コンプレックス×ノート

石丸明

文字の大きさ
上 下
7 / 31

7.初めての部会

しおりを挟む
 家に帰るやいなや、美月からの質問攻めにあった。

「今日いたよね? ライブ。え、入るの? 結月も軽音部、入るの? やったー。ねえ、案内の紙もらった? 最初の部会のこととか書いてあるやつ。そう、それ。自己紹介の時に、楽器の希望も言うんだって。しかも、経験者は一分程度、演奏してもいいって。結月は何弾く? っていうか、楽器はキーボードだよね? それとも、新しい楽器始める?」

 マシンガンのごとく喋る美月をなんとかかわして、自室に逃げ込む。

 膨らんでいた気持ちが、針を刺されたみたいに弾けてしまった。

 どうしよう。入部届、出しちゃった。

 ライブ直後の高揚感が落ち着いて、美月の顔を見て、軽音部に入るという選択を、早くも後悔しかけている。

 美月が言っていた通り、新入生は最初の部会で自己紹介をすることになっている。その時に希望する楽器を言って、経験者は実際に演奏してみせるらしい。

 最近美月が練習していたのは、それだったのか。レッスンのとは違う曲を、やけに熱心に弾いているなと思っていたけど。

 私がギリギリに入部届を出したのもあって、部会はもう三日後に迫っている。十分に練習できるのは、祝日の明日だけだ。今日中に曲を決めて、明日の朝一で楽譜を準備して、練習して、それでも間に合うか……。

 別に入部審査ってわけじゃない。弾けても弾けなくてもいいんだけど、でも。

 ——俺たちエテルノも、キーボードを募集してます。

 太陽先輩の声が、頭の中で再生される。軽い感じで言っていたけど、声に含まれた熱は本物だった。生半可な演奏では、きっと入れてもらえない。

 しかも私には、超身近に比較対象がいる。普通に弾いたのでは、華やかな美月の演奏に霞んでしまう。

 勝ちたい。美月に勝ちたい。

 始めて芽生えた感情だった。これまで羨ましいと思ったことはあっても、仕方のないことだと受け入れて来た。受け入れられない時は、遠ざけてきた。でも今回は、それは嫌だった。

 どうすれば勝てる? どうすれば、認めてもらえる?

   *

 祝日も平日も飛ぶように過ぎて、部会の放課後がやってきた。

 集められた選択教室の前方には楽器がセッティングされている。机は端に寄せられて、椅子だけが並べられているところに、前から一年生、二年生、三年生と座った。

 チラッと振り返ると、太陽先輩と瑛斗先輩が並んで座っていた。笑顔で話しているけれど、その目は真剣だ。

 ドラムの人はどこにいるんだろう。後ろを端から端まで見ても、それらしき人はいない、と思ったら……。

 その人はなぜか、一年生の列にいた。

 見間違えかと思ったけど、確かにあの日、正確なドラムを叩いていた短髪の男の人だった。

 え、一年生、なの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オタわん〜オタクがわんこ系イケメンの恋愛レッスンをすることになりました〜

石丸明
児童書・童話
 豊富な恋愛知識をもち、友人からアネゴと呼ばれる主人公、宮瀬恭子(みやせきょうこ)。けれどその知識は大好きな少女漫画から仕入れたもので、自身の恋愛経験はゼロ。  中二で同じクラスになった、みんなのアイドル的存在である安達唯斗(あだちゆいと)から、好きな人と仲良くなるための「恋愛レッスン」をして欲しいと頼まれ、断りきれず引き受ける。  唯斗はコミュニケーション能力が高く、また気遣いもできるため、恭子に教えられることは特になかった。それでも練習として一緒に下校などするうちに、二人は仲を深めていった。  恭子は、あどけない唯斗のことを「弟みたい」だと感じ、惹かれていくが……。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

初恋の王子様

中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。 それは、優しくて王子様のような 学校一の人気者、渡優馬くん。 優馬くんは、あたしの初恋の王子様。 そんなとき、あたしの前に現れたのは、 いつもとは雰囲気の違う 無愛想で強引な……優馬くん!? その正体とは、 優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、 燈馬くん。 あたしは優馬くんのことが好きなのに、 なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。 ――あたしの小指に結ばれた赤い糸。 それをたどった先にいる運命の人は、 優馬くん?…それとも燈馬くん? 既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。 ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。 第2回きずな児童書大賞にて、 奨励賞を受賞しました♡!!

魔法少女は世界を救わない

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 混沌とした太古の昔、いわゆる神話の時代、人々は突然現れた魔竜と呼ばれる強大な存在を恐れ暮らしてきた。しかし、長い間苦しめられてきた魔竜を討伐するため神官たちは神へ祈り、その力を凝縮するための祭壇とも言える巨大な施設を産み出した。  神の力が満ち溢れる場所から人を超えた力と共に産みおとされた三人の勇者、そして同じ場所で作られた神具と呼ばれる強大な力を秘めた武具を用いて魔竜は倒され世界には平和が訪れた。  それから四千年が経ち人々の記憶もあいまいになっていた頃、世界に再び混乱の影が忍び寄る。時を同じくして一人の少女が神具を手にし、世の混乱に立ち向かおうとしていた。

化け猫ミッケと黒い天使

ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。 そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。 彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。 次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。 そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。

処理中です...