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一章
07.アラクネマスター
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ホーム画面にアイコンが増えている。
初めは三つしかなかったのに、今は五つだ。
新しく増えたのは、「パーティーメニュー」と「所持アイテム」である。
先に「所持アイテム」の方から見ていく。
タップするとメニュー画面が現れた。
上から「素材」と「食材」がある。
素材を見る。
・カイマンマンの皮×1
あのワニ男、カイマンマンっていうのか……。
そしてもう一個の食材の方だが、凄く嫌な予感がする。
あまり見たくはないが、確認しないわけにはいかない。
・カイマンマンの肉×1
うん、やっぱりあった。
食えないだろ。というより、食いたくない。
春川さんを見ると、彼女も渋い表情でスマツの画面を見ていた。
これはそっとしておくとして、「パーティーメニュー」の方も見てみる。
またメニュー画面が現れる。
上から「パーティー結成」、「パーティー加入」、「パーティー脱退」、「パーティーコール」だ。
さらにその下に説明がある。
『パーティーは最大六人で編成できます。パーティーを結成し、魔物を討伐すると、パーティーメンバー全員に同討伐ポイントが入ります』
滅茶苦茶便利じゃないか。
これは早速設定するべきだ。
「皆、パーティーメニューを開いてくれ」
全員が言う通りにする。
レンはよくわからないようで、春川さんが手伝ってあげていた。
「とりあえずこのメンツでパーティーを編成しようと思うんだが、いいか?」
「はい、八雲さん」
「イクトとなかまになるの?」
「ああ、そうだ」
「ふふ、前衛は任せてください、マスター」
「うるさい、駄蜘蛛」
「うぅ、マスター……」
まず「パーティー結成」を選ぶ。
『パーティー名を決定してください』
うぐ、面倒臭い。
「パーティー名何にしよっか?」
考えるのが面倒くさいので、迷わず仲間たちに振った。もちろん駄蜘蛛の意見は無視するが。
「はい、マスター。『マスターと愉快な仲間たち』なんてどうでしょう。ぐへへ」
わかりやすいおべっかを使ってきやがった。
無視だ、無視。
「春川さんはなんかない?」
「えっ、私は無視ですか?」
「え、えっと、『八雲ファミリー』はどうでしょうか……?」
あ、この人も駄目だ。
なんかちょっと照れるように言っているし、下心を隠すつもりもないらしい。
「レンは?」
「あれ? 私も無視ですか?」
「う~ん、スーパーライダーズがいい」
「くそっ! まともな意見が無い!」
レンがちょっとショックを受けたような顔をしているが、捨て置き、仕方なく真面目にパーティー名を考えることにした。
「マスター、もう許してくださいよ。ねぇ、マスター」
駄蜘蛛が鬱陶しい。
しかしこれから外に出ようとしているわけだが、こいつはどうしよう。目立ってしょうがない。
ん? 目立つか……。
いわばこいつは俺たちのパーティーのシンボル、という表現は嫌だから、マスコットと言っても過言ではない。
「ねぇ、マスター、マスター」
よし、決めた。
「『アラクネマスター』と。皆、『パーティー加入』を押してみてくれ」
「え、八雲さん、もう決めちゃったんですか?」
「うん、もうこれ以上考えるのも面倒くさいから。それにほら、こいつ目立つし、ちょうどいいんじゃん?」
「ま、まぁ、そうですね」
「マスター、パーティー名に私を入れてくれたんですね!」
「あらくねますたー? どういう意味?」
「アラクネっていうのは、このデカい以外取り柄のない蜘蛛女のことで、マスターっていうのは支配者、命令する人のことだ。つまり、皆でこの蜘蛛女を、馬車馬の如く扱き使ってやりましょうって意味だな」
「鬼畜ですか!?」
レンは首を傾げている。
ちょっと難しかっただろうか。
メニュー画面に『パーティー管理』という項目が増えていた。
タップすると、またメニューになり、「メンバー」、「パーティー名変更」、「パーティー解散」という項目がある。
その中の「メンバー」が赤く点滅しているので、タップする。
すると、俺の名前と顔写真が一番上にあり、名前の横に星マークがついていた。どうやらリーダーという意味のようだ。
しまった。こういう面倒臭そうな役割はやりたくなかった。いまさらどうしようもないけど。
俺の下に、三人の名前と顔写真が並んでいて、赤く点滅していた。恐らく許可待ちという事だろう。
俺のすぐ下にあった春川さんの名前をタップする。
『パーティー加入の申請がありました。許可しますか? はい/いいえ』
『はい』をタップ。
次にレンも『はい』。
ルージュは『いいえ』。
『ルージュのパーティー加入の申請を、今後一切拒否しますか? はい/いいえ』
『はい』してみたいが、我慢して『いいえ』を押す。
「マ、マスター、『パーティー加入の申請が拒否されました』と出てきたのですが……」
「ん? ああ、ちょっと試してみた」
「もう許してくださいよぉ」
ルージュはそう言いながら俺を抱き上げ、抱き締めてきた。
痛い。鎧が痛い。
「やめろ! 鎧が当たって痛い!」
「うぐ、申し訳ありません」
ルージュが俺を下ろし、鎧をガチャガチャやり始めた。
痛いと言われて一度脱ごうとしているらしい。
「あ、あれ? どうやって脱ぐのだ?」
「どうやって着たんだよ……?」
「買った時に『その場で装備しますか?』と出てきたので『はい』を押したら、次の瞬間体が光って装着していました」
ルージュはスマツを弄り始めた。
しばらくすると、ルージュの体が光って、鎧が消える。
「どうやら個人メニューのような所から着脱ができるみたいです。初めのステータス画面で左にフリックしたら装備欄になりました」
「へぇ、便利だな」
装備が嵩張らないのは良い。
スマツで日用品とかも買えるようになれば、非常に便利になるのだが。
それこそ、俺が欲しかった「無限収納」だ。
今後のアップデートに期待しよう。
「ルージュさん、すごくいい体してますね……」
「くものおねえちゃん、ママよりおっぱいおおきいね」
「ふふん♪」
ルージュが見せつけるように胸を張って見せた。
下着をつけていないので、浮いている。何がとは言わんが、やめてほしい。
それにしても、レンの母親はそんなに大きかったのか。惜しい人を失ってしまった。
「さ、マスター、これで痛くないですか?」
ルージュが再び抱き締めてきた。
確かに痛くはない。むしろ今までの経験で一番柔らかい。でも、だからこそ、やめてほしい。
「ちょっとルージュさん、子供のいる前で何してるんですか!?」
「何と言われても、マスターとコミュニケーションを取っているだけだ。いつも通りですよね、マスター?」
わかってやっているんだと思っていたが、違かった。
確かにいつも通りと言われれば、いつも通りだ。寝ている俺の胸に乗っかかってきたり、起きている時は肩に乗ったりしていたし。
「いつも通りって……あれ? 八雲さん、ルージュさんって元は蜘蛛なんですよね? その、種類は?」
「アシダカ軍曹だ」
「八雲さんって、奇特な趣味をお持ちだったんですね……」
春川さんにドン引きされてしまったが、今は気にしている余裕が無かった。
俺の胸で、巨大な柔らかいものが圧し潰されてぐにゃりと変形している。
「お、おい、離れろ。馬鹿蜘蛛」
「イヤです。許してくれるまで放しません」
ルージュが目を潤ませて見つめてくる。
こんなの卑怯だ。
まさかこんな圧倒的火力で武力制圧されることになるとは……。
「わ、わかった。許すから放してくれ、ルージュ」
「ありがとうございます、マスター。でも、抱き締めてたら、何だか変な気分になってきました。もう少しこのままでいてもいいでしょうか?」
「よくねぇよ。パーティーに入れないぞ?」
「うぐっ、わかりました」
ルージュがやっと俺を放した。
なにやらルージュの顔が赤いが、多分俺の顔はもっと赤いだろう。
とりあえず体育座りでマットレスの上に座る。
「イクトとくものおねえちゃん、なかよしだね」
レンは無邪気で良かった。
しかし春川さんの視線が若干冷たい。
しばらく春川さんの方は見れなさそうだ。
「レンよ、私のことはルージュと呼びなさい。これからは仲間なのだから」
「そうだな。お姉ちゃんは、無いな」
「マスター、それはどういう意味で……?」
「私は奈穂でいいわよ」
「わかった、ルージュとなおおねえちゃん」
「お姉ちゃんは要らないんだけど、まあいっか」
さて、パーティーの親睦を深めるのも結構だが、今はそれよりも試したいことがある。
それは「パーティーコール」だ。
早速タップしてみると、今いるメンバーの名前と顔写真が現れた。試しにルージュを押してみる。
「な、なんだ!? 急に『八雲育人さんからお電話です。応答しますか?』と聞こえてきました。これはマスターが何かしたのですか?」
「ん、ああ。取ってみてくれ」
『あーあー、マスター、聞こえますか? どうぞ』
ルージュは声を出していない。
しかし彼女の声が俺の脳内に直接響いてきた。
『ああ、聞こえている。これは便利だな』
『はい、敵が近くにいても、これなら勘付かれませんね。どうぞ』
『そういうネタはいいから』
俺は画面にあった「通話終了」を押し、全員にこれでこの四人なら簡単に連絡が取れることを伝えた。
あとは武器と装備だが、どうしようか。
俺は正直、このマゴロクブレードで十分だ。他の武器があっても、使いこなせる自信が無い。それにも拘わらず前衛職だが……。
他の二人にしてもそうだ。
ナイフぐらいしか使えそうなものはないだろう。もしかしたら、新しく増えた杖とかに、魔法の威力が上がったり、使用回数が増えたりするものがあるのかもしれないけど。「鑑定」が無い事にはわからない。
「武器と装備なんだが、俺は正直どれを選んでいいかわからないし、とりあえず今回は見送ろうと思う。二人はどうする?」
「ちょっと待ってください、マスター。剣を選ばないのですか? 先程部屋を弄った時に木刀と竹刀を発見しました。マスターには剣道のご経験があると思ったのですが」
「剣道なんか実戦で役に立つかよ。はい、以上」
「そんなぁ、マスターに剣道を教えて頂こうと思っていたのに」
「まぁ、基本的な剣の振り方とかなら教えてやれるけど、剣道が使えても実戦では使えないと思っておけよ」
もっと実践的な剣術とかなら使えたのかもしれないが、剣道は所詮スポーツだ。あれでモンスターと戦えるとは思えない。
たまに剣道とボクシングどちらが強いか、なんて話を聞くことがある。
俺は実際に同級生のボクサーと異種格闘技戦をしたことがあるのだが、一本を取る、つまり先制攻撃を当てる勝負なら俺が勝った。
だが、相手からダウンを奪うという勝負では、ボクシングには勝てなかった。
他にも柔道やら空手やらをやっている同級生もいたのだが、ポイントなら剣道が一番有利、ダウン、つまり相手を倒す技術ならボクシングが一番強かったのである。
だけどそのボクシングも、相手を殺す技術ではない。
一応ボクサーの同級生に殴り方を教えてもらったことはあるが、それも過信できないだろう。
まぁ、本当にいざとなったら、俺は違う戦い方をするが。
結局二人も武器を選ばず、とりあえずこのままで行くことになった。
あとは装備なのだが、それを迷っていると、ルージュがある提案をしてきた。
「私の糸を使いましょう。鉄より硬いはずです」
そういえば蜘蛛糸はかなり丈夫で、同じ太さなら鉄より硬いんだったか。
あれ? それを易々引き裂いたルージュの足って、どうなってるんだ? 鋼の剣って必要だったんだろうか……?
ルージュが俺たちの体を糸でぐるぐる巻きにした。
試しに全力で引っ張ってみるが、確かに全然引き千切れる気配がない。
まぁ、見た目は酷いが。
あとは俺の出掛ける準備だが、常日頃から俺は防災グッズを用意している。
これに残りの薬をすべて突っ込み、食料を入るだけ入れて準備完了だ。
待てよ、SPが100もあるんだ。レベルを上げておくべきか。
「皆、俺はSPを30ぐらい使って、職業のレベルを上げてみようと思う。皆はどうする?」
「はい、マスター。私もそうします」
「お前、あと10SPしかないだろ……」
「うーん、私は20SPにしときます。さっき戦った時、確かに倒すのに時間がかかったんですよね。とりあえずは試してみるという事で」
「ぼくはいくととおなじにする」
というわけで、出発する前に各々レベル上げをすることにした。
さて、どれくらい強くなるのだろう?
初めは三つしかなかったのに、今は五つだ。
新しく増えたのは、「パーティーメニュー」と「所持アイテム」である。
先に「所持アイテム」の方から見ていく。
タップするとメニュー画面が現れた。
上から「素材」と「食材」がある。
素材を見る。
・カイマンマンの皮×1
あのワニ男、カイマンマンっていうのか……。
そしてもう一個の食材の方だが、凄く嫌な予感がする。
あまり見たくはないが、確認しないわけにはいかない。
・カイマンマンの肉×1
うん、やっぱりあった。
食えないだろ。というより、食いたくない。
春川さんを見ると、彼女も渋い表情でスマツの画面を見ていた。
これはそっとしておくとして、「パーティーメニュー」の方も見てみる。
またメニュー画面が現れる。
上から「パーティー結成」、「パーティー加入」、「パーティー脱退」、「パーティーコール」だ。
さらにその下に説明がある。
『パーティーは最大六人で編成できます。パーティーを結成し、魔物を討伐すると、パーティーメンバー全員に同討伐ポイントが入ります』
滅茶苦茶便利じゃないか。
これは早速設定するべきだ。
「皆、パーティーメニューを開いてくれ」
全員が言う通りにする。
レンはよくわからないようで、春川さんが手伝ってあげていた。
「とりあえずこのメンツでパーティーを編成しようと思うんだが、いいか?」
「はい、八雲さん」
「イクトとなかまになるの?」
「ああ、そうだ」
「ふふ、前衛は任せてください、マスター」
「うるさい、駄蜘蛛」
「うぅ、マスター……」
まず「パーティー結成」を選ぶ。
『パーティー名を決定してください』
うぐ、面倒臭い。
「パーティー名何にしよっか?」
考えるのが面倒くさいので、迷わず仲間たちに振った。もちろん駄蜘蛛の意見は無視するが。
「はい、マスター。『マスターと愉快な仲間たち』なんてどうでしょう。ぐへへ」
わかりやすいおべっかを使ってきやがった。
無視だ、無視。
「春川さんはなんかない?」
「えっ、私は無視ですか?」
「え、えっと、『八雲ファミリー』はどうでしょうか……?」
あ、この人も駄目だ。
なんかちょっと照れるように言っているし、下心を隠すつもりもないらしい。
「レンは?」
「あれ? 私も無視ですか?」
「う~ん、スーパーライダーズがいい」
「くそっ! まともな意見が無い!」
レンがちょっとショックを受けたような顔をしているが、捨て置き、仕方なく真面目にパーティー名を考えることにした。
「マスター、もう許してくださいよ。ねぇ、マスター」
駄蜘蛛が鬱陶しい。
しかしこれから外に出ようとしているわけだが、こいつはどうしよう。目立ってしょうがない。
ん? 目立つか……。
いわばこいつは俺たちのパーティーのシンボル、という表現は嫌だから、マスコットと言っても過言ではない。
「ねぇ、マスター、マスター」
よし、決めた。
「『アラクネマスター』と。皆、『パーティー加入』を押してみてくれ」
「え、八雲さん、もう決めちゃったんですか?」
「うん、もうこれ以上考えるのも面倒くさいから。それにほら、こいつ目立つし、ちょうどいいんじゃん?」
「ま、まぁ、そうですね」
「マスター、パーティー名に私を入れてくれたんですね!」
「あらくねますたー? どういう意味?」
「アラクネっていうのは、このデカい以外取り柄のない蜘蛛女のことで、マスターっていうのは支配者、命令する人のことだ。つまり、皆でこの蜘蛛女を、馬車馬の如く扱き使ってやりましょうって意味だな」
「鬼畜ですか!?」
レンは首を傾げている。
ちょっと難しかっただろうか。
メニュー画面に『パーティー管理』という項目が増えていた。
タップすると、またメニューになり、「メンバー」、「パーティー名変更」、「パーティー解散」という項目がある。
その中の「メンバー」が赤く点滅しているので、タップする。
すると、俺の名前と顔写真が一番上にあり、名前の横に星マークがついていた。どうやらリーダーという意味のようだ。
しまった。こういう面倒臭そうな役割はやりたくなかった。いまさらどうしようもないけど。
俺の下に、三人の名前と顔写真が並んでいて、赤く点滅していた。恐らく許可待ちという事だろう。
俺のすぐ下にあった春川さんの名前をタップする。
『パーティー加入の申請がありました。許可しますか? はい/いいえ』
『はい』をタップ。
次にレンも『はい』。
ルージュは『いいえ』。
『ルージュのパーティー加入の申請を、今後一切拒否しますか? はい/いいえ』
『はい』してみたいが、我慢して『いいえ』を押す。
「マ、マスター、『パーティー加入の申請が拒否されました』と出てきたのですが……」
「ん? ああ、ちょっと試してみた」
「もう許してくださいよぉ」
ルージュはそう言いながら俺を抱き上げ、抱き締めてきた。
痛い。鎧が痛い。
「やめろ! 鎧が当たって痛い!」
「うぐ、申し訳ありません」
ルージュが俺を下ろし、鎧をガチャガチャやり始めた。
痛いと言われて一度脱ごうとしているらしい。
「あ、あれ? どうやって脱ぐのだ?」
「どうやって着たんだよ……?」
「買った時に『その場で装備しますか?』と出てきたので『はい』を押したら、次の瞬間体が光って装着していました」
ルージュはスマツを弄り始めた。
しばらくすると、ルージュの体が光って、鎧が消える。
「どうやら個人メニューのような所から着脱ができるみたいです。初めのステータス画面で左にフリックしたら装備欄になりました」
「へぇ、便利だな」
装備が嵩張らないのは良い。
スマツで日用品とかも買えるようになれば、非常に便利になるのだが。
それこそ、俺が欲しかった「無限収納」だ。
今後のアップデートに期待しよう。
「ルージュさん、すごくいい体してますね……」
「くものおねえちゃん、ママよりおっぱいおおきいね」
「ふふん♪」
ルージュが見せつけるように胸を張って見せた。
下着をつけていないので、浮いている。何がとは言わんが、やめてほしい。
それにしても、レンの母親はそんなに大きかったのか。惜しい人を失ってしまった。
「さ、マスター、これで痛くないですか?」
ルージュが再び抱き締めてきた。
確かに痛くはない。むしろ今までの経験で一番柔らかい。でも、だからこそ、やめてほしい。
「ちょっとルージュさん、子供のいる前で何してるんですか!?」
「何と言われても、マスターとコミュニケーションを取っているだけだ。いつも通りですよね、マスター?」
わかってやっているんだと思っていたが、違かった。
確かにいつも通りと言われれば、いつも通りだ。寝ている俺の胸に乗っかかってきたり、起きている時は肩に乗ったりしていたし。
「いつも通りって……あれ? 八雲さん、ルージュさんって元は蜘蛛なんですよね? その、種類は?」
「アシダカ軍曹だ」
「八雲さんって、奇特な趣味をお持ちだったんですね……」
春川さんにドン引きされてしまったが、今は気にしている余裕が無かった。
俺の胸で、巨大な柔らかいものが圧し潰されてぐにゃりと変形している。
「お、おい、離れろ。馬鹿蜘蛛」
「イヤです。許してくれるまで放しません」
ルージュが目を潤ませて見つめてくる。
こんなの卑怯だ。
まさかこんな圧倒的火力で武力制圧されることになるとは……。
「わ、わかった。許すから放してくれ、ルージュ」
「ありがとうございます、マスター。でも、抱き締めてたら、何だか変な気分になってきました。もう少しこのままでいてもいいでしょうか?」
「よくねぇよ。パーティーに入れないぞ?」
「うぐっ、わかりました」
ルージュがやっと俺を放した。
なにやらルージュの顔が赤いが、多分俺の顔はもっと赤いだろう。
とりあえず体育座りでマットレスの上に座る。
「イクトとくものおねえちゃん、なかよしだね」
レンは無邪気で良かった。
しかし春川さんの視線が若干冷たい。
しばらく春川さんの方は見れなさそうだ。
「レンよ、私のことはルージュと呼びなさい。これからは仲間なのだから」
「そうだな。お姉ちゃんは、無いな」
「マスター、それはどういう意味で……?」
「私は奈穂でいいわよ」
「わかった、ルージュとなおおねえちゃん」
「お姉ちゃんは要らないんだけど、まあいっか」
さて、パーティーの親睦を深めるのも結構だが、今はそれよりも試したいことがある。
それは「パーティーコール」だ。
早速タップしてみると、今いるメンバーの名前と顔写真が現れた。試しにルージュを押してみる。
「な、なんだ!? 急に『八雲育人さんからお電話です。応答しますか?』と聞こえてきました。これはマスターが何かしたのですか?」
「ん、ああ。取ってみてくれ」
『あーあー、マスター、聞こえますか? どうぞ』
ルージュは声を出していない。
しかし彼女の声が俺の脳内に直接響いてきた。
『ああ、聞こえている。これは便利だな』
『はい、敵が近くにいても、これなら勘付かれませんね。どうぞ』
『そういうネタはいいから』
俺は画面にあった「通話終了」を押し、全員にこれでこの四人なら簡単に連絡が取れることを伝えた。
あとは武器と装備だが、どうしようか。
俺は正直、このマゴロクブレードで十分だ。他の武器があっても、使いこなせる自信が無い。それにも拘わらず前衛職だが……。
他の二人にしてもそうだ。
ナイフぐらいしか使えそうなものはないだろう。もしかしたら、新しく増えた杖とかに、魔法の威力が上がったり、使用回数が増えたりするものがあるのかもしれないけど。「鑑定」が無い事にはわからない。
「武器と装備なんだが、俺は正直どれを選んでいいかわからないし、とりあえず今回は見送ろうと思う。二人はどうする?」
「ちょっと待ってください、マスター。剣を選ばないのですか? 先程部屋を弄った時に木刀と竹刀を発見しました。マスターには剣道のご経験があると思ったのですが」
「剣道なんか実戦で役に立つかよ。はい、以上」
「そんなぁ、マスターに剣道を教えて頂こうと思っていたのに」
「まぁ、基本的な剣の振り方とかなら教えてやれるけど、剣道が使えても実戦では使えないと思っておけよ」
もっと実践的な剣術とかなら使えたのかもしれないが、剣道は所詮スポーツだ。あれでモンスターと戦えるとは思えない。
たまに剣道とボクシングどちらが強いか、なんて話を聞くことがある。
俺は実際に同級生のボクサーと異種格闘技戦をしたことがあるのだが、一本を取る、つまり先制攻撃を当てる勝負なら俺が勝った。
だが、相手からダウンを奪うという勝負では、ボクシングには勝てなかった。
他にも柔道やら空手やらをやっている同級生もいたのだが、ポイントなら剣道が一番有利、ダウン、つまり相手を倒す技術ならボクシングが一番強かったのである。
だけどそのボクシングも、相手を殺す技術ではない。
一応ボクサーの同級生に殴り方を教えてもらったことはあるが、それも過信できないだろう。
まぁ、本当にいざとなったら、俺は違う戦い方をするが。
結局二人も武器を選ばず、とりあえずこのままで行くことになった。
あとは装備なのだが、それを迷っていると、ルージュがある提案をしてきた。
「私の糸を使いましょう。鉄より硬いはずです」
そういえば蜘蛛糸はかなり丈夫で、同じ太さなら鉄より硬いんだったか。
あれ? それを易々引き裂いたルージュの足って、どうなってるんだ? 鋼の剣って必要だったんだろうか……?
ルージュが俺たちの体を糸でぐるぐる巻きにした。
試しに全力で引っ張ってみるが、確かに全然引き千切れる気配がない。
まぁ、見た目は酷いが。
あとは俺の出掛ける準備だが、常日頃から俺は防災グッズを用意している。
これに残りの薬をすべて突っ込み、食料を入るだけ入れて準備完了だ。
待てよ、SPが100もあるんだ。レベルを上げておくべきか。
「皆、俺はSPを30ぐらい使って、職業のレベルを上げてみようと思う。皆はどうする?」
「はい、マスター。私もそうします」
「お前、あと10SPしかないだろ……」
「うーん、私は20SPにしときます。さっき戦った時、確かに倒すのに時間がかかったんですよね。とりあえずは試してみるという事で」
「ぼくはいくととおなじにする」
というわけで、出発する前に各々レベル上げをすることにした。
さて、どれくらい強くなるのだろう?
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平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
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