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2.恋愛レッスンしてくれませんか?
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「……せさん、宮瀬恭子さん」
妄想の世界にトリップしていた私は、唯斗くんの声で現実世界に引き戻された。
「ハイナンデショウ」
わけもわからず返事したその声は、緊張から少し上ずる。そんな私にかまわず、唯斗くんは言った。
「宮瀬さんをアネゴと見こんで、お願いがあります。僕に、恋愛レッスンしてくれませんか?」
唯斗くんはそう言って、小さい顔をコテンとかしげた。
ああ、やっぱお顔が小さいなあ。ふわふわの髪の毛が、その小ささを余計際立たせる。そして小さい顔の中に、メイクでもしているのかと思うほど大きなぱっちりお目々。その目の間から下には控えめな鼻筋がすうっと通っている。さらにその下にはカワウソみたいなあの、数字の3を横に倒したみたいなあの、愛らしい口がちょん。
なんていうかもう、完璧。顔面が、完璧。圧倒的、かわいい。
そんな可愛らしさの一方で、背は私より十五センチは高そう。これがギャップ萌えというやつか。
……って、違う。
いや違わない。違わないけど、そうじゃない。
今の私がすべきことは、現実から目をそらして唯斗くんの容姿に感心することではない。向き合わなければ、現実と。
「えっと、今なんて言った?」
聞き間違えかもしれない。聞き間違えであってくれ、という望みを込めて聞き返す。しかし、そんな望みは即座に打ち砕かれた。
「僕に、恋愛レッスンしてください。お願いします」
唯斗くんはハキハキと言って、ガバッと頭を下げた。そして右手をずいっと差し出す。
某お見合い番組のワンシーンみたいな格好だ。と言えばわかりやすいかもしれない。けれどもちろん、私は番組の参加者ではない。そして申し込まれているのはお付き合いではなく、なんだって? 恋愛レッスン?
「ちょ、ちょっと待ったあ」
声を上げたのは別の参加者の男性……ではなくて、もちろん私。ここには唯斗くんと私しかいない。私の言葉に、唯斗くんはいったん手を引っ込めた。体を起こし、じっと見つめてくる。
「……ダメ?」
うるん、と捨てられた仔犬みたいなその目を見ると、なんだか悪いことをしているような気分になる。
ううん。ダメじゃないよ。なんてセリフが反射で口をつきそうになる。けれども。
「ダメっていうか、私そんなこと——その、恋愛レッスンとか出来ないから。ごめんね。そもそもアネゴって……なに……?」
ごめんね、とハッキリ断ったのに、唯斗くんは納得していない。
「でもアネゴは、恋愛経験豊富で、それだけじゃなくて数々の恋愛を成就させてもきたんだよね?」
純粋無垢なキラキラの瞳で、すがるようにそんなことを言われた。嫌な予感がして、恐る恐るたずねる。
「だ、誰がそんなことを?」
「春香ちゃん」
唯斗くんの口から告げられた名前に、思わず頭を抱えた。
宇部春香、私の親友。同じクラスの小野寺蒼太くんと付き合っている。
そういえば、蒼太くんは唯斗くんと仲がいい。きっとそのつながりだろう。と、繋がりがわかったところで、この場の助けにはなんにもならない。
「……春香が、なんて?」
「僕が好きな人いるって話をして、でもどうやって仲良くなれるかわからなくって、って言ったら『じゃあ恭子に恋愛レッスン頼んだらいいよ。いろんな恋を成就させてきたアネゴだから。私たちも、恭子のアドバイスのおかげで付き合えたの』って」
ああああああああああ。
唯斗くんの言葉に、私は頭の中で反論を並べる。
アネゴなんて、春香が勝手に凄そうな言い方をしているだけで。私はただのオタクなだけでして。実際の私は恋愛経験ゼロで。恋愛どころか男の子と話すことすらままならない、そんな恋愛初心者なんです。うんぬん、かんぬん。オタク特有の早口が出てしまわないように、ここまでを頭の中で唱えた。
一呼吸して気持ちを落ち着かせ、出来る限りゆっくり、を心がけて口を開いた。
「いやあの、私なんてそんな全然……アネゴでもなんでもなくて……」
ハハハハ。と乾いた笑いをつけてそれとなく、ゆるーく断ってみる。
しかし唯斗くんは、捨てられた仔犬みたいな目でこちらを見上げてきた。
妄想の世界にトリップしていた私は、唯斗くんの声で現実世界に引き戻された。
「ハイナンデショウ」
わけもわからず返事したその声は、緊張から少し上ずる。そんな私にかまわず、唯斗くんは言った。
「宮瀬さんをアネゴと見こんで、お願いがあります。僕に、恋愛レッスンしてくれませんか?」
唯斗くんはそう言って、小さい顔をコテンとかしげた。
ああ、やっぱお顔が小さいなあ。ふわふわの髪の毛が、その小ささを余計際立たせる。そして小さい顔の中に、メイクでもしているのかと思うほど大きなぱっちりお目々。その目の間から下には控えめな鼻筋がすうっと通っている。さらにその下にはカワウソみたいなあの、数字の3を横に倒したみたいなあの、愛らしい口がちょん。
なんていうかもう、完璧。顔面が、完璧。圧倒的、かわいい。
そんな可愛らしさの一方で、背は私より十五センチは高そう。これがギャップ萌えというやつか。
……って、違う。
いや違わない。違わないけど、そうじゃない。
今の私がすべきことは、現実から目をそらして唯斗くんの容姿に感心することではない。向き合わなければ、現実と。
「えっと、今なんて言った?」
聞き間違えかもしれない。聞き間違えであってくれ、という望みを込めて聞き返す。しかし、そんな望みは即座に打ち砕かれた。
「僕に、恋愛レッスンしてください。お願いします」
唯斗くんはハキハキと言って、ガバッと頭を下げた。そして右手をずいっと差し出す。
某お見合い番組のワンシーンみたいな格好だ。と言えばわかりやすいかもしれない。けれどもちろん、私は番組の参加者ではない。そして申し込まれているのはお付き合いではなく、なんだって? 恋愛レッスン?
「ちょ、ちょっと待ったあ」
声を上げたのは別の参加者の男性……ではなくて、もちろん私。ここには唯斗くんと私しかいない。私の言葉に、唯斗くんはいったん手を引っ込めた。体を起こし、じっと見つめてくる。
「……ダメ?」
うるん、と捨てられた仔犬みたいなその目を見ると、なんだか悪いことをしているような気分になる。
ううん。ダメじゃないよ。なんてセリフが反射で口をつきそうになる。けれども。
「ダメっていうか、私そんなこと——その、恋愛レッスンとか出来ないから。ごめんね。そもそもアネゴって……なに……?」
ごめんね、とハッキリ断ったのに、唯斗くんは納得していない。
「でもアネゴは、恋愛経験豊富で、それだけじゃなくて数々の恋愛を成就させてもきたんだよね?」
純粋無垢なキラキラの瞳で、すがるようにそんなことを言われた。嫌な予感がして、恐る恐るたずねる。
「だ、誰がそんなことを?」
「春香ちゃん」
唯斗くんの口から告げられた名前に、思わず頭を抱えた。
宇部春香、私の親友。同じクラスの小野寺蒼太くんと付き合っている。
そういえば、蒼太くんは唯斗くんと仲がいい。きっとそのつながりだろう。と、繋がりがわかったところで、この場の助けにはなんにもならない。
「……春香が、なんて?」
「僕が好きな人いるって話をして、でもどうやって仲良くなれるかわからなくって、って言ったら『じゃあ恭子に恋愛レッスン頼んだらいいよ。いろんな恋を成就させてきたアネゴだから。私たちも、恭子のアドバイスのおかげで付き合えたの』って」
ああああああああああ。
唯斗くんの言葉に、私は頭の中で反論を並べる。
アネゴなんて、春香が勝手に凄そうな言い方をしているだけで。私はただのオタクなだけでして。実際の私は恋愛経験ゼロで。恋愛どころか男の子と話すことすらままならない、そんな恋愛初心者なんです。うんぬん、かんぬん。オタク特有の早口が出てしまわないように、ここまでを頭の中で唱えた。
一呼吸して気持ちを落ち着かせ、出来る限りゆっくり、を心がけて口を開いた。
「いやあの、私なんてそんな全然……アネゴでもなんでもなくて……」
ハハハハ。と乾いた笑いをつけてそれとなく、ゆるーく断ってみる。
しかし唯斗くんは、捨てられた仔犬みたいな目でこちらを見上げてきた。
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