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5.ただの観客
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新歓ライブの会場前で、急に声をかけられてビクッとなる。声をかけてきたのは、先輩らしき男のひと二人組だった。
ショートヘアの爽やかな先輩は、私がビクッとしたのには構わず言葉を続けた。
「もう始まるから、早く入って入って。一年生? 入部希望? 楽器は?」
「あ、えっと……一年生です……入部、いや、あの、えっと……」
知らない人からの、不意打ちの、複数の質問に、私はテンパってしまってうまく喋れない。美月だったら、きっとちゃんと返せるのに。
「おい太陽、急に怖いって。困ってるじゃん」
もう一人の、長めの髪を遊ばせたその……ちょっとチャラそうな人が、爽やかな先輩を嗜める。
「ごめんね、急に。俺たち、軽音部の二年で、こっちが太陽、俺は瑛斗。今日のライブに出るから。良かったら聴いてって」
瑛斗と名乗るその人は、多目的ホールのドアを開けて、どうぞと私を促した。その自然な流れに、私は会釈しながら中へ入った。入ってから、あ、と思ったけどもう遅い。こうなったらもう、流れに身を任せるしかない。
「じゃ、俺たち準備あるから、楽しんで」
「絶対に楽しませるから!」
瑛斗先輩と太陽先輩は、代わる代わる言って、舞台袖のほうに去っていった。
一人残された私は、とりあえず客席へ向かう。一番後ろの、端の方の空いている席に腰を下ろした。
会場には、始まる前の高揚感と緊張感が漂っている。
数十人の観客は、新入生だけではなく、部員や、部員では無い上級生もいるようだった。
客席前方の真ん中あたりに、美月の姿が見えた。周りの人たちと楽しそうに話している姿は、この空間にとても馴染んでいる。
まもなくライブが始まった。
演奏して、少し喋って、また演奏して、次のバンドへ。各バンドが二、三曲ずつ披露する。どのバンドも上手くて、楽しそうで、もちろん聴いていても楽しい。
アップテンポな曲では観客も盛り上がって、私も小さく手を叩いたりしながら聴いていた。スローテンポな曲では、観客がぐっと前のめりになって引き込まれる。そんな会場の空気も心地よかった。
けどやっぱり、美月と同じ部活でやっていくのはキツい。今日はただの観客として目一杯楽しんで、明日から私は帰宅部だ。次は美月にせがまれて、彼女の出演するライブを聴きに来るかもしれない。
私がそんなことを考えていたら、演奏を終えた出演者が、マイクを手に口を開いた。
「次のバンドで最後です。みなさん、ラストまで盛り上がっていきましょう」
ステージ上が暗くなって、セッティングが行われる。
さっき入口で声をかけてくれた二人は、まだ出演していない。ということは、トリを務めるのか。
セッティングの確認だろう、ギターとベース、そしてドラムがそれぞれ少し音を出した。
「エテルノです。よろしくお願いします」
セッティングが終わったのか、まだ暗いままのステージから、マイクを通して声が響いた。声色からしてさっきの太陽先輩だと思うんだけど、話していた時とは違う、迫力みたいなものが滲んでいる。客席からは歓声が上がった。
4カウント、ドラムのスティックを叩く音がして、次の瞬間——。
ショートヘアの爽やかな先輩は、私がビクッとしたのには構わず言葉を続けた。
「もう始まるから、早く入って入って。一年生? 入部希望? 楽器は?」
「あ、えっと……一年生です……入部、いや、あの、えっと……」
知らない人からの、不意打ちの、複数の質問に、私はテンパってしまってうまく喋れない。美月だったら、きっとちゃんと返せるのに。
「おい太陽、急に怖いって。困ってるじゃん」
もう一人の、長めの髪を遊ばせたその……ちょっとチャラそうな人が、爽やかな先輩を嗜める。
「ごめんね、急に。俺たち、軽音部の二年で、こっちが太陽、俺は瑛斗。今日のライブに出るから。良かったら聴いてって」
瑛斗と名乗るその人は、多目的ホールのドアを開けて、どうぞと私を促した。その自然な流れに、私は会釈しながら中へ入った。入ってから、あ、と思ったけどもう遅い。こうなったらもう、流れに身を任せるしかない。
「じゃ、俺たち準備あるから、楽しんで」
「絶対に楽しませるから!」
瑛斗先輩と太陽先輩は、代わる代わる言って、舞台袖のほうに去っていった。
一人残された私は、とりあえず客席へ向かう。一番後ろの、端の方の空いている席に腰を下ろした。
会場には、始まる前の高揚感と緊張感が漂っている。
数十人の観客は、新入生だけではなく、部員や、部員では無い上級生もいるようだった。
客席前方の真ん中あたりに、美月の姿が見えた。周りの人たちと楽しそうに話している姿は、この空間にとても馴染んでいる。
まもなくライブが始まった。
演奏して、少し喋って、また演奏して、次のバンドへ。各バンドが二、三曲ずつ披露する。どのバンドも上手くて、楽しそうで、もちろん聴いていても楽しい。
アップテンポな曲では観客も盛り上がって、私も小さく手を叩いたりしながら聴いていた。スローテンポな曲では、観客がぐっと前のめりになって引き込まれる。そんな会場の空気も心地よかった。
けどやっぱり、美月と同じ部活でやっていくのはキツい。今日はただの観客として目一杯楽しんで、明日から私は帰宅部だ。次は美月にせがまれて、彼女の出演するライブを聴きに来るかもしれない。
私がそんなことを考えていたら、演奏を終えた出演者が、マイクを手に口を開いた。
「次のバンドで最後です。みなさん、ラストまで盛り上がっていきましょう」
ステージ上が暗くなって、セッティングが行われる。
さっき入口で声をかけてくれた二人は、まだ出演していない。ということは、トリを務めるのか。
セッティングの確認だろう、ギターとベース、そしてドラムがそれぞれ少し音を出した。
「エテルノです。よろしくお願いします」
セッティングが終わったのか、まだ暗いままのステージから、マイクを通して声が響いた。声色からしてさっきの太陽先輩だと思うんだけど、話していた時とは違う、迫力みたいなものが滲んでいる。客席からは歓声が上がった。
4カウント、ドラムのスティックを叩く音がして、次の瞬間——。
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