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8.タイミングを見計らって
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「恭子ちゃん、おはよう!」
「おはよう」
翌日、登校するなり唯斗くんから声をかけられた。普通に返して、自分の席に着く。その様子を見ていた春香が、すすすっと私のところにやって来た。
「おはよう」
「おはよう春香」
「クールビューティー恭子と、二日でこんなに仲良くなるなんて。唯斗くん流石ですね」
ぐっと顔を寄せて何を言うのかと思えば、そんな軽口だった。
「ただのあいさつ。それに、クールビューティーじゃなくて、ただのコミュ障ね」
「それにしてもですよアネゴ!」
「そんな風に言われたら、なんか話しづらいからやめて」
私の言葉に頷いて、春香は微笑みながら自分の席に戻っていった。
春香は親友だから、こんな風にからかいに来たけど。他のクラスメイトたちも、何も言ってこないだけでそんな風に思っていたらちょっと恥ずかしいな。
唯斗くんとはこれまで通り、あまり話さないでおこうと決めた。まあ、決めなくったって、自分から積極的に話しかけに行くなんて、ないのだけれど。
しかし。
「ねね、次の授業なんだっけ」
「宿題やって来た?」
「いまの授業のここ、わかんなくてさ」
休み時間のたびに、唯斗くんは私のところへ来てちょっとしたことを話しかけてきた。それを春香が微笑みながら見ているのが視界に入ったけれど、だからといって無視するわけにもいかない。私も簡単に、言葉を返す。
「次は変更があったから国語だよ」
「宿題一応やってきたけど、けっこう難しかったよね」
「そこはね、私もよくわかんないんだけど、この公式を使うみたい」
なんてことない返事なのに、唯斗くんは毎回、満足そうな笑顔を浮かべる。そんな顔されたら、私だって嬉しいし、つい顔がほころんでしまう。
仲良くなるのに時間がかかるタイプの私が、たった二日前に初めて言葉を交わしたクラスの男子と、しかも学校中のアイドルと、こんな風に親しげに話せる日が来るなんて、自分でも驚きだ。
そんなこんなで一日が過ぎていった、その日の放課後。
校門で偶然バッタリ作戦、うまくいくといいね。帰る前にそう声をかけて励まそうと思っていたのに、唯斗くんはホームルームが終わった瞬間、バタバタと教室を飛び出していった。早速、作戦を決行するのだろう。
頑張ってね。
かけられなかったエールを心の中で唱えながら、私は帰り支度をした。
はたして唯斗くんは、ちゃんと「偶然」好きな人と校門で出会って一緒に帰ることが出来ただろうか。うまく話せているかな。そんなことを思いながら校門を出たところで、後ろから声をかけられた。
「あ、恭子ちゃん」
振り返るとそこにいたのは、唯斗くんだった。
そうか、ここでタイミングを見計らうために待っているのね。なんて思っていたら、唯斗くんは自転車をカラカラさせながら私に近寄ってくる。
どうしたどうした、と戸惑う私に構わず口を開き、棒読みでセリフを唱えた。
「今帰り? 僕も今帰るところナンダ。ぐ、偶然ダネ。よかったら一緒に帰らナイ?」
なんと、唐突に練習が始まった。しかもつっかえた! 練習にしたってあまりに棒読みだったから、私はわざとらしくダメ出しをする。
「うーん、六十点。もっと自然な感じで言ってみて?」
唯斗くんは言われた通り、素直に言い直す。今度は、さっきよりも自然な感じで。
「今帰り? よかったら一緒に帰らない?」
「うんうん、さっきより良くなったよ。その調子。じゃあね」
そう褒めたのに、手を振って帰ろうとした私に、なぜか唯斗くんは口を尖らせた。
「そうじゃ、なくて、よかったら、一緒に、帰らない?」
わざとらしく文節で区切りながら、唯斗くんはもう一度繰り返す。さっきよりもだいぶ不自然だ。
「うん?」
不思議に思って聞き返すも、唯斗くんはジトっとした視線を送ってくるだけ。
どういうこと?
一生懸命その意味を考えて、やっと一つの可能性が思い浮かんだ。
「……え、私と、帰るの?」
「恭子ちゃん以外、誰もいないじゃん! それとも、誰か一緒なの?」
唯斗くんはふざけて、私の周りの宙を見つめる。
「あ、そちらの髪が長くて白い着物を着た女性?」
私の背後、誰もいない空間を示して、唯斗くんがそんなことを言う。
「ちょっと、わたし幽霊とか苦手なんだから、そういうのやめて」
「へえ、苦手なんだ。ちょっと意外」
唯斗くんは嬉しそうにニヤリと笑う。
「で、一緒に帰っていい?」
「おはよう」
翌日、登校するなり唯斗くんから声をかけられた。普通に返して、自分の席に着く。その様子を見ていた春香が、すすすっと私のところにやって来た。
「おはよう」
「おはよう春香」
「クールビューティー恭子と、二日でこんなに仲良くなるなんて。唯斗くん流石ですね」
ぐっと顔を寄せて何を言うのかと思えば、そんな軽口だった。
「ただのあいさつ。それに、クールビューティーじゃなくて、ただのコミュ障ね」
「それにしてもですよアネゴ!」
「そんな風に言われたら、なんか話しづらいからやめて」
私の言葉に頷いて、春香は微笑みながら自分の席に戻っていった。
春香は親友だから、こんな風にからかいに来たけど。他のクラスメイトたちも、何も言ってこないだけでそんな風に思っていたらちょっと恥ずかしいな。
唯斗くんとはこれまで通り、あまり話さないでおこうと決めた。まあ、決めなくったって、自分から積極的に話しかけに行くなんて、ないのだけれど。
しかし。
「ねね、次の授業なんだっけ」
「宿題やって来た?」
「いまの授業のここ、わかんなくてさ」
休み時間のたびに、唯斗くんは私のところへ来てちょっとしたことを話しかけてきた。それを春香が微笑みながら見ているのが視界に入ったけれど、だからといって無視するわけにもいかない。私も簡単に、言葉を返す。
「次は変更があったから国語だよ」
「宿題一応やってきたけど、けっこう難しかったよね」
「そこはね、私もよくわかんないんだけど、この公式を使うみたい」
なんてことない返事なのに、唯斗くんは毎回、満足そうな笑顔を浮かべる。そんな顔されたら、私だって嬉しいし、つい顔がほころんでしまう。
仲良くなるのに時間がかかるタイプの私が、たった二日前に初めて言葉を交わしたクラスの男子と、しかも学校中のアイドルと、こんな風に親しげに話せる日が来るなんて、自分でも驚きだ。
そんなこんなで一日が過ぎていった、その日の放課後。
校門で偶然バッタリ作戦、うまくいくといいね。帰る前にそう声をかけて励まそうと思っていたのに、唯斗くんはホームルームが終わった瞬間、バタバタと教室を飛び出していった。早速、作戦を決行するのだろう。
頑張ってね。
かけられなかったエールを心の中で唱えながら、私は帰り支度をした。
はたして唯斗くんは、ちゃんと「偶然」好きな人と校門で出会って一緒に帰ることが出来ただろうか。うまく話せているかな。そんなことを思いながら校門を出たところで、後ろから声をかけられた。
「あ、恭子ちゃん」
振り返るとそこにいたのは、唯斗くんだった。
そうか、ここでタイミングを見計らうために待っているのね。なんて思っていたら、唯斗くんは自転車をカラカラさせながら私に近寄ってくる。
どうしたどうした、と戸惑う私に構わず口を開き、棒読みでセリフを唱えた。
「今帰り? 僕も今帰るところナンダ。ぐ、偶然ダネ。よかったら一緒に帰らナイ?」
なんと、唐突に練習が始まった。しかもつっかえた! 練習にしたってあまりに棒読みだったから、私はわざとらしくダメ出しをする。
「うーん、六十点。もっと自然な感じで言ってみて?」
唯斗くんは言われた通り、素直に言い直す。今度は、さっきよりも自然な感じで。
「今帰り? よかったら一緒に帰らない?」
「うんうん、さっきより良くなったよ。その調子。じゃあね」
そう褒めたのに、手を振って帰ろうとした私に、なぜか唯斗くんは口を尖らせた。
「そうじゃ、なくて、よかったら、一緒に、帰らない?」
わざとらしく文節で区切りながら、唯斗くんはもう一度繰り返す。さっきよりもだいぶ不自然だ。
「うん?」
不思議に思って聞き返すも、唯斗くんはジトっとした視線を送ってくるだけ。
どういうこと?
一生懸命その意味を考えて、やっと一つの可能性が思い浮かんだ。
「……え、私と、帰るの?」
「恭子ちゃん以外、誰もいないじゃん! それとも、誰か一緒なの?」
唯斗くんはふざけて、私の周りの宙を見つめる。
「あ、そちらの髪が長くて白い着物を着た女性?」
私の背後、誰もいない空間を示して、唯斗くんがそんなことを言う。
「ちょっと、わたし幽霊とか苦手なんだから、そういうのやめて」
「へえ、苦手なんだ。ちょっと意外」
唯斗くんは嬉しそうにニヤリと笑う。
「で、一緒に帰っていい?」
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