3 / 33
一章
03.我が道を往く
しおりを挟む「そ、その、でも、やはり奥様と別れる気が無いなら、それでも構いません。しかし私はこの身を剣として、命の限りマスターにお仕えしましょう」
またルージュはキリっとした表情をしている。
どうやら彼女は、俺の記憶をすべて知っているというわけではないらしい。まぁ、その方が助かる。妻とのあんなことやこんなことも知られていると思うと、声を上げながら逃げたくなる。
それにしてもアラクネというと、どうしても暗殺者みたいなイメージを抱いてしまうが、彼女は女騎士のような性格らしい。思い返せば、声が聞こえるようになってから、ずっとそうではあったけど。
「ちょっとさ、『くっ、殺せ』って言ってみて」
「……嫌です」
だがどうも、あまり忠誠心は高くないらしい。
別にルージュは俺の従者じゃないし、忠誠心なんて求めてはいないが。
「まずは情報を整理しませんか? お互いの、スマートツールでしたか? それを確認してみましょう」
ということで、まずはお互いの情報を見せ合うことにした。
俺はルージュに自分のステータスを見せ、ルージュは俺に彼女のステータスを見せてくれた。
名前 :ルージュ
所属PT:なし
状態 :健康
体力 :633
攻撃力 :512
耐久力 :638
敏捷 :119
反応速度:161
魔力 :113
魔力耐性:125
SP :100
職業 :なし
スキル :なし
ふぁっ!?
何だこいつ!? 強すぎるだろう! いや、まさかとは思うが、俺が弱すぎるのか?!
「マスター、……お悔やみ申し上げます」
「うっさいわ! お前がおかしいんだろ!」
そういえば思い出した。
こいつに軽くビンタされた時、トラックにでも轢かれたのかと思った。トラックに轢かれたことなんてないけど。
俺がおかしいんじゃない。ルージュがおかしいんだ。
そしてそう思っていたのは、俺だけじゃなかったようである。
「冗談です。私もこの姿になってから、力が漲っているのを感じます。どうやら私は強くなりすぎてしまったらしい……」
遠い目をしているルージュを無視し、画面の気になっていた箇所を調べてみることにした。
ステータスの数字横に+と-の表記がある。
これを押すとどうなるかずっと気になっていたのだ。
試しに体力の+を押してみる。すると、普通に体力が+1された。代わりに、SPというのが1減っている。
どうやらSPを消費することで、ステータス値の操作が可能らしい。
さらに、画面の一番下に確定とキャンセルという文字が現れた。とりあえず今回はキャンセルしておく。もしかしたら、SPは他にも使い道があるのかもしれないし。
うん、そうだ。
職業とか、武器だとかもあったはずである。
俺はホームボタンを押し、「職業」を押してみた。
やはりRPGゲームとかのジョブに違いない。
上から順に、前衛職、中衛職、後衛職、支援職、一覧とある。
その下にいくつか説明がある。
・職業にはレベルがあり、一度選ぶとLV50に達するまで、変更できない。
・レベルアップするごとに伸びやすいステータスが、それぞれの職業によって違う。
・職業ごとに、取得できるスキルがある。
・選べる職業は人によって違う。
試しに前衛職を押してみる。
すると、侍と狂戦士の二つが出てきた。
侍は何となくわかる。俺は中学の時は剣道をやっていた。それが理由ではないだろうか。
しかし狂戦士は……。
まったく心当たりがないわけじゃないが、どう見ても地雷だ。
他にも色々あるようだが、ひとまずジョブは放っておこう。
俺がそう考えていると、ルージュが突如嬉しそうに声を上げた。
「マスター、見て下さい! 『職業』に騎士がありましたので、早速選んでみました!」
「……」
人が慎重にしようとしていた矢先に……。
まぁ、ルージュは俺の相棒であって、家来ではない。彼女が何を選ぼうと自由だ。イラッとはするけど。
気を取り直してルージュのステータス画面を見せてもらう。
名前 :ルージュ
所属PT:なし
状態 :健康
体力 :633
攻撃力 :512
耐久力 :638
敏捷 :119
反応速度:161
魔力 :113
魔力耐性:125
SP :100
職業 :騎士LV1(NEXT:10SP)
スキル :聖破斬LV1(3/3【15min】)、武装硬化LV1、騎乗LV1
確かにスキルが増えている。
だが、騎乗は完全に死にスキルだ。ここら辺に馬なんていないし、ルージュの乗れる馬なんていない。いたらモンスターだ。
ルージュは騎士になれてご満悦のようだが、これは結構失敗しているだろう。
俺はもっと慎重に考えよう。
ルージュがこの先俺と一緒に行動してくれるなら、彼女の能力との兼ね合いもある。
「よし、早速剣と盾を買いましょう!」
「ちょっと待て!」
「は、はい?」
「いや、お前のことをお前がどう選ぼうと自由だが、もう少し慎重になろう。な?」
俺が少し呆れてそう言うと、ルージュは少しばつの悪そうな顔をした。
「少し興奮していたようです。お恥ずかしい」
「いや、まぁいいんだ。俺は別にお前にあれこれ命令するつもりはないから」
「はい、では、慎重に剣と盾を買いたいと思います」
「あ、うん、好きにして」
興奮していようが、落ち着いていようが、根本的な所は何も変わらないらしい。
うん、もういいや。これだけ強ければどうとでもなるだろ。
とりあえず、何があるのかだけ俺も確認してみることにした。
画面の『武器&防具』をタップする。
次にメニューが出てきたのだが、購入の一つだけだ。
もしかしたら、そのうち売れるようにもなるのかもしれない。じゃないとメニューがあるだけ無意味だし。
購入を選ぶと、さらに武器と防具が選べるようになる。
俺はとりあえず武器を押してみた。
出てきたのは、青銅の剣(10SP)、鉄の剣(20SP)、鋼の剣(30SP)の三つだ。
ちょっと少ないし、きっとこれからアップデートでもされるのだろう。
防具の方を見ても、だいたい同じようなものである。聖銀みたいなファンタジー色のものはない。ただしこちらは、着ける個所や形など、様々な違いがあるため、数が多かった。
こう、色々見ているとだんだん買いたくなってくる。
俺も試しに何か買ってみようか、と思ったところで、再びルージュの嬉しそうな声が聞こえてきた。もう嫌な予感しかしない。
「マスター、見てください!」
「お前って奴は……」
ルージュは剣と盾、プレートメイルを装備していた。
多分こいつのことだから、全部鋼製だろう。
締めて90SP、残り10SPしかないわけだ。
もう呆れて声も出ない。
「どうですか? 似合いますか?」
まぁ、確かに似合ってはいる。
そしてそんな風に嬉しそうに聞いて来られると、ついこっちも嬉しくなってしまう。
美人っていうのは卑怯だ。
「まぁ、似合ってるよ。でも、なんか足りないな」
「? 何でしょう?」
ルージュが首を傾げて訊いてきた。
自分で言ったものの、何だろう? 思い付かない。しかし何かが足りないのだ。
うーん、女騎士、長髪、ポンコツ……わかった。こいつになくて、俺の思い浮かべたドM変態女騎士にあるもの、それはアレだ。
「ポニーテールだ!」
「割とどうでも良かったです」
ぐぐ、そうは言ってもイメージは大切だ。それにSPを消費しなくていいんだから、やってみたっていいだろう。
俺は妻の残していった私物からヘアゴムを取り出し、ルージュに渡した。
「そ、そんなにポニーテールが良いんですか? 仕方ないですね」
口ではそう言っているが、満更でもなさそうにポニーテールを作って、俺に見せてきた。
九割九分ぐらいネタだったのだが、こうしてみると、やっぱり綺麗だ。
「綺麗だよ」
「ふえっ!?」
ルージュは何やら顔を赤くし、俯いてしまった。
こういうところは可愛らしい。
「マ、マスターは天然の女誑かしですね」
「いや、ある程度はわかって言ってるよ。本心だけどさ」
うん、俺は残念ながら鈍感系ではないので、ちゃんと計算している。
尤も、ルージュとそういう関係になるつもりはなかったりするのだが。
だから一応フォローもしておこう。
「ルージュは男から見て綺麗だ。間違いない。イイ女は、そう言う時は『ありがとう』とか言って、上手く躱すんだよ。今のうちに覚えとけよ。もしかしたら、これから声を掛けられるかもしれないし」
「で、ですが、私はこんな体ですし、やはり男性に声を掛けられたりはしないのでは?」
「いや、人間とは言ってないし。トロールとかに求愛されるかもしれないだろ?」
「……溶かしますよ?」
「すいません」
うん、そうだった。
蜘蛛好きの俺からしてみれば、ルージュは全然ありなのだが、普通の人からしてみれば恐ろしいモンスターに見えるかもしれない。
俺もこれがゴキ娘とかだったら、正直どうなっていたかわからないし。
「それで、マスターは『職業』や『武器』は選ばないのですか?」
ルージュが完全にご機嫌斜めで訊いて来る。
「とりあえず俺はもう少し慎重に選ぶよ。これからお前と二人で行動するわけだしさ。何が必要になるかわからないだろ? それとも俺と一緒にいるのは嫌か?」
「そ、そんなことはないですけど」
ルージュの表情が柔らかくなる。ちょっとは機嫌を直してくれたようだ。
「ま、いざとなったら何か適当に選ぶよ。何も選ばずに死ぬのもバカらしいしね」
「その、マスター。もしかしたら、その『いざとなったら』が近づいて来ているかもしれません」
ルージュの視線が外を向いている。
彼女の視線を追ってみるが、俺には何も見えない。
そういえば、蜘蛛というのは、聴毛という発達した聴覚器官があり、それで振動などを捉えているのだったか。人間では感じ取れない何かを敏感に感じ取っているのだろうか。
「なあ、何が起きて……」
ルージュに訊こうとした時だった。
――きゃあああああ!
女の悲鳴が外から聞こえてきた。
どうやら、ついに始まってしまったらしい。
0
お気に入りに追加
148
あなたにおすすめの小説
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの
つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。
隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる