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本編
42.「女だと思った?残念、僕男の子で〜す!」
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早朝。チュンチュンと小鳥のさえずる声を聞きながら信葉軍の陣内では作戦会議が開かれていた。
目下の議題は目の前の砦をどう攻略するかである。砦造りこそ拙いもののは天然の地形を利用したもので、山の上に建てられた堅牢な要塞であり、正面からの突破は困難を極める。
しかも裏手は崖になっており、攻められる場所は限られているのが厄介だ。
「正面から突っ込んでも勝てるとは思うが、問題はその後だ」
瀬良はその場に集まった諸将を見ながら顎に手を当てるとそう呟いた。
砦には大した兵は残っていない。単純な力攻めで落とせる可能性は高い。しかし、それには多大な犠牲を伴うだろう。
ともすればこの軍の半分が犠牲になるかもしれない。それは不味い。それでは信葉の評価が下がってしまう。
信葉軍とはいうものの、この軍は湾織波の軍なのだ。それを無闇に消耗してしまっては今後の信葉の活動に支障が出る。
「秀菜様との合流を考えると極力損害を少なくしたい」
「しかし瀬良様、時間を掛け過ぎると宗家との戦に間に合わなくなくなりますぞ」
「それは分かっている。だが砦を落とすとなると兵か時間か、どちらかを犠牲にしなければならん」
瀬良の言葉に誰もが口を閉ざす。
砦の構造を考えても、数で押しても犠牲無しでは難しい。何かしらの策が必要となってくる。
「こんな砦放っておけばいいんじゃない?」
瀬良の横にいた誰かがそう言った。子供のような幼い声だったが瀬良は気にせず、空を仰ぎ言葉を紡ぐ。
「そうしたいのは山々なんだがね。信葉様がこの砦の中にいる奴にぞっこんのようでな、決着が付くまではここから動けそうにない」
「えー……面倒くさいなぁ」
「全くだ。こんな所で時間を潰している暇はないと言うのに……」
「ところでその信葉様は何処にいるの?軍議なのに大将がいないようだけど」
「何を言っているんだ、信葉様がこんな朝早くに起きてる訳がないだろう。あの方は寝坊助だからな……ん……?」
会話を続ける内に瀬良は何か違和感を覚えた。
なんだかあまり聞かない声だ。はて、自分は一体誰と会話しているのだろう。
瀬良が視線を空から地上に戻すと瀬良と共に机を囲う諸将達が口をパクパクと動かして固まっていた。
彼女達の視線は瀬良の横に注がれている。瀬良はなんだ?と思いながらもそちらに顔を向けると、そこにはキツネの面を被った忍者が机に腰掛け尻尾をゆらりと揺らしていた。
瀬良はポカンと口を開けて固まると、やがて我に返ると大声で叫んだ。
「な、な、な、何処から入ってきた貴様ァア!!」
そう言うと同時に瀬良は刀を抜き放つと白狐に横薙ぎで斬りかかる。だが白狐はそれをひょいと避けるとそのまま地面に着地し、ふわぁと欠伸をしながら口を開いた。
「確かにこんな朝早くから話し合いするなんて眠くて嫌になっちゃうよね~。僕…じゃなくて私も眠いや。皆も信葉様を見習って昼頃まで寝てれば良いのに」
「ふざけるな!さっさと降りろ!」
白狐はひらりと地面に降りると再び大きな欠伸をした。
その隙を見逃す瀬良と諸将ではない。英傑の血が濃い彼女達は流れるような動作で一斉に刀を抜き放つと白狐を取り囲む。
「やだなぁ、そんなにカッカしないでよ。ほら、力を抜きましょー?」
白狐が指をパチンと鳴らすと、その瞬間白狐の姿が消えた。
いや、違う。白狐は一瞬にして移動したのだ。その動きを捉える事が出来た者はおらず、全員がキョロキョロと辺りを見回す。
「うわっ!?」
不意に一人が膝から崩れ落ちた。
見れば白狐に膝カックンされたらしく、その女はふにゃりと膝から倒れ伏すと身体から力が抜けてしまったのか立ち上がれないようだ。
「狐狸流忍術・膝カックンの術……」
次々と白狐に膝カックンされて倒れる武将達。瀬良は白狐の動きを追おうとするがあまりの速さに目が追いつかない。
気付けば自分の足からも力が抜けた感覚があり、瀬良はその場にドサリと尻餅をついてしまう。
「くっ……!」
「リラックスリラックス~♪」
白狐はクスクスと笑いながら辺りを見渡す。既に立っている者はおらず、全員地面に転げてしまっている。
不味い、と瀬良は焦りながら必死に立ち上がろうとするが上手くいかない。まるで全身の筋肉が弛緩してしまったかのようだ。
よく考えれば信葉と対等に戦える忍者なのだ。こんな少人数で囲って勝てる相手ではない。
「(まずい、このままでは……)」
キツネ忍者の目的が将官の暗殺ならこの場で全員首を刎ねられかねない。
しかし白狐にはそのつもりはないようで、瀬良の前でしゃがみ込むと仮面の奥からジッと瀬良の目を見た。
「ねー、こんな戦いやめようよ。意味ないしさー」
「……」
瀬良は忍者の言葉に答えなかった。ここで下手に返事をしてしまえば相手の思う壺だ。
それに戦いをやめる権限は瀬良にはない。瀬良がなんと言おうと全てを決定出来るのは信葉のみ。
「ねーねー。ねーってばー」
その内に白狐の手が倒れ込む瀬良の身体に触れる。触れられた箇所からじんわりとした熱を感じ、瀬良は顔をしかめた。
「くっ……」
なんだかやけにこちょばしく感じる。
まさかこれが忍者の尋問なのか?一体何が目的だというのか、白狐の手は瀬良の全身を弄るように動くと、やがてその手は瀬良の胸部へと伸びてきた。
「んっ……!」
思わず変な声を上げそうになる瀬良だが、なんとかそれを堪えて睨みつけるように視線を返す。
「き、貴様……何が目的だ。殺すならさっさと殺せ!」
殺気を込めた瀬良の眼力にも白狐は気にする事なく瀬良の身体をまさぐり続ける。
「殺すなんて野蛮な事しないよ。ただ貴女の身体を触りたいだけ……♡」
「……はぁ?」
意味不明な回答が返ってきた事に瀬良は目を点にする。だが白狐は気にせず瀬良の胸を揉むと、感嘆の声を上げた。
「おっぱい大きい……♡柔らかい……♡」
「な、何をしている貴様!!女が女の胸を触って何が楽しいんだ!」
瀬良は羞恥心から顔を赤くしながら叫ぶ。
まさかコイツは女が好きな女なのか?確かにそういった輩が存在するのは知っているが、瀬良はノーマルな人間である。そんな趣味はない。
目の前の忍者は見た目こそ幼いように見えるがもしかしたら成人した半化生かもしれない。半化生は見た目と年齢が一致していない事が多く少女のような見た目をしていても齢100を越える者もいるという。
もしそうならば、この行動の意味が分かる。つまりコイツはただの変態……
このままでは他の武将達の前で辱められてしまう。そうなれば武将人生終わり……!
「お、おのれっ……!!同性に欲情する変態め!!変な事をしでかしてみろ!殺してやる!」
瀬良はそう言いながらも身体に力が入らずされるがままになっていると、白狐は口を開いた。
「残念でした~。僕、男だから同性に欲情する変態じゃありませ~ん」
白狐はそう言ってヒラヒラと手を振りながら狐の仮面を外す。
面の下から現れたのは金色の瞳と白銀の髪、まるで人形のように整った顔立ちの美しい半化生だった。
「女だと思った?残念、僕男の子で~す!」
白狐はそう言うと立ち上がり、机の上に置いてあったお茶を手に取るとぐいっと一気に飲み干す。
そんな白狐を倒れ伏す女達は唖然として見つめていた。
「お……お……男……だと……?」
瀬良が信じられないといった表情で呟くと、白狐はニッコリと笑って見せた。
「かわいいでしょ、僕」
「う、嘘をつけ!そんな強い男がいてたまるか!!」
「えー、そんなこと無いと思うけどなぁ。現にここにいるじゃん」
白狐はドロンとその場から消えると倒れる瀬良の背中にピタリと張り付いた。
「ほらほら、男と女だから身体を触っても変態じゃないよ」
「うっ……」
確かにその通りだ。男女なら何も問題はない……
いや、待て。そもそもこれはおかしいのでは?男が女に抱き着くなんて普通はありえない。
スキモノの男ならば話は別だろうが、一般的な男は女を忌避するものだ。変態でもない限り自分から性的な主張などしないはず。
ん?という事はやっぱりコイツは変態……
「お姉さんなんかいい匂いする……♡」
瀬良の髪の匂いを嗅ぎながら白狐は興奮していた。
彼の予定では当初、こんな事をするつもりはなかったのだが倒れ伏す女人の身体……それもとびきりスタイル抜群の瀬良を見ていたらついムラっとしてしまったのだ。
しかも彼女はなかなか強気な性格をしているようで、まるで反抗期の娘を相手にしているような気分になる。
「くっ……!男なんぞに負けてなるものか……!」
これは仲良くなる為のスキンシップだ。決して欲望に負けて彼女にセクハラしている訳ではない。
白狐は自分にそう言い聞かせると瀬良の身体に手を伸ばしていく。
「(我慢しろ私……!ここで屈すれば女が廃る!)」
瀬良は必死に歯を食い縛って耐えようとするが、白狐の指が瀬良の太腿に触れた瞬間、ゾクッとした感覚が瀬良を襲った。
「ひゃっ!?♡」
見た目からは想像出来ない可愛らしい声を上げて仰け反る瀬良。その様子に周りに倒れる武将達が困惑の視線を向ける。
「な、なんだ今の可愛い声は……」
「まさか……感じているのか?」
「馬鹿なっ……あの瀬良様がそんな……」
「ち、ちがう!今のは……!」
瀬良は否定しようとするが、白狐の指が動く度に瀬良の口からは甘い吐息が漏れてしまう。
「んっ……♡やめっ……♡」
「やめな~い♡」
白狐は瀬良の耳元で囁きかける。そしてそのまま舌を這わせると瀬良の身体が大きく跳ねた。
「ひゃん!♡」
瀬良は顔を真っ赤にして白狐を押し退けようと抵抗するが、身体が上手く動かない。
「ふふっ……♡どうしたのお姉ちゃん♡」
「くっ……!♡」
白狐のくすぐり攻撃に瀬良は身悶える。
なんだか身体が熱くて仕方がない。全身がムズムズして痒みにも似た快感が襲ってくる。
「うぅ……♡」
瀬良は涙目になりながら白狐を睨む。だが白狐はクスリと笑うだけで瀬良を解放するつもりはないようだ。
「はぁ……♡はぁ……♡」
やがて瀬良の顔は蕩けたように赤く染まり、荒くなる呼吸と共に艶やかな色気を放ち始める。
瀬良は無意識の内に内股を擦り合わせてモジモジとしていた。
「(な、何故だ……?何故私はこんな奴に……!)」
今までの瀬良の人生において異性から性的アプローチを受けた事は一度もない。
だから男との情事を経験した事はなかったが、こんなにも快感だとは思わなかった。
「くっ……!この程度で私が……!ああっ……!♡」
瀬良は身体を震わせながら白狐を払い除けようとしたが、白狐のくすぐりは止まらない。
むしろ更に激しさを増し、瀬良の弱点を的確に責めてくる。
「あっ、お姉さん感じてるね♪」
「か、か……ん……?」
「そっか、そんなに気持ちよかったんだ。嬉しいな」
白狐はそう言うと、今度は別のところに手を伸ばそうとする。
「ま、待て!!それだけはやめろ!!」
瀬良はそう叫ぶと、なんとか白狐の魔の手から逃れようと暴れるが、やはり身体の自由は利かなかった。
そうして白狐の手が触れそうになってきた時、幕の外から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ふわぁ~……よく寝たわ。瀬良~、そろそろ会議終わった?ちょっとお腹空いたんだけど~」
それは眠そうな少女の声だった。
白狐はその声を聞いた瞬間ビクリと尻尾を震わせると慌てて瀬良から離れ、再び狐の面を被る。
「じ、じゃあねお姉さん達!リラックス出来たでしょ~?戦いなんて忘れちゃいなよ!」
「なっ……ま、待てっ……!!」
足早にそう言うと白狐は指を組むとドロンと姿を消した。
後に残されたのは地面に寝そべる瀬良と武将達。静寂に包まれる中、陣幕が捲られる音が響き渡る。
「……アンタ達なにやってんの?」
倒れ伏す瀬良達を見て信葉は怪訝な表情を浮かべると、瀬良は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げた。
なんという失態。主君にこんな姿を見せてしまうとは。
しかし真に恥ずかしいのは……
「瀬良様、意外と可愛い声出すんすね……」
武将の一人がそう呟いた。
武将達の前で男の愛撫によって生娘のように喘ぐ姿を晒してしまったのだ。(生娘だが)
羞恥心と屈辱で瀬良は頭がどうにかなりそうになる。
「…………」
瀬良は無言でキッと武将達を睨むと彼女達は目を逸らし黙ってしまった。
「(おのれあのキツネ……!許さん……!絶対に殺してやる!!)」
瀬良はそう心に誓うのであった。
一方その頃、白狐はというと……
「ふぅ、これで少しは仲良くなれたかな?」
砦に帰ろうと額の汗を拭い爽やかに笑みを浮かべながら走る白狐。
白狐の作戦その一・スキンシップをして仲良くなろう作戦。
結果は上々。彼女達も白狐の事を多少は信用してくれただろう。やはり身体を直接交じ合わせなければね。
「それにしても……あのお姉さん凄かったな……」
白狐は先程の光景を思い出しながら一人頬を緩ませる。
あの凛とした雰囲気の美女が快楽に溺れる姿はとても官能的で美しい。あれはきっと彼女の新たな一面に違いない。
「次はもっと仲良くなれるかな~」
白狐はうっとりした様子でそう呟く。
瀬良の本心をしらぬまま、白狐は一人次の策を練っていた。
目下の議題は目の前の砦をどう攻略するかである。砦造りこそ拙いもののは天然の地形を利用したもので、山の上に建てられた堅牢な要塞であり、正面からの突破は困難を極める。
しかも裏手は崖になっており、攻められる場所は限られているのが厄介だ。
「正面から突っ込んでも勝てるとは思うが、問題はその後だ」
瀬良はその場に集まった諸将を見ながら顎に手を当てるとそう呟いた。
砦には大した兵は残っていない。単純な力攻めで落とせる可能性は高い。しかし、それには多大な犠牲を伴うだろう。
ともすればこの軍の半分が犠牲になるかもしれない。それは不味い。それでは信葉の評価が下がってしまう。
信葉軍とはいうものの、この軍は湾織波の軍なのだ。それを無闇に消耗してしまっては今後の信葉の活動に支障が出る。
「秀菜様との合流を考えると極力損害を少なくしたい」
「しかし瀬良様、時間を掛け過ぎると宗家との戦に間に合わなくなくなりますぞ」
「それは分かっている。だが砦を落とすとなると兵か時間か、どちらかを犠牲にしなければならん」
瀬良の言葉に誰もが口を閉ざす。
砦の構造を考えても、数で押しても犠牲無しでは難しい。何かしらの策が必要となってくる。
「こんな砦放っておけばいいんじゃない?」
瀬良の横にいた誰かがそう言った。子供のような幼い声だったが瀬良は気にせず、空を仰ぎ言葉を紡ぐ。
「そうしたいのは山々なんだがね。信葉様がこの砦の中にいる奴にぞっこんのようでな、決着が付くまではここから動けそうにない」
「えー……面倒くさいなぁ」
「全くだ。こんな所で時間を潰している暇はないと言うのに……」
「ところでその信葉様は何処にいるの?軍議なのに大将がいないようだけど」
「何を言っているんだ、信葉様がこんな朝早くに起きてる訳がないだろう。あの方は寝坊助だからな……ん……?」
会話を続ける内に瀬良は何か違和感を覚えた。
なんだかあまり聞かない声だ。はて、自分は一体誰と会話しているのだろう。
瀬良が視線を空から地上に戻すと瀬良と共に机を囲う諸将達が口をパクパクと動かして固まっていた。
彼女達の視線は瀬良の横に注がれている。瀬良はなんだ?と思いながらもそちらに顔を向けると、そこにはキツネの面を被った忍者が机に腰掛け尻尾をゆらりと揺らしていた。
瀬良はポカンと口を開けて固まると、やがて我に返ると大声で叫んだ。
「な、な、な、何処から入ってきた貴様ァア!!」
そう言うと同時に瀬良は刀を抜き放つと白狐に横薙ぎで斬りかかる。だが白狐はそれをひょいと避けるとそのまま地面に着地し、ふわぁと欠伸をしながら口を開いた。
「確かにこんな朝早くから話し合いするなんて眠くて嫌になっちゃうよね~。僕…じゃなくて私も眠いや。皆も信葉様を見習って昼頃まで寝てれば良いのに」
「ふざけるな!さっさと降りろ!」
白狐はひらりと地面に降りると再び大きな欠伸をした。
その隙を見逃す瀬良と諸将ではない。英傑の血が濃い彼女達は流れるような動作で一斉に刀を抜き放つと白狐を取り囲む。
「やだなぁ、そんなにカッカしないでよ。ほら、力を抜きましょー?」
白狐が指をパチンと鳴らすと、その瞬間白狐の姿が消えた。
いや、違う。白狐は一瞬にして移動したのだ。その動きを捉える事が出来た者はおらず、全員がキョロキョロと辺りを見回す。
「うわっ!?」
不意に一人が膝から崩れ落ちた。
見れば白狐に膝カックンされたらしく、その女はふにゃりと膝から倒れ伏すと身体から力が抜けてしまったのか立ち上がれないようだ。
「狐狸流忍術・膝カックンの術……」
次々と白狐に膝カックンされて倒れる武将達。瀬良は白狐の動きを追おうとするがあまりの速さに目が追いつかない。
気付けば自分の足からも力が抜けた感覚があり、瀬良はその場にドサリと尻餅をついてしまう。
「くっ……!」
「リラックスリラックス~♪」
白狐はクスクスと笑いながら辺りを見渡す。既に立っている者はおらず、全員地面に転げてしまっている。
不味い、と瀬良は焦りながら必死に立ち上がろうとするが上手くいかない。まるで全身の筋肉が弛緩してしまったかのようだ。
よく考えれば信葉と対等に戦える忍者なのだ。こんな少人数で囲って勝てる相手ではない。
「(まずい、このままでは……)」
キツネ忍者の目的が将官の暗殺ならこの場で全員首を刎ねられかねない。
しかし白狐にはそのつもりはないようで、瀬良の前でしゃがみ込むと仮面の奥からジッと瀬良の目を見た。
「ねー、こんな戦いやめようよ。意味ないしさー」
「……」
瀬良は忍者の言葉に答えなかった。ここで下手に返事をしてしまえば相手の思う壺だ。
それに戦いをやめる権限は瀬良にはない。瀬良がなんと言おうと全てを決定出来るのは信葉のみ。
「ねーねー。ねーってばー」
その内に白狐の手が倒れ込む瀬良の身体に触れる。触れられた箇所からじんわりとした熱を感じ、瀬良は顔をしかめた。
「くっ……」
なんだかやけにこちょばしく感じる。
まさかこれが忍者の尋問なのか?一体何が目的だというのか、白狐の手は瀬良の全身を弄るように動くと、やがてその手は瀬良の胸部へと伸びてきた。
「んっ……!」
思わず変な声を上げそうになる瀬良だが、なんとかそれを堪えて睨みつけるように視線を返す。
「き、貴様……何が目的だ。殺すならさっさと殺せ!」
殺気を込めた瀬良の眼力にも白狐は気にする事なく瀬良の身体をまさぐり続ける。
「殺すなんて野蛮な事しないよ。ただ貴女の身体を触りたいだけ……♡」
「……はぁ?」
意味不明な回答が返ってきた事に瀬良は目を点にする。だが白狐は気にせず瀬良の胸を揉むと、感嘆の声を上げた。
「おっぱい大きい……♡柔らかい……♡」
「な、何をしている貴様!!女が女の胸を触って何が楽しいんだ!」
瀬良は羞恥心から顔を赤くしながら叫ぶ。
まさかコイツは女が好きな女なのか?確かにそういった輩が存在するのは知っているが、瀬良はノーマルな人間である。そんな趣味はない。
目の前の忍者は見た目こそ幼いように見えるがもしかしたら成人した半化生かもしれない。半化生は見た目と年齢が一致していない事が多く少女のような見た目をしていても齢100を越える者もいるという。
もしそうならば、この行動の意味が分かる。つまりコイツはただの変態……
このままでは他の武将達の前で辱められてしまう。そうなれば武将人生終わり……!
「お、おのれっ……!!同性に欲情する変態め!!変な事をしでかしてみろ!殺してやる!」
瀬良はそう言いながらも身体に力が入らずされるがままになっていると、白狐は口を開いた。
「残念でした~。僕、男だから同性に欲情する変態じゃありませ~ん」
白狐はそう言ってヒラヒラと手を振りながら狐の仮面を外す。
面の下から現れたのは金色の瞳と白銀の髪、まるで人形のように整った顔立ちの美しい半化生だった。
「女だと思った?残念、僕男の子で~す!」
白狐はそう言うと立ち上がり、机の上に置いてあったお茶を手に取るとぐいっと一気に飲み干す。
そんな白狐を倒れ伏す女達は唖然として見つめていた。
「お……お……男……だと……?」
瀬良が信じられないといった表情で呟くと、白狐はニッコリと笑って見せた。
「かわいいでしょ、僕」
「う、嘘をつけ!そんな強い男がいてたまるか!!」
「えー、そんなこと無いと思うけどなぁ。現にここにいるじゃん」
白狐はドロンとその場から消えると倒れる瀬良の背中にピタリと張り付いた。
「ほらほら、男と女だから身体を触っても変態じゃないよ」
「うっ……」
確かにその通りだ。男女なら何も問題はない……
いや、待て。そもそもこれはおかしいのでは?男が女に抱き着くなんて普通はありえない。
スキモノの男ならば話は別だろうが、一般的な男は女を忌避するものだ。変態でもない限り自分から性的な主張などしないはず。
ん?という事はやっぱりコイツは変態……
「お姉さんなんかいい匂いする……♡」
瀬良の髪の匂いを嗅ぎながら白狐は興奮していた。
彼の予定では当初、こんな事をするつもりはなかったのだが倒れ伏す女人の身体……それもとびきりスタイル抜群の瀬良を見ていたらついムラっとしてしまったのだ。
しかも彼女はなかなか強気な性格をしているようで、まるで反抗期の娘を相手にしているような気分になる。
「くっ……!男なんぞに負けてなるものか……!」
これは仲良くなる為のスキンシップだ。決して欲望に負けて彼女にセクハラしている訳ではない。
白狐は自分にそう言い聞かせると瀬良の身体に手を伸ばしていく。
「(我慢しろ私……!ここで屈すれば女が廃る!)」
瀬良は必死に歯を食い縛って耐えようとするが、白狐の指が瀬良の太腿に触れた瞬間、ゾクッとした感覚が瀬良を襲った。
「ひゃっ!?♡」
見た目からは想像出来ない可愛らしい声を上げて仰け反る瀬良。その様子に周りに倒れる武将達が困惑の視線を向ける。
「な、なんだ今の可愛い声は……」
「まさか……感じているのか?」
「馬鹿なっ……あの瀬良様がそんな……」
「ち、ちがう!今のは……!」
瀬良は否定しようとするが、白狐の指が動く度に瀬良の口からは甘い吐息が漏れてしまう。
「んっ……♡やめっ……♡」
「やめな~い♡」
白狐は瀬良の耳元で囁きかける。そしてそのまま舌を這わせると瀬良の身体が大きく跳ねた。
「ひゃん!♡」
瀬良は顔を真っ赤にして白狐を押し退けようと抵抗するが、身体が上手く動かない。
「ふふっ……♡どうしたのお姉ちゃん♡」
「くっ……!♡」
白狐のくすぐり攻撃に瀬良は身悶える。
なんだか身体が熱くて仕方がない。全身がムズムズして痒みにも似た快感が襲ってくる。
「うぅ……♡」
瀬良は涙目になりながら白狐を睨む。だが白狐はクスリと笑うだけで瀬良を解放するつもりはないようだ。
「はぁ……♡はぁ……♡」
やがて瀬良の顔は蕩けたように赤く染まり、荒くなる呼吸と共に艶やかな色気を放ち始める。
瀬良は無意識の内に内股を擦り合わせてモジモジとしていた。
「(な、何故だ……?何故私はこんな奴に……!)」
今までの瀬良の人生において異性から性的アプローチを受けた事は一度もない。
だから男との情事を経験した事はなかったが、こんなにも快感だとは思わなかった。
「くっ……!この程度で私が……!ああっ……!♡」
瀬良は身体を震わせながら白狐を払い除けようとしたが、白狐のくすぐりは止まらない。
むしろ更に激しさを増し、瀬良の弱点を的確に責めてくる。
「あっ、お姉さん感じてるね♪」
「か、か……ん……?」
「そっか、そんなに気持ちよかったんだ。嬉しいな」
白狐はそう言うと、今度は別のところに手を伸ばそうとする。
「ま、待て!!それだけはやめろ!!」
瀬良はそう叫ぶと、なんとか白狐の魔の手から逃れようと暴れるが、やはり身体の自由は利かなかった。
そうして白狐の手が触れそうになってきた時、幕の外から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ふわぁ~……よく寝たわ。瀬良~、そろそろ会議終わった?ちょっとお腹空いたんだけど~」
それは眠そうな少女の声だった。
白狐はその声を聞いた瞬間ビクリと尻尾を震わせると慌てて瀬良から離れ、再び狐の面を被る。
「じ、じゃあねお姉さん達!リラックス出来たでしょ~?戦いなんて忘れちゃいなよ!」
「なっ……ま、待てっ……!!」
足早にそう言うと白狐は指を組むとドロンと姿を消した。
後に残されたのは地面に寝そべる瀬良と武将達。静寂に包まれる中、陣幕が捲られる音が響き渡る。
「……アンタ達なにやってんの?」
倒れ伏す瀬良達を見て信葉は怪訝な表情を浮かべると、瀬良は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染め上げた。
なんという失態。主君にこんな姿を見せてしまうとは。
しかし真に恥ずかしいのは……
「瀬良様、意外と可愛い声出すんすね……」
武将の一人がそう呟いた。
武将達の前で男の愛撫によって生娘のように喘ぐ姿を晒してしまったのだ。(生娘だが)
羞恥心と屈辱で瀬良は頭がどうにかなりそうになる。
「…………」
瀬良は無言でキッと武将達を睨むと彼女達は目を逸らし黙ってしまった。
「(おのれあのキツネ……!許さん……!絶対に殺してやる!!)」
瀬良はそう心に誓うのであった。
一方その頃、白狐はというと……
「ふぅ、これで少しは仲良くなれたかな?」
砦に帰ろうと額の汗を拭い爽やかに笑みを浮かべながら走る白狐。
白狐の作戦その一・スキンシップをして仲良くなろう作戦。
結果は上々。彼女達も白狐の事を多少は信用してくれただろう。やはり身体を直接交じ合わせなければね。
「それにしても……あのお姉さん凄かったな……」
白狐は先程の光景を思い出しながら一人頬を緩ませる。
あの凛とした雰囲気の美女が快楽に溺れる姿はとても官能的で美しい。あれはきっと彼女の新たな一面に違いない。
「次はもっと仲良くなれるかな~」
白狐はうっとりした様子でそう呟く。
瀬良の本心をしらぬまま、白狐は一人次の策を練っていた。
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9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
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