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15.メッセージのススメ

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「おやすみなさい」

 そうそうに寝る支度をすませ、お母さんとお父さんに声をかけて自分の部屋に行く。真っ暗な中をそのままベッドまで進み、バフンと前向きに倒れこんだ。くるりと半回転して上を向き、暗闇を見つめる。

 だんだんと目が慣れてきて、ぼんやりと見えてきた天井を、意味もなく見つめ続けた。

 その時。

 右手に握りしめていたスマホがブブブブッと震えて、メッセージの受信を告げた。すぐさまタップしてメッセージを表示……したい気持ちを抑えて、ホーム画面だけを表示する。

 そこには待ちわびた「安達唯斗」の文字が。

 けれど、ここですぐに開いてはいけない。送ったばかりのメッセージにすぐに既読がついたら、重い女と思われる。と、なにかの少女漫画で学んだ。

 そこで私は、ゆっくりたっぷり六十秒数え、それからそっと画面をタップした。唯斗くんからのメッセージが、ぼうっと暗闇に浮かび上がる。

[恭子ちゃん、映画観にいく話だけど、『フラッシュ・エッジ』とかどうかな?]

 連絡がきただけでも嬉しかった気持ちが、その文面にさらに高揚する。気になっていた『フラッシュ・エッジ』、唯斗くんも観たいと思ってくれたんだ。私たち気が合うのかも。

 テンションが上がり、すぐに返信しようとしている私を、もう一人の私が止めた。

 そんなに早く返信したら、メッセージ待ちわびていましたって感じで、やっぱり重くない? さっきせっかく我慢したのに。

 考え直した私は、再びゆっくりたっぷり六十秒数えてから、返信を打った。俳優さんが好きで~と打ってみて、なにか違うなと消す。女優さんが好きで~と打ちかけて、それもやっぱり消した。気が合うね、の一文は、入力する前に思いとどまる。

[『フラッシュ・エッジ』、いいね。原作が好きで、私も観たかったんだ]

 結局出来上がったのは、こんなシンプルなメッセージ。こんなに短い文章なのに、おかしくないか三回も見直して、送信ボタンを押す。送った後にもう一度、変じゃなかったか見返していたら、すぐに既読がついた。

 唯斗くん、もしかして返信を待ってくれていたのかな。

 内心喜びながらも、慌ててメッセージの画面を閉じる。唯斗くんからの返信がきた時に、すぐに既読をつけてしまわないように。

 ブブブブッ

 間もなくスマホが震えて、返信が届いた。またまた六十秒我慢……できずに、四十秒くらいで画面を開いてしまう。

[やった! 楽しみにしてる。この映画、キャストも楽しみだよね。それからね、水族館なんだけど、蒼太と春香ちゃんと、四人で行こう!]

 すぐに返してくれたことは嬉しかった。唯斗くんも、キャストが楽しみなんだっていうのも、一緒だなって嬉しくなった。

 けれど、そのあとの内容に戸惑う。

 蒼太くんと春香、ということはつまりカップルと行くわけで、それってなんだか、ダブルデートみたいじゃない? もちろん、私たちは付き合ってないし、下見で練習だけれど。さすがにちょっと、それは気が引けるというか、なんというか。でも……。

 だめ?

 上目遣いで目をうるませ、首をかしげる唯斗くんの姿が思い浮かぶ。

 自分で勝手に想像した唯斗くんにすら、私は弱い。だって、なんか可愛い仔犬みたいで、弟みたいなんだもん、仕方がない。

 誰にもとがめられていないのに、私は自分で自分に言い訳をする。それから平静をよそおってメッセージを送った。

[了解! 楽しみにしてるね]
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