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本編
33.「んなぁ〜……♡」
しおりを挟む小領都の周辺に屯する徴兵されてきた農民達。街には入れないが流石に食事は配給されるらしく、現在白狐達がいる所では炊き出しが行われていた。
腹が減っては戦はできぬ……という諺がこの世界にあるかは分からないが、白狐達は街の外で支給された握り飯を食べている最中だ。
「わはははは!いやぁ~まさか俺が負けるとはなぁ!」
そんな中、大笑いしながら村長の隣に座っている女が豪快におにぎりを頬張っていた。
力丸である。彼女はその巨体を揺らし愉快そうに笑い村長の肩に腕を回している。
あれだけ圧倒的な力の差を見せつけられて尚、元気そうである。やはり化け物じみた体力だ。
「図太いやっちゃなぁオメェ」
喧嘩を売りに来た相手……しかも鎧袖一触で倒された相手にここまで馴れ馴れしくできるとは、到底真似できない。村人達は半分呆れつつ力丸と飯を囲んでいた。
村長は嫌そうな顔一つせず、力丸に笑顔を向けている。
「お怪我がなくてなによりです」
「へっ、あんくらいじゃ怪我もしねぇよ。しかし……村長さん、アンタ一体何もんだよ?俺を片手で投げ飛ばすなんて並の人間じゃないぜ?」
力丸の言葉に村長は柔和に笑うばかりだ。彼女の戦闘能力の高さは確かに白狐とて気になるところではある。
しかし碧波村の皆にとっては周知の事実のようで、村人達はさも当然のように話していた。
「だから言ったべよ。うちらの村長は強いって」
彼女が何者なのかは分からないが、白狐のやる事は変わらない。村長と村の皆を守って無事に碧波村に帰還するだけだ。
それに強いとは言っても白狐には及ばないし妖怪にも勝てないだろう。だからこそ村長は妖怪退治を白狐に頼ったのだ。
「しかし力丸殿も中々いい身体をしているでござるな。貴殿も只の御仁には見えないでござるよ」
白狐は力丸に話しかける。力丸に絡まれている村長を助けるというのもあるが純粋に彼女の鍛え上げられた肉体に興味があったからだ。
力丸はおや、と白狐をまじまじと見つめる。三尾の白い尻尾と、狐耳を見て興味深そうに顔を近づけた。
「オメーは……半化生の忍びか。中々分かってるじゃねぇか、俺の自慢の筋肉はそんじょそこらの奴には負けねーからな!」
力丸はニカッと笑みを浮かべ、白狐の背中をバシバシ叩く。普通の人間ならば衝撃で内臓を口から吐き出しそうな威力だ。
やはり戦闘力100は伊達ではないらしい……
「力丸殿は名のある武士か何かでござるか?」
「武士ぃ?わはは、俺の何処がお侍に見えるってんだよ!」
確かに彼女の身なりは武士には見えない。如何にも農民といった少々見窄らしい格好だ。
だがその体格は間違いなく戦闘に特化した戦士のもの。農民にしておくには勿体無い肉体だ。
「俺は農民だよ。ただ何回も戦に出て、運良く生き残っただけの女さ」
そう言いながら力丸は少し寂しげな表情を浮かべる。
戦に出た経験が何度もあるということは……きっと沢山の人間が死ぬ場面を目にしてきたのだろう。
そして仲間の死も……
「力丸、オメさは戦で何回も生き残ったらしいけんども何か生き残る秘訣みたいなのはあるんか?」
村人の一人が力丸にそう尋ねた。その問いに力丸はう~んと首を傾げる。
「そうだなぁ、俺が生き残れたのは……まぁ、俺が強いのもあるけど一番は"運"だな」
その言葉に握り飯を頬張っていた女達の動きがピタリと止まる。
運―――
力丸のような強靭な肉体と強さを持った女をして生き残るには運が必要と言わせるとは、戦場というのはそれほど過酷なのだろうか……
「そもそもの話だ。戦で死ぬ時ってのはどんな時だと思う?」
「そりゃ槍で突かれたり矢を受けたりした時だべ」
「確かにそれもある。だが一番多い死因……それはな、化け物同士の戦いに巻き込まれる事なんだ」
化け物?何かの隠語だろうか?
白狐や女達が怪訝そうな表情を浮かべる。だがそれを意に介さず力丸は続けた。
「化け物っつっても別に妖怪の事じゃねぇぞ。れっきとした人間だ。だが、そいつらは普通じゃねぇんだ。常人とは一線を画す身体能力を持ってる。奴等が刀を一振りするだけで何十人もの人間が死ぬ。奴等が弓を引く度に何百もの兵士が倒れる。戦場にはな、そんな奴等がいるんだ。俺が今まで生きていられるのは……そいつ等の攻撃に巻き込まれなかったからだ」
力丸の言葉に村人達の顔色が青くなる。彼女達は自分達の想像の遥か上をいく現実を垣間見てしまったようだ。
「英傑……ですか」
力丸の話に静まり返る中、村長がポツリと呟く。
「おぉ、村長さんは知ってるようだな。そう、奴等は"英傑"って呼ばれる正真正銘の化け物さ」
「(英傑……)」
英傑と聞いて、白狐の脳裏にかつて幻魔が言っていた事が思い浮かんだ。
常人を遥かに凌駕する身体能力を持ち、強大な力を持つ存在。そして優れた英傑に率いられた常人は時として半化生すら上回る力を発揮する……
いつか対峙する事になるとは思っていたが、もしかしたら今回の戦で会う事になるかもしれない。
「まぁ今言ったような化け物みてぇな英傑は数も少ないしそうそう出会うもんじゃねぇが……英傑の血が混ざってる奴等は結構見かけるから注意しろよ?」
「血が混ざってるってどういう事だべ?」
「英傑の血が混ざった人間……つまり英傑の親族ですね。武家の当主が強力な英傑の場合、大抵その家族や親戚の家臣達も英傑の如き力が顕現するのです」
村人のそんな疑問に答えたのは村長であった。
彼女は先程と変わらず柔和な笑みを浮かべているが、どこか悲し気な雰囲気を感じる。
白狐は彼女が何故そんな表情をしているのか分からず、思わず村長を見つめた。
「おいおい、やけに詳しいじゃねぇか村長さんよ。アンタもしかして戦に出た事あるんじゃねぇのか?」
「ふふ、どうでしょうね」
力丸の言葉に村長は微笑むばかりだ。
しかし、その笑みは力丸に図星をつかれて焦っているように白狐には見えた。
「まぁ兎に角だ。立派な鎧を着てたり馬に乗った武者は大体が地位の高い、英傑の親族の場合が多い。見掛けたら相手にしないですぐさま逃げるこっちゃな」
そう言い、わははと笑う力丸。彼女はそれを身を以て知っているのだろうがそれを笑いながら話せると言うのは彼女の胆力の強さを物語っている。
「力丸さんの言う通り英傑も確かに注意すべき存在ですが、他にも警戒するべき存在がいます……」
村長はチラリと白狐の方を向いた。
それに釣られて力丸や他の者達も白狐の方を見る。
急に視線が集中したので白狐は狐耳をピクッと動かし、尻尾をピンと伸ばした。
「ぼく……じゃなくて拙者でござるか!?」
まさか自分が話の種になると思っていなかった白狐は驚きの声を上げる。
「い、いえ。白狐くんの事ではありません。それはですね……」
「あぁ、半化生の忍び共も厄介な相手だったな」
村長が言い終わる前に力丸が口を挟む。
「半化生つっても色んな奴がいるから強さはピンキリだがな。下忍相手ならまぁなんとかなるかもしれんが中忍以上になると英傑の血が混じった奴等じゃねぇと太刀打ちできないだろうよ」
そう言い力丸は白狐の頭に手をポンと置く。
元々背が低い白狐だが巨躯の力丸と並ぶとまるで大人と赤ん坊のような身長差である。
力丸の手は大きくてゴツゴツしているが不思議と嫌な感じはしなかった。
「んなぁ~……♡」
頭を撫でられた白狐は気持ち良さそうに目を細める。その様子を見て力丸は満足げに笑うと、今度は白狐の身体を持ち上げ肩に担いだ。
「半化生ってやつも過酷なもんだな。こんなちっこいガキでも戦に出ちまうなんてよ」
何故か力丸に担がれた白狐だったが力丸の肩の上は意外にも居心地が良く、そのまま身を預けていた。
彼女の上にいるとなんだか自分までおっきくなったような錯覚さえ覚え、景色もいつもより高く見え絶景だ。
「力丸殿は大きいでござるねぇ!」
彼女は子供には優しいのだろう、白狐を見る力丸の目は何処までも優しかった。
「わはは!お前が小さすぎんのさ!そんな男みたいな華奢な身体じゃこれから大変だぞ?」
力丸の口から"男"という単語が出てきた瞬間、白狐と村長達の身体がビクリと震える。
白狐は今現在、狐の面と黒装束を纏っている為に性別が見ただけでは分からない。
それを利用し、村の外では白狐は女として振る舞う事にした。白狐としては男のままで通したかったのだが村の皆が頑なに女の振りをしろと言うものだから了承したのである。
曰く村の外に男のまま出たら変態女達に襲われるとかなんとか……。どこかで聞いた文言だが、面倒がない方がいいのは確かだろう。
「ちゃんと食ってんのかよオメェ?胸もねぇし、腰回りも細すぎるぞ?」
そう言いながら力丸は白狐の尻をペシペシッと叩く。
白狐の臀部は肉付きが悪く、力丸の大きな手に収まる程の大きさしかない。まるで貧弱な"男"のようだと力丸が思うのも無理はなかった。
その内に力丸の手は白狐の股間へと向けられガシッと股間を掴まれる。いきなりの感触に白狐は喘ぎ声に似た悲鳴を上げた。
「ひゃうん!?♡」
「オメコも丈夫じゃねぇと男は寄って来ねぇぞ!?男ってのはなんだかんだ言って強い女が好き……ってなんだこの感触……?」
ムニュムニュと白狐の股間のモノを揉みしだく力丸であったが、すぐに違和感を覚えたのか訝しげな表情を浮かべる。
女にはない謎の柔らかい感触が力丸の手に伝わってくるのだ。
「うにゃあ!♡ふにゃあ!♡」
無論それは白狐の金玉であるのだが、力丸の指使いは力強いだけでなく巧みであり白狐は初めての感覚に翻弄される。
しかしそれを見ていた村の者達は不味い、といった表情を皆一様に浮かべ慌てて白狐を力丸の肩から奪い去った。
「び、白狐は半化生だから人間とは違ったものが股間に付いてるのよ!」
「はぁ?なんだそりゃ。前にも尻尾みてぇのが生えてんのか?」
「実はそうなんだべ!半化生ってのは不思議だなぁ!?あはは……」
力丸に玉を揉みしだかれた白狐はハァハァと荒い息を吐き、頬は紅潮している。
そんな白狐を他の村人達は力丸から隠すようにバトンタッチで受け渡しをしていた。
「と、ところでオメーはなんでオラ達に喧嘩売ってきたんだ?その癖こうして一緒に飯食ってるしどういう事だよ?」
話を無理やり変える為に村人の一人が唐突にそう言った。それに対し力丸は笑いながら答えた。
「わっははは!!いやなに、実は強い仲間を探しててよ!適当な奴に聞いたら碧波村から来たって奴等が強そうって口を揃えて言うじゃねぇか。だから本当に強いか確かめようと思ったのよ!」
「んな乱暴な……」
「そうしたら俺の予想を遥かに超える御方……村長さんがいるじゃねぇか!後お前らも普通の農民より強そうだしこりゃ背中を預けるには充分だなって思ってよ!」
「背中を預ける……ですか」
「おうとも!」
力丸は村長の肩に手を置き豪快に笑った。
「俺はよぉ、戦に出るなら信頼できる奴とじゃねぇと組まねぇんだ。前の戦じゃ俺以外全員死んじまったからな!だからこうして仲間を探してた訳よ!」
さらりと悲惨な事を言う力丸だが、彼女は全く気にしていないようだ。
「んな訳でこれからよろしくなオメェら!俺が来たからには百人力だぜ!」
「当たり前のように仲間に入る気満々ですね。でもまぁ、私は別に構いませんよ。むしろ戦力が増えて助かります」
「せ、拙者も力丸殿のような頼れる方が……ハァハァ♡いてくれるのは心強いでござる……ウッ♡」
白狐は火照った頭で力丸が仲間に加わってくれるのは有り難いと考えていた。
何しろ戦闘力100という人物だ。文字通り百人力であろう。彼女がいたら碧波村の皆も生き残りやすいだろうし……
何より筋骨隆々とした巨体からは想像出来ない繊細な指使いが気に入った。彼女の愛撫を全身で感じたい……味わいたい……♡
戦働きの期待半分、煩悩半分で白狐は彼女に好感を持っていた。
そして碧波村の村人達も村長と白狐が言うなら……と了承したようだ。なんだかんだ言って力丸のような強者が加わってくれるのは嬉しいのだろう。
「よっしゃあ、決まりだな!これからよろしく頼むぜ!」
力丸の豪快な叫びが草原に響き渡る。
その声に紛れて白狐の艶めかしい吐息が漏れていたが、誰もそれには気付かれなかった。
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