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29.ちょっと、来てくれる?
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翌朝、覚悟を決めて登校した教室は、お祭り並みの大騒ぎだった。
いや、もっと言えば登校の道中から、いろんな視線やひそひそ声は聞こえていた。けれど教室にたどり着くまでは、直接なにか言われることはなかったのだ。しかし……。
「お、彼女さんの到着です! 今のお気持ちをどうぞ」
教室に入った瞬間、唯斗くんと仲良しのお調子者の男子が、マイクに見立てた筆箱をずい、と差し出してくる。
「えっと、その……」
「恭子ちゃん、答えなくていいから」
戸惑う私に向かって教室の真ん中あたりから声を上げて助け舟を出してくれたのは、先に登校していた唯斗くんだった。すでにクラスメイトたちに囲まれて、やいのやいのといろいろ訊かれていたみたいだ。
「そうだよ、恭子、答えなくていいから」
ぐい、っと引っ張ってくれたのは、春香。インタビュアーに扮していた男子は、首をすくめて、唯斗くんの方へと戻っていった。
「春香、ありがとう」
助けてくれた春香にお礼を言うと、彼女は目を光らせた。
「どういたしまして。で、昨日はどんなだったの?」
クラスメイトからの手荒い祝福は免れても、春香の事情聴取からは逃れられなさそうだ。私は観念して、昨日の出来事を小声で話した。
「そっかあ。いやあ、本当に良かった。私は前からお似合いだと思っていたんだよね」
春香が笑顔でそう言ってくれたちょうどそのタイミングで、担任の先生が教室に入って来た。
「じゃあ、また後でね」
春香にそう伝えて、自分の席に戻る。唯斗くんのほうを見ると、彼もみんなから解放されて自分の席に戻るところだった。
ふっとこちらをみた唯斗くんと、目が合う。小さく手を合わせて口をパクパクさせてきた。どうやら「ご・め・ん・ね」と言いたかったみたい。
ううん。小さく首を振ってそれに応えた。
それから休み時間のたびに、唯斗くんはたくさんの友人に囲まれ、私も入れ替わりたちかわりいろんな人から話しかけられた。唯斗くんは流石のコミュニケーション能力で対応し、私は私で、なるべく誠実に受け答えをした。
級友たちの冷やかしは、休み時間を迎えるたびに落ち着いていき、昼休みになる頃にはもう普段どおりだった。きっと唯斗くんがうまく話してくれたのもあるし、みんながいい人たちだったというのもあるだろう。
迎えた昼休み、その唯斗くんはいつも通り、給食を食べ終わるやいなやクラスの男の子たちとサッカーをしに校庭へと駆けていった。私は私で、春香といつものように中庭で過ごそうと、一緒に教室を出る。
「宮瀬さん?」
教室を出てすぐのところで、女子の先輩に声をかけられた。
「は、はい」
一、二、三、四……五人の知らない美人に囲まれて、ビビリながらも返事をする。
「ちょっと、来てくれる?」
質問の形で言われたけれど、断れない雰囲気のそれは明らかに命令だった。
「……はい」
ピリピリとした空気に怯えながらも、なんとか返事する。その返事を確認してスタスタと歩き出した先輩達に、着いていく。一緒に来てくれようとした春香には、小声で大丈夫だからと伝えて置いていく。
廊下を抜けて、渡り廊下を渡って、たどり着いたのは体育館裏だった。そういえば、唯斗くんに初めて話しかけられたときも、こうやってここに連れてこられたな。私刑かと思ったその時は、予想が斜め上に外れて恋愛レッスンを依頼されたのだけれど。なんてことを思い出す。
しかし今回のこの雰囲気、昨日の今日というタイミング、これはもう、どう考えても私刑だ。
先輩達に圧倒されて恐怖を覚えているのに、頭の隅は妙に冷静だった。体育館の外壁を背に、五人の先輩にぐるりと取り囲まれる。
いや、もっと言えば登校の道中から、いろんな視線やひそひそ声は聞こえていた。けれど教室にたどり着くまでは、直接なにか言われることはなかったのだ。しかし……。
「お、彼女さんの到着です! 今のお気持ちをどうぞ」
教室に入った瞬間、唯斗くんと仲良しのお調子者の男子が、マイクに見立てた筆箱をずい、と差し出してくる。
「えっと、その……」
「恭子ちゃん、答えなくていいから」
戸惑う私に向かって教室の真ん中あたりから声を上げて助け舟を出してくれたのは、先に登校していた唯斗くんだった。すでにクラスメイトたちに囲まれて、やいのやいのといろいろ訊かれていたみたいだ。
「そうだよ、恭子、答えなくていいから」
ぐい、っと引っ張ってくれたのは、春香。インタビュアーに扮していた男子は、首をすくめて、唯斗くんの方へと戻っていった。
「春香、ありがとう」
助けてくれた春香にお礼を言うと、彼女は目を光らせた。
「どういたしまして。で、昨日はどんなだったの?」
クラスメイトからの手荒い祝福は免れても、春香の事情聴取からは逃れられなさそうだ。私は観念して、昨日の出来事を小声で話した。
「そっかあ。いやあ、本当に良かった。私は前からお似合いだと思っていたんだよね」
春香が笑顔でそう言ってくれたちょうどそのタイミングで、担任の先生が教室に入って来た。
「じゃあ、また後でね」
春香にそう伝えて、自分の席に戻る。唯斗くんのほうを見ると、彼もみんなから解放されて自分の席に戻るところだった。
ふっとこちらをみた唯斗くんと、目が合う。小さく手を合わせて口をパクパクさせてきた。どうやら「ご・め・ん・ね」と言いたかったみたい。
ううん。小さく首を振ってそれに応えた。
それから休み時間のたびに、唯斗くんはたくさんの友人に囲まれ、私も入れ替わりたちかわりいろんな人から話しかけられた。唯斗くんは流石のコミュニケーション能力で対応し、私は私で、なるべく誠実に受け答えをした。
級友たちの冷やかしは、休み時間を迎えるたびに落ち着いていき、昼休みになる頃にはもう普段どおりだった。きっと唯斗くんがうまく話してくれたのもあるし、みんながいい人たちだったというのもあるだろう。
迎えた昼休み、その唯斗くんはいつも通り、給食を食べ終わるやいなやクラスの男の子たちとサッカーをしに校庭へと駆けていった。私は私で、春香といつものように中庭で過ごそうと、一緒に教室を出る。
「宮瀬さん?」
教室を出てすぐのところで、女子の先輩に声をかけられた。
「は、はい」
一、二、三、四……五人の知らない美人に囲まれて、ビビリながらも返事をする。
「ちょっと、来てくれる?」
質問の形で言われたけれど、断れない雰囲気のそれは明らかに命令だった。
「……はい」
ピリピリとした空気に怯えながらも、なんとか返事する。その返事を確認してスタスタと歩き出した先輩達に、着いていく。一緒に来てくれようとした春香には、小声で大丈夫だからと伝えて置いていく。
廊下を抜けて、渡り廊下を渡って、たどり着いたのは体育館裏だった。そういえば、唯斗くんに初めて話しかけられたときも、こうやってここに連れてこられたな。私刑かと思ったその時は、予想が斜め上に外れて恋愛レッスンを依頼されたのだけれど。なんてことを思い出す。
しかし今回のこの雰囲気、昨日の今日というタイミング、これはもう、どう考えても私刑だ。
先輩達に圧倒されて恐怖を覚えているのに、頭の隅は妙に冷静だった。体育館の外壁を背に、五人の先輩にぐるりと取り囲まれる。
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