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4.新歓ライブ
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入学式の翌々週から、部活見学期間がスタートした。その初日に、美月は早くも軽音部への入部届を提出したという。
私は文化部を中心にいくつかの部活を見学してみたけれど、どこもしっくりこなかった。
「結月、部活どうするの?」
朝食のトーストをかじりながら、美月が心配そうに訊いてきた。
「わかんない。いいとこなかったら、帰宅部かな」
目玉焼きをつっつきながら、私は答えた。
「だったら、とりあえず一回、軽音来てみたら?」
「軽音は、あんま興味ないかな」
本当は入りたかったくせに、私はそっけなく答えた。そっけなくしていないと、軽音部への興味とか、美月への羨ましさとか、そんなのが爆発してしまいそうだった。
「そっか……」
美月は残念そうに俯いた。しばらく無言でトーストを食べていたけど、最後の一口を放りこんで、私に笑顔を向けてきた。
「今日ね、新歓ライブの最終日なの。放課後、多目的ホールで。入る気ない人も、もう他の部活に入ってる人でも、誰でも大歓迎なんだって。だから、もし暇だったら、結月も来てよ、ね」
美月はそう言って、返事を聞かず席を立った。ごちそうさま、と言いながら食器を下げダイニングを出ていく美月を、私は静かに見送った。
美月が私のことを心配してくれているのは、わかっている。気を遣って誘ってくれたことも。でも「来てね」って言い回しが、ああ美月はもう軽音部の一員なんだなあって強く思わせて、私の気持ちを軽音部から遠ざける。
身支度を整えている時も、登校中も、授業中も、今日はもう部活のことで頭がいっぱいだった。
こんなとき相談できる友達がいればいいんだけど、入学して一か月ちかく経っても、私には友達らしい友達がいなかった。
美月のほうは、入学から一週間もしないうちに、クラスのみんなと仲良くなっていた。その繋がりで私に声をかけてくれる人もいたけど、うまく返せなくて仲は深まらなかった。
双子なのに全然違うね、って心の声が聞こえる気がする。こんな状態で、部活まで一緒になったら、より惨めになるに決まってる。軽音部には、やっぱり入れない。
——と、思っていたのに。放課後、私は多目的ホールの前にいた。
やっぱりどうしても軽音が気になって、そのせいで他の部活に興味が持てなくて。
聴くだけ。
聴いて、でもやっぱり美月と一緒の部活には入れないなって確認して、それで帰宅部になればいい。未練を断ち切るために。
なんて自分に言い訳をしながら、ライブの会場までやって来た。でも、入る勇気が出ない。
本当は入部したいくせに。もしライブを見て、未練がより大きくなってしまったら?
頭の中で、もう一人の自分が意地悪く言う。
多目的ホールの前を行ったり来たりしている。
「お、もしかして、お客さん?」
私は文化部を中心にいくつかの部活を見学してみたけれど、どこもしっくりこなかった。
「結月、部活どうするの?」
朝食のトーストをかじりながら、美月が心配そうに訊いてきた。
「わかんない。いいとこなかったら、帰宅部かな」
目玉焼きをつっつきながら、私は答えた。
「だったら、とりあえず一回、軽音来てみたら?」
「軽音は、あんま興味ないかな」
本当は入りたかったくせに、私はそっけなく答えた。そっけなくしていないと、軽音部への興味とか、美月への羨ましさとか、そんなのが爆発してしまいそうだった。
「そっか……」
美月は残念そうに俯いた。しばらく無言でトーストを食べていたけど、最後の一口を放りこんで、私に笑顔を向けてきた。
「今日ね、新歓ライブの最終日なの。放課後、多目的ホールで。入る気ない人も、もう他の部活に入ってる人でも、誰でも大歓迎なんだって。だから、もし暇だったら、結月も来てよ、ね」
美月はそう言って、返事を聞かず席を立った。ごちそうさま、と言いながら食器を下げダイニングを出ていく美月を、私は静かに見送った。
美月が私のことを心配してくれているのは、わかっている。気を遣って誘ってくれたことも。でも「来てね」って言い回しが、ああ美月はもう軽音部の一員なんだなあって強く思わせて、私の気持ちを軽音部から遠ざける。
身支度を整えている時も、登校中も、授業中も、今日はもう部活のことで頭がいっぱいだった。
こんなとき相談できる友達がいればいいんだけど、入学して一か月ちかく経っても、私には友達らしい友達がいなかった。
美月のほうは、入学から一週間もしないうちに、クラスのみんなと仲良くなっていた。その繋がりで私に声をかけてくれる人もいたけど、うまく返せなくて仲は深まらなかった。
双子なのに全然違うね、って心の声が聞こえる気がする。こんな状態で、部活まで一緒になったら、より惨めになるに決まってる。軽音部には、やっぱり入れない。
——と、思っていたのに。放課後、私は多目的ホールの前にいた。
やっぱりどうしても軽音が気になって、そのせいで他の部活に興味が持てなくて。
聴くだけ。
聴いて、でもやっぱり美月と一緒の部活には入れないなって確認して、それで帰宅部になればいい。未練を断ち切るために。
なんて自分に言い訳をしながら、ライブの会場までやって来た。でも、入る勇気が出ない。
本当は入部したいくせに。もしライブを見て、未練がより大きくなってしまったら?
頭の中で、もう一人の自分が意地悪く言う。
多目的ホールの前を行ったり来たりしている。
「お、もしかして、お客さん?」
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