オタわん〜オタクがわんこ系イケメンの恋愛レッスンをすることになりました〜

石丸明

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26.だから告白、しようと思って

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「ううん。それは、まだ。告白できていないんだ」

 唯斗くんの言葉に、ほっとしてしまう自分が嫌だ。好きな人が、好きな人と結ばれることを、喜べないなんて。私はこんなにも小さくて、汚い。

「そっか。早く告白できるといいね」

 思ってもない言葉が、口から出てくる。そんなの無視してくれたっていいのに、唯斗くんはまじめに受け取った。

「うん、だから告白、しようと思って」

 唯斗くんはそう言って、立ち止まった。カラカラしていた自転車の音が止まって、あたりには気の早いセミたちのジージー鳴く声だけが響く。

 ワンテンポ遅れて立ち止まった私は、思わず振り返る。

 じっと真剣な眼差しで私を見つめる唯斗くんと、目が合ってしまった。

 そらしたい。だけど私は、その瞳の引力に逆らうことが出来なかった。

 しばしの沈黙。

 それを破ったのは、唯斗くんだった。

「恭子ちゃんのことが、好きです。僕と、付き合ってください」

 その唇から発せられたのは、夢みたいな言葉だった。ありえない、言葉だった。

「からかわないで」

 思わずキツい口調でそう言ってしまう。それでも唯斗くんは、真剣な表情をくずさない。

「からかってなんかないよ」
「からかってないなら、どういう、こと……?」
「そのまんま。僕は、恭子ちゃんのことが好き。だから、付き合ってください」

 まっすぐな唯斗くんの瞳は、真剣そのものだった。

「でも……唯斗くん、好きな人がいるって。だから、恋愛レッスンしてほしいって」

 私たちの関係は、そこから始まったのだ。それなのに、いま唯斗くんは真剣な顔で私に告白していている。状況が、のみこめない。

 私の言葉に、唯斗くんはバツが悪そうに鼻をかいた。

「あれは……ごめんなさい」

 ガバッと頭をさげ、数秒停止したのち、バッと顔をあげて、唯斗くんは言葉を続けた。

「好きな人って、恭子ちゃんのことだったんだ。はじめから、好きだった。でもどう話しかけていいかわからなくて。そしたら恋愛経験豊富なアネゴって呼ばれているのを聞いて。それしかないって思って」

 唯斗くんの口から紡がれる言葉が、あまりにも私にとって都合が良すぎて、これはもしかしていい夢を見ているんじゃないかとか、そんな非現実的なことを考えてしまう。

「ちなみにこれ、夢じゃないからね」

 そんな私の思考を読んだのか、唯斗くんが先回りしてそう言った。

「で、でも……」
「僕のやりかたがまずくて、恭子ちゃんを傷つけてしまってごめんなさい。蒼太にもめちゃくちゃ怒られちゃった。おまえバカだろって」

 ガシャン。自転車のスタンドを立ててその場に残し、唯斗くんは私の方にぐいっと一歩近づいて来た。

「宮瀬恭子さん」

 真剣な声で、改まってフルネームを呼ばれる。

「……はい」

 緊張から少し声が上ずる。そんな私を安心しさせるように、唯斗くんはふわりと笑った。

「さっきも言ったけど、改めて。好きです。僕と、付き合ってください」

 唯斗くんはそう言って、ガバッと頭を下げた。そして右手を、ずいっと私の方に差し出す。

 見覚えのある、某お見合い番組みたいなこの光景。

 そう、唯斗くんと初めて話したとき——恋愛レッスンを頼まれた時の格好と同じだ。けど違うのは、申し込まれているのが恋愛レッスンではなくて、その……お付き合いということで。

「ちょ、ちょっと待って」

 確かあの時も、こうやって私が止めたんだ。そしたら唯斗くんが捨てられた仔犬みたいな目で「ダメ?」って訊いてきたんだっけ。

 そんな風に、約二か月前のことを思い出す。

 けれど、今日の唯斗くんは、その時とは違った。
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