貞操逆転世界に産まれて男忍者として戦国時代をエッチなお姉さん達に囲まれながら生き抜く少年のお話♡ 健全版

捲土重来(すこすこ)

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本編

41.「戦って死ぬのも焼け死ぬのもどっちも同じだよ。人数差は一目瞭然だし、どうせ死ぬなら貴女達も巻き添えにして死にたいなぁ」

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「ふむ……これはまた面倒くさい所に山砦があるもんだ」


瀬良は山の頂き付近に聳え立つ砦を見てそう言った。途中マキビシ……ではなく金平糖による行軍の遅延があったが、なんとか日暮れ前には山の頂上が見える所まで辿り着けた。

しかしそこで信葉軍が目にしたのは山砦。山頂の平地をぐるりと囲んだそれは明らかに人の手で作られたものであった。
堅牢とまではいかないもののしっかりと造られたであろうその拠点は、さながら天然の要塞と言えよう。


「こんな所に砦があったのね。逃げた奴等はここにいるのかしら?」


信葉の言葉に瀬良がこくりと頷いた。


「忍者一人ならばともかく行軍で疲れ切った軍が逃げ切れる訳がありませんからね。恐らくはここに籠もっているのでしょう」


そんな瀬良の言葉を証明するように砦からは煙が立ち上っていた。飯の準備をしているのか、それとも何かの作業中なのか。
どちらにせよ信葉軍にとってはあまり良い状況とは言えない。湾織波の本隊に合流しなければならないというのにこんな所で足止めを食らう訳にもいかないのだ。
しかし力攻めするにはあの砦は些か厄介な立地だ。時間を掛けたくないからといって無理に攻めればこちらの被害は大きくなる。


「ここは慎重に攻めるべきかと。あの砦は見た目以上に堅牢……更に相手は忍術を使う手練れです。まずは陣を張って……んん?」


瀬良が横にいる信葉にそう言おうとするがそこにいる筈の信葉はいなかった。
まさか、と思い前方を見ると案の定信葉は砦に向かって走り出していた。


「さぁ!!掛かってきなさいキツネ忍者!!織波信葉が相手をしてやるわ!!」


瀬良は絶句した。何処の世界に敵が待ち構えている砦に一人で突っ込む大将がいるのか。


「の、信葉様を御守りしろ!」


慌てて兵士達に指示を出すが、英傑の脚に追い付ける筈もなく信葉は一人突出する。
そんな信葉の突撃に砦から迎撃の矢が放たれた。


「はぁーっ!!!」


信葉が腰に差していた刀を抜くと、飛来した無数の矢を斬り捨てていく。その動きはまさに人間離れしており次々と飛んでくる矢を正確に斬り落とし、時には避け、信葉はその勢いを一切緩めなかった。


「この程度?この程度で私を止められると思ってるの?」


信葉が不敵な笑みを浮かべると、砦から一人の影が飛び出してきた。


「おぉっと!これ以上近付くと危ないですよ~!とんでもない事になっちゃいますよ~?」


出てきたのはキツネの面を被った忍者……白狐である。
その姿を認めた信葉は口角を上げた。


「来たわね、キツネ忍者!さぁ、今度こそ尋常に勝負よ!!」


信葉は刀を構えると白狐に向けて駆け出した。
だが白狐は頭をポリポリとかいて困ったような仕草をする。


「うーん、でももう夕方だし今日はやめにしない?夕ご飯も作らないといけないし……」


およそ戦場には似つかわしくない白狐のセリフに信葉は一瞬動きを止める。だが間を置いてからギロリと白狐を睨み付けた。


「夕飯の心配はしなくていいわよ。アンタをぶっ殺してキツネ鍋にしてやるから」


殺気の籠もった信葉の気迫に白狐は背筋も凍る思いであったが、ここで引くわけにはいかない。
何故なら彼女の気を引くのが白狐の役目であり、それが自軍の損害を一番減らせる方法だと分かっていたからだ。


「こ、こわ~い!そんな野蛮な人は……穴に落ちちゃえ!!」


白狐がそう言うと同時に信葉の足元が崩れ落ちた。


「なっ!?」


罠か!と思った時にはもう遅く、突然足場を失った信葉は体勢を崩すとそのまま落下していく。
ついでに信葉を追ってきた兵士達も巻き込み、落とし穴はどんどん大きくなっていく。


「お、落とし穴が広がっていくぞ!逃げろ!!」

「ひぃぃ!!このままじゃ生き埋めになる!!」


次々に穴に落ちていく兵士達。瀬良はそれを見て顔を歪め、慌てて信葉達の無事を確かめに穴の際まで走ってきた。
通常このような罠には竹槍などが敷き詰められており、落ちた人間を串刺しにするのが常套手段だ。
英傑たる信葉には竹槍なんてものともしないだろうが常人である兵士は全滅だろう。


「信葉様!ご無事で……ん?」


穴の中の凄惨な光景を予想していた瀬良の目に映ったものは……枯れ葉が敷き詰められた穴の底でポカンとした表情で固まっている兵士達だった。


「なによこれ。お粗末な落とし穴じゃない」


穴の中で腕を組み上を見上げる信葉。彼女の言う通りお粗末な罠である。竹槍どころかご丁寧に枯れ葉が敷き詰められており串刺しどころか枯れ葉クッションで怪我一つしていない。
罠を造り込む時間が無かったのだろうか?いや、ならば葉っぱを敷き詰める必要などない。まるで怪我をしないようにと配慮しているかのようなその罠に信葉達は首を傾げる。

そんな不思議な感覚を覚えつつも信葉が辺りを見渡すと、そこには忍者が笑みを浮かべて立っていた。


「あ~あ、だから言ったのに。とんでもない事になるって……」

「こんなちゃちな穴に落ちたところでなんでもないわ。こんなのひとっ飛びで……ッ!?」


信葉の言葉が途中で途切れた。
白狐の掌の上に浮かぶ火の玉を見た瞬間、嫌な予感が信葉を襲ったのだ。


「英傑の貴女はそんな穴ひとっ飛びだろうけど……常人の人達はどうでしょう?その枯れ葉、すごい燃えやすいから心配だなぁ」


白狐の言葉に信葉はハッとして穴の外にいる瀬良を見る。すると瀬良は目を大きく見開きワナワナと震えていた。


「ま、まさか……!!」


瀬良の顔色が変わったのを確認した白狐はニヤリと笑うと指先をパチンと鳴らし火の玉をゆらゆらと操作する。


「この火の玉は狐火と言って一度燃えたら消えないんです。身体が燃え尽きても、魂まで燃やすと言われているくらいだから……」


その場にいる全員がゴクリと息を飲む。
あれが穴の中に放り込まれたら落ちた者達は信葉を除いて全員が焼け死ぬだろう。
兵士達はあまりの恐怖に腰を抜かし動けず、瀬良はなんとかしようと必死に策を練る。


「……ハッタリだ。こんなところで火の手をあげたらその砦は勿論、この山そのものが消し炭になる。そうなったら……お前達も全員、焼け死ぬぞ」


なんとか絞り出した瀬良のその言葉に、白狐は不敵に笑いながら指先でくるくると火の玉を回転させた。


「戦って死ぬのも焼け死ぬのもどっちも同じだよ。人数差は一目瞭然だし、どうせ死ぬなら貴女達も巻き添えにして死にたいなぁ」

「き、貴様……ッ!」


白狐のあまりの狂った考えに瀬良は歯噛みする。しかしどれだけ考えてもこの状況を覆す手立てがない。
信葉はジッと白狐の目を見つめているだけだった。


「ふぅん、そういう事」


信葉は何か納得したように呟くと、ゆっくりと刀を納めた。それを見て白狐は満足げに口角を上げる。


「で、望みは?」

「察しが早くて助かります。では、今日のところはこの砦を攻撃せずに引き揚げてください。山から撤退しろとは言いません。我々を見逃せともね。ただ今日だけ引き下がってくれるだけでいいんです」


白狐の放った言葉に瀬良は訝しんだ。それは信葉も同様であり、白狐の真意を探ろうと口を開く。


「それだけ?」

「うん、それだけです。約束してくれなら火なんて点けないし、引き揚げてる途中にこちらから攻撃なんてしないよ」


白狐はニッコリと笑ってそう言う。
信葉は少し考えた後、小さくため息をついた。


「はぁ~…。ま、今回は考え無しに突っ込んだ私が馬鹿だったわね。いいわ、今日は引き下がってあげる。ただし明日からは覚悟しておくことね」


信葉から放たれる濃厚な殺気に押されつつも白狐はなんとか平静を装い笑顔を作る。


「うん、勿論。でも、こちらも容赦はしない。その時こそ……全力で迎え撃つよ」


白狐がそう言うと信葉はフッと笑みを浮かべる。そして、一言告げると跳躍すると穴の外に着地した。


「瀬良、穴に落ちた兵士達を救助しなさい。それから陣を張って砦を包囲するわ」

「信葉様は奴を信用するのですか?」


敵の言う事……それも任務の為なら外道にも成り下がる忍者の言う事など瀬良は信じられなかった。
ああ言っておいて救助作業中に砦から一斉に攻撃されるかもしれない。そうなったら大損害を被る事になる。
そんな瀬良の言葉に信葉は苦笑いしながら答えた。


「まさか。微塵も信用しちゃいないわ。燃やすだなんてのもハッタリみたいだし」

「え?」

「あのキツネが出した狐火とやら、あれは幻影の火よ。熱くもなければ燃えもしない。まぁ本物の炎も忍術で出せるんでしょうけど……わざわざ偽物の火で脅すなんて、あのキツネは私達を燃やす気なんてハナからなかったのよ」

「……な、なんですと?」


瀬良は驚愕するが信葉の言っている事は本当だった。白狐の掌の上で揺れる狐火は幻影であり、物を燃やすほどの熱量はない。
信葉と瀬良に見つめられていると気付いた白狐はテヘヘと笑いながら狐火を放り投げ、二人の足元に落とす。
瀬良は地面に転がった狐火を恐る恐る触るが信葉の言う通り全く熱く無かった。むしろひんやり冷たいくらいである。
その内に狐火は小さくなっていき最後にはポンと音を立てて消えてしまった。なるほど、これでは枯れ葉を燃やすなどできはしまい。


「くっ……まんまと騙されたか……!しかし信葉様は分かっておられながら彼奴の要求を飲んだので?」

悔しげに顔を歪める瀬良。だが信葉はそんな瀬良の肩にポンと手を置くと、不敵な笑みを浮かべて言った。


「えぇ、だってそっちの方が面白そうだもの」

「……はい?」


瀬良がポカンとした表情をしていると信葉はくすりと笑って言葉を紡ぐ。


「キツネ……いや、その後ろにいる奴がどんな作戦を立ててくるのか、それが楽しみなの。この私を以てしても理解しきれない、その考えが」


その言葉を聞いた瞬間、瀬良は思わず目を見開いた。それはつまり、この英傑が誰かに興味を抱いたという事だ。
今まで誰一人として興味を持たなかった信葉が、たった一人の忍者と、その背後にいる人物……つまり敵方の指揮官に興味を持ったという事に瀬良は驚きを隠せない。


「瀬良、明日から砦攻めよ。明日に備えて陣を構築するわよ」


信葉はそれだけを言うと踵を返し、その場から離れていった。
残された瀬良は暫くの間、呆然としていたがすぐに我に帰ると慌てて信葉を追いかける。


「信葉様。あまり時間を掛けると秀菜様の軍との合流に間に合わなくなりますが」

「猶予は?」

「数日が限度かと。宗軍の進軍速度が予想より早いとの連絡がありましたので」

「充分よ。それまでに決着がつくでしょう」

「……では、そのように」


瀬良は深々と頭を下げると信葉に一礼して去って行った。
信葉はくるりと砦の方を見ると一人呟くように言った。


「さぁ、見せてもらおうじゃない。貴女の考える策ってのを」


―――――――――



「ふぅ……ふぅ……」


白狐は落とし穴に落ちた兵が救助され、約束通り兵を引き揚げたのを確認すると息を切らしながら砦の中に入っていった。
そこには大勢の兵士達が白狐を出迎える。その中には村長もいて彼女達は安心した様子で白狐に駆け寄ってきた。


「作戦通り、今日は退いてくれたよ」

「流石白狐だべ!」


白狐の言葉に村人達が歓声を上げる。
白狐はニコッと笑うと懐から一枚の紙を取り出した。それは白狐が信葉達との会話中に描いた物であり、白狐は皆に見せる為にそれを掲げる。
そこに描かれていたのは信葉と瀬良の似顔絵であった。狐狸流忍術・神速筆……文字や絵を描くスピードを劇的に向上させる術であり、白狐はこの術で素早く絵を描いたのだ。


「これは敵の英傑の似顔絵だよ。この二人は強いから出会っても逃げるように!」


白狐の言葉に全員が力強く返事をする。その様子を見た白狐は満足そうに微笑むと兵士達の顔を見て口を開いた。


「じゃあ今日はみんなゆっくり休もうね。明日からは忙しいから」


そうして各々が寝床に向かう中、白狐は兵士達と別れると村長と二人きりになった。


「白狐くん、今日は本当にありがとうございます。貴方がいなければ我々は全員助からなかったかもしれません」

「ううん。僕はみんなが無事ならそれでいいんだよ」


白狐のその言葉に村長は申し訳なく思った。こんな小さな身体で自分達の為に戦ってくれているというのに自分は何も出来ない。
せめて彼に報いる為にも自分の出来る事を考えなければならないだろう。そう考えた村長はある計画を立てていた。


「白狐くん。これからの事ですが……」

「なぁに?」

「実はこの砦には食料があまりありません。よくて数日分……なのでその間に我々の行く末を決めなければなりません」

「食べ物がないんだ……」


300人という人数の食料となるとかなりの量が必要になる。確かに半ば打ち捨てられていた砦に大量の備蓄がある筈もなく、むしろ数日分もよくあったものだ。


「しかし安心して下さい。私は皆さんを絶対に助けます。餓死も、戦死もさせません」


村長はそう断言した。
援軍の望みも薄く、食料も心許ない。相手は多勢と絶望的な状況だが、彼女の目に諦めの色はなかった。
そんな村長を見ていると白狐もなんだか安心する。彼女には不思議な魅力があった。


「そこで白狐くんに頼みたいのですが、極力相手方に死人を出さないように立ち回ってほしいんです」

「え?」


村長の言葉に白狐は首を傾げた。それは一体どういう意味なのか?
そりゃ勿論白狐も無駄に人を殺したくない。相手が女性ならば尚更だ。だからその提案には賛成ではあるのだが、村長の真意を測りかねる。


「そして、これは難しいかもしれませんが……出来るだけ相手と仲良くして欲しいんです」

「……えぇ!?」


その言葉には流石の白狐も驚いてしまった。
こちらを殺す気満々の敵と仲良くしろなんて、無茶にも程がある。何故そんな事を頼んでくるのか、その意図が分からず白狐は困った顔を浮かべた。


「えっと……どうしてか聞いていい?」

「ごめんなさい、まだ言えません。無理難題を言っているのは分かっています。ですが、どうかお願いします」


頭を下げる村長。その瞳からは真剣な気持ちが伝わってくる。どうやら彼女は本気で白狐にその依頼をしているようだ。
白狐は暫く黙っていたがやがてコクリと小さく首肯すると了承の意を示した。


「出来るかどうか分からないけど……やってみるよ」

「……!ありがとうございます!」


嬉しそうな表情を浮かべる村長。白狐はその笑顔を見ると不思議とやる気が出てきた。


「(仲良くなる……なら、もうあの方法しかないか)」


白狐は拳をギュッと握り締めて決意を固める。
村長の考えは分からないが、自分は彼女を信じると決めた。ならば彼女が言った通りにしよう。

明日からは本格的な攻撃が始まる。今晩はしっかり休まねば。
白狐は明日の作戦を頭の中で組み立てながら夕日が落ちていくのを眺め続けていた。
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