アラクネマスター ~地球丸ごと異世界転移したので、サバイバルする羽目になりました~

サムライ熊の雨@☂

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一章

03.我が道を往く

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「そ、その、でも、やはり奥様と別れる気が無いなら、それでも構いません。しかし私はこの身を剣として、命の限りマスターにお仕えしましょう」

 またルージュはキリっとした表情をしている。

 どうやら彼女は、俺の記憶をすべて知っているというわけではないらしい。まぁ、その方が助かる。妻とのあんなことやこんなことも知られていると思うと、声を上げながら逃げたくなる。

 それにしてもアラクネというと、どうしても暗殺者みたいなイメージを抱いてしまうが、彼女は女騎士のような性格らしい。思い返せば、声が聞こえるようになってから、ずっとそうではあったけど。

「ちょっとさ、『くっ、殺せ』って言ってみて」
「……嫌です」

 だがどうも、あまり忠誠心は高くないらしい。
 別にルージュは俺の従者じゃないし、忠誠心なんて求めてはいないが。

「まずは情報を整理しませんか? お互いの、スマートツールでしたか? それを確認してみましょう」

 ということで、まずはお互いの情報を見せ合うことにした。
 俺はルージュに自分のステータスを見せ、ルージュは俺に彼女のステータスを見せてくれた。

名前  :ルージュ
所属PT:なし
状態  :健康
体力  :633
攻撃力 :512
耐久力 :638
敏捷  :119
反応速度:161
魔力  :113
魔力耐性:125

SP   :100

職業  :なし

スキル :なし

 ふぁっ!?
 何だこいつ!? 強すぎるだろう! いや、まさかとは思うが、俺が弱すぎるのか?!

「マスター、……お悔やみ申し上げます」
「うっさいわ! お前がおかしいんだろ!」

 そういえば思い出した。
 こいつに軽くビンタされた時、トラックにでも轢かれたのかと思った。トラックに轢かれたことなんてないけど。
 俺がおかしいんじゃない。ルージュがおかしいんだ。
 そしてそう思っていたのは、俺だけじゃなかったようである。

「冗談です。私もこの姿になってから、力が漲っているのを感じます。どうやら私は強くなりすぎてしまったらしい……」

 遠い目をしているルージュを無視し、画面の気になっていた箇所を調べてみることにした。
 ステータスの数字横に+と-の表記がある。
 これを押すとどうなるかずっと気になっていたのだ。
 試しに体力の+を押してみる。すると、普通に体力が+1された。代わりに、SPというのが1減っている。
 どうやらSPを消費することで、ステータス値の操作が可能らしい。
 さらに、画面の一番下に確定とキャンセルという文字が現れた。とりあえず今回はキャンセルしておく。もしかしたら、SPは他にも使い道があるのかもしれないし。

 うん、そうだ。
 職業とか、武器だとかもあったはずである。
 俺はホームボタンを押し、「職業」を押してみた。
 やはりRPGゲームとかのジョブに違いない。
 上から順に、前衛職、中衛職、後衛職、支援職、一覧とある。
 その下にいくつか説明がある。

・職業にはレベルがあり、一度選ぶとLV50に達するまで、変更できない。
・レベルアップするごとに伸びやすいステータスが、それぞれの職業によって違う。
・職業ごとに、取得できるスキルがある。
・選べる職業は人によって違う。

 試しに前衛職を押してみる。
 すると、侍と狂戦士の二つが出てきた。
 侍は何となくわかる。俺は中学の時は剣道をやっていた。それが理由ではないだろうか。
 しかし狂戦士は……。
 まったく心当たりがないわけじゃないが、どう見ても地雷だ。
 他にも色々あるようだが、ひとまずジョブは放っておこう。
 俺がそう考えていると、ルージュが突如嬉しそうに声を上げた。

「マスター、見て下さい! 『職業』に騎士がありましたので、早速選んでみました!」
「……」

 人が慎重にしようとしていた矢先に……。
 まぁ、ルージュは俺の相棒であって、家来ではない。彼女が何を選ぼうと自由だ。イラッとはするけど。

 気を取り直してルージュのステータス画面を見せてもらう。

名前  :ルージュ
所属PT:なし
状態  :健康
体力  :633
攻撃力 :512
耐久力 :638
敏捷  :119
反応速度:161
魔力  :113
魔力耐性:125

SP   :100

職業  :騎士LV1(NEXT:10SP)

スキル :聖破斬ホーリースラッシュLV1(3/3【15min】)、武装硬化LV1、騎乗LV1

 確かにスキルが増えている。
 だが、騎乗は完全に死にスキルだ。ここら辺に馬なんていないし、ルージュの乗れる馬なんていない。いたらモンスターだ。
 ルージュは騎士になれてご満悦のようだが、これは結構失敗しているだろう。
 俺はもっと慎重に考えよう。
 ルージュがこの先俺と一緒に行動してくれるなら、彼女の能力との兼ね合いもある。

「よし、早速剣と盾を買いましょう!」
「ちょっと待て!」
「は、はい?」
「いや、お前のことをお前がどう選ぼうと自由だが、もう少し慎重になろう。な?」

 俺が少し呆れてそう言うと、ルージュは少しばつの悪そうな顔をした。

「少し興奮していたようです。お恥ずかしい」
「いや、まぁいいんだ。俺は別にお前にあれこれ命令するつもりはないから」
「はい、では、慎重に剣と盾を買いたいと思います」
「あ、うん、好きにして」

 興奮していようが、落ち着いていようが、根本的な所は何も変わらないらしい。
 うん、もういいや。これだけ強ければどうとでもなるだろ。

 とりあえず、何があるのかだけ俺も確認してみることにした。
 画面の『武器&防具』をタップする。
 次にメニューが出てきたのだが、購入の一つだけだ。
 もしかしたら、そのうち売れるようにもなるのかもしれない。じゃないとメニューがあるだけ無意味だし。
 購入を選ぶと、さらに武器と防具が選べるようになる。
 俺はとりあえず武器を押してみた。
 出てきたのは、青銅の剣(10SP)、鉄の剣(20SP)、鋼の剣(30SP)の三つだ。
 ちょっと少ないし、きっとこれからアップデートでもされるのだろう。
 防具の方を見ても、だいたい同じようなものである。聖銀ミスリルみたいなファンタジー色のものはない。ただしこちらは、着ける個所や形など、様々な違いがあるため、数が多かった。
 こう、色々見ているとだんだん買いたくなってくる。
 俺も試しに何か買ってみようか、と思ったところで、再びルージュの嬉しそうな声が聞こえてきた。もう嫌な予感しかしない。

「マスター、見てください!」
「お前って奴は……」

 ルージュは剣と盾、プレートメイルを装備していた。
 多分こいつのことだから、全部鋼製だろう。
 締めて90SP、残り10SPしかないわけだ。
 もう呆れて声も出ない。

「どうですか? 似合いますか?」

 まぁ、確かに似合ってはいる。
 そしてそんな風に嬉しそうに聞いて来られると、ついこっちも嬉しくなってしまう。
 美人っていうのは卑怯だ。

「まぁ、似合ってるよ。でも、なんか足りないな」
「? 何でしょう?」

 ルージュが首を傾げて訊いてきた。
 自分で言ったものの、何だろう? 思い付かない。しかし何かが足りないのだ。
 うーん、女騎士、長髪、ポンコツ……わかった。こいつになくて、俺の思い浮かべたドM変態女騎士にあるもの、それはアレだ。

「ポニーテールだ!」
「割とどうでも良かったです」

 ぐぐ、そうは言ってもイメージは大切だ。それにSPを消費しなくていいんだから、やってみたっていいだろう。
 俺は妻の残していった私物からヘアゴムを取り出し、ルージュに渡した。

「そ、そんなにポニーテールが良いんですか? 仕方ないですね」

 口ではそう言っているが、満更でもなさそうにポニーテールを作って、俺に見せてきた。
 九割九分ぐらいネタだったのだが、こうしてみると、やっぱり綺麗だ。

「綺麗だよ」
「ふえっ!?」

 ルージュは何やら顔を赤くし、俯いてしまった。
 こういうところは可愛らしい。

「マ、マスターは天然の女誑かしですね」
「いや、ある程度はわかって言ってるよ。本心だけどさ」

 うん、俺は残念ながら鈍感系ではないので、ちゃんと計算している。
 尤も、ルージュとそういう関係になるつもりはなかったりするのだが。
 だから一応フォローもしておこう。

「ルージュは男から見て綺麗だ。間違いない。イイ女は、そう言う時は『ありがとう』とか言って、上手く躱すんだよ。今のうちに覚えとけよ。もしかしたら、これから声を掛けられるかもしれないし」
「で、ですが、私はこんな体ですし、やはり男性に声を掛けられたりはしないのでは?」
「いや、人間とは言ってないし。トロールとかに求愛されるかもしれないだろ?」
「……溶かしますよ?」
「すいません」

 うん、そうだった。
 蜘蛛好きの俺からしてみれば、ルージュは全然ありなのだが、普通の人からしてみれば恐ろしいモンスターに見えるかもしれない。
 俺もこれがゴキ娘とかだったら、正直どうなっていたかわからないし。

「それで、マスターは『職業』や『武器』は選ばないのですか?」

 ルージュが完全にご機嫌斜めで訊いて来る。

「とりあえず俺はもう少し慎重に選ぶよ。これからお前と二人で行動するわけだしさ。何が必要になるかわからないだろ? それとも俺と一緒にいるのは嫌か?」
「そ、そんなことはないですけど」

 ルージュの表情が柔らかくなる。ちょっとは機嫌を直してくれたようだ。

「ま、いざとなったら何か適当に選ぶよ。何も選ばずに死ぬのもバカらしいしね」
「その、マスター。もしかしたら、その『いざとなったら』が近づいて来ているかもしれません」

 ルージュの視線が外を向いている。
 彼女の視線を追ってみるが、俺には何も見えない。
 そういえば、蜘蛛というのは、聴毛という発達した聴覚器官があり、それで振動などを捉えているのだったか。人間では感じ取れない何かを敏感に感じ取っているのだろうか。

「なあ、何が起きて……」

 ルージュに訊こうとした時だった。

――きゃあああああ!

 女の悲鳴が外から聞こえてきた。
 どうやら、ついに始まってしまったらしい。

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