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本編
4.「当たり前じゃろ!!お前の筋肉を直に見ないと助言が出来んではないか!(嘘)」
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「一流の忍になるには妖術だけではなく、身体能力も鍛えねばならん。よく見ておれ」
とある日、幻魔と少年は切り立った崖の上で向かい合っていた。幻魔はゆっくりとタヌキの尻尾を振ってみせると、次に空高く跳躍し崖から崖へと飛び移った。
「おお……!」
少年はその見事な身のこなしに見惚れた。まるでアニメに出てくるヒーローのようだ。幻魔は空中でくるりと回転すると、少年の前に華麗に着地した。
「す、凄いです師匠!」
「ふふ…お前にも出来る筈じゃ。やってみよ」
「はいっ!えっと……」
少年は目を閉じ意識を集中させる。そして、幻魔を真似してキツネの尻尾をピコピコと動かし始めた。
そして空高く跳躍する…と思ったその時、すぐにバランスを失って倒れそうになる。
「おっと……危ないぞ」
すかさず幻魔が支えてくれたおかげで事なきを得たが、少年は少しだけ泣きそうな表情を浮かべていた。
「うう、難しいです」
「まぁ最初は皆こんなものじゃ。ゆっくり練習すれば良い」
そう言い少年の頭をポンと叩く。少年は頬を赤く染めながら俯いた。
「ところで師匠。何故僕に身体を密着しているんですか?」
「房中術の修行じゃ」
「そうですか…」
少年は納得した様子で、されるがままに身を委ねた。
なお今日の身体能力強化の修行はこれで終わりである。
次は房中術の修行だ。
―――――――――
「忍たるもの、どんな状況でも冷静に対処せねばならない。今日は忍具の使い方について教えよう」
幻魔はそう言うと、懐から手裏剣を取り出した。それを見た少年はおぉ、と声を上げる。
前世で忍者がよく使うアレだ!何やら雰囲気が出てきたではないか。少年はウキウキとした気持ちで手裏剣を見つめる。
「これが忍者がよく使う武器じゃ。これを使って敵を牽制したり、時には投げつけて攻撃したりする。さぁやって見せてくれ」
「はい、分かりました!」
少年は手渡された手裏剣を手に取ると、それをじっくり観察し始めた。
「(ふむふむ……なるほど。これはこうなってて……)」
どうやら仕組みを理解したようで、早速実践しようとする。
手裏剣を構え、人を模した木に向かって投擲する。しかし、上手く飛ばずに明後日の方向へと飛んでいってしまった。
「あれっ?おかしいな……えいっ」
今度は真っ直ぐに投げられたが、これもまた命中しなかった。少年は首を傾げながらも、何度も試してみる。
だがダメだった。投げる度に手元からすっぽ抜けてしまうのだ。
「全然ダメですね……」
少年は肩を落とした。その様子を見た幻魔は、ニヤリと笑みを浮かべると、「では手本を見せてやろう♡」と言い、服を脱ぎ捨て全裸になった。
「師匠!?何で裸に!?」
「たわけ!服を着ていては手裏剣を投げる時の筋肉の動きが見えんじゃろうが!ほれ、よく見ておれ♡」
幻魔はそう言うと、大きく深呼吸をして精神を集中させた。手裏剣を構える幻魔の姿は美しかった。
「(凄い……綺麗だ……♡)」
少年は思わず見惚れてしまった。すると、次の瞬間、幻魔の手から放たれたものが一直線に的へと向かっていき―――見事に命中し、突き刺さった。
「す、すごい……!」
少年は再び目を奪われた。幻魔の身体には無駄のない引き締まった肉体をしており、それでいて女性らしい柔らかさが両立されていた。
その美しさたるや、まるで芸術品のように思えた。
「さぁ、お前も脱ぐんじゃ」
「え?僕も脱ぐんですか?」
「当たり前じゃろ!!お前の筋肉を直に見ないと助言が出来んではないか!(嘘)」
「は、はい…」
幻魔に叱られ、少年も服を全て脱いだ。幻魔は少年の身体を舐め回すように見つめた。
「おやおや~?♡なんじゃこれは~?♡」
「うぅ…♡」
少年は恥ずかしくて俯いた。そんな少年を見て幻魔はクスッと笑うと、彼の手を掴んで自分の胸に押し付けた。
「ひゃあ……!?♡」
「ほれほれ……触って良いぞ……♡」
幻魔は甘い声で囁きながら、少年の耳をペロリと舐める。少年はビクンと反応した。
「ふふ……可愛い奴じゃのう……♡」
「はぁ……はぁ……♡」
「どれ、次は房中術の修行じゃ…♡」
今日の忍具の修行はこれで終わりである。
次は房中術の修行だ…
―――――――――
「忍者というものはな、身体だけでなく頭…つまり教養にも気を配らねばならぬ。故にまずは勉学に励む必要がある!」
そう言いながら幻魔は自分の机の前に座ると、書物を取り出した。そして少年に隣に来るよう促した。
「では、始めるとするかの」
「はい、お願いします!」
二人は並んで座り、本を覗き込むようにして勉強を始めた。幻魔は文字を書き記しながら説明していく。
「例えばこの本じゃ。これは蔡温という昔の戦略家の弟子が書いたものでな。様々なことが書いてある。良いか、これは重要じゃからしっかりと覚えるんじゃぞ」
「はい!」
少年は元気よく返事をした。
幻魔の説明はとても分かりやすく、スラスラと頭に入ってくる。
少年はこの世界の字を覚えるのに苦労した。最初は全く読めなかったのだ。だが幻魔は丁寧に何年も掛けて少年に教えてくれた。
おかげで今では簡単な読み書きなら出来るようになったのだ。
「えーっと…兵とは詭道なり…故に、能なるもこれに不能を示し…敵の意表を突き……」
「むっ、そこは違うぞ。それは『兵は神速を貴ぶ』じゃ」
「あっ、すみません……!」
「よいよい、間違えるのは当然じゃ。だがな、何度も言うが大事なのは暗記したことを覚えておくことじゃ。間違っても良いから、必ず復習すること。分かったな?」
「分かりました!」
少年は素直な性格だった。幻魔はそんな少年のことを微笑みを浮かべながら見つめていた。
この子は素直だし、一を聞いて十を知るような賢い子でもある。飲み込みも早いし、将来有望だと嬉しく思っていた。
「さて、次はこれじゃ。これはこの国の歴史を記した本でな。歴史を知るのも重要な事なんじゃ」
「歴史…ですか」
「うむ、特に今は戦争が起きやすい時代じゃ。いつどこの領地が攻め込まれるかも分からんからな。その時のために知っておかなければならんのだ」
「そうなんですね……」
少年のいる国は桜国という名の島国であった。この国の歴史は戦乱に彩られたもので、血なまぐさい話ばかりだ。
少年は少し気分が悪くなったが、幻魔は構わずに続けた。
「かつてこの国…桜国は一人の女皇の元に統一され、平和で豊かな国じゃった。だが、それも昔の話。皇家に力が無くなると各地の守護者達が次々と独立し、国がバラバラになってしまったのじゃ」
桜国は武家社会である。
故に王に任命された将軍によって統治されていた。だがその将軍家の力すら衰えると各地で大名同士が戦い始め、やがて内乱へと発展していった。
世は戦国時代であった。
「(僕がいた世界でも、昔はそんな感じだったんだろうな……)」
その話を聞き、少年はかつて自分がいた世界のことを思い出していた。
自分が住んでいた場所も、色々な幕府が誕生しては滅亡しその度に新たな支配者が現れて……ということをずっと繰り返してきた。
戦乱の世というのは、どこの時代でも似たようなものなのだと実感する。
「今は戦国の世。力ある守護者…大名と呼ばれる有力武家が互いに覇を競い合っておる。最早桜花皇家に…将軍家にも彼女らを止める力は無い」
無論、将軍家…引いては皇家に忠誠を誓い王家復権を狙う大名家もいる。だが、それはほんの一握りだ。
大半の大名家は己の欲望のままに動き、多くの武家を巻き込んで戦を引き起こしている。
「一般的には忍というものは武家に仕え、諜報活動や暗殺などを主任務としておる。故に仕える大名家を王にすべく奔走するのが理想の忍といえよう。ま、儂は違うがの」
「え、違うのですか?」
「うむ。忍にも色々な奴がおる。今言ったように特定の大名に仕える忍もいれば、金次第で誰からの依頼も受けるような忍者も存在する。儂は後者じゃな」
「へぇ~……」
「儂は別に誰が皇になろうとどうでもいいからの。誰かに仕えるなんてまっぴら御免じゃ。面倒くさい」
幻魔はハッキリと言った。彼女は自分の生き方に誇りを持っていたのだ。
「しかし、今の世の中は荒れに荒れておってな。大名達は互いを潰そうと躍起になっておる。いつ何時、戦火に巻き込まれてもおかしくない状況じゃ…。余程の実力者でないと一人で忍を続けていくのは難しいだろうな」
それを聞いて少年は腕を組んで考え込んだ。
幻魔のように一人だけで生き抜くのは大変なことだということは分かる。少年もそんな彼女の生き方に憧れるし、出来るならば母のように孤高に生きたいとも思う。
だが、果たしてそんな過酷な事が自分に出来るだろうか。手裏剣さえ満足に投げる事が出来ない、よわよわな自分に…
俯く少年を見て、幻魔は優しく彼の肩を叩いた。
「お前は無理に儂と同じような生き方をする必要は無い。仕えたいと思う人物が出来たならば、その者と共に戦乱の世を駆け抜ければよい。孤高に戦いたければ、儂のように生きるのも良い。その為の力は儂が授けてやる」
「師匠……」
「今は難しく考える必要は無い。まだまだ時間があるのだからな。これからゆっくりと決めていけば良い」
幻魔の言葉を聞き、少年は安心した表情になった。
彼女ならどんなことでも答えてくれる気がする。少年はそう思った。
「ただ、これだけは覚えておいて欲しい。例えどのような道を歩もうとも、決して孤独にはなってはいけないということじゃ。孤高と孤独は違うぞ。仲間が…同志がいなければ人は生きていけぬ。それは人であれ物であれ同じことじゃ」
孤独と孤高は違う…
少年にはよく分からなかった。何がどう違うのだろうか?
しかし少年は幻魔にそれを聞くことはしない。恐らくそれは、自分で理解しなければいけない事だと少年は直感的に思ったのだ。
「む…もうこんな時間か。今日はもう遅い、続きは明日にしよう」
今日の授業は少年の心に色々と影響を与えた。それはこの先彼を形作る大切なものになるであろう。
今日の修行はこれで終わりだ。
房中術の修行は今日はお休みだった。
少年は少しがっかりした。
とある日、幻魔と少年は切り立った崖の上で向かい合っていた。幻魔はゆっくりとタヌキの尻尾を振ってみせると、次に空高く跳躍し崖から崖へと飛び移った。
「おお……!」
少年はその見事な身のこなしに見惚れた。まるでアニメに出てくるヒーローのようだ。幻魔は空中でくるりと回転すると、少年の前に華麗に着地した。
「す、凄いです師匠!」
「ふふ…お前にも出来る筈じゃ。やってみよ」
「はいっ!えっと……」
少年は目を閉じ意識を集中させる。そして、幻魔を真似してキツネの尻尾をピコピコと動かし始めた。
そして空高く跳躍する…と思ったその時、すぐにバランスを失って倒れそうになる。
「おっと……危ないぞ」
すかさず幻魔が支えてくれたおかげで事なきを得たが、少年は少しだけ泣きそうな表情を浮かべていた。
「うう、難しいです」
「まぁ最初は皆こんなものじゃ。ゆっくり練習すれば良い」
そう言い少年の頭をポンと叩く。少年は頬を赤く染めながら俯いた。
「ところで師匠。何故僕に身体を密着しているんですか?」
「房中術の修行じゃ」
「そうですか…」
少年は納得した様子で、されるがままに身を委ねた。
なお今日の身体能力強化の修行はこれで終わりである。
次は房中術の修行だ。
―――――――――
「忍たるもの、どんな状況でも冷静に対処せねばならない。今日は忍具の使い方について教えよう」
幻魔はそう言うと、懐から手裏剣を取り出した。それを見た少年はおぉ、と声を上げる。
前世で忍者がよく使うアレだ!何やら雰囲気が出てきたではないか。少年はウキウキとした気持ちで手裏剣を見つめる。
「これが忍者がよく使う武器じゃ。これを使って敵を牽制したり、時には投げつけて攻撃したりする。さぁやって見せてくれ」
「はい、分かりました!」
少年は手渡された手裏剣を手に取ると、それをじっくり観察し始めた。
「(ふむふむ……なるほど。これはこうなってて……)」
どうやら仕組みを理解したようで、早速実践しようとする。
手裏剣を構え、人を模した木に向かって投擲する。しかし、上手く飛ばずに明後日の方向へと飛んでいってしまった。
「あれっ?おかしいな……えいっ」
今度は真っ直ぐに投げられたが、これもまた命中しなかった。少年は首を傾げながらも、何度も試してみる。
だがダメだった。投げる度に手元からすっぽ抜けてしまうのだ。
「全然ダメですね……」
少年は肩を落とした。その様子を見た幻魔は、ニヤリと笑みを浮かべると、「では手本を見せてやろう♡」と言い、服を脱ぎ捨て全裸になった。
「師匠!?何で裸に!?」
「たわけ!服を着ていては手裏剣を投げる時の筋肉の動きが見えんじゃろうが!ほれ、よく見ておれ♡」
幻魔はそう言うと、大きく深呼吸をして精神を集中させた。手裏剣を構える幻魔の姿は美しかった。
「(凄い……綺麗だ……♡)」
少年は思わず見惚れてしまった。すると、次の瞬間、幻魔の手から放たれたものが一直線に的へと向かっていき―――見事に命中し、突き刺さった。
「す、すごい……!」
少年は再び目を奪われた。幻魔の身体には無駄のない引き締まった肉体をしており、それでいて女性らしい柔らかさが両立されていた。
その美しさたるや、まるで芸術品のように思えた。
「さぁ、お前も脱ぐんじゃ」
「え?僕も脱ぐんですか?」
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「は、はい…」
幻魔に叱られ、少年も服を全て脱いだ。幻魔は少年の身体を舐め回すように見つめた。
「おやおや~?♡なんじゃこれは~?♡」
「うぅ…♡」
少年は恥ずかしくて俯いた。そんな少年を見て幻魔はクスッと笑うと、彼の手を掴んで自分の胸に押し付けた。
「ひゃあ……!?♡」
「ほれほれ……触って良いぞ……♡」
幻魔は甘い声で囁きながら、少年の耳をペロリと舐める。少年はビクンと反応した。
「ふふ……可愛い奴じゃのう……♡」
「はぁ……はぁ……♡」
「どれ、次は房中術の修行じゃ…♡」
今日の忍具の修行はこれで終わりである。
次は房中術の修行だ…
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そう言いながら幻魔は自分の机の前に座ると、書物を取り出した。そして少年に隣に来るよう促した。
「では、始めるとするかの」
「はい、お願いします!」
二人は並んで座り、本を覗き込むようにして勉強を始めた。幻魔は文字を書き記しながら説明していく。
「例えばこの本じゃ。これは蔡温という昔の戦略家の弟子が書いたものでな。様々なことが書いてある。良いか、これは重要じゃからしっかりと覚えるんじゃぞ」
「はい!」
少年は元気よく返事をした。
幻魔の説明はとても分かりやすく、スラスラと頭に入ってくる。
少年はこの世界の字を覚えるのに苦労した。最初は全く読めなかったのだ。だが幻魔は丁寧に何年も掛けて少年に教えてくれた。
おかげで今では簡単な読み書きなら出来るようになったのだ。
「えーっと…兵とは詭道なり…故に、能なるもこれに不能を示し…敵の意表を突き……」
「むっ、そこは違うぞ。それは『兵は神速を貴ぶ』じゃ」
「あっ、すみません……!」
「よいよい、間違えるのは当然じゃ。だがな、何度も言うが大事なのは暗記したことを覚えておくことじゃ。間違っても良いから、必ず復習すること。分かったな?」
「分かりました!」
少年は素直な性格だった。幻魔はそんな少年のことを微笑みを浮かべながら見つめていた。
この子は素直だし、一を聞いて十を知るような賢い子でもある。飲み込みも早いし、将来有望だと嬉しく思っていた。
「さて、次はこれじゃ。これはこの国の歴史を記した本でな。歴史を知るのも重要な事なんじゃ」
「歴史…ですか」
「うむ、特に今は戦争が起きやすい時代じゃ。いつどこの領地が攻め込まれるかも分からんからな。その時のために知っておかなければならんのだ」
「そうなんですね……」
少年のいる国は桜国という名の島国であった。この国の歴史は戦乱に彩られたもので、血なまぐさい話ばかりだ。
少年は少し気分が悪くなったが、幻魔は構わずに続けた。
「かつてこの国…桜国は一人の女皇の元に統一され、平和で豊かな国じゃった。だが、それも昔の話。皇家に力が無くなると各地の守護者達が次々と独立し、国がバラバラになってしまったのじゃ」
桜国は武家社会である。
故に王に任命された将軍によって統治されていた。だがその将軍家の力すら衰えると各地で大名同士が戦い始め、やがて内乱へと発展していった。
世は戦国時代であった。
「(僕がいた世界でも、昔はそんな感じだったんだろうな……)」
その話を聞き、少年はかつて自分がいた世界のことを思い出していた。
自分が住んでいた場所も、色々な幕府が誕生しては滅亡しその度に新たな支配者が現れて……ということをずっと繰り返してきた。
戦乱の世というのは、どこの時代でも似たようなものなのだと実感する。
「今は戦国の世。力ある守護者…大名と呼ばれる有力武家が互いに覇を競い合っておる。最早桜花皇家に…将軍家にも彼女らを止める力は無い」
無論、将軍家…引いては皇家に忠誠を誓い王家復権を狙う大名家もいる。だが、それはほんの一握りだ。
大半の大名家は己の欲望のままに動き、多くの武家を巻き込んで戦を引き起こしている。
「一般的には忍というものは武家に仕え、諜報活動や暗殺などを主任務としておる。故に仕える大名家を王にすべく奔走するのが理想の忍といえよう。ま、儂は違うがの」
「え、違うのですか?」
「うむ。忍にも色々な奴がおる。今言ったように特定の大名に仕える忍もいれば、金次第で誰からの依頼も受けるような忍者も存在する。儂は後者じゃな」
「へぇ~……」
「儂は別に誰が皇になろうとどうでもいいからの。誰かに仕えるなんてまっぴら御免じゃ。面倒くさい」
幻魔はハッキリと言った。彼女は自分の生き方に誇りを持っていたのだ。
「しかし、今の世の中は荒れに荒れておってな。大名達は互いを潰そうと躍起になっておる。いつ何時、戦火に巻き込まれてもおかしくない状況じゃ…。余程の実力者でないと一人で忍を続けていくのは難しいだろうな」
それを聞いて少年は腕を組んで考え込んだ。
幻魔のように一人だけで生き抜くのは大変なことだということは分かる。少年もそんな彼女の生き方に憧れるし、出来るならば母のように孤高に生きたいとも思う。
だが、果たしてそんな過酷な事が自分に出来るだろうか。手裏剣さえ満足に投げる事が出来ない、よわよわな自分に…
俯く少年を見て、幻魔は優しく彼の肩を叩いた。
「お前は無理に儂と同じような生き方をする必要は無い。仕えたいと思う人物が出来たならば、その者と共に戦乱の世を駆け抜ければよい。孤高に戦いたければ、儂のように生きるのも良い。その為の力は儂が授けてやる」
「師匠……」
「今は難しく考える必要は無い。まだまだ時間があるのだからな。これからゆっくりと決めていけば良い」
幻魔の言葉を聞き、少年は安心した表情になった。
彼女ならどんなことでも答えてくれる気がする。少年はそう思った。
「ただ、これだけは覚えておいて欲しい。例えどのような道を歩もうとも、決して孤独にはなってはいけないということじゃ。孤高と孤独は違うぞ。仲間が…同志がいなければ人は生きていけぬ。それは人であれ物であれ同じことじゃ」
孤独と孤高は違う…
少年にはよく分からなかった。何がどう違うのだろうか?
しかし少年は幻魔にそれを聞くことはしない。恐らくそれは、自分で理解しなければいけない事だと少年は直感的に思ったのだ。
「む…もうこんな時間か。今日はもう遅い、続きは明日にしよう」
今日の授業は少年の心に色々と影響を与えた。それはこの先彼を形作る大切なものになるであろう。
今日の修行はこれで終わりだ。
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