オタわん〜オタクがわんこ系イケメンの恋愛レッスンをすることになりました〜

石丸明

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12.次のステップ

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 ある日の昼休み。いつもみたいに中庭でのんびりと過ごしている時に、春香が目を輝かせて話し始めた。

「最近、唯斗くんと仲いいよね」
「まあ、そうだねえ。前よりはよく喋るかも。というか、前は喋ったことすらなかったんだけどね」

 私の言葉に、春香がぐいっと乗り出して来た。

「なんか、いい感じじゃない?」
「いい感じって、何が?」
「恭子と、唯斗くん」

 思いがけないことを言われて、一瞬固まる。

「なに言っているの。唯斗くんには好きな人がいるのに、そんな」
「そっか、そういえばそうだった。お似合いだと思ったんだけどなあ」

 残念そうに言う春香の頬を、ツンと突っつく。

 その頬は、いつかつついた唯斗くんのそれよりもさらに柔らかくって、唯斗くんと同じくらいあたたかかった。

 ……って、なに私は無意識に唯斗くんのほっぺの感触を思い出しているのだろう。春香が変なことを言うから、なんか変に思い出しちゃったじゃん。

「も、もうこの話はおしまい。唯斗くんの好きな人に聞かれていたら困るし。あ、つぎ理科で移動教室だからそろそろ戻ろう?」

 私は強引に話をおしまいにして、春香を促して教室へ戻る。気にしていない振りをしたけれど、午後の授業の間中、さっきの春香の言葉が頭の中でリフレインされていた。

「なんか、いい感じじゃない?」
「恭子と、唯斗くん」
「……お似合いだと思ったんだけどなあ」

 いやいやいや、違うからね。私たちはあくまで、恋愛レッスンということで繋がっている関係で。唯斗くんには好きな人がいて。その人との恋路がうまくいったら、この関係は終わるのだ。

 でもなぜだろう、どれだけ繰り返し否定しても、春香の言葉は私の頭の中で響き続けた。

 その日の帰りも、唯斗くんと一緒に帰った。もうわざわざ校門で声をかけられるシステムは終了して、教室から一緒に帰っている。

 昼休みの春香とのやりとりがあったから、なんかちょっとだけ、妙に意識してしまう。けれどここは平常心、平常心。いつもみたいに他愛のないやりとりをしていたところで、唯斗くんが唐突に切り出した。

「次のステップは?」

 なんの次かわからなくて、私はハテナを浮かべる。

「次のステップって、なんの?」
「一緒に帰って、お互いのことを知って、その次のステップ」

 唯斗くんの説明で、それが恋愛レッスンのことだと理解する。

「次のっていうか、最初のステップこえたの? ほぼ毎日、私と一緒に帰ってるけど」

 私は率直なギモンを口にした。これが一緒に帰る「練習」だってことを忘れかけるぐらい、一緒に帰るのが日常になりつつあったし、私は普通に会話を楽しんでしまっている。

「いや、まあ、そうなんだけど、その辺は置いておいて、一応?」

 大抵のことはポンポンとテンポよく言葉を紡ぐ唯斗くんだけれど、こと好きな人については毎度こうして言いよどむ。案外シャイボーイなのだ。

「一応って……」

 私はちょっと呆れ顔を作ってみせる。

「そこをなんとか、教えてください、先生」

 唯斗くんは唯斗くんで、しおらしい表情を作って対抗してきた。

「まあいいけど……」

 なんて言いながら、私は慌てて作戦を考える。全然進展が無さそうだから、次のステップについて考えるなんてこと忘れていたのだ。

「そうだなあ。次のステップは……二人で遊びに行ってみる。とかどう?」

 これではアネゴの名が泣くぜ。

 そう思いながらも、いたって平凡な、なんの変哲もないアドバイスを送ってみる。アネゴの名が泣こうが笑おうが、どっちでもいいのだ。別に私から名乗っているわけでもないし。

「なるほど、遊びに行くの、いいね。……で、どこに?」

 まるでノリツッコミみたいにテンポよく、唯斗くんから質問が重ねられた。

「それはまあ、相手が好きそうなところを考えてみないと」

 なんとも漠然とした返答。ええ、それじゃわかんないよ。なんて泣きつかれるかなって思ったけど、唯斗くんは意外にすんなりと反応した。

「映画か水族館がいいと思う」

 パッと思い浮かぶということは、私の知らない間に、ちゃんと好きな人との仲も深まっているみたいだ。それが意外で、いちまつの寂しさを覚える。

 え、なんで私、寂しさを感じているの。

 ふっと湧いた感情に驚いたけれど、これはきっとあれだ、そう、子離れできない、親の心境。もちろんそんな状況は経験したことがないからわからないけれど、きっとそうだと自分に言い聞かせて、その寂しさをすみに追いやった。
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