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12.スタジオ
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部会の日から三日後。もらったスコアを猛練習して臨む今日は、初合わせだ。
部室での練習は他のバンドとの譲り合いで、多くても週に二、三回しか出来ない。それ以外の日はみんな、空き教室や誰かの家で出来る限りの練習をしたり、スタジオを借りたり、自主練にしたりしているらしい。
他のバンドに譲る意味もあって、エテルノは部室での練習をおこなわず、いつも瑛斗先輩の家で練習しているそうだ。
休日だから、十時に学校で太陽先輩と待ち合わせて、歩いて十五分。やってきた瑛斗先輩の家を前に、私はあんぐりと開いた口が塞がらなかった。
「おっきい……」
一般的な家が四軒は建ちそうな敷地に、お屋敷と呼ぶに相応しい大きな家が建っている。
「すげえだろ」
太陽先輩は勝手知ったると言った感じでインターホンを押し、門をくぐった。
「こっちが、スタジオ」
スタジオ? 個人の家とは思えない単語に首を傾げつつ、太陽先輩を追いかける。正面の大きな建物の横に建つ小さめな(といってもその辺の小さめな家くらいはある)平屋に入っていくと、そこは本当にスタジオだった。ギター、ベース、ドラムセット、キーボードなどの各種楽器や、アンプ、スピーカーなどの機材が一通り揃っている。
「お、来たね。おはよう」
中で待っていた瑛斗先輩が、声をかけてくれる。先輩と一緒に準備してくれていた清水くんが、無言で頭をさげた。
「お、おはようございます。おじゃまします」
答えながらも私は、瑛斗先輩の家の凄さに、そわそわと落ち着かない。
「すごい、え、大丈夫? 私……ほんとに? え?」
心の声をダダ漏らしながらキョロキョロする私を、他の三人は慣れた様子で、笑ったりスルーしたりしている。
「瑛斗先輩のお家って、すごいんですね」
「……そんなことないよ」
瑛斗先輩の顔が一瞬だけ曇った、ような気がした。すぐにいつも通りの笑みを浮かべ答えてくれたけど、私は自分の発言に後悔した。例えそれが良いことに対してでも、家族についての言葉は傷つくことがあるって、私はよく知っているはずなのに。
「よし! 練習やるか!」
太陽先輩の声が、空気を変える。
「おう。やろうか」
にこやかに笑う瑛斗先輩に、私も「はい」と力をこめて返事した。
それぞれが位置について、清水くんのカウントを待つ。
曲はこの間の新歓ライブで三番目、つまり最後に披露された盛り上げ曲「エスターテ」。イタリア語で「夏」と言う意味の、エテルノのオリジナル曲だ。
そうそう、エテルノもイタリア語で、「永遠」って意味らしくて。イタリア語っていうのには何か意味があるんですかって太陽先輩に訊いたら、満面の笑みで「わかんない」って言われたんだった。
清水くんが口を開いた。
「1、2、123……」
4、は無言で、次の一拍目、いきなりジャーンと音が重なる……はずだったのに、私が少し出遅れてしまった。
まずい。三人の演奏についていかないと。と思えば思うほど力が入って、そうすると今度はテンポが速く走りすぎてしまう。だめだと思って遅くすると今度は遅れをとってしまって……。
きちんと完成していたはずの曲が、私のキーボードのせいでめちゃくちゃだった。
「すみません」
演奏が終わると同時に、私は三人に頭を下げた。
部室での練習は他のバンドとの譲り合いで、多くても週に二、三回しか出来ない。それ以外の日はみんな、空き教室や誰かの家で出来る限りの練習をしたり、スタジオを借りたり、自主練にしたりしているらしい。
他のバンドに譲る意味もあって、エテルノは部室での練習をおこなわず、いつも瑛斗先輩の家で練習しているそうだ。
休日だから、十時に学校で太陽先輩と待ち合わせて、歩いて十五分。やってきた瑛斗先輩の家を前に、私はあんぐりと開いた口が塞がらなかった。
「おっきい……」
一般的な家が四軒は建ちそうな敷地に、お屋敷と呼ぶに相応しい大きな家が建っている。
「すげえだろ」
太陽先輩は勝手知ったると言った感じでインターホンを押し、門をくぐった。
「こっちが、スタジオ」
スタジオ? 個人の家とは思えない単語に首を傾げつつ、太陽先輩を追いかける。正面の大きな建物の横に建つ小さめな(といってもその辺の小さめな家くらいはある)平屋に入っていくと、そこは本当にスタジオだった。ギター、ベース、ドラムセット、キーボードなどの各種楽器や、アンプ、スピーカーなどの機材が一通り揃っている。
「お、来たね。おはよう」
中で待っていた瑛斗先輩が、声をかけてくれる。先輩と一緒に準備してくれていた清水くんが、無言で頭をさげた。
「お、おはようございます。おじゃまします」
答えながらも私は、瑛斗先輩の家の凄さに、そわそわと落ち着かない。
「すごい、え、大丈夫? 私……ほんとに? え?」
心の声をダダ漏らしながらキョロキョロする私を、他の三人は慣れた様子で、笑ったりスルーしたりしている。
「瑛斗先輩のお家って、すごいんですね」
「……そんなことないよ」
瑛斗先輩の顔が一瞬だけ曇った、ような気がした。すぐにいつも通りの笑みを浮かべ答えてくれたけど、私は自分の発言に後悔した。例えそれが良いことに対してでも、家族についての言葉は傷つくことがあるって、私はよく知っているはずなのに。
「よし! 練習やるか!」
太陽先輩の声が、空気を変える。
「おう。やろうか」
にこやかに笑う瑛斗先輩に、私も「はい」と力をこめて返事した。
それぞれが位置について、清水くんのカウントを待つ。
曲はこの間の新歓ライブで三番目、つまり最後に披露された盛り上げ曲「エスターテ」。イタリア語で「夏」と言う意味の、エテルノのオリジナル曲だ。
そうそう、エテルノもイタリア語で、「永遠」って意味らしくて。イタリア語っていうのには何か意味があるんですかって太陽先輩に訊いたら、満面の笑みで「わかんない」って言われたんだった。
清水くんが口を開いた。
「1、2、123……」
4、は無言で、次の一拍目、いきなりジャーンと音が重なる……はずだったのに、私が少し出遅れてしまった。
まずい。三人の演奏についていかないと。と思えば思うほど力が入って、そうすると今度はテンポが速く走りすぎてしまう。だめだと思って遅くすると今度は遅れをとってしまって……。
きちんと完成していたはずの曲が、私のキーボードのせいでめちゃくちゃだった。
「すみません」
演奏が終わると同時に、私は三人に頭を下げた。
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