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第十幕「銀の英雄」
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しおりを挟む「彼女は私の部下だ。今は補佐官のような役割も兼ねている。入団当時から優秀すぎるほど優秀だった。今では軍屈指の実力者、黒の象徴にすら成りそうな勢いだ。それ故に、彼女と並び立てる腕を持つ者がいない」
「あれにQueenが務まるとは思えないが」
黒の軍所属の幹部は民衆に階級名ではなく俗称を呼ばれることが多い。黒のKingを始めとして、Queen、Jack、Ace、 Other。
「象徴とは言っても、私たちにとってイズナはQueenではないよ。どちらかというと彼女はJokerだ」
「Jokerだって?」
それは一般に広く知られていない特別な称号。
JokerとSuit、そしてAlice。
「そう、私とルカにとってイズナは切り札。だからJokerの隠れ蓑になるSuitが必要だった」
「おいおい、俺にSuitになれってか? 正気だとは思えねぇな」
「そうかな。君は曲がりなりにもイズナと息の合った連携をした。それは一朝一夕で得られるものじゃない。少なくとも私は彼女の翼が軍に折られるのを良しとするわけにはいかないんだよ」
強すぎる力は時に狂気を呼ぶ。その先に待っているのは救いようのない破滅だけ。
翼を折られた鳥は、二度と空へ羽ばたくことは出来ない。
「……条件次第だ。対策もせず、わざわざ死ぬ確率の高い場所に行くのは馬鹿のすることなんでな」
「それもそうだ。むしろ何も言わずに受け入れられてしまったらどうしようかと思った。リスク管理の出来るものは死に難い、安心したよ。そうだな、条件は……———」
ここを出るのは別にいい。流れ着いて、上よりも好き勝手出来たからここにいただけで、未練なんてものはないのだから。
あの日共に戦った時の充足感。死んでいるように生きるこの地下で、久しぶりに生きている心地がした。欲に忠実に生きてきた心臓が、彼女を強烈に求めている。一度欲しいと思ったものを、諦めるなんて性に合わない。
欲しいものはただ一つ。手に入るというならば、心臓の一つや二つ捧げてやる。
「決まったね。私はルカ・ナイトバロン、今は少佐でJackの称号を貰ってる」
「ああ、まだ名乗っていなかったか、失礼した。私はエル・ヴィンセント。リウネ、軍部黒は君の所属を歓迎するよ」
「リウネ・アルデバラン。まぁ、死なない程度に足掻くさ」
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