コンプレックス×ノート

石丸明

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1.入学式

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 掲示板の前は、新入生とその家族でごったがえしていた。

 私はその中に入っていく勇気が出なくて、外側からつま先立ちで張り紙を見ようと試みる。けど、全然見えない。背は高い方じゃないから当然だ。それでもなんとか見えないか、頭を左右に揺らしてみるも、やっぱり見えない。

結月ゆづきっ!」

 人混みの中から、私を呼ぶ声がした。たくさんの人の間を器用にすり抜けて、美月みづきが私の前にあらわれた。

佐倉美月さくらみづき佐倉結月さくらゆづき、どっちも1年2組だったよ」

 やったね、と言って美月が抱きついてきてくれたおかげで、私の引き攣った顔は美月に見られずにすんだ。

 違うクラスになりたかったな。

 そんなこと言えるはずもなくて、私は力なく美月を抱きしめ返した。真新しい紺のブレザーのまだ硬い感触を、手のひらに感じる。

 風に吹かれた桜の花びらがはらはらと落ちていくのが、なんだかスローモーションみたいに見えた。

   *

「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。今日から中学生ですね」

 壇上から後援会長さん? が私たち新入生にむかって微笑みかける。入学式の真っ最中、私はそっと、隣の席を盗み見た。

 美月が、かすかな笑みをたたえながら、まっすぐな眼差しで壇上を見つめている。

 美月と私は双子の姉妹だ。一卵性双生児ってことで、顔もよく似ている。けど同じ顔なのに、美月は可愛くて、私はなんだか地味だ。ショートボブが似合う美月と比べられたくなくて、私は髪を肩の下まで伸ばしている。

 同じものを見て、同じものを食べて育ったのに、勉強も運動も美月のほうが出来る。同じように育てられたのに、性格も正反対。明るく社交的な美月はみんなから好かれていて、暗く内気な私には友達もほとんどいない。

 双子なのにどうして? って視線は常に感じてきたし、小学校のクラスメイトからは面と向かって言われたこともある。双子なのにどうして? なんて、私が一番ききたい。

 美月が羨ましい。でも美月は、こんな私にも優しい。それが余計に惨めだった。だから、離れたかった。
美月と離れるために、一生懸命勉強して、この極星中学校を受けた。そしたら予定してなかったのに美月も受験して、姉妹そろって合格。せめて違うクラスになりますように、って思ってたんだけど、それも叶わなかった。

 はあ、と盛大にため息をつきたい気分だけど、式の最中だからさすがに呑みこむ。

 切り替えよう。切り替えるしかない。クラスは同じになってしまったけど、美月とはなるべく距離を置いて。

 私は私の、新生活を始めるんだ。
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