オタわん〜オタクがわんこ系イケメンの恋愛レッスンをすることになりました〜

石丸明

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13.何を観るかよりも、誰と観るかだし

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「映画か水族館か。いいね。どっちも王道デートスポットって感じで、素敵だと思う」
「でもさ、ちょっと心配なんだよね。ちゃんと出来るか……」

 唯斗くんが、捨てられた仔犬の顔になった。

 まずい、これは、なにかお願い事をしたいときの顔だ。

 この数週間でだいぶ唯斗くんのことをわかってきた私は、警戒しながら答える。

「大丈夫だよ、普段通りで。場所がちょっと違うだけ」
「うーん、でもやっぱり心配だなあ」

 言いながら唯斗くんは、チラチラと私の方を見る。それから——これは絶対わざとだって断言できるのだけれど——とびきりの可愛い顔を作って言葉を続けた。

「ねえ、恭子ちゃん、一緒に行ってみてくれない?」

 うるんだ瞳は、お願い事をする唯斗くんの常套手段だ。けれど、これは流石に聞きいれるわけにはいかない。今までのはただの下校だったけど、映画や水族館は、それはもう本当のデートだ。さすがに、ただの恋愛レッスンで一緒に行くにはハードルが高すぎる。……と思っていたのに。

「仕方がないなあ」

 なぜか私の口は、私の考えとは反対の答えを喋っていた。

 なにを言っているの私、はやく取り消して。そう思ったけれど次の瞬間、うるんでいた唯斗くんの瞳はキラキラと輝きだし、その後ろであるはずのない尻尾がブンブン振り回されているようにさえ見えだした。

「本当に? ありがとう。約束だよ」

 唯斗くんは私が撤回しようとしているのを察知したのか、さっさとそう言って約束を固めてしまった。

 こんなに喜んでいるのに、今更取り消すことなんてできない。あくまで、下見だから。練習だから。誰にするわけでもない言い訳を、自分の中でひとりごちる。

「わかった、約束。しっかり下見して、いいデートが出来るようにしなくちゃね」

 私の言葉に、唯斗くんがなんとも言えない表情を返す。

「なにその顔、自分から誘ってきたのに」
「ううん。なんでもない。楽しみだなーと思って」
「本当に? 全然そんな顔じゃなかったんだけど」
「気のせいだよ。じゃあ、映画調べたら、連絡するね」

 唯斗くんは弾む声でそう言って帰っていった。

 家に帰った私は、制服のままベッドに寝っ転がり、スマホで映画をチェックした。

 あ、そうだ。『フラッシュ・エッジ』やってるんだった。私の一番好きな少女漫画が原作の、実写映画。原作が好きなのはもちろん、出演する俳優さん女優さんが好きな人たちばっかりで、映画化のニュースが出た時から絶対に観たいと思っていた。

 でもなあ、唯斗くん、多分こういう恋愛ものなんて選ばないだろうなあ。勝手なイメージだけど、ハリウッドのアクション超大作とかのほうが好きそう。ドーン、ガシャーン、バーンみたいな大迫力のスクリーンに、キラキラ目を輝かせている様子が目に浮かぶ。まあ、それはそれで面白そうだからいいけどね。

 それに、何を観るかよりも、誰と観るかだし。

 自然にそんなことを思い浮かべた自分に驚いて、誰もいないのにブンブン首を振った。

 誰と観るかだし。じゃないよ、私。ただの下見、ただの練習なのに、なにを浮かれているのだ。

 さっきから私、ちょっと変だ。断ろう、と思いながら快諾したり、ただの下見をこんなにも楽しみにしていたり。まるで唯斗くんのことが……。

 ぼうっとある結論に達しようとしていた思考気づき、慌てて自分で待ったをかける。

 え、唯斗くんのことが何よ、私。ちょっと待て、落ち着こう、一旦落ち着こう。

 頭の中に浮かびかけた邪念を振り払うべくベッドでジタバタする。
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