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第十幕「銀の英雄」
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しおりを挟む「やあ、イズナ」
その男が誰に話しかけているのか、一瞬リウネにはわからなかった。隣にいたイズナが反応したことで彼女のことなのだと気づいた。そういえば、お互いちゃんと名乗っていないことを今更のように気づく。イズナは信じられないと言った風情でその男を凝視している。いつもリウネが見る穏やかな雰囲気とは少し違い、どこか硬質的だ。
イズナはじっと男を見て、そして重々しく口を開いた。
「どうして、ここにいるのですか。ヴィンセント少佐、ルカ少佐まで連れて」
返答がお気に召したのか、彼らはフードを取った。それによって、フードの陰で口元しか見えていなかった顔が明かされる。
「やあイズナ。素敵な休暇だったみたいだね」
「皮肉のつもりでしょうか」
「まあまあ。私達にも事情があるんだって」
「事情?」
「イズナ。場所を移そうか」
人がわらわらと集まってきたのを見てイズナが顔を歪める。聞かれて困ることでもないが、聞かれずに済むならばその方がいい。エルの提案を呑むしかなかった。
「……はい」
「そこの彼もさ、ちょっといい?」
どうやってリウネをこの場から離脱させようか、と頭を回すイズナの努力も虚しく、ルカがリウネにも声をかけた。どうか断ってくれ、とばかりのイズナの表情がリウネはどうにも気に食わなかった。
「人を避けるならこっちの方がいい」
気になることもある、とリウネはある場所を提供した。地下都市は途中で建設が放棄された為に、住人ですら全ての道を把握していない。表向き地下都市は赤の軍が管理しているが、そのトップでもどれだけの道を把握していることやら。
チラリと目線だけを後ろに流せば、当たり前のようにエルの隣を歩くイズナに苛立ちが生まれるが、それよりも気になるのは彼らのマントの左胸にある紋章。
(……あの紋章)
間違いなく、それは結界の外で人類の天敵、アルベイルと戦う精鋭中の精鋭、黒の軍のものだった。
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