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2.部活勧誘
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入学式の後は、教室でホームルームがあった。
自己紹介した担任の先生は優しそうで、ほっとする。そのあとは、今後のスケジュール説明があって、解散。たったそれだけの短時間で、美月はもう隣の席の子と仲良くなっていた。好きな芸能人の話かなにかで盛り上がっている美月を置いて、私は靴箱に向かう。
保護者の人たちは一足早く校舎の外に出ているから、うちのお父さんとお母さんもそこで待っているはずだ。
他のクラスも同じタイミングで終わったみたいで、各教室から一斉に人が出てきた。一気に混雑した廊下を、人の流れに乗って進んでいく。
靴箱が近づくにつれて、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。いろんな人の声が混じり合って、なんて言っているかはわからない。どうやら玄関の外で、大勢の人が叫んでいるようだ。
どうしたんだろう。
不思議に思いながら、靴箱で通学用のローファーに履き替え、外へ出た。目に飛び込んできた光景に、思わず立ち止まる。
いろんな格好——各種スポーツのユニフォームを着ていたり、楽器を持っていたり、よくわからない被り物をしていたり——をした上級生が、出てくる新入生を手あたり次第に捕まえて、声をかけ、チラシを渡していた。
「君、そこの君! 野球部どう? 君も! あ、君! マネージャーも募集中です!」
「吹奏楽部です。よろしくお願いします。演奏会だけでも、良かったら、ぜひ」
「こんにちは、バレー部です。一緒に全国行きましょう。よろしくお願いします」
「将棋部は、初心者も経験者も大歓迎です。体験入部来てください」
自然な、あるいは不自然な笑みを浮かべた先輩たちは、一様に視線が鋭い。獲物を狙う肉食獣、なんてテレビでしか見たことないけど、そんな目をしている。
先輩たちの圧がすごくて、踏み出すのに躊躇する。けど後ろからもどんどん一年生が出てくるから、突っ立っていると邪魔になる。
押し出されるように一歩を踏み出すと、あとはもう嵐の中を歩いているみたいだった。右から左からかけられる声、差し出されるチラシ、チラシ、チラシ。私は俯き気味に歩きながら、差し出されるままにチラシを受け取り、その嵐の中を通り抜けた。
「勧誘、すごかったね」
喧騒の外で待っていたお母さんが、笑いながら声をかけてきた。
「結月、部活はもう決めているの?」
お父さんがチラシを覗き込みながら訊いてくる。
「まだ。今からゆっくり選ぼうと思って」
両手に抱えたチラシの数だけ、新しい生活が待っている気がして、心が躍る。
美月と一緒のクラスになった時はいろいろ考えてしまったけど、ここは心機一転、新生活を楽しまないと。
——なんて前向きな心持ちでいられたのは、ほんの一瞬だった。
自己紹介した担任の先生は優しそうで、ほっとする。そのあとは、今後のスケジュール説明があって、解散。たったそれだけの短時間で、美月はもう隣の席の子と仲良くなっていた。好きな芸能人の話かなにかで盛り上がっている美月を置いて、私は靴箱に向かう。
保護者の人たちは一足早く校舎の外に出ているから、うちのお父さんとお母さんもそこで待っているはずだ。
他のクラスも同じタイミングで終わったみたいで、各教室から一斉に人が出てきた。一気に混雑した廊下を、人の流れに乗って進んでいく。
靴箱が近づくにつれて、なんだか騒がしい声が聞こえてきた。いろんな人の声が混じり合って、なんて言っているかはわからない。どうやら玄関の外で、大勢の人が叫んでいるようだ。
どうしたんだろう。
不思議に思いながら、靴箱で通学用のローファーに履き替え、外へ出た。目に飛び込んできた光景に、思わず立ち止まる。
いろんな格好——各種スポーツのユニフォームを着ていたり、楽器を持っていたり、よくわからない被り物をしていたり——をした上級生が、出てくる新入生を手あたり次第に捕まえて、声をかけ、チラシを渡していた。
「君、そこの君! 野球部どう? 君も! あ、君! マネージャーも募集中です!」
「吹奏楽部です。よろしくお願いします。演奏会だけでも、良かったら、ぜひ」
「こんにちは、バレー部です。一緒に全国行きましょう。よろしくお願いします」
「将棋部は、初心者も経験者も大歓迎です。体験入部来てください」
自然な、あるいは不自然な笑みを浮かべた先輩たちは、一様に視線が鋭い。獲物を狙う肉食獣、なんてテレビでしか見たことないけど、そんな目をしている。
先輩たちの圧がすごくて、踏み出すのに躊躇する。けど後ろからもどんどん一年生が出てくるから、突っ立っていると邪魔になる。
押し出されるように一歩を踏み出すと、あとはもう嵐の中を歩いているみたいだった。右から左からかけられる声、差し出されるチラシ、チラシ、チラシ。私は俯き気味に歩きながら、差し出されるままにチラシを受け取り、その嵐の中を通り抜けた。
「勧誘、すごかったね」
喧騒の外で待っていたお母さんが、笑いながら声をかけてきた。
「結月、部活はもう決めているの?」
お父さんがチラシを覗き込みながら訊いてくる。
「まだ。今からゆっくり選ぼうと思って」
両手に抱えたチラシの数だけ、新しい生活が待っている気がして、心が躍る。
美月と一緒のクラスになった時はいろいろ考えてしまったけど、ここは心機一転、新生活を楽しまないと。
——なんて前向きな心持ちでいられたのは、ほんの一瞬だった。
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