見て家臣達は畏敬と憧憬の念を抱いた。
今、秀菜達織波一族は皆一様に美しい着物を着こなしている。戦装束の猛々しい姿も見事なものだが、平時の彼女達は美しい着物を身に纏い、それに相応しい振る舞いを心掛けているのだ。


「聞けば信葉様は瞬く間に三つの小領を制圧し、更には本家軍の背後を突き、当主を討ち取ったとか」

「まさに猛将姫と呼ぶに相応しい槍働き……我らもご期待にそえるように努力せねば」

「いやいや、信根様も本陣に攻め込んできた敵方の忍を見事撃退せしめたと言うではないか」

「しかも相手はあの龍ヶ峰三忍衆であろう?あの若さであの化け蛇共と互角に渡り合うとは流石信根様だ」


織波家の家臣団が口々に秀菜の娘を褒め称える。その光景はまさに家臣達の敬愛を一身に受けている彼女達が如何に凄いかを如実に表していた。


「……」


だが、当の信葉は冷ややかな目をしていた。その目は家臣団の賛辞など眼中に無い、と言わんばかりの冷めた色を帯びている。

―――くだらない。

信葉はこの場に来てしまった事を後悔していた。
この評定の場は、戦の勝者である湾織波が家臣達に報奨を与える場であると同時に湾織波こそが蒼鷲地方の支配者だと知らしめる場でもある。
事実、あの一戦に勝利した後は本家の勢力は瓦解し、堰を切ったように秀菜に恭順する家が続出していた。
最早本家には何の影響力も無く勝敗は決したと言ってもいい。だからこそ秀菜の沙汰を聞きに敗北した武家の者達もこの場に集まっているのだ。

古参の家臣や戦より前に秀菜に付き従っていた武家達の顔色は明るい。だがそれとは対称的に降伏してきた者達は暗い顔をしていた。
まぁ、それも当然だろう。今まで自分達が仕えていた者達は敗北したのだ。良くて領地没収……悪くて御家取り潰しの上に処刑されるのも覚悟しなければならない。

だがそんなのは信葉には関係ない。彼女は自分を賛美するような言葉の数々に辟易しているだけだ。


「(くだらないわね、さっさと終わらないかしら)」


信葉は内心うんざりしつつ、早く評定が終わる事を願い溜息を吐いた。家臣達からは見えないように足をだらしなく投げ出す。
そんな信葉とは対称的にその妹……秀菜を挟んで反対側にいる信根は行儀よく、上品に正座していた。

しかし……信根は家臣達の言葉に首を傾げていた。


「(え?なんの話ですの……?)」


本陣に攻め込んできた忍者を撃退した?龍ヶ峰三忍衆と対等に渡り合った?
なんだそれは。自分はただ白狐に護られていただけだというのに。
信根は内心冷や汗を流しながら、周囲の家臣達から賞賛の言葉を浴び続ける。否定したいところなのだが、今自分が声を上げる事は許されていない。
信根はチラリと横にいる母、秀菜の顔色を伺った。


「……」


秀菜はギロリと睨むようにして信根に視線をやる。
思わず悲鳴をあげそうになったが、なんとか堪えた。秀菜からの視線は『何も言うな』と言外に物語っていたのだ。
信根は冷や汗を流しながら視線を家臣団に戻した。

―――母とて敵の忍者を撃退したのが誰かは理解している筈だ。側近である黒母衣も現場に来たのだから。
だが、信根を口を開く事を許さない。これはつまり自分が忍者と戦い、本陣を護ったという事にしろと言う事なのだろう。


「(ワタクシはただ見ているだけしか出来なかったのに……ッ)」


そんな信根の葛藤など余所に、家臣団は秀菜と信葉を讃える言葉を口にしていく。
家臣達の賞賛を聞き流しながら、秀菜は今この場で伝えるべき事を伝えるべく口を開いた。


「さて皆の者、此度の戦の論功行賞を取りたいと思う」


秀菜の言葉に、家臣団は口を閉じて秀菜に注目する。


「柴栄家、羽鳴家、江洲家、木乃葉家は新しくそれぞれ小領地を与える。普請や兵糧の管理等は瀧家が補佐をせよ」

「「ははぁ!」」

「続いて東部の空川毛と隣接する小領には……」


秀菜の声が淡々と評定の間に響き渡る。
その声を聞きながら信葉は、ただただぼーっとしていた。坊主の御経より眠くなる文言の羅列に、信葉は船を漕ぎ始める。


「(あーやば、寝そう)」


ウトウトと微睡み始めた頃……秀菜が声を発した。


「さて、諸君。今回の戦、最大の功労者である我が娘信葉には何を褒美に取らせようか?」


その言葉に、家臣団の注目が一気に信葉に向けられた。信葉は怪訝な表情を浮かべ、思わず秀菜に視線を向ける。
嫡女である信葉には領地が与えられる事はない。家を継げば秀菜の城も、領地もそっくりそのまま信葉に渡るからだ。
しかし今回の戦では信葉の戦功があまりにも目立ちすぎた。一番の武功を上げた者に報奨が無いというのは外聞が悪いのだ。


「(はぁ~……面倒くさいわね)」


信葉は内心で面倒臭そうに溜息を吐く。そんな信葉を知ってか知らずか、家臣団が騒ぎ始めた。


「いやぁ、信葉様のご活躍はまさに獅子奮迅に相応しいものでござった!」

「猛将姫の名は伊達ではありませんな!」

「瀬良様の教育が素晴らしいのもあったのでは?」

「いやぁ、それ程でも……ありますねぇ!」


猛将姫というむず痒い単語を聞き信葉の怒りは頂点に達した。誰が猛将姫だ、今までうつけ姫と呼んでいた癖に。
更に信葉の不愉快指数を上げているのが、そんな媚びを売るような家臣達に囲まれデレデレしている瀬良の姿だった。
確かに瀬良は信葉の傅役ではあるが、お前は今回の戦でキツネに化かされていただけだろうがと心の中で罵倒する。


「信葉よ、何か望みはあるか?」


秀菜が値踏みするように信葉にそう言った。信葉は母のこの目が嫌いであった。人を計るような、見透かすようなこの目が。
正直褒美などどうでもいいからさっさと終わらせて早く寝たい。

だが、そんな時に信葉の頭に妙案が思い浮かんだ。


「そうね。何かくれるっていうなら……私の……私だけの部隊が欲しいわ」


秀菜の目が細まった。その目は『やはりか』と言っているように信葉には思えた。


「私の母衣衆が欲しいという意味か?」

「いいえ、私が選んだ奴を私が育てて、そして私と共に駆ける……そんな部隊が欲しいわ」

「……」


秀菜は無言で考え込む。その目は信葉が思い描いている部隊について思考を巡らせている様に見えた。
この戦乱のご時世、親子とも言えど決して仲違いをしない訳ではない。いや、親子だからこそ常に反乱の危険を警戒しなければならない。
秀菜とて他の親類を蹴落とし分家の当主に収まったのだ。血の繋がった娘とて、下手に力を与えれば反乱の種でしかない。

しかし……


「(此奴の才能を……見てみたい)」


秀菜は信葉の作る部隊……ひいては未来を見てみたいとそう思った。
この秀菜を以てして計り知れぬ我が娘、信葉。今、信葉は何を見ているのか。何を見据えているのか……その答えが自らの手元にあるのならば見てみたいという純粋な好奇心が秀菜に芽生えた。


「いいだろう。お前に独自の部隊を編成する権限を与える」

「まぁダメって言われても勝手に作る予定だったけど。一応礼は言っとくわ」


信葉は満足そうに微笑むと、その場で立ち上がった。家臣達がギョッと目を剥くが、信葉は何も気にしない。
なんたる傍若無人な台詞であろう。しかし、誰も何も言えなかった。秀菜がそのような振る舞いを許しているのもあるし、何より信葉は今回の戦で実力を観したのだ。
この少女に文句をつけるのは烏滸がましい事のように思えてくる。

だが、一人だけ信葉に物申す者がいた。


「お姉様!母とは言え織波家の当主に何て物言いですか!」


信根だ。彼女は立ち上がり、姉である信葉を叱咤した。
先程まで母の視線に怯えていた彼女だが、信葉の振る舞いにカッとなりいきり立つようにして声を荒げる。

その怒声にも似た声に信葉はゆっくりと振り返ると、声の主……信根を冷たく見据えた。


「―――あん?」


信葉の目に射竦められ、信根は思わず気押される。
その瞳には怒りの色が含まれていたからだ。まるでゴミを見るような目で自分を見つめてくる姉に、信根はアレ?なんかガチギレしてねぇ?とダラダラと冷や汗を流した。


「(これはヤバいやつですわ……!)」


信根の中では、目の前に佇む美しい少女は既に魔王と化していた。そして今の自分は、魔王の逆鱗に触れた哀れな姫である事を悟ったのである。
で、でもどうして……?いつものように少し口を挟んだだけなのに……


「あぁ……そう言えば……アンタにやり忘れてた事があったわね」


ゆらり、と信葉から怒気を孕んだプレッシャーが放たれる。


「ひっ……!?」


そのプレッシャーは信根の心臓を鷲掴み、呼吸を忘れさせる程の圧力だった。


「信根」

「な、なんですのお姉様!?ワタクシ達は姉妹、もう少し穏便に……」


どうにか声を絞り出し、説得しようと試みる信根。しかし――


「人の忍者盗ってんじゃねーぞオルァ!!!」


信葉は激情に任せて、拳を信根の腹部にめり込ませた。


「ヴォエッ!!!!!!」


次の瞬間には腹の痛みと共に目眩に襲われた。どうやら腹を殴られたらしい。
思わずその場に崩れ落ちた信根は信じられないように姉を見上げた。


「な、な……な……な……!?」


信葉の突然の行動に家臣団がザワつく。だが信葉にはそんな事はどうでもよかった。
倒れ伏す信根の襟首を掴むと、そのまま引き摺るようにして大広間を出て行く。


「な、なにをするのですかお姉様!離しなさい!!」

「うっさいわねぇ!お仕置きよお仕置き!」

「ちょ……や、やめ……誰か助け……!!あぁぁぁ!!!!」


信葉はズルズルと姉を引き摺りながら廊下へと出ていき、その場には呆気に取られる家臣達と頭を抱える秀菜が残された。


「まったく……これからが不安だな」


そんな秀菜の呟きは、家臣達の喧騒にかき消された。
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