貞操逆転世界に産まれて男忍者として戦国時代をエッチなお姉さん達に囲まれながら生き抜く少年のお話♡ 健全版

捲土重来(すこすこ)

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本編

47.「な、なんで……?どぼじで……?」

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ある日の事であった。


「これより緊急動議を行う!諸将の者、よろしいか!」


瀬良の怒声が天幕内に響く。机に置かれた紙には『キツネ対策本部』という文字が書かれていた。
その前には武将達が座っており、その中心には瀬良が陣取っている。


「ではまずは、信葉様。ご挨拶をお願い致します……」


瀬良に促された信葉は面倒臭そうにしながら欠伸を一つすると、眠たそうな顔で辺りを見渡した。
そして言った。


「なんの集まりよ、これ」


大将である信葉のそんな頼りない言葉に瀬良は頭を抱えそうになるが、何とか堪えて話を進める事にする。


「キツネ忍者の対策会議です……!いいですか信葉様!先日、奴は変化の術をも使える事が判明したんですよ!?それ即ちどこにキツネ忍者が紛れていてもおかしくないという事です!」

「私は奴の気配が分かるけど」

「……信葉様は分かるでしょうが、並の者には分かりません。なのでこうして対策を練ろうとしているのです!」

「ふーん」


瀬良の怒気の籠もった言葉を信葉は興味なさげに聞き流すと、再び大きな欠伸をした。


「まぁ、頑張ってちょうだい」

「くっ……!」


やる気の無い大将の態度に瀬良は歯噛みする。
そもそもこの砦攻めは信葉が切望したからこその戦だ。だというのに、日に日に信葉は目に見えて怠惰になってきていた。
瀬良の苛立ちの一つはそれだった。何故この砦を攻めると決めた本人が一番やる気が無いのか。


「ていうかこの軍の防衛ガバガバすぎるでしょ。なんでこんな簡単に忍者が潜り込めてんのよ?」

「……敵の諜報員や忍びの侵入を阻止するのは、同じく忍者の仕事なんですがね。生憎我が軍には忍者が一人もいないのですよ」

「はぁ?なんでいないのよ!確かに織波は忍者が少ないけど……それでも一人くらいは付ける余裕あるでしょ!」


「信葉様、貴女は織波の本拠地から出陣する前に御自分がなんと仰ったか覚えておられますか?」

「……忘れたわよそんなもん」

「ならば教えて差し上げましょう。貴方は『忍者?そんなもん私の軍にはいらないわよ。なんか彼奴等って話しててつまんないから。アタシの好みじゃないのよね』と仰られました」


一字一句信葉の言葉を再現した瀬良に、天幕にいた全員が口を閉ざし静寂が訪れる。
つまり今現在、敵の忍者に撹乱されまくっている現状は信葉のせい……?それも話しててつまらないというどうでもいい理由だけで……?


「……」


全員の視線を一身に受けた信葉は居心地悪そうに頬を掻くと、そっぽを向いて言い訳を始めた。


「なんかさー、織波に居た忍者って陰湿っていうか、暗いのよね。もっとこう……皆に元気を与えるような感じの忍者ならいいんだけどさぁ」


皆に元気を与えるような感じの忍者。
この場にいる全員がキツネの耳と尻尾が付いた忍者を思い浮かべたが誰もそれを口にする事は出来なかった。

だって一応敵だから……


「信葉様。兎にも角にも、自軍に忍者がいない以上敵の諜報・撹乱活動を阻止する事は不可能です。どうかこの砦を諦め本軍に合流するかのご決断を」


瀬良がそう告げると信葉は腕を組み、言った。


「そうね、そろそろいい頃合いかもしれないわ」

「拒否する気持ちは分かります。あの憎きキツネ忍者を退治したいというお気持ちは私も同じ……!しかしもう期限は刻一刻と……へっ?今なんと?」


信葉の言葉に瀬良は間抜けな声を出す。
今彼女はなんと言ったのだ?そろそろ撤退してもいい、と聞こえたような気がするのだが?


「だからそろそろ本軍と合流しようかな~って思ったのよ」


信葉の言葉に再び静寂が天幕に訪れた。
そして数秒後、その言葉の意味を理解した武将達は一斉にざわめき始める。


「の、信葉様……?本気で仰って……?」


瀬良がプルプルと震えながらそう問うと、信葉は無言でこくりと頷いた。
その瞬間、瀬良の怒りが爆発した。


「こ、この砦を攻めるのは貴女が希望した事なんですよ!?それをそんな簡単に諦めるとは……!!いや、それはいい!!将たるもの引き際も肝心だ!!だが、だがだ!貴女の言葉は余りにも軽すぎる!!こんな無駄な砦攻めを中止してくれるのは確かに有り難い!!しかしもっとこう……少しは悩んだフリをするとか、そういう事をですね……!!」


瀬良が顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
瀬良がここまで怒り狂うのも無理はない。この軍は信葉の気分でこの砦を攻め、そして彼女の気分で中止するのだ。
しかも砦攻めが始まった途端に何故か信葉は興味を無くしたように戦わずだらけた生活を始める始末。
こんな勝手な大将がいるだろうか。


「私はね」


瀬良が怒りに震えていると、信葉がポツリと呟くように言った。


「最初はあのキツネ忍者の強さに惹かれたわ。私と張り合える奴なんて初めてだったし。でもそれと同じくらいに、忍者の後ろにいる奴の思惑に興味を持ったの」


信葉が小さく呟いた言葉に諸将達は無言で互いの顔を見合わせる。


「(どういう意味だろうか?意味が分からない……)」


そんな会話が目線で交わされる中、信葉はふぅっと息をつくと立ち上がった。


「まぁ、それも大体分かっちゃったけどね。敵の思い通りになるのは癪だけど……今回は私の負けって事で敢えて乗ってやるわ」

「信葉様、それは一体……」


瀬良の呆気に取られた表情を見て信葉は小さく笑う。
そしてそのまま……


「ハァッ!!」


目にも止まらぬ速さで鞘から刀を抜き、諸将の一人の首を跳ね飛ばした。


「―――えっ?」


瀬良が驚きの声を上げると同時に、天幕内に悲鳴が響き渡る。
一瞬にしてその場は混乱に陥った。
彼女は一体何をしているのか? 何故味方を殺したのか? そんな疑問が脳内を埋め尽くすが、次の瞬間信葉から放たれた殺気の奔流に全員が押し黙った。


「この織波信葉を侮るなよ。私が興味を持たなかったら、私が本気で砦を落とす気だったならば……貴様等は既に冥府の底だ」


信葉の身体から凄まじい怒気が放たれる。諸将も瀬良ですら恐怖から一歩後退ってしまう程の威圧感であった。
そこには最早堕落しきった女の姿は無い。冷酷で非情で、冷徹な織波信葉という一人の女がいた。 


「これは私の慈悲と思え。貴様等の生はこの私に興味を抱かせた褒美である」


グラリと。
信葉に首を斬られた女の身体が傾く。そして身体が地面に触れた瞬間、煙が噴き出し女の死体は消え失せた。
代わりに姿を現したのは白いキツネの忍者……白狐である。
白狐は今までの飄々とした雰囲気とは一転し、鋭い眼光で信葉達を見つめていた。


「キ、キツネ忍者……!」


既に変化の術で紛れ込んでいたのか!
瀬良はそう驚愕するが、いつものように怒りに任せて飛び掛かったりはしなかった。
何故なら信葉と白狐、どちらも殺気を纏わせており下手に動けば即座に斬り殺される事が目に見えていたからだ。


「私との一騎打ちから逃げた罪、私の兵達を拐かした罪。全てを許そう」


信葉の刀が白狐の喉元に突きつけられる。キラリと刃が煌めいた。


「これもひとえに寡兵で孤軍奮闘したお前と、その後ろにいるであろう黒幕への敬意の表れだ」


信葉は静かにそう言うと、刀を鞘にしまう。そしておもむろに背を向けたと思うと近くにあった椅子に腰掛け、脚を組み頬杖をついた。

そしてふぅ、と溜め息を吐くと一言呟く。


「さ、早く寄越しなさい。持ってきたんでしょ?」


信葉の殺気がフッと消えた。それと同時に白狐の殺気も消え失せる。
その様子に瀬良を含めた諸将は唖然としてしまうが、すぐにハッと我に返ると慌てて白狐を取り押さえようとするが、何故だか身体が動かなかった。
白狐は信葉の前まで来ると懐に手を入れ、書状を一つ取り出した。そして信葉の前に膝を着くとその書面を手渡す。


「数々の非礼、お許しください信葉様。ですがこれも戦国の世の敵味方なればこそ。ご所望された我が友からの書状をお受け取り下さいませ」


白狐は幻魔からこの国の礼儀作法を教わっている。その為、正式な儀礼も一通り心得ているのだ。
こと動作に関しては幻魔が徹底的に叩き込んだ為、流れるような動きで謁見を行う事が可能になっている。
その美しい所作と、凛とした佇まいは瀬良すらも見惚れてしまう程であった。


「ふぅん」


信葉は手紙を開くと、その文面に目を通していく。
やがて全てを読み終えた彼女は満足げな笑みを浮かべた。


「瀬良。会見の場を設けなさい」

「はっ……は?」


狼狽える瀬良に、信葉は再び刀を抜き放つ。
信葉の刀身がギラリと輝いた。


「私に同じ事を二度言わすな」

「は、はっ!!ただちに!!」


瀬良は慌てたように返事をすると、天幕を出ていった。
信葉本来、怠惰な性格である。だが、苛烈な一面もまた彼女の本性であった。
それをよく知っている武将達は冷や汗を流しながらその場に固まっていた。


「……」


そんな彼女を白狐はただ見つめていた。
信葉という女性の本当の姿は一体どちらなのか? 
白狐には分からなかった。だが、同時に彼女に惹かれている事に気付く。


「(あぁ……なんだろうこの気持ち)」


それは恋心とも違う、何か不思議な感情。
しかし、決して不快なものではなかった。


「(この人の素顔を見てみたい……)」


白狐は村長の全てを包み込むような母性のような優しさが好きだ。彼女の香りを嗅ぐだけで胸の奥が暖かくなる。
だが、目の前の信葉という女性は村長とはまた違った香りがする。もっと刺激的で……危険な匂い。
白狐はそんな彼女にどこか惹かれていた。

そんな事を考えていると、ふと視線を感じて白狐はそちらを見る。
するとそこには白狐を見つめる信葉の瞳があった。


「ねぇアンタ、さっき我が友からの書状って言ったわよね」

「え?はい。仰る通り、確かにそう言いましたが……」


その瞬間、信葉の刀が白狐に振り下ろされた。白狐は半化生の反射神経を駆使し咄嵯に横に避ける。


「わぁ!?あぶなっ!?」

「そのキモい口調やめなさい。次に敬語で喋ったらキツネ鍋にして食うわよ」

「えぇ……?」 


そんな理不尽な……と白狐は思ったが、口に出すと本当に斬られそうだったので黙った。
どうやら彼女は敬われるのが嫌いなようだ。地位の高い武家の出だというのに、奇特な人だなぁ、と白狐は思う。
まぁしかし……それがご所望ならばそうした方がいいだろう。


「じゃあ御言葉に甘えて……僕の事は白狐って呼んでね」

「私の事は信葉様でいいわよ」


様は付けるのか……と白狐は内心で突っ込みを入れる。
だがそれは仕方ないのかもしれない。彼女は一軍を率いる大将であり、旗印でもあるのだ。
一介の忍者に呼び捨てにされれば他の者に示しがつかないのであろう。そこをきちんと理解している白狐は、素直に信葉の言葉に従うつもりである。


なお実際は信葉はそんな細かい事を気にしている訳ではなく、単に自分が世界で一番偉いと本気で思っているので様付けを強要しただけである。
敬語をやめろと言ったのは白狐が恭しい態度を取るのが全然似合ってなくてキモイと思ったからに過ぎない。
なので人によっては敬語で話さないと普通にキレるのだ。なんとも理不尽である……


「話を戻すけど、アンタさっき我が友って言ってたわね……アンタに命令してるのは主じゃないの?」

「主?いや、違うよ。村長さんは僕の友達で、主とかそういう関係じゃないよ」

「じゃあアンタ、主は?」

「主は……今はいないかな。どうして?」


村長は白狐にとって大切な存在であるが、仕えている訳ではない。
主君というか、一緒にいると安らぐ……そんな実家のような安心感を白狐は村長に感じていた。


「ふ、ふぅん。そう。いないんだ。いや、別に私は興味無いんだけど。ちょっと気になっただけっていうか、その、何ていうかホントに全くもって興味なんてこれっぽっちも無いんだけど、ただちょっと聞いてみただけよ」


何故か急に挙動不審になる信葉に白狐は首を傾げる。
言いたい事をズバッと言うであろう彼女にしては珍しい反応だ。一体何を言いたいのかがよく分からなかった。

そして急に天幕内に訪れる静寂。そこはかとなく気まずい雰囲気が漂い始める。

信葉と白狐は互いに動きを止め―――


「うぎゃあ!?」


不意に白狐の脳天に信葉の手刀が炸裂した。予想外の事態に白狐は頭を両手で押さえて悶絶する。


「な、なんで……?どぼじで……?」


まさかこのタイミングでチョップを繰り出してくるとは夢にも思わず、避けられなかった白狐は涙目になって信葉に抗議の視線を向けた。
だが信葉は顔を背けており、白狐の方を見ようとしない。


「うるさい!アンタもその友達とやらにさっさと伝えてきなさい!この織波信葉に謁見の機会を与えられた事、光栄に思いなさいって!」


急に怒鳴り出した信葉に白狐は疑問符を浮かべるも、確かに村長に早く伝えなければと立ち上がる。


「酷いなぁ、もう……」


何が彼女の機嫌を損ねたのかは分からないが、白狐はペコリとお辞儀すると、そのまま足早に天幕から出ていった。
残された諸将達はポカンとした表情のまま固まっていた。


「あの、信葉様?何故あの忍者を殴っ……ひっ!?」


一人の女武将が信葉に声をかけるが、ギロリと睨まれ悲鳴を上げる。
そのあまりの形相に諸将達は凍りついたが、すぐに信葉の殺気が消えた事にホッと安堵の息を漏らす。


「アンタ達も早く準備なさい!!この私に恥をかかせる気か!!」

「「「「は、はいっ!!!」」」」


信葉の一喝に、諸将達は慌てて各々の仕事に取り掛かる為に足早に天幕から出ていった。
天幕内に一人になった信葉は再び溜め息を吐くと静かに呟いた。


「なんで殴ったかなんて、私にもわかんないわよ……」


信葉の呟きは誰に聞かれる事もなく、虚空へと消えていった。
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