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18.神が技術職なんだが

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 真白が戻ってきたのが最初だった。
 次に委員長、最後に桃華が戻ってくる。
 生存者を発見できたのは真白だけではなかったようで、委員長は女性看護師を二人、桃華は男性医師を一人連れ帰ってきた。

「これだけ無事だった人がいたんなら、もっと入院病棟の方を探せばまだいるかもね」

 茜が明るくそう言うが、真白はかぶりを振った。

「今はまだいるかもしれないが、次の大量ポップでダメだろうな」

「そ、そんな……」

 落ち込む茜に申し訳ない気持ちを抱くが、余計な希望を持たせるのも良くないと思ったのだ。

 ちなみに落ち込んでいるのは茜だけではない。
 助けた人たちもそうだが、委員長と桃華も落ち込んでいた。
 しかしこの二人に関しては意味が違うだろう。
 どうやらあまりゴブリンに遭遇できなかったようだ。
 入院患者がいるのが、三階からだったのである。一階から二階は主に検査室や売店だったらしい。そっちにも人がいただろうが、入院病棟ほどではなかったに違いない。

「何はともあれ」

「うん、そろそろ時間だね」

 真白の呟きに委員長が応じた。

 何の前触れもなく起きるかと真白は思ったのだが、運動会で馴染み深い『クシコスの郵便馬車』が大音量が流れてきた。

『間もなくポップの時間です。皆さん、生き残れるよう頑張ってください』

 抑揚のない子どもの声だ。
 それは真白だけでなく、全員に聞こえているようで、全員が辺りを見回していた。

「来るぞ」

 エントランス内のあちこちで光が上がった。

「エレノア、バン・シー、仕事だ」

「コピーだ、ボス」

「独り占めしないでくれよ」

 真白たちは出現したゴブリンを片っ端から狩り始めた。
 真白はダガーを、桃華は鉈を、委員長は剣を振るう。
 そして真白の召喚獣であるエレノアは牙と爪で、バン・シーが二丁拳銃で次々に撃ち抜いていく。
 結果的に真白の討伐数が多くなった。エレノアもバン・シーも真白の攻撃としてカウントされているのだから当然の結果と言える。

 真白が最後に一体だけ現れたオークを自らのダガーで斬り裂くと、魔物の殲滅が終了した。
 今立っているのは、怯える茜や生存者たちと、返り血で真っ赤に染まった真白と桃華、そしてなぜか返り血すら浴びていない委員長だけだった。

「さすがに少し疲れたね」

「うん、私もちょっと休みたいかも」

 委員長と桃華が疲れを訴える。
 しかし真白はそれほどでもなかった。
 スマホのログで確認すると、レベルが上がった時に『持久力』が二回上がっている。それが原因だろう。もしかしたらレベルアップの影響で体力が全快したということも考えられるのだが。

「わかった、少し休もう。腹も減ったしな」

 そう、今日は朝食を食べた後、何も口にしていないのだ。
 それは委員長と桃華、いや、ここにいる全員が同じだろう。

 問題はどこで休むかである。
 休める場所と考えてすぐに入院病棟を思いつくのだが、あの惨状が待っているのであれば、とても妥当とは言いづらい。

 真白が悩んでいると、桃華が提案をした。

「そういえば、近くにレストランがあったよ。そこはどうかな?」

「いいね、食料もあるかもしれないし」

「じゃあ、決まりだな」

 茜たちにこれからの予定を提案しようとするのだが、その前に真白は気がかりなことを思い出し、二人を一度止めた。

「待て、先にこの『スマホ』についてもう少し調べておきたい」

「それなら休みながらでもいいんじゃないかな?」

 確かに委員長の言う通りなのであるが、真白はどうしても今すぐ調べずにはいられなかった。理由はわからないが、急いだ方がいい気がするのだ。
 そこで歩きながら弄ることにした。

「お兄ちゃん、ながらスマホは危ないよ」

 茜に怒られるが、「大丈夫、大丈夫。バン・シーに警戒してもらってるから」と、肩にバン・シーを乗せて言い訳した。

「おい、このスマホにある機能って、今アプリとしてあるものだけなのか?」

 真白がスマホに向かって話しかけると、すぐにライアンが応じる。

「いいや、違うよ」

 すぐにスマホの画面にアプリが増えた。『ショップ』、『ランキング』、『フレンド』というものだった。

 真白の睨んだ通り、やはり他にも機能があったのだ。陽炎が電話してきた時点で、怪しいと思っていたのである。
 これで現在あるアプリは『ステータス』、『職業』、『マップ』、『ミッション』、『ログ』、『パーティー』を合わせて10個だ。

「この後ももしかしたら神様がアップデートしてくれるかもね」

 神様というのはエンジニアなのだろうか。
 真白は呆れつつも、一番気になった『ショップ』というアプリを立ち上げてみた。
 立ち上げると、すぐに『購入』と『売却』の二つが出てきた。
 まずは購入を押してみる。
 さらにまたいくつかの項目が現れた。

・魔法
・スキル
・装備
・ステータス
・道具

 ステータスまで買えるらしい。
 しかし何を代価として支払うのかわからない。まさかリアルマネーだろうか。

 真白はとりあえず一番上の魔法をタップして確認する。
 また選択肢だ。

・生活魔法
・移動魔法
・攻撃魔法
・回復魔法
・召喚魔法
・結界魔法

 意外と種類が多い。

 真白はまた一番上の生活魔法をタップした。
 ようやく購入画面に移ったようで、今度は色んな魔法の名前と効果が載っている。
 例えば

・ウォーター:10pt 飲み水を精製する。

 などのように。

 ここでわかったのが、おそらく支払いはポイント制だということだ。他の魔法にもすべてこの『pt』の表記が載っており、効果が高そうなものほど数字が大きくなるため、間違いないだろう。

「ポイントってどうやって獲得するんだ?」

「自分の持っているものを売却すればポイントになるよ」

 それが妥当だろう。

 今度は売却をタップすると、同じように魔法、装備などの選択肢が現れた。
 ここでまた一つ問題が発生する。何を売ればいいかだ。
 売れそうなものは多くあるし、例えば『スキル』の『魔法のヴェール』など、1000ptもあった。
 だが普通こういうゲームでは、ガチャで手に入れるよりも、購入する方が割高だったりするのだ。そう考えるなら、明らかに要らないものだけ売るのが定石と言えるだろう。

 どうやら装備は直接触っているものしか売れないようだったため、真白はエレノアに積んでいた弓矢を掴んだ。
 やはり真白の勘は当たっていたようで、売れるものの中に弓矢が追加されている。
 真白は売りたいものを次々にタップしていくと、最後に『一括売却』をタップした。

「どうしたの、お兄ちゃん? ヘルメットが無くなっちゃったよ」

「真白君、革鎧もなくなってるけど……」

「売った」

「へぇ、そんなことが出来るんだね」

 しかし大したポイントにはならなかった。
 
・鉄の小手 10pt
・革の鎧(胴) 1pt
・革の鎧(垂) 1pt
・安全ヘルメット 1pt
・弓矢(セット) 10pt
・杖 1pt

 計24ポイントだ。
 別に欲しいわけではないのだが、桃華が初めに覚えたファイアボールやアイシクルショットでも50ポイントは必要である。

 真白が目を付けたのは別の魔法だった。

『移動魔法』

 購入できる魔法の中にその欄があり、中を見ると『フライ』、『テレポート』、『エスケープ』など、字面だけでも十分に有用そうな魔法が揃っていたのだ。
 だが必要ポイント数が最低のフライでも、500ポイントが必要になる。
 10ポイントで取得できる、飲み水を出せるようになる『ウォーター』などの生活魔法もあるのだが、貯まるのを待った方がいいかもしれない。非常に時間が掛かりそうだが。
 少なくとも自販機を壊せば、いくらでも飲み物は確保できるし、特に困っていることはないのだ。

「真白は相変わらず、何でも即決しちゃうよね」

 ライアンに小言を言われるが、真白は当然のようにそれを無視した。

 真白のスマホにアプリが新しくインストールされたのが原因か、桃華のスマホにも同じアプリがインストールされたようだった。

「私もナイフを売っちゃおうかと思うんだけど、どうかな?」

 真白がライアンに小言を言われたせいか、桃華が確認を取ってきた。
 真白は小首を傾げる。好きにすれば、と。
 実際のところ、ナイフなんてなくても問題ないだろう。それに最悪ここは病院である。ナイフの代わりになりそうなものなどいくらでもありそうだ。
 桃華もどうやら欲しいものを見つけたらしく、何やら難しい顔をしていた。

 桃華の問題は彼女自身がどうにかするしかない。
 どうやら魔法職というのは外れらしい。少なくとも初めに選ぶと恩恵が少ない。
 ゲームではそのキャラの得手不得手が職業に反映されたりするものだが、このゲーム・・・ではその限りでないようだ。
 かといって、桃華が初めに格闘家や戦士を選んだところで、何とかなったとも思えないのだが。

 真白は桃華から視線を外し、再びスマホへと戻した。
 残りのアプリは『フレンド』と『ランキング』であるが、真白は『フレンド』は確認しないことにした。
 どうせパーティー以外の“キャラクター”とフレンドになって、連絡先を交換する機能とかだろう。
 ボッチの真白には関係ない話だった。

 ということで『ランキング』を起動する。
 ランキングはシンプルで、二つしか項目がない。
 合計レベルランキングと、討伐数ランキングである。
 真白はデフォルトで表示された合計レベルランキングから確認していくのだが、すぐに一位で目が留まった。
 一位の人物、それは知っている名前だった。

「桃華、ランキングを見てみろ。委員長もこれを」

 真白はそう言って委員長に自分のスマホを見せた。

「嘘……」
「これは……」

 二人が画面を見て固まっている。
 きっと真白が注目したものと同じものを見ているに違いなかった。

「え、何々、私にも見せて」

 スマホを返してもらった真白は、茜にもスマホを貸してやった。
 途端に茜の顔が険しくなる。

 合計レベルランキングの一位の人物。
 それは超の付く有名人だった。
 彼女の名前は五十嵐紅佳いがらしべにか
 つい何ヶ月か前まで、トップアイドルとして活躍していた人物だ。
 そしてアイドルを辞めた今でも、彼女のニュースを見ない日はなかった。

 つい一か月前、彼女は捕まった。
 連続猟奇殺人の容疑者として。

 彼女の取り調べは今でも続いているはずだ。
 そして間違いなく昨日までは、留置場にいたはずである。
 それなのに、彼女は合計レベルランキングの一位になっていた。
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