コンプレックス×ノート

石丸明

文字の大きさ
上 下
4 / 31

4.新歓ライブ

しおりを挟む
 入学式の翌々週から、部活見学期間がスタートした。その初日に、美月は早くも軽音部への入部届を提出したという。

 私は文化部を中心にいくつかの部活を見学してみたけれど、どこもしっくりこなかった。

「結月、部活どうするの?」

 朝食のトーストをかじりながら、美月が心配そうに訊いてきた。

「わかんない。いいとこなかったら、帰宅部かな」

 目玉焼きをつっつきながら、私は答えた。

「だったら、とりあえず一回、軽音来てみたら?」
「軽音は、あんま興味ないかな」

 本当は入りたかったくせに、私はそっけなく答えた。そっけなくしていないと、軽音部への興味とか、美月への羨ましさとか、そんなのが爆発してしまいそうだった。

「そっか……」

 美月は残念そうに俯いた。しばらく無言でトーストを食べていたけど、最後の一口を放りこんで、私に笑顔を向けてきた。

「今日ね、新歓ライブの最終日なの。放課後、多目的ホールで。入る気ない人も、もう他の部活に入ってる人でも、誰でも大歓迎なんだって。だから、もし暇だったら、結月も来てよ、ね」

 美月はそう言って、返事を聞かず席を立った。ごちそうさま、と言いながら食器を下げダイニングを出ていく美月を、私は静かに見送った。

 美月が私のことを心配してくれているのは、わかっている。気を遣って誘ってくれたことも。でも「来てね」って言い回しが、ああ美月はもう軽音部の一員なんだなあって強く思わせて、私の気持ちを軽音部から遠ざける。

 身支度を整えている時も、登校中も、授業中も、今日はもう部活のことで頭がいっぱいだった。

 こんなとき相談できる友達がいればいいんだけど、入学して一か月ちかく経っても、私には友達らしい友達がいなかった。

 美月のほうは、入学から一週間もしないうちに、クラスのみんなと仲良くなっていた。その繋がりで私に声をかけてくれる人もいたけど、うまく返せなくて仲は深まらなかった。

 双子なのに全然違うね、って心の声が聞こえる気がする。こんな状態で、部活まで一緒になったら、より惨めになるに決まってる。軽音部には、やっぱり入れない。

 ——と、思っていたのに。放課後、私は多目的ホールの前にいた。

 やっぱりどうしても軽音が気になって、そのせいで他の部活に興味が持てなくて。

 聴くだけ。

 聴いて、でもやっぱり美月と一緒の部活には入れないなって確認して、それで帰宅部になればいい。未練を断ち切るために。

 なんて自分に言い訳をしながら、ライブの会場までやって来た。でも、入る勇気が出ない。

 本当は入部したいくせに。もしライブを見て、未練がより大きくなってしまったら?

 頭の中で、もう一人の自分が意地悪く言う。

 多目的ホールの前を行ったり来たりしている。

「お、もしかして、お客さん?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ねぇ、おかあさん

たまこ
児童書・童話
おかあさんがだいすきな、おんなのこのおはなしです。

魔法少女はまだ翔べない

東 里胡
児童書・童話
第15回絵本・児童書大賞、奨励賞をいただきました、応援下さった皆様、ありがとうございます! 中学一年生のキラリが転校先で出会ったのは、キラという男の子。 キラキラコンビと名付けられた二人とクラスの仲間たちは、ケンカしたり和解をして絆を深め合うが、キラリはとある事情で一時的に転校してきただけ。 駄菓子屋を営む、おばあちゃんや仲間たちと過ごす海辺の町、ひと夏の思い出。 そこで知った自分の家にまつわる秘密にキラリも覚醒して……。 果たしてキラリの夏は、キラキラになるのか、それとも? 表紙はpixivてんぱる様にお借りしております。

初恋の王子様

中小路かほ
児童書・童話
あたし、朝倉ほのかの好きな人――。 それは、優しくて王子様のような 学校一の人気者、渡優馬くん。 優馬くんは、あたしの初恋の王子様。 そんなとき、あたしの前に現れたのは、 いつもとは雰囲気の違う 無愛想で強引な……優馬くん!? その正体とは、 優馬くんとは正反対の性格の双子の弟、 燈馬くん。 あたしは優馬くんのことが好きなのに、 なぜか燈馬くんが邪魔をしてくる。 ――あたしの小指に結ばれた赤い糸。 それをたどった先にいる運命の人は、 優馬くん?…それとも燈馬くん? 既存の『お前、俺に惚れてんだろ?』をジュニア向けに改稿しました。 ストーリーもコンパクトになり、内容もマイルドになっています。 第2回きずな児童書大賞にて、 奨励賞を受賞しました♡!!

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

【完結済み】破滅のハッピーエンドの王子妃

BBやっこ
児童書・童話
ある国は、攻め込まれ城の中まで敵国の騎士が入り込みました。その時王子妃様は? 1話目は、王家の終わり 2話めに舞台裏、魔国の騎士目線の話 さっくり読める童話風なお話を書いてみました。

てのひらは君のため

星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
児童書・童話
あまりの暑さで熱中症になりかけていた深森真白に、美少年が声をかけてきた。 彼は同じ中学に通う一つ年下の男子、成瀬漣里。 無口、無表情、無愛想。 三拍子そろった彼は入学早々、上級生を殴った不良として有名だった。 てっきり怖い人かと思いきや、不良を殴ったのはイジメを止めるためだったらしい。 話してみると、本当の彼は照れ屋で可愛かった。 交流を深めていくうちに、真白はどんどん漣里に惹かれていく。 でも、周囲に不良と誤解されている彼との恋は前途多難な様子で…?

処理中です...