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本編
15.「実はな…お前が真の一人前になるには最後の試練を乗り越えなければならぬのじゃ」
しおりを挟む心頭滅却明鏡止水煩悩退散。
少年は心を無にして指を組み詠唱を始めていた。
「臨兵闘者 皆陣列前行…」
少年の周りに文字が浮かんでは消えていく。まるで少年を守るかのようにぐるりと囲んでいる。
やがて文字の羅列は光となって収束していった。
「……」
少年は気合を入れ直すと、目を閉じて集中する。すると、少年の全身からオーラのようなものが現れた。
それはゆらゆらと揺らめき、少年の身体を包み込んでいく。
少年の瞳が開かれると同時に、その纏ったオーラが一気に放出され、爆発した。
「はぁっ!!」
少年の放った衝撃波によって巨岩は吹き飛ばされた。破片が空高く舞い、地上目掛けて落ちてくるが少年はすぐさま行動に移った。
「てやぁっ!」
少年は腕を振るうと、風圧が発生し破片を全て空中へと弾き飛ばす。だが、まだ油断はできない。
「はぁぁーっ!!!」
少年は両腕を前に突き出すと、今度は手を開き、そこから妖力を放出する。
放出された妖力は巨大な炎の渦となり、岩の破片を呑み込んだ。
炎が消え去った跡には欠片すらも残っておらず、巨岩は跡形もなくこの世から消滅した。
「ふぅ……」
少年は一仕事終えると額の汗を拭い、安堵のため息をつく。
その時、後ろから幻魔の声が聞こえてきた。
「見事じゃ!よくやったぞ、我が息子よ」
幻魔はパチパチと拍手をしながら少年に近付く。少年は照れ臭そうに笑いながら振り返った。
「ありがとうございます、師匠」
少年の尻尾がフリフリ揺れる。褒められて嬉しいようだ。
揺れる三本の尻尾…そう、三本だ。二本だった少年の尻尾はいつの間にか三本目になっていた。
こうなればもう一人前と言ってもいいだろう。二本の時と比べ妖力は遥かに上がり、忍術も格段に進歩している。身体能力も大幅に上昇していた。
「この術の冴えならば並の中忍相手なら充分勝てるじゃろう」
「本当ですか!?」
「あぁ、もちろんだとも。自信を持て」
中忍…いつか幻魔が教えてくれた忍者の階級だ。
下忍から始まり、様々な任務をこなし一定の強さに達した者を中忍と呼び、下忍を統率する立場になるのだ。
下忍が束になっても敵わないほどの強さを持つ中忍…つまり、少年はやっと幻魔の言うところの『一人前の忍び』になれたというわけである。
「これで僕も一人前の忍びですね!」
「うむ!しかし、慢心してはいかんぞ。中忍は確かに一人前と言ってもよいが…中忍の中でも上忍に近い実力を持つ連中にはまだまだ敵わんじゃろう。そ奴らは間違いなくお前よりも強い。無論、上忍はそれ以上じゃ」
幻魔の言葉に少年は真剣な面持ちで耳を傾ける。
確かに自分は強くなった。自覚もあるし、恐らく客観的に見ても強者の部類に入るのだろう。
しかし今の自分以上に強い人が沢山いるのだという。少年は恐れを抱くと同時に、その人達と戦ってみたいという気持ちもあった。
一体どんな技を使うのだろう。どのような動きをするのだろうか。そしてその圧倒的な力で自分を打ち負かして、その後には…♡
少年は期待に胸を膨らませていた。
「お前の目指す先は上忍、あるいはそれ以上の存在じゃ。ゆめ忘れるでないぞ」
「はい!頑張ります!」
少年は大きく返事をする。幻魔はそれを見て満足そうに微笑んだ。
息子ならば慢心せず、努力し続けるはずだ。きっと近いうちに上忍にも匹敵するほどの力を手に入れることだろう。幻魔はそう確信していた。
「それにしてもお前の成長は早いのぅ。もう中忍以上の力を付けるとは…」
幻魔は赤子を拾った時の事を思い出す。
あの小さなキツネの赤子が今では立派な少年の姿になっている。それも尻尾も三本にまで増やして。
それだけでも感慨深いものがあった。
幻魔は少年を見つめる。少年もまた幻魔を見返して、そして見惚れていた。
「(あぁ……やっぱりママは綺麗だなぁ……)」
幻魔は少年にとって理想の女性だった。
母として、そして女としても愛している。少年はそんな彼女を心の底から尊敬し、そして憧れを抱いていた。
種族こそキツネとタヌキで違うが、幻魔と少年は紛れもなく親子だった。血は繋がっていないが、二人は間違いなく家族なのだ。
「そろそろお前も外の世界に出て見聞を広げても良いかもしれんな……」
幻魔は顎に手を当てて考え込む。少年は彼女の言葉を聞いて目を輝かせた。
「ほ、本当ですか!?」
外の世界。それは少年にとって未知の世界。
ここの外には何があるのか?そこには自分の知らない何かが待っているのではないか。
少年の好奇心は止まらない。早く外に出たいという気持ちを抑えきれずにいた。
だが、すぐには無理だ。まずは準備を整えなければならない。
食料に、非常食に、おやつに、それから……
少年は想像するだけで興奮してきた。まだ見たこともない景色や美味しい食べ物や面白い出来事……それらが少年の心を刺激する。
「(早く行きたいなぁ……)」
少年は逸る気持ちを抑える。幻魔はそれを察したようで、少年に声をかけた。
「まぁ慌てるでない。明日明後日出る訳でもなし。ゆっくりと準備を進めようではないか」
「はい!」
少年は元気よく答える。幻魔はにこりと笑って彼の手を取った。
「それに…最後の試練もある事だしの…♡」
「え?」
幻魔がぼそりと呟く。少年は聞き返すが幻魔は何も言わず、ただ笑みを浮かべているだけだった。
「さ、戻るとしようか」
幻魔は少年の手を引きながら屋敷へと戻っていく。少年は気になったが、幻魔が何も言ってくれないのなら仕方ないと思い気にしないことにしたのであった……
―――――――――
その日の夜であった。少年が布団を敷き終えたその時だ。
いつもなら敷いた瞬間に幻魔と少年は布団に寝転がり、そのままイチャイチャタイムに突入するのだが、今日は違った。
「あれ?師匠来ないなぁ」
少年は首を傾げる。今までこんな事はなかったので不思議に思った。
どうしたものかと考えていると、襖の向こう側から声をかけられた。
「我が息子よ。入るぞ」
「あ、はーい!大丈夫ですよ」
少年が返事をすると、幻魔が静かに部屋の中に入ってくる。
彼女はどこか落ち着きがなく、ソワソワしていた。まるでこれからデートに行くかのような雰囲気だ。
少年が疑問に思っていると、幻魔は自分の尻尾を両手で握ってモジモジし始めた。
「あ、あの……その……息子よ……ちょっといいかな……♡」
「えっど、どうかしましたか?」
少年は戸惑う。幻魔がこんな態度を取るなんて珍しい。一体何があったのだろうか。
「う、うむ……実はの……お前に話しておかねばならぬ事があるのだ」
「話……ですか」
少年はゴクリと唾を飲む。
ついにこの時が来たのだ。幻魔は覚悟を決めて口を開いた。
「実はな…お前が真の一人前になるには最後の試練を乗り越えなければならぬのじゃ」
「最後の試練?」
「さよう。安全なここと違って、外の世界は危険じゃ。男を見つけ次第、即レイプしようとする変態女が闊歩しておる。いつ襲われるか分かったものではない」
「えぇ…?」
どんな世界なんだここは…少年はそう思わずにはいられなかった。
「変態に捕まってしまったら最後、ねぐらに連れて行かれ一日中ラブラブ子作り三昧じゃ。働く事も出来ずに延々と死ぬまで交尾する事になりエッチな嫁と子供に囲まれて生涯を終える事になるだろう」
「そんなぁ……」
「恐ろしい世界じゃろう?だからお前も一人前の忍びとなる為には、この最後の試練に打ち勝たなくてはならん」
「そうなんですか……」
なんて…なんて…いい世界…じゃなくてなんて恐ろしい世界なんだ。
少年はごくりと生唾を飲み込んだ。しかし最後の試練というのは一体なんなのか。
それが分からなかった。
「それで、その試練というのを教えてください!」
少年は真剣な眼差しで幻魔を見つめる。幻魔は頬を赤らめながら答えた。
「わ、儂と子作りラブラブガチ■■をするのが最後の試練じゃ…!♡」
「へ……!?」
少年の顔が一気に真っ赤に染まる。
「し、師匠と……するって事ですか……?」
「そうじゃ♡」
幻魔は恥ずかしがりながらもはっきりと肯定する。
少年は驚いたが、同時に嬉しくもあった。
愛する人と一つになれるのである。少年は胸の奥底から湧き上がる感情を抑えきれずにいた。
今まで少年は幻魔と色々と性的な行為をしてきた。だが、■■はしたことがない。
本格的な行為はしたことがなかった。
少年は常日頃、母ともっと深く繋がりたいと願っていた。そして今、その願いが叶おうとしている。
「世にいる変態女共はお前の貞操を狙ってくるじゃろう。そしていざ襲われてもそれを返り討ちにし、メロメロにする為の房中術の最終奥義を授ける儀式がこの最後の試練なのじゃ…」
「最終奥義!?」
「そう…決して息子の童貞を他の女に奪われるのが嫌だからとか単にお前とラブラブ子作りしたいからではないぞ?あくまでもこれはお前の為を思っての事じゃ!」
幻魔は必死に言い訳をするが、少年の目には彼女が自分の事を愛してくれているようにしか見えなかった。
彼女は自分を愛してくれている。少年はそれを理解すると、もう我慢できなかった。
「ママァ!」
「ひゃあっ!?♡」
少年は幻魔を押し倒す。幻魔は抵抗せずにそのまま仰向けになった。
「ママ……僕、ずっとママとこうしたかったんだ……♡」
「あぁん♡そんな急にぃ……♡」
これから少年と幻魔の最後の試練が始まろうとしていた…
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