5 / 34
4.男の子に名前を呼ばれるなんてこと
しおりを挟む
さて、恋愛レッスンなんてどうしたものか。午後の英語の授業中も、そのことで頭がいっぱい。
「I was reading book……」
過去進行形がどうとかいう先生の説明も、右から左へ。
昼休みに聞いた春香の話では、唯斗くんはとっても本気らしい。そういえば、昨日の話し方や表情も、とても一生懸命だった。
なんとか、成就させてあげたいな。
けれど、あのアイドル級の容姿と人気の唯斗くんをもってしてもすんなりいかないとなると、相手はかなり手強そうだ。そんな手強い相手に効くような手立てを、恋愛経験ゼロの私が、思いつくことが出来るのだろうか。
とにかく、これまでに読んだことのある少女漫画のストーリーを思い浮かべて、参考になりそうなところがないか考える。
しかし、その方法にはある致命的な欠点があることに気づいてしまった。
よく考えたら、少女漫画の主人公ってだいたいヒロインだ。つまり、ほとんどが女の子で描かれている。で、そのためヒーロー側がどう頑張ったとかって、あまり描かれていない。
これまで受けた恋愛相談はぜんぶ女の子からだった。だから、少女漫画のヒロインを思い浮かべることによって、こうやって頑張ってみたら? とか伝えることが出来たけれど、今回はその手が使えない。
どうしたものか、どうしたものか。
考えているうちに、気づけば放課後になっていた。一目散に部活へと向かう数人のクラスメイトが、バタバタと教室を出ていく。
そう言えば、恋愛レッスンして欲しいと言ってきた唯斗くんだけれど、今日は全然声をかけてこなかった。それどころか、目も合わなかったな。まあ別に、今日からってお願いされていたわけじゃないのだけれど、ちょっと拍子抜けというか。しかし、なんにもいい案が思いついていないのだから、正直ほっとした気持ちもある。
そんな複雑な気持ちを抱きながら、さあ帰ろうと荷物をカバンに詰めているところに、唯斗くんがやってきた。
「アネゴ! お疲れ様です!」
元気な唯斗くんの声に、教室に残っていたクラスメイトたちの視線が集まる。あの二人、仲良かったっけ? そんな疑問を浮かべているのが、ジンジン伝わってくる。
「恋愛相談の件なんですけど」
かしこまって言う唯斗くんの言葉で、何事かと見ていたクラスメイトたちの視線が、納得の色に変わった。ああ、アネゴに恋愛相談ね。みたいな感じで。次の瞬間もう興味を失ったクラスメイトたち。おのおのが視線を戻して、帰る準備や雑談を再開する。
いやそれちょっとおかしくない? そこは納得するところじゃないよね? 私、アネゴでも恋のキューピットでもないからね?
内心ツッコミながらも、恥ずかしさで言葉にならない。まあ、注目がなくなったのは、ありがたいことだし。そう自分に言い聞かせながら、しかし唯斗くんへの訂正は忘れない。
「唯斗くん、その、アネゴはやめて?」
「ええ、アネゴ、かっこいいのにな。じゃあ……恭子ちゃん」
満開の笑顔で急に名前を呼ばれて、さっきとはまた違った恥ずかしさがこみ上げる。
男の子に名前を呼ばれるなんてこと、現実世界であるの? 少女漫画の中だけの話だと思っていたよ。
いや、それは流石に言い過ぎで、そりゃあ下の名前で呼ばれる女の子が現実にもいることは知っている。けれど、まさか自分がその中の一人になる日が来るなんて。しかも、こんな整った顔のキラキラした男の子から。
「普通に宮瀬でいいんだけど……」
「恭子ちゃんじゃ、だめ?」
なぜか不服そうに尖らされた唇に、それ以上強く言えなくなる私。
「別にダメじゃ……ないけど」
「やった。じゃあ、行こう。恭子ちゃん」
昨日と同じように、バタバタと荷物をまとめ、ずんずん進んでいく唯斗くんの後を追う。たどり着いたのも、昨日とおなじ体育館裏だった。流石に今日はもう、私刑だろうかなんて怯えない。
「ここで、いい?」
ちょうどいい高さで段になっている階段のところに、唯斗くんはさっとハンカチを広げ、その隣に座ってこっちを見上げてきた。
「どうぞ」
両手で自分の隣を指し示すその仕草こそ可愛いけれど、やっていることは大人顔負けではないか。それとも私が知らないだけで、イマドキの男子中学生はみんなこれくらいの気遣いができるものなのか?
いやまあ、私だって一応イマドキの女子中学生だけれども。
少なくとも私は、女の子の座るところにハンカチを広げる男子中学生なんて、三次元はもちろん二次元でも見たことがない。
「あ、ありがとう」
男の子にこんな風に気を使われたのは初めてで、ドキドキしながらその上に座る。自然にこんなことが出来る子に、レッスンすることなんてあるのだろうか。
「I was reading book……」
過去進行形がどうとかいう先生の説明も、右から左へ。
昼休みに聞いた春香の話では、唯斗くんはとっても本気らしい。そういえば、昨日の話し方や表情も、とても一生懸命だった。
なんとか、成就させてあげたいな。
けれど、あのアイドル級の容姿と人気の唯斗くんをもってしてもすんなりいかないとなると、相手はかなり手強そうだ。そんな手強い相手に効くような手立てを、恋愛経験ゼロの私が、思いつくことが出来るのだろうか。
とにかく、これまでに読んだことのある少女漫画のストーリーを思い浮かべて、参考になりそうなところがないか考える。
しかし、その方法にはある致命的な欠点があることに気づいてしまった。
よく考えたら、少女漫画の主人公ってだいたいヒロインだ。つまり、ほとんどが女の子で描かれている。で、そのためヒーロー側がどう頑張ったとかって、あまり描かれていない。
これまで受けた恋愛相談はぜんぶ女の子からだった。だから、少女漫画のヒロインを思い浮かべることによって、こうやって頑張ってみたら? とか伝えることが出来たけれど、今回はその手が使えない。
どうしたものか、どうしたものか。
考えているうちに、気づけば放課後になっていた。一目散に部活へと向かう数人のクラスメイトが、バタバタと教室を出ていく。
そう言えば、恋愛レッスンして欲しいと言ってきた唯斗くんだけれど、今日は全然声をかけてこなかった。それどころか、目も合わなかったな。まあ別に、今日からってお願いされていたわけじゃないのだけれど、ちょっと拍子抜けというか。しかし、なんにもいい案が思いついていないのだから、正直ほっとした気持ちもある。
そんな複雑な気持ちを抱きながら、さあ帰ろうと荷物をカバンに詰めているところに、唯斗くんがやってきた。
「アネゴ! お疲れ様です!」
元気な唯斗くんの声に、教室に残っていたクラスメイトたちの視線が集まる。あの二人、仲良かったっけ? そんな疑問を浮かべているのが、ジンジン伝わってくる。
「恋愛相談の件なんですけど」
かしこまって言う唯斗くんの言葉で、何事かと見ていたクラスメイトたちの視線が、納得の色に変わった。ああ、アネゴに恋愛相談ね。みたいな感じで。次の瞬間もう興味を失ったクラスメイトたち。おのおのが視線を戻して、帰る準備や雑談を再開する。
いやそれちょっとおかしくない? そこは納得するところじゃないよね? 私、アネゴでも恋のキューピットでもないからね?
内心ツッコミながらも、恥ずかしさで言葉にならない。まあ、注目がなくなったのは、ありがたいことだし。そう自分に言い聞かせながら、しかし唯斗くんへの訂正は忘れない。
「唯斗くん、その、アネゴはやめて?」
「ええ、アネゴ、かっこいいのにな。じゃあ……恭子ちゃん」
満開の笑顔で急に名前を呼ばれて、さっきとはまた違った恥ずかしさがこみ上げる。
男の子に名前を呼ばれるなんてこと、現実世界であるの? 少女漫画の中だけの話だと思っていたよ。
いや、それは流石に言い過ぎで、そりゃあ下の名前で呼ばれる女の子が現実にもいることは知っている。けれど、まさか自分がその中の一人になる日が来るなんて。しかも、こんな整った顔のキラキラした男の子から。
「普通に宮瀬でいいんだけど……」
「恭子ちゃんじゃ、だめ?」
なぜか不服そうに尖らされた唇に、それ以上強く言えなくなる私。
「別にダメじゃ……ないけど」
「やった。じゃあ、行こう。恭子ちゃん」
昨日と同じように、バタバタと荷物をまとめ、ずんずん進んでいく唯斗くんの後を追う。たどり着いたのも、昨日とおなじ体育館裏だった。流石に今日はもう、私刑だろうかなんて怯えない。
「ここで、いい?」
ちょうどいい高さで段になっている階段のところに、唯斗くんはさっとハンカチを広げ、その隣に座ってこっちを見上げてきた。
「どうぞ」
両手で自分の隣を指し示すその仕草こそ可愛いけれど、やっていることは大人顔負けではないか。それとも私が知らないだけで、イマドキの男子中学生はみんなこれくらいの気遣いができるものなのか?
いやまあ、私だって一応イマドキの女子中学生だけれども。
少なくとも私は、女の子の座るところにハンカチを広げる男子中学生なんて、三次元はもちろん二次元でも見たことがない。
「あ、ありがとう」
男の子にこんな風に気を使われたのは初めてで、ドキドキしながらその上に座る。自然にこんなことが出来る子に、レッスンすることなんてあるのだろうか。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
春夏秋冬の神様たち
桜咲かな
児童書・童話
木瀬津(きせつ)シズカ、16歳。
マンションで一人暮らしをする、ごく普通の女子高校生。
ある日突然、部屋に、季節を司る神様4人が現れた。
その名も、ハル、ナツ、アキ、フユ。
しかも全員がイケメン少年。
4人は、シズカに『一番好きな季節』を決めて欲しいと言う。
その方法は、1人ずつシズカと1日だけ同居する、というもの。
こうして、少女と、イケメン神様4人との1日限りの同居生活が始まる。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる