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一章
25.新メンバー
しおりを挟む楓子ちゃんが俺たちに言った「私はどうすればいいか?」。うん、知らん。
この子は完全に俺の嫌いな糞ガキだ。
「えっと、楓子ちゃんだっけ? あなたはどうしたいの?」
春川さんがちょっと困惑したようにきく。
「た、助けて欲しいんだけど」
そこで楓子ちゃんはなぜか俺を睨んだ。本当になぜだ?
春川さんがやっぱり困ったような表情のまま、口を開くのだが、それをいつものことながらルージュが阻止する。
「はっはっは、それならこの私に任せるがいい。この騎士、ルージュに」
「た、助けてくれるの?」
楓子ちゃんの表情は硬い。
助けては貰いたいようだが、異形の存在であるルージュが苦手らしい。
「よし、ルージュ。早速命令だ」
「えぇっ!? い、今、ここで、ですか……?」
ルージュが驚愕し、頬を染める。
そんなルージュのリアクションは無視し、俺はルージュを真っ直ぐ見た。
「俺がいいと言うまで呼吸をするな」
「死んでしまいますが!?」
下の蜘蛛の方で呼吸できないのだろうか。
あ、そうか。今の命令だと、蜘蛛の方も呼吸してはいけないことになるか。
「わかった。命令変更だ。黙ってろ」
ルージュは何か言いたそうにするが、俺が睨みつけると、口をへの字に曲げて何も言わなくなった。
「あのな、楓子ちゃん」
楓子ちゃんが俺をキっと睨む。
「何? 馴れ馴れしく“ちゃん”付けで呼ばないでよ」
「おう、じゃあクソガキ」
「……楓子ちゃんでいい」
「俺たちは別に救助隊じゃないんだ。君を助ける義務もなければ義理もない。わかるか?」
「そ、そんなこと言うけど、そっちに小さい子がいるじゃん」
そう言って楓子ちゃんはレンを指差した。
指を差されたレンは、不快そうな顔をする。
確かに俺は一度レンを助けたが、今も助けているかといえば、それはちょっと違う。
俺たちは助け合っている。
レンもアラクネマスターの立派な一員なのだ。
「レンはただの足手まといじゃない。魔法を使って俺たちを助けている。それにレンは助けてもらいたいんじゃなくて、一緒に戦いたいんだ」
「うん!」
レンが俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
俺はそんなレンに微笑み返し、楓子ちゃんに視線を移す。
レンに比べて、何だこの中坊は。呆れてくる。
「レンなんてまだ五、六歳だぞ」
「えっ? ぼくよんさいだよ」
楓子ちゃんに説教するのを中断し、レンに視線を移した。
え? レンって四歳なの?
四歳っていうとサザ○さんの息子と同い年じゃないか。いや、あの子だって相当しっかりしてると思うけど。
「レン、お前、老けてるな……」
「八雲さん、せめて大人びてるとか言ってあげてください」
話が逸れた。
俺は再び楓子ちゃんを見る。
「自分の三分の一しか年取ってない子が戦うって言ってるのに、自分は『助けて、助けて』って恥ずかしくないのか?」
「そんなこと言ったって……」
楓子ちゃんが涙目だ。
おうおう、泣け泣け。君が泣いたところで、俺は痛くとも痒くとも無い。
「イクト、おんなのこなかせてるの?」
あ、うん。それは痛い。
「違うのよ、レン君。八雲さんは楓子ちゃんにメってしてるの」
「ふーん」
楓子ちゃんが俯いてぽろぽろと泣き始めた。
まぁ泣かれようが何だろうが、助けるつもりはないが。
春川さんが俺に困惑した表情を向けてくる。レンは自分より大人の楓子ちゃんが泣いているのを見て、オロオロしていた。ルージュはといえば……何だ? 手をピンと上にあげて、何か言いたそうにしている。無視しよう。
『ルージュさんからお電話です。応答しますか?』
うっとしい奴だな。
仕方ない。取るか。
『何だ?』
『困っている人を助けるのは、悪いことではないですよ。見返りなど求めなくても……』
俺は通話を切った。
ルージュが睨んで来るが、知らん。
『春川さんからお電話です。応答しますか?』
ん? 今度は春川さんか。どうしたのです。
『どうかした? 春川さん』
『はい。私も助けても良いかもしれないと思います』
『でも、そんなこと言ってたら、これから先もっと助けなきゃいけない奴が増えるかもしれない』
『いえ、助けられてもせいぜいあと一人です。パーティーの人数制限がありますから』
なるほど、そういう考え方もあるか。
だけど、結局足手まといを助けても、俺たちが負担を負うだけだ。
だが、春川さんの考え方は違ったようである。
『それに戦力にならないなら、何か生産職的なものを取らせてみるのもいいかもしれません。戦力はルージュさんと八雲さんがいれば、十分ですし。労働力は必要じゃありませんか?』
黒い。春川さんが黒いよ……。
確かに春川さんの言うことも尤もだ。
戦力は十分かもしれないが、それ以外が俺たちのパーティーにはない。せいぜいレンの回復ぐらいである。
もっとこう、役に立ったり面白い生産職があったりしてもいいと思う。
『分かった。戦えないなら働け、という方向で話を進めよう』
俺は端っから乗る気のないルージュの泥船は早々に見捨て、春川さんの大船、いや、黒船に乗ることにした。
わざとらしく、一つ咳払いをしておく。
「まぁ、確かにだ。ここで楓子ちゃんを見捨てて、死なれるのも後味が悪い」
俺がそう言うと、楓子ちゃんは顔を上げ、俺を凝視した。
可愛い女子というのは、泣き顔も絵になるな。鼻水はいただけんが。
「助けてくれるの?」
舌打ちしそうになるのを我慢して、言葉を続けた。
「まぁ、ちゃんと俺たちの助けをしてくれるならな」
「うん、何でもする!」
女の子がそんなに簡単に何でもするというのはどうかと思うが、とりあえず彼女のスマツを見せてもらう。
選べる職業は、ランナー、学生、風俗嬢、白魔法使い、赤魔法使い、だ。
……。
顔を上げると、真っ赤な顔をした楓子ちゃんと目が合った。
「まぁ、あんま説教するつもりもないけど、中学生が風俗で働くのは、色々アウトだと思うぞ」
「ち、違うもん! 私処女だもん!」
「ああ、うん。そ、わかった」
「絶対わかってないでしょ!?」
またルージュが手を上げた。
「何だ?」
「そう言えば、私の選べる職業にもホステスというのがありました。一概にその職業があるからと言って、その職業に就いていたとは限らないのではないでしょうか?」
そう言われるとそうかもしれない。
俺だって青魔法使いとかいうわけわからないのがあったし、狂犬と呼ばれたことはあるが、狂戦士と呼ばれたことは無かった。
だが、ルージュのホステスはなぜだろう。
以前、嫁の残していった焼酎を何かの料理に入れ過ぎて泥酔してしまい、グダグダと愚痴を語ったことがあるが、まさかそれのせい……なのか?
ともかく今は楓子ちゃんの職業を決めよう。
しかしどれを選ぶか迷う。
残念ながら悪い意味でだ。
無難そうなのが何もなかった。一番まともそうなのは白魔法使いだが、それだとレンと被る。
その他で一番気になるのはやっぱり風俗嬢だが、楓子ちゃんが絶対に嫌がるだろう。
となると、残りは三択だ。
ランナーか学生か赤魔法使い。
うーん、何ができるのかは謎だが、やはり赤魔法使いがまともそうか。
しかし楓子ちゃんは唐突に「これにしよっと」と言って、ランナーを選んでしまった。
……何でだ?
「私、陸上の長距離やってるからさ、ちょうどいいかなって」
なんて適当な理由……。
もう選んでしまったものはしょうがないので、どんなスキルを取得したか見せてもらう。
楓子ちゃんの取得したスキルは「韋駄天」「消費軽減」「給水所」だった。
うん、二つはわかる。だが「給水所」がさっぱりわからない。
「ちょっと使ってみてくんね?」
「うん、【給水所】」
まさか給水所が現れる能力ではないと思うのだが、と思っていると、目の前に本当に給水所が現れた。マラソンとかで見る給水所、まんまアレだ。
紙コップは六つあり、それぞれに何か透明な液体が並々注がれていた。
飲めるのか? 飲んでみるべきか……?
俺が悩んでいると、特に迷う様子を見せず楓子ちゃんがそれを一つ手に取り、ごくごくと飲んでいった。
「あ、これ、スポーツ飲料だね」
この子、勇気あるな。
「マスター、甘いです」
さらにルージュが飲んでみせる。
春川さんと目が合い、頷き合って二人で同時に飲んでみた。
確かにスポーツ飲料だ。冷たくてうまい。
「ぼくにものませて」
レンにも飲ませてやり、誰にも何も起きないことが証明された。
三十分の待機時間はあるが、常に飲み物が確保できるなら、これは相当便利な能力、なのだろうか? わからん。
そこら中に自動販売機はあるし、何か月かはもつはずだ。
まぁしかし、何かしら役に立つこともあるだろう、きっと。
それから楓子ちゃんステータスを50SP上昇させ、残ったSPでレベルを上げた。
そして俺たちアラクネマスターに新メンバーが加入したのである。
名前 :カエデコ イチノセ
所属PT:アラクネマスター
状態 :健康
体力 :15→48
攻撃力 :13→15
耐久力 :10→15
敏捷 :25→41
反応速度:26→42
魔力 :18→20
魔力耐性:19→21
SP :100→20
職業 :ランナーLV1→3(NEXT30)
スキル :韋駄天LV1、消費軽減LV1、給水所LV1(30min)
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