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3.新入部員募集中
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家に帰って、美月がリビングのテーブルにどさっと置いたチラシの量は、私がもらったのの倍くらいあった。
「こんなにもらっても、困っちゃうよね」
美月は笑いながら、私に同意を求めてきた。
「ああ、うん……そうだね」
私は曖昧に頷いて、素早く自室に引っ込んだ。
新生活を楽しまないと、なんて膨らんでいた気持ちが、プシュウと縮んでいく。
別に、たかが部活の勧誘チラシだ。たくさんもらったから偉いとか、もらえなかったからどうとか、そういうのは無い。わかってる。でも、たかが勧誘チラシでさえも、美月と私とではこんなに差がつくのかと思い知らされた。
もやもやとした気持ちのまま、部屋着に着替えベッドに寝っ転がる。ゴロゴロしながら、もらったチラシを眺めた。
お父さんには「まだ」って言ったけど、実は気になっている部活がある。その部活のチラシを受け取ったかどうかわからないから、一枚一枚確認していく。
野球部、吹奏楽部、テニス部、演劇部、バレー部、将棋部……。パソコンで作った綺麗なのがあれば、手書きのしかも殴り書きみたいなのも。各部活の色が出ていて、全く入る気がないところのを眺めるのも楽しい。そしてまた一枚、ペラッとめくり現れたのが……。
[軽音楽部 新入部員募集中!]
ライブのポスターみたいなかっこいいフォントと、マイクを持って歌う人のおしゃれなイラストが印刷されている。
よかった。もらってた。
別にチラシがないと入部できないわけじゃないけど、入ってもいいんだと肯定されているみたいで安心する。
小さい頃から音楽が好きで、小二から通い始めたピアノ教室に、今も通っている。周りの人と比べて特別上手いわけではない。練習をサボることだって、たまに? わりと? ある。それでも、ピアノは私にとって大切だった。
一人で弾くピアノと、バンドで演奏するキーボードは、全然違うはずだ。でも、今までとはまた違った楽しさがあるんじゃないかって、想像するだけでワクワクしている。
「結月ー!」
チラシを眺めながら、軽音部での活動に想いを馳せていたら、急に美月の声がした。と同時に、ドアがガラッと開けられる。当然のように、美月が部屋に入ってきた。
「ちょっと、美月。ノックしてって」
私は言いながらチラシを隠そうとしたけど、間に合わなかった。
「ごめんごめん。なに見てるの? あ、今日のチラシ? え! 結月も軽音にするの⁉︎」
軽い調子で謝りながらこちらに近づいてきた美月は、私の持つチラシに目をとめた。
「えっと……」
口ごもりながら、私はさっきまでのワクワクが急激に冷めていくのを感じていた。
いま、美月は、「結月『も』軽音にするの⁉︎」って言った? 「も」ってことは、つまり——。
「私も軽音にするよ。クラスも部活も一緒なの、嬉しいな」
眩しい笑顔に、胸がキュウっと締めつけられる。こんなに喜んでくれているのに、離れたいと思っているなんて、私は嫌な人間だ。けど、それでもどうしても、部活くらいは美月と離れたい。
「……美月、テニスか吹奏楽かって、前から言ってなかった?」
「前はそう思ってたんだけどね、やっぱ軽音がいいなって思って。そしたら結月もチラシ見てたから、びっくりしちゃった。へへ、双子だね」
「いや、私は……軽音には、入らない、かな」
「ええ、そうなの? 結月、ピアノ好きって言ってたから、キーボードやるかなって思ったんだけど。双子でツインキーボードとかかっこよくない? 考えてみてよ。それか、私ボーカルでもいいし。ガールズバンドとかも、楽しそうじゃない? 私、あの曲がやってみたいんだよね、ほら、あの、なんだっけ。この間テレビに出てた……」
美月は楽しそうに喋り続けた。
美月が喋れば喋るほど、私の気持ちは沈んでいく。そんな自分が嫌で、さらに気持ちは沈んでいった。
「こんなにもらっても、困っちゃうよね」
美月は笑いながら、私に同意を求めてきた。
「ああ、うん……そうだね」
私は曖昧に頷いて、素早く自室に引っ込んだ。
新生活を楽しまないと、なんて膨らんでいた気持ちが、プシュウと縮んでいく。
別に、たかが部活の勧誘チラシだ。たくさんもらったから偉いとか、もらえなかったからどうとか、そういうのは無い。わかってる。でも、たかが勧誘チラシでさえも、美月と私とではこんなに差がつくのかと思い知らされた。
もやもやとした気持ちのまま、部屋着に着替えベッドに寝っ転がる。ゴロゴロしながら、もらったチラシを眺めた。
お父さんには「まだ」って言ったけど、実は気になっている部活がある。その部活のチラシを受け取ったかどうかわからないから、一枚一枚確認していく。
野球部、吹奏楽部、テニス部、演劇部、バレー部、将棋部……。パソコンで作った綺麗なのがあれば、手書きのしかも殴り書きみたいなのも。各部活の色が出ていて、全く入る気がないところのを眺めるのも楽しい。そしてまた一枚、ペラッとめくり現れたのが……。
[軽音楽部 新入部員募集中!]
ライブのポスターみたいなかっこいいフォントと、マイクを持って歌う人のおしゃれなイラストが印刷されている。
よかった。もらってた。
別にチラシがないと入部できないわけじゃないけど、入ってもいいんだと肯定されているみたいで安心する。
小さい頃から音楽が好きで、小二から通い始めたピアノ教室に、今も通っている。周りの人と比べて特別上手いわけではない。練習をサボることだって、たまに? わりと? ある。それでも、ピアノは私にとって大切だった。
一人で弾くピアノと、バンドで演奏するキーボードは、全然違うはずだ。でも、今までとはまた違った楽しさがあるんじゃないかって、想像するだけでワクワクしている。
「結月ー!」
チラシを眺めながら、軽音部での活動に想いを馳せていたら、急に美月の声がした。と同時に、ドアがガラッと開けられる。当然のように、美月が部屋に入ってきた。
「ちょっと、美月。ノックしてって」
私は言いながらチラシを隠そうとしたけど、間に合わなかった。
「ごめんごめん。なに見てるの? あ、今日のチラシ? え! 結月も軽音にするの⁉︎」
軽い調子で謝りながらこちらに近づいてきた美月は、私の持つチラシに目をとめた。
「えっと……」
口ごもりながら、私はさっきまでのワクワクが急激に冷めていくのを感じていた。
いま、美月は、「結月『も』軽音にするの⁉︎」って言った? 「も」ってことは、つまり——。
「私も軽音にするよ。クラスも部活も一緒なの、嬉しいな」
眩しい笑顔に、胸がキュウっと締めつけられる。こんなに喜んでくれているのに、離れたいと思っているなんて、私は嫌な人間だ。けど、それでもどうしても、部活くらいは美月と離れたい。
「……美月、テニスか吹奏楽かって、前から言ってなかった?」
「前はそう思ってたんだけどね、やっぱ軽音がいいなって思って。そしたら結月もチラシ見てたから、びっくりしちゃった。へへ、双子だね」
「いや、私は……軽音には、入らない、かな」
「ええ、そうなの? 結月、ピアノ好きって言ってたから、キーボードやるかなって思ったんだけど。双子でツインキーボードとかかっこよくない? 考えてみてよ。それか、私ボーカルでもいいし。ガールズバンドとかも、楽しそうじゃない? 私、あの曲がやってみたいんだよね、ほら、あの、なんだっけ。この間テレビに出てた……」
美月は楽しそうに喋り続けた。
美月が喋れば喋るほど、私の気持ちは沈んでいく。そんな自分が嫌で、さらに気持ちは沈んでいった。
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