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本編
32.「力丸さん、と言いましたか。私が相手になりましょう」
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蒼鷲地方は大小21の小領に分けられている。その内の一つが碧波村が属する小領は第6小領と呼ばれ蒼鷲地方の北に位置する山々に囲まれた辺境だ。
第6小領は本来、北の龍ヶ峰地方からの侵略に対抗する為の小領地なのだが、今回は同じ地方内での争い。
他領地に備えられていた軍備は皮肉にも同じ領内に住まう同胞に向けられるという事であった……
―――――――――
白狐達を含めた徴兵された女達は小領都が見える位置まで来ていた。
「わぁーここが小領都かぁ!」
白狐はこの世界に来てから初めて見る都会に語尾にござるを付け忘れる程に感動していた。
無論前世で見ていた大規模な都市とは比べ物にならない。だがそれでも村の何十倍、何百倍もある広大な街並みに彼は目を輝かせていた。
行き交う人や荷車、店先に並べられた様々な商品、そして中央にある巨大な建物……
今まで田舎にしかいなかった白狐にとって全てが新鮮であった。
「ほぇ~大きい村だべ~」
そしてそれは碧波村の皆や他の村から徴兵されてきた女達にとっても同じ事で、彼女らは初めて訪れた都市に皆一様に驚き、興奮しているようだった。
白狐達はワクワクしながら小領都に向かって歩を進めようとする。だがもう少しで街に入れる……というところで先導していた女侍がくるりと振り返り言った。
「よし、ではここがお前達の野営場所だ!各自荷物を置いて出陣の刻まで待機するように!」
「……へ?」
その言葉を聞き白狐は呆然とする。目の前に街があるのにこんな何にもない原っぱで野営?
街の屋根付きの寝床で休めると思ったのに……白狐はがっくりと耳と尻尾を下ろす。
まぁ確かに、こんな何百人もの人数がいきなり街に入っても混乱が起きるだろうし収容する家屋もないだろうから仕方がないのかもしれないけど……
白狐は渋々といった様子で他の女達と共にその場に腰を下ろした。
よく見ると白狐達の軍勢の他にも徴兵されてきた女達の集団が小領都の近くで野営の準備をしていた。
軽く千人は超えるであろう大軍勢に白狐は圧巻されながらもこれじゃ街に入れる訳がないと納得した。
「出陣は恐らく明朝になるだろう。それまではここで休息を取ってくれ」
女侍はそう言うと部下の女達と一緒にその場を離れていった。
白狐はため息をつくとごろんと横になった。
「折角街があるのに入れないなんて残念だなぁ……」
「だべだべ」
村の皆も白狐に習い、思い思いに休憩を取る。
何しろ明日からは行軍が始まるのだ。休める時にしっかり休まねば身体が保たない。
幸い地面は草で覆われており柔らかい為、寝ても背中が痛くなる心配はない。
「白狐くんも疲れたでしょう。さぁ、休みましょう」
村長も重装鎧を脱ぎ、地面に敷いた布の上に座った。鎧から解き放たれた爆乳がぷるんっと揺れ、立派な谷間が覗く。
白狐はそれを目で追いつつもここに来るまでの道中を振り返っていた。碧波村からここにくるまで数日掛かったが、村長は重そうな鎧姿のまま山道を平気で登ったり、下りたりしていた。
しかもその間、全く疲れた様子を見せない。
確かに彼女は他の村人よりタフだとは知っていたが、それにしても体力があり過ぎる。
白狐はそんなことを考えながら「うん」と返事をして横に座り、吹き抜ける風を肌に感じつつリラックスする。
とてもこれから戦に行くとは思えない程の穏やかな時間が流れていた。そんな中、白狐はふと母である幻魔から貰ったビー玉の存在を思い出す。
『そのビードロ越しに生き物を見ると相手の内在する力が見えるのじゃ……』
敬愛する母が折角作った代物だというのに全然使っていなかった。妖怪と戦う時はそんな余裕が無かったし……
しかし今こそが使い時ではないか?戦の前に皆の強さが分かっていれば、心構えが出来るというもの。
白狐はそう思い荷物からビー玉を取り出しガラス越しに徴兵された女達を眺める。
「ふんふん……」
ビー玉に映し出される数字とその単位。
単位は大福や桜もちといった比較しようがないものばかりだが、数字はある程度似通った数値ばかりだった。
どうやら普通の女性の戦闘力の数値は5前後……少々体格が良くて強そうな女の人は10前後といったところだろうか。
大体5~10の間が平均的な人間の強さだと思ってよさそうだ。……ちなみに白狐の強さは二尾の時点で1200、三尾である今現在は1万を超える戦闘力である。
そう思うと自分は普通の人間と隔絶した強さを持っているんだな、と改めて実感した。
それと同時に妖怪達が如何に人間にとっての脅威なのかも理解する。戦闘力1万の自分でさえ危険に晒される程に妖怪は強いのだ。普通の人間が適うわけがない。
「あれ?」
暫くビー玉で辺りを見渡している内に気になる事があった。
それは白狐と共に来た碧波村の村人達の数値だ。他の村の女達の戦闘力は5~10なのに対し、碧波村の女性の数値は20前後と平均よりもかなり高い数値だったのだ。
「戦なんて初めてだべ……怖いけど頑張らないと」
「白狐が一緒なら大丈夫だよ、きっと!」
碧波村の面々は見た目も普通だし、特段他の村の農民と境遇も変わらない筈だ。それが何故こんなにも高いのか。
そう言えば彼女達は最近身体が妙に軽いやら力が付いたとか言っていたような気が……
「おや、白狐くん。綺麗な玉ですね。宝物ですか?」
不意に横にいた村長から声を掛けられた。
白狐は反射的にビー玉を覗きながら村長へと振り向く。
「!?」
そこには驚愕の数値が表示されていた。
文字通り桁が違う数値に白狐は思わず二度見してしまう。
白狐は再度確認するも、やはり間違い無くその数値という表示がされている。涼し気な顔をする彼女からは想像も出来ない程の戦闘力の高さであった。
一体どんな鍛え方をすればこんな数値を叩き出せるのだろう? 白狐は不思議に思って村長の身体をまじまじと観察する。
おっぱいが大きい……それしか目に入らない……
もしかしてこのビー玉はおっぱいスカウターなのではないか。白狐がそう思ったその時――
「び、白狐くん……そんなに見つめられると恥ずかしいのですが……」
村長が伏し目がちに頬を染める。
その表情は普段の凛々しい顔立ちとはまた違った魅力があり、白狐はドキリとした。
「あ……ごめんなさい!」
白狐は慌てて目を逸らすと謝る。確かに女性の胸を凝視するなんて男として最低の行為だ。
白狐は申し訳なさでいっぱいになりながらも、どうしても気になって仕方がない。
そんな時ポツリと村長が呟いた。
「やっぱり嫌ですよね、こんな大きな胸……」
自虐するように呟かれたその言葉。それを聞き白狐はハッとある事を思い出した。
この世界の男子はおっぱいが好きではないという事を……
白狐からすれば理解し難い思考なのだが、何でもおっぱいが大きければ大きいほど女子の魅力が下がるらしい。
なんて馬鹿な世界だと白狐は憤った。おっぱいがあるからこそ赤ちゃんは健康に育つんじゃないか。
それを嫌うとはこの世界の男は馬鹿だ。そう断じざるを得ない。
「そんな事ないよ!おっぱいが大きいのはいい事だよ!」
白狐は立ち上がり、拳を握って力説した。
すると村長は少し驚いたようにこちらを見る。周囲にいた碧波村の皆も白狐に振り向いた。
「僕は村長さんのおっぱい、好きだよ。大きくて柔らかくて、温かくて……」
白狐は真剣な眼差しでそう言った。
それを聞いた村長は一瞬呆気に取られたような表情を見せるが、すぐにくすっと微笑むと、
「ありがとうございます。白狐くんは優しい子ですね」
と白狐の頭を撫でてくれた。
白狐はその手に癒されながら、気持ちよさそうに目を細める。
彼女は自分が気を使っておっぱいに対してフォローしたと思っているのだろう。だが今のは白狐の心からの言葉だった。
「白狐はおっぱいが好きだもんな~。村にいた時だってずっとオラのおっぱいしゃぶって……あ、いやなんでもないだ」
ちなみに碧波村の一部の村人達には白狐がおっぱい星人だという事はバレている。
夜這いに来た女達とは互いの性癖を見せ合った仲なので隠す必要もないのだ。
「え?今おっぱいしゃぶって…って言いました……?」
「い、いや違うだよ!」
「そうそう、言い間違いだって!」
当然ながら村長は女達が白狐に夜這いした事を知らない。もしそんな事が知られれば彼女の怒りを買う事になるだろう。
訝しむ村長に必死に誤魔化す村人達。そんな慌ただしい空気の中、突然一人の女が碧波村の輪の中に入ってきた。
「おい!碧波村から来たってのはオメェらか!?」
筋骨隆々な女が凄みを利かせて怒鳴り散らした。
身長は2m近くあり、その肉体は鋼の如く鍛え上げられており、はち切れんばかりの筋肉に包まれている。
白狐が見上げる程に背が高く、肩幅も広い為、威圧感は相当なものだ。
「(大っきい女の人だなぁ)」
すかさず白狐はビー玉で彼女の戦闘力を覗いてみる。そこには100という数値が表示されていた。
これは中々の強者だ。平均値より遥かに高いとは見た目に違わずの戦闘力である。
「そうだど。何か用だべさ?」
威圧的な物言いにも関わらず碧波村の村人達も物怖じせず応じる。彼女達も中々肝が据わっているようだ。
「お、おい……アイツ力丸じゃねぇか?」
「力丸って5回戦場に行って生還してるっていうあの……?」
周囲がざわつき始める。どうやらこの大柄な女は名の知れた人物のようだ。
「俺は力丸ってもんだ!何やら強そうな奴等がいるっつーから見に来たんだが……」
力丸と名乗った女は碧波村の面々を値踏みするように睨め回す。そしてふぅ~んと呟きながらニヤリと笑った。
「ちっこい女共にちっこい半化生……はん、期待外れも甚だしいぜ」
力丸は嘲笑しながら吐き捨てるように言う。
どうやらこの女性は自分達を牽制……いや見下しているようだ。その態度を見て碧波村の面々は眉をひそめた。
「なんだと?喧嘩売ってるだか!?」
「あんまり舐めてると痛い目見るよ!」
だが碧波村の村人達も負けてはいない。彼女達だって覚悟をしてこの戦に臨んでいるのだ。
侮辱された事で村人達はいきり立ち、各々力丸の前に立ち塞がるようにして構える。
それを見た力丸は面白そうに顔を歪め、舌なめずりした。
「はははは!!いいねいいね、その気概気に入ったよ!俺に一撃でも入れられたら仲間に入れてやるよ!」
「仲間だぁ!?いきなり現れて何言ってんだオメは!?」
対峙する村人達と力丸。数ではこちらが勝っているが圧倒的な巨躯を誇る力丸に対して碧波村の女達が勝てるビジョンは全く見えない。
事実、戦闘力でも大きく差を付けられているし、それに加えて村人は戦いに慣れていないのに対し、力丸は戦闘経験豊富な猛者である。
残念だが勝負は見えたようなものだろう。
しかしこのまま見ているだけでは白狐の大切な女性達が傷付いてしまう。同じ軍に属する者同士あまり戦いたくはないがこれは自分が出るしかないだろう……
白狐はゆっくりと立ち上がり、皆の前へと歩み出ようとする。だが、それは村長によって止められてしまった。
「白狐くん。ここは私に任せてください」
「えっ……」
「貴方の力を使うまでもありませんから。ね?」
そう言い白狐にウインクする村長。
白狐は少し迷ったが、結局は彼女に全てを任せる事にした。人間のいざこざに半化生の忍びが介入するのは良くないような気もするし。
それに白狐が先程見た村長の戦闘力。あれが間違いでなければ……心配は全くいらない。
「力丸さん、と言いましたか。私が相手になりましょう」
「あぁん?」
碧波村の女達の前に立った村長は、毅然とした表情で力丸を見上げながら言った。
その言葉に力丸はピクリと反応すると、ギロリと鋭い視線を向けてくる。
「おいおい、真逆一人で俺の相手をするつもりかぁ?全員で掛かって来いよなぁ?」
力丸の言葉に村長は穏やかに微笑むだけだった。それとは対象的に村人達は顔を青くして力丸に詰め寄るように言った。
「ね、ねぇアンタ。早いとこ村長に謝った方がいいよ。怪我しない内に……」
「そうだべ!オメェがいくら強くても村長には敵わないべさ!」
「あぁん……?」
碧波村の女達の言葉に力丸は訝しむような表情を浮かべる。そして村長をまじまじと見つめた後、村長の胴体に向かって拳を振り上げた。
ゴウッと空気を切り裂く音を立てながら村長に迫る巨大な鉄槌のような右ストレート。
普通ならば村長のような華奢な女性が耐えれるような一撃ではない。
―――だが、村長はそれを左手だけで受け止めた。
「……は?」
「あら、なかなかのパンチですね。ですがまだまだ甘い」
「な、なっ……!!」
力丸の顔が驚愕に染まる。
それもそうだろう。今の一撃は並大抵の人間なら吹き飛ばされるレベルの攻撃だった筈なのだから。
それを片手で受け止められるなど、明らかに常人ではない。
「て、テメエ……なんなんだ……!」
「うふふ、私はただの村長ですよ」
そう言いながら、右手に力を込める。
次の瞬間、力丸の身体がふわりと宙に浮いた。
「うおっ!?」
村長はまるで赤子を抱き上げるかのように軽々と力丸の巨体を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。
ズドンッと凄まじい音が響き渡り、大地が揺れる。
「ぐあっ!?」
「これから一緒に戦うのに規律を乱す人にはオシオキです」
それだけで力丸はダウンした。あまりにも呆気ない幕切れに碧波村の面々は唖然として固まってしまう。
成り行きを見守っていた周囲の女達も静まり返っており、辺りは水を打ったようにシーンとしていた。
「ま、参った。俺の負けだ」
地面に仰向けに倒れこむ力丸が発したその一言を皮切りに、周りにいた大勢の女達はわっと歓声を上げた。
「す、すげぇ!あの力丸が手も足も出なかったぞ!」
「何者なんだあの女!?」
「碧波村ってこんなに強い奴等がいるのか……」
「こんなに強い御人がいるなら戦にも勝てるべよ!」
村長や碧波村の村人達の周りに続々と人が集ってくる。どうやら予想以上に観客がいたらしい。
ワーワーと盛り上がる大量の女達に囲まれ困ったような表情を浮かべる村長。白狐は感心しながら彼女を見つめた。
「村長さん、やっぱり強かったんだ……」
正直なところ白狐にはこの勝負の行方が分かっていた。初めから村長が力丸に圧勝すると知っていた。
何故ならば……
白狐はビー玉を取り出しガラス越しに人集りの中心にいる村長を見た。
そこに映る数値は3000であった―――
第6小領は本来、北の龍ヶ峰地方からの侵略に対抗する為の小領地なのだが、今回は同じ地方内での争い。
他領地に備えられていた軍備は皮肉にも同じ領内に住まう同胞に向けられるという事であった……
―――――――――
白狐達を含めた徴兵された女達は小領都が見える位置まで来ていた。
「わぁーここが小領都かぁ!」
白狐はこの世界に来てから初めて見る都会に語尾にござるを付け忘れる程に感動していた。
無論前世で見ていた大規模な都市とは比べ物にならない。だがそれでも村の何十倍、何百倍もある広大な街並みに彼は目を輝かせていた。
行き交う人や荷車、店先に並べられた様々な商品、そして中央にある巨大な建物……
今まで田舎にしかいなかった白狐にとって全てが新鮮であった。
「ほぇ~大きい村だべ~」
そしてそれは碧波村の皆や他の村から徴兵されてきた女達にとっても同じ事で、彼女らは初めて訪れた都市に皆一様に驚き、興奮しているようだった。
白狐達はワクワクしながら小領都に向かって歩を進めようとする。だがもう少しで街に入れる……というところで先導していた女侍がくるりと振り返り言った。
「よし、ではここがお前達の野営場所だ!各自荷物を置いて出陣の刻まで待機するように!」
「……へ?」
その言葉を聞き白狐は呆然とする。目の前に街があるのにこんな何にもない原っぱで野営?
街の屋根付きの寝床で休めると思ったのに……白狐はがっくりと耳と尻尾を下ろす。
まぁ確かに、こんな何百人もの人数がいきなり街に入っても混乱が起きるだろうし収容する家屋もないだろうから仕方がないのかもしれないけど……
白狐は渋々といった様子で他の女達と共にその場に腰を下ろした。
よく見ると白狐達の軍勢の他にも徴兵されてきた女達の集団が小領都の近くで野営の準備をしていた。
軽く千人は超えるであろう大軍勢に白狐は圧巻されながらもこれじゃ街に入れる訳がないと納得した。
「出陣は恐らく明朝になるだろう。それまではここで休息を取ってくれ」
女侍はそう言うと部下の女達と一緒にその場を離れていった。
白狐はため息をつくとごろんと横になった。
「折角街があるのに入れないなんて残念だなぁ……」
「だべだべ」
村の皆も白狐に習い、思い思いに休憩を取る。
何しろ明日からは行軍が始まるのだ。休める時にしっかり休まねば身体が保たない。
幸い地面は草で覆われており柔らかい為、寝ても背中が痛くなる心配はない。
「白狐くんも疲れたでしょう。さぁ、休みましょう」
村長も重装鎧を脱ぎ、地面に敷いた布の上に座った。鎧から解き放たれた爆乳がぷるんっと揺れ、立派な谷間が覗く。
白狐はそれを目で追いつつもここに来るまでの道中を振り返っていた。碧波村からここにくるまで数日掛かったが、村長は重そうな鎧姿のまま山道を平気で登ったり、下りたりしていた。
しかもその間、全く疲れた様子を見せない。
確かに彼女は他の村人よりタフだとは知っていたが、それにしても体力があり過ぎる。
白狐はそんなことを考えながら「うん」と返事をして横に座り、吹き抜ける風を肌に感じつつリラックスする。
とてもこれから戦に行くとは思えない程の穏やかな時間が流れていた。そんな中、白狐はふと母である幻魔から貰ったビー玉の存在を思い出す。
『そのビードロ越しに生き物を見ると相手の内在する力が見えるのじゃ……』
敬愛する母が折角作った代物だというのに全然使っていなかった。妖怪と戦う時はそんな余裕が無かったし……
しかし今こそが使い時ではないか?戦の前に皆の強さが分かっていれば、心構えが出来るというもの。
白狐はそう思い荷物からビー玉を取り出しガラス越しに徴兵された女達を眺める。
「ふんふん……」
ビー玉に映し出される数字とその単位。
単位は大福や桜もちといった比較しようがないものばかりだが、数字はある程度似通った数値ばかりだった。
どうやら普通の女性の戦闘力の数値は5前後……少々体格が良くて強そうな女の人は10前後といったところだろうか。
大体5~10の間が平均的な人間の強さだと思ってよさそうだ。……ちなみに白狐の強さは二尾の時点で1200、三尾である今現在は1万を超える戦闘力である。
そう思うと自分は普通の人間と隔絶した強さを持っているんだな、と改めて実感した。
それと同時に妖怪達が如何に人間にとっての脅威なのかも理解する。戦闘力1万の自分でさえ危険に晒される程に妖怪は強いのだ。普通の人間が適うわけがない。
「あれ?」
暫くビー玉で辺りを見渡している内に気になる事があった。
それは白狐と共に来た碧波村の村人達の数値だ。他の村の女達の戦闘力は5~10なのに対し、碧波村の女性の数値は20前後と平均よりもかなり高い数値だったのだ。
「戦なんて初めてだべ……怖いけど頑張らないと」
「白狐が一緒なら大丈夫だよ、きっと!」
碧波村の面々は見た目も普通だし、特段他の村の農民と境遇も変わらない筈だ。それが何故こんなにも高いのか。
そう言えば彼女達は最近身体が妙に軽いやら力が付いたとか言っていたような気が……
「おや、白狐くん。綺麗な玉ですね。宝物ですか?」
不意に横にいた村長から声を掛けられた。
白狐は反射的にビー玉を覗きながら村長へと振り向く。
「!?」
そこには驚愕の数値が表示されていた。
文字通り桁が違う数値に白狐は思わず二度見してしまう。
白狐は再度確認するも、やはり間違い無くその数値という表示がされている。涼し気な顔をする彼女からは想像も出来ない程の戦闘力の高さであった。
一体どんな鍛え方をすればこんな数値を叩き出せるのだろう? 白狐は不思議に思って村長の身体をまじまじと観察する。
おっぱいが大きい……それしか目に入らない……
もしかしてこのビー玉はおっぱいスカウターなのではないか。白狐がそう思ったその時――
「び、白狐くん……そんなに見つめられると恥ずかしいのですが……」
村長が伏し目がちに頬を染める。
その表情は普段の凛々しい顔立ちとはまた違った魅力があり、白狐はドキリとした。
「あ……ごめんなさい!」
白狐は慌てて目を逸らすと謝る。確かに女性の胸を凝視するなんて男として最低の行為だ。
白狐は申し訳なさでいっぱいになりながらも、どうしても気になって仕方がない。
そんな時ポツリと村長が呟いた。
「やっぱり嫌ですよね、こんな大きな胸……」
自虐するように呟かれたその言葉。それを聞き白狐はハッとある事を思い出した。
この世界の男子はおっぱいが好きではないという事を……
白狐からすれば理解し難い思考なのだが、何でもおっぱいが大きければ大きいほど女子の魅力が下がるらしい。
なんて馬鹿な世界だと白狐は憤った。おっぱいがあるからこそ赤ちゃんは健康に育つんじゃないか。
それを嫌うとはこの世界の男は馬鹿だ。そう断じざるを得ない。
「そんな事ないよ!おっぱいが大きいのはいい事だよ!」
白狐は立ち上がり、拳を握って力説した。
すると村長は少し驚いたようにこちらを見る。周囲にいた碧波村の皆も白狐に振り向いた。
「僕は村長さんのおっぱい、好きだよ。大きくて柔らかくて、温かくて……」
白狐は真剣な眼差しでそう言った。
それを聞いた村長は一瞬呆気に取られたような表情を見せるが、すぐにくすっと微笑むと、
「ありがとうございます。白狐くんは優しい子ですね」
と白狐の頭を撫でてくれた。
白狐はその手に癒されながら、気持ちよさそうに目を細める。
彼女は自分が気を使っておっぱいに対してフォローしたと思っているのだろう。だが今のは白狐の心からの言葉だった。
「白狐はおっぱいが好きだもんな~。村にいた時だってずっとオラのおっぱいしゃぶって……あ、いやなんでもないだ」
ちなみに碧波村の一部の村人達には白狐がおっぱい星人だという事はバレている。
夜這いに来た女達とは互いの性癖を見せ合った仲なので隠す必要もないのだ。
「え?今おっぱいしゃぶって…って言いました……?」
「い、いや違うだよ!」
「そうそう、言い間違いだって!」
当然ながら村長は女達が白狐に夜這いした事を知らない。もしそんな事が知られれば彼女の怒りを買う事になるだろう。
訝しむ村長に必死に誤魔化す村人達。そんな慌ただしい空気の中、突然一人の女が碧波村の輪の中に入ってきた。
「おい!碧波村から来たってのはオメェらか!?」
筋骨隆々な女が凄みを利かせて怒鳴り散らした。
身長は2m近くあり、その肉体は鋼の如く鍛え上げられており、はち切れんばかりの筋肉に包まれている。
白狐が見上げる程に背が高く、肩幅も広い為、威圧感は相当なものだ。
「(大っきい女の人だなぁ)」
すかさず白狐はビー玉で彼女の戦闘力を覗いてみる。そこには100という数値が表示されていた。
これは中々の強者だ。平均値より遥かに高いとは見た目に違わずの戦闘力である。
「そうだど。何か用だべさ?」
威圧的な物言いにも関わらず碧波村の村人達も物怖じせず応じる。彼女達も中々肝が据わっているようだ。
「お、おい……アイツ力丸じゃねぇか?」
「力丸って5回戦場に行って生還してるっていうあの……?」
周囲がざわつき始める。どうやらこの大柄な女は名の知れた人物のようだ。
「俺は力丸ってもんだ!何やら強そうな奴等がいるっつーから見に来たんだが……」
力丸と名乗った女は碧波村の面々を値踏みするように睨め回す。そしてふぅ~んと呟きながらニヤリと笑った。
「ちっこい女共にちっこい半化生……はん、期待外れも甚だしいぜ」
力丸は嘲笑しながら吐き捨てるように言う。
どうやらこの女性は自分達を牽制……いや見下しているようだ。その態度を見て碧波村の面々は眉をひそめた。
「なんだと?喧嘩売ってるだか!?」
「あんまり舐めてると痛い目見るよ!」
だが碧波村の村人達も負けてはいない。彼女達だって覚悟をしてこの戦に臨んでいるのだ。
侮辱された事で村人達はいきり立ち、各々力丸の前に立ち塞がるようにして構える。
それを見た力丸は面白そうに顔を歪め、舌なめずりした。
「はははは!!いいねいいね、その気概気に入ったよ!俺に一撃でも入れられたら仲間に入れてやるよ!」
「仲間だぁ!?いきなり現れて何言ってんだオメは!?」
対峙する村人達と力丸。数ではこちらが勝っているが圧倒的な巨躯を誇る力丸に対して碧波村の女達が勝てるビジョンは全く見えない。
事実、戦闘力でも大きく差を付けられているし、それに加えて村人は戦いに慣れていないのに対し、力丸は戦闘経験豊富な猛者である。
残念だが勝負は見えたようなものだろう。
しかしこのまま見ているだけでは白狐の大切な女性達が傷付いてしまう。同じ軍に属する者同士あまり戦いたくはないがこれは自分が出るしかないだろう……
白狐はゆっくりと立ち上がり、皆の前へと歩み出ようとする。だが、それは村長によって止められてしまった。
「白狐くん。ここは私に任せてください」
「えっ……」
「貴方の力を使うまでもありませんから。ね?」
そう言い白狐にウインクする村長。
白狐は少し迷ったが、結局は彼女に全てを任せる事にした。人間のいざこざに半化生の忍びが介入するのは良くないような気もするし。
それに白狐が先程見た村長の戦闘力。あれが間違いでなければ……心配は全くいらない。
「力丸さん、と言いましたか。私が相手になりましょう」
「あぁん?」
碧波村の女達の前に立った村長は、毅然とした表情で力丸を見上げながら言った。
その言葉に力丸はピクリと反応すると、ギロリと鋭い視線を向けてくる。
「おいおい、真逆一人で俺の相手をするつもりかぁ?全員で掛かって来いよなぁ?」
力丸の言葉に村長は穏やかに微笑むだけだった。それとは対象的に村人達は顔を青くして力丸に詰め寄るように言った。
「ね、ねぇアンタ。早いとこ村長に謝った方がいいよ。怪我しない内に……」
「そうだべ!オメェがいくら強くても村長には敵わないべさ!」
「あぁん……?」
碧波村の女達の言葉に力丸は訝しむような表情を浮かべる。そして村長をまじまじと見つめた後、村長の胴体に向かって拳を振り上げた。
ゴウッと空気を切り裂く音を立てながら村長に迫る巨大な鉄槌のような右ストレート。
普通ならば村長のような華奢な女性が耐えれるような一撃ではない。
―――だが、村長はそれを左手だけで受け止めた。
「……は?」
「あら、なかなかのパンチですね。ですがまだまだ甘い」
「な、なっ……!!」
力丸の顔が驚愕に染まる。
それもそうだろう。今の一撃は並大抵の人間なら吹き飛ばされるレベルの攻撃だった筈なのだから。
それを片手で受け止められるなど、明らかに常人ではない。
「て、テメエ……なんなんだ……!」
「うふふ、私はただの村長ですよ」
そう言いながら、右手に力を込める。
次の瞬間、力丸の身体がふわりと宙に浮いた。
「うおっ!?」
村長はまるで赤子を抱き上げるかのように軽々と力丸の巨体を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。
ズドンッと凄まじい音が響き渡り、大地が揺れる。
「ぐあっ!?」
「これから一緒に戦うのに規律を乱す人にはオシオキです」
それだけで力丸はダウンした。あまりにも呆気ない幕切れに碧波村の面々は唖然として固まってしまう。
成り行きを見守っていた周囲の女達も静まり返っており、辺りは水を打ったようにシーンとしていた。
「ま、参った。俺の負けだ」
地面に仰向けに倒れこむ力丸が発したその一言を皮切りに、周りにいた大勢の女達はわっと歓声を上げた。
「す、すげぇ!あの力丸が手も足も出なかったぞ!」
「何者なんだあの女!?」
「碧波村ってこんなに強い奴等がいるのか……」
「こんなに強い御人がいるなら戦にも勝てるべよ!」
村長や碧波村の村人達の周りに続々と人が集ってくる。どうやら予想以上に観客がいたらしい。
ワーワーと盛り上がる大量の女達に囲まれ困ったような表情を浮かべる村長。白狐は感心しながら彼女を見つめた。
「村長さん、やっぱり強かったんだ……」
正直なところ白狐にはこの勝負の行方が分かっていた。初めから村長が力丸に圧勝すると知っていた。
何故ならば……
白狐はビー玉を取り出しガラス越しに人集りの中心にいる村長を見た。
そこに映る数値は3000であった―――
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俺、貞操逆転世界へイケメン転生
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この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。
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転生したら男女逆転世界
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階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
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