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27.注目度
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今日の出演順は、真ん中に一年生の所属バンドが固められている。その中での順番は経験者組、初心者組、そしてエテルノだ。つまり逆リハでは、他の一年生よりも先にエテルノがリハーサルをおこなう。
「次、エテルノです」
PAさんの声が、スピーカーを通して響いた。
「よし、やるか」
普段通りの太陽先輩が、リラックスした様子でステージに上がっていった。私たちはそれについていく。
「エテルノです。よろしくお願いします」
太陽先輩の地声が会場に響き渡ったのに合わせて、私たちも頭を下げた。それから急いで、楽器のセッティングをする。
準備しながら見渡した会場は、想像していたよりも広かった。リハーサルだというのに、多くの部員の目が、ステージ上に注がれている。明らかにさっきまでより多いオーディエンスが、エテルノの注目度の高さを物語っていた。向けられる目は、純粋に楽しみにしているものばかりではない。試すような視線、睨みつけるような眼差し、冷ややかな表情……。創部の頃から唯一続いているエテルノというバンドが、部員たちにとってどれだけ特別なのかを、痛感する。リハーサルといえど、気は抜けない。みんなを納得させられるような演奏をしないと。
太陽先輩と瑛斗先輩は、これまでエテルノとして活動してきた実績がある。清水くんも、すでにサポートとして演奏を披露している。今日一番値踏みされているのは、私だ。私がちゃんとしないと、エテルノ丸ごとをダメにしてしまう。ちゃんとやらないと。ちゃんと。でも、私に出来る? 違う、やらないと。でも……。
「……はい、じゃあ次、キーボードください」
PAさんの指示で、我に返る。言われるがままに1、2フレーズ演奏して、キーボードのサウンドチェックは終了。他のパートも終わって、全体の音出しも終わって、曲のリハーサルになった。エスターテの一番を演奏することになっている。ちゃんと弾かないと。ちゃんと。ふわふわした感覚のまま、演奏の準備をする。
落ち着こう、と思って深呼吸したタイミングで、客席のあたりで作業していた橘先輩と目が合う。その瞬間、中間チェックの時に言われた言葉がフラッシュバックした。
——ミスはなかったけど、それだけ。個性がまるで感じられませんでした。
あれから一生懸命練習してきた。前のキーボードの人や、美月の音をなぞるのではなく、私だけの演奏をしようって。努力してきたけど、私は私の個性を、見つけられたんだろうか。改めて考えると、まだ全然自信はなかった。もし、変わってなかったら? 変わってたとしても、それがみんなを納得させるに足る成長じゃなかったら?
心ここに在らずだった。
「おい。佐倉」
清水くんに声をかけられて、慌てて頷く。清水くんは訝しげに眉をひそめながらも、カウントを始めた。
「1、2、123……」
四人の音が合わさる……はずだった。私のキーボードだけが、少し遅れる。まずい、と思ったら今度は走ってしまう。遅くなったり速くなったりするキーボードに乱されて、他のパートも調子が上がらない。どうしよう、私のせいだ。私がちゃんとしないと。焦るばかりで立て直せないまま、一番のサビが終わって、演奏も終了する。
「ありがとうございました。本番もよろしくお願いします」
太陽先輩がマイク越しに言って、私たちはステージから降りた。
「結月、緊張した?」
太陽先輩が笑顔で声をかけてくれる。
「……すみません」
「いや謝んなくていいって。リハーサルとはいえ、人前で演奏するの初めてだったしな」
「そうそう。まあこれで、いいウォーミングアップにもなっただろうから、本番頑張ろう」
太陽先輩と瑛斗先輩が、順々に励ましてくれる。
さっきのミスは、本当に緊張のせいなんだろうか。単純に、実力不足だったら? 本番は、もっとたくさんの人がいる。それに、さっきの失敗を聴いていた人たちを納得させるには、もっとすごい演奏をしないといけない。私にそれが出来るのか。考えれば考えるほど、難しいような気がしてきた。
「……すみません。ちょっと、頭冷やしてきます」
私はそれだけ言って、三人の顔も見ずに多目的ホールを飛び出した。
「次、エテルノです」
PAさんの声が、スピーカーを通して響いた。
「よし、やるか」
普段通りの太陽先輩が、リラックスした様子でステージに上がっていった。私たちはそれについていく。
「エテルノです。よろしくお願いします」
太陽先輩の地声が会場に響き渡ったのに合わせて、私たちも頭を下げた。それから急いで、楽器のセッティングをする。
準備しながら見渡した会場は、想像していたよりも広かった。リハーサルだというのに、多くの部員の目が、ステージ上に注がれている。明らかにさっきまでより多いオーディエンスが、エテルノの注目度の高さを物語っていた。向けられる目は、純粋に楽しみにしているものばかりではない。試すような視線、睨みつけるような眼差し、冷ややかな表情……。創部の頃から唯一続いているエテルノというバンドが、部員たちにとってどれだけ特別なのかを、痛感する。リハーサルといえど、気は抜けない。みんなを納得させられるような演奏をしないと。
太陽先輩と瑛斗先輩は、これまでエテルノとして活動してきた実績がある。清水くんも、すでにサポートとして演奏を披露している。今日一番値踏みされているのは、私だ。私がちゃんとしないと、エテルノ丸ごとをダメにしてしまう。ちゃんとやらないと。ちゃんと。でも、私に出来る? 違う、やらないと。でも……。
「……はい、じゃあ次、キーボードください」
PAさんの指示で、我に返る。言われるがままに1、2フレーズ演奏して、キーボードのサウンドチェックは終了。他のパートも終わって、全体の音出しも終わって、曲のリハーサルになった。エスターテの一番を演奏することになっている。ちゃんと弾かないと。ちゃんと。ふわふわした感覚のまま、演奏の準備をする。
落ち着こう、と思って深呼吸したタイミングで、客席のあたりで作業していた橘先輩と目が合う。その瞬間、中間チェックの時に言われた言葉がフラッシュバックした。
——ミスはなかったけど、それだけ。個性がまるで感じられませんでした。
あれから一生懸命練習してきた。前のキーボードの人や、美月の音をなぞるのではなく、私だけの演奏をしようって。努力してきたけど、私は私の個性を、見つけられたんだろうか。改めて考えると、まだ全然自信はなかった。もし、変わってなかったら? 変わってたとしても、それがみんなを納得させるに足る成長じゃなかったら?
心ここに在らずだった。
「おい。佐倉」
清水くんに声をかけられて、慌てて頷く。清水くんは訝しげに眉をひそめながらも、カウントを始めた。
「1、2、123……」
四人の音が合わさる……はずだった。私のキーボードだけが、少し遅れる。まずい、と思ったら今度は走ってしまう。遅くなったり速くなったりするキーボードに乱されて、他のパートも調子が上がらない。どうしよう、私のせいだ。私がちゃんとしないと。焦るばかりで立て直せないまま、一番のサビが終わって、演奏も終了する。
「ありがとうございました。本番もよろしくお願いします」
太陽先輩がマイク越しに言って、私たちはステージから降りた。
「結月、緊張した?」
太陽先輩が笑顔で声をかけてくれる。
「……すみません」
「いや謝んなくていいって。リハーサルとはいえ、人前で演奏するの初めてだったしな」
「そうそう。まあこれで、いいウォーミングアップにもなっただろうから、本番頑張ろう」
太陽先輩と瑛斗先輩が、順々に励ましてくれる。
さっきのミスは、本当に緊張のせいなんだろうか。単純に、実力不足だったら? 本番は、もっとたくさんの人がいる。それに、さっきの失敗を聴いていた人たちを納得させるには、もっとすごい演奏をしないといけない。私にそれが出来るのか。考えれば考えるほど、難しいような気がしてきた。
「……すみません。ちょっと、頭冷やしてきます」
私はそれだけ言って、三人の顔も見ずに多目的ホールを飛び出した。
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